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新たな働き方の確立や“ニューノーマル”時代のビジネスの創出に取り組むSMBを支援――、日本マイクロソフト

 日本マイクロソフト株式会社は27日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、働き方改革や事業継続が課題となっている中堅・中小企業(SMB)、スタートアップ企業に対する支援策、連携施策などについて発表した。

 そのなかで、日本マイクロソフト 執行役員 コーポレートソリューション事業本部の三上智子事業本部長は、「中堅中小企業のニューノーマルに向けた3つのフェーズ」として、「緊急対応」、「沈静化」、「新常態」という段階を踏むことを示し、それらにおける支援策や先進的な事例などについて説明。

 「これらを通じて、新型コロナウイルス感染症終息後の新しい業務オペレーションや新しい働き方による『ニューノーマル(新常態)』に対応していくことを支援する」などと述べた。

日本マイクロソフト 執行役員 コーポレートソリューション事業本部の三上智子事業本部長
中堅・中小企業のニューノーマル(新常態)に向けた3フェーズ

リモートワークへの移行が迫られた緊急対応フェーズ

 「緊急対応」では、リモートワークへの移行により、遠隔地からのオンライン会議や商談、効率的なコラボレーション、社内システムへの安全なアクセスなどが重要になるフェーズと位置づけ、ここ数カ月間における4つの事例を示した。

 ひとつは、機能性フィルムなどの開発を行うアイセロの事例だ。同社では、自然災害発生時などにおけるBCPソリューションを模索していたが、日常から、いつでも、どこでも使える「普段使い」の発想へと転換。2019年12月に、日常時にも緊急時にも利用できるように、Microsoft Teamsを全社に展開していたため、「一斉にリモートワークを開始しても大きなトラブルがなく、事業を継続できた」という。

アイセロの事例

 2つめは北九州市立大学。日本で初めてWindows Virtual Desktop(WVD)を導入したユーザーで、従来のVDIでの運用に比べてコストを4分の1に削減。1週間でリモート環境を構築したという。同大学では、「WVD上でMicrosoft Teamsを使うことが一番スマートであり、コロナから世界を守るのはマイクロソフトのWVDになる」とコメント。容易にリモートワーク環境を実現できたことを評価している。

 「正式には、間もなく、WVD上でのTeamsの実装が実現されることになる」(三上本部長)という。

 3つめは福井銀行だ。新型コロナウイルスの感染が広がり始めてから3週間で、BYODとWVDによるセキュアなテレワーク環境を実現したという。「セキュリティが重視される金融機関において、従業員が個人所有するPCを利用し、リモートワークを実現するという過去に例がない事例である。Fixerと連携し、高いセキュリティ環境を実現しながら、業務効率化と事業継続性を実現した」とした。

 4つめが、文化財をデジタル化し、保護する事業を展開するとっぺんである。佐賀県に本社を置く同社は、優秀な人材を獲得するためにテレワークを導入。首都圏などの遠隔地の人材獲得につなげたという。こうした経緯もあって、テレワークを一部で導入していた同社は、その経験を全社に展開した。今後は、働き方の選択肢のひとつとしてリモートワークを採用するとしている。

「企業として本当の意味でテレワークを実装するための取り組み」を行う沈静化フェーズ

 「沈静化」は、いま日本が置かれているフェーズであるとし、「いまは、多くの企業が、緊急事態に対応するために付け焼き刃的あるいはパッチワークのように行ってきたリモートワークを、企業として本当の意味で実装するための取り組みを行わなくてはならない段階に入ってきた」(三上本部長)と指摘。

 紙ベースのプロセスをデジタル化したり、セキュリティとガバナンスの強化や、オペレーションの省人化や自動化への取り組み、そして、業務効率化やコスト削減を行ったりといったように、「事業回復への対応を図る必要がある段階」に位置づけた。

 ここで紹介した事例が、山口フィナンシャルグループ(YMFG)の取り組みだ。2月下旬にテレワークへの移行を検討したものの、対象となる本部社員用のテレワークが可能なPCは約100台にとどまり、約600台が不足していたという。そこで、店舗の営業担当者用に配布直前だったSurfaceをテレワーク用PCとして再キッティング。Microsoft Teamsを導入し、3月初旬からテレワークでの業務へと移行することができた。

 山口フィナンシャルグループ IT統括部の來島友治氏は、「2019年1月、Office 365により社内コミュニケーション基盤を整備。2019年8月からは、主に本部業務で使用している約1200帳票をペーパーレス化して、不要なものは廃止し、必要なものは電子ワークフローへと移行した。その結果、2020年4月の本部での印刷枚数は96万枚も減少。紙を70%削減できた。こうした取り組みがテレワーク環境の構築につながった」とする。

 そうした成果をあげる一方、発生している課題への対応と今後の取り組みについても言及する。「テレワーク勤務者の増加により、朝夕を中心に、テレワーク用のネットワーク回線が徐々に逼迫(ひっぱく)してきたため、ピーク時間帯のカメラ機能オフにするなど、社内ポータルサイトで利用時の注意を喚起。営業系とOA系の通信経路を変更するといった対応も行った。今後は第2波などへの備えとして、さらなるテレワーク環境を整備する必要性がある。モバイルWi-Fiルータの整備やBYOD環境の検討、非対面および非接触での接客や営業の仕組みも検討していく」と述べた。

山口フィナンシャルグループ IT統括部の來島友治氏

事業回復への対応が見えてきた次のフェーズの取り組み「新常態」

 そして新常態では、「これは、事業回復への対応が見えてきた次のフェーズの取り組みであるが、その前提となるのは、新型コロナウイルス感染拡大前には戻らないということ。ニューノーマルにおける事業戦略の在り方や新たなビジネスのオポチュニティ、社員の意識改革や組織の風土改革に取り組まなくてはならない」とした。

 ここでは、社会課題解決スタートアップ支援プログラム「CONNECT」について説明。「2020年中に100社の協業を目標にしており、すでに47社が参加するなど、順調に進んでいる。最先端のテクノロジーを活用して最適なサービスを提供し、機動力が高いのが、参加している企業の特徴であり、新型コロナウイルスの感染が拡大するなかでも、社会課題の解決の観点から活躍している」と述べた。

 遠隔医療の集中治療専門医チームであるT-ICUでは、現場の医師や看護師から提供された情報をもとに、遠隔からアドバイスを実施。PSYGIGでは、建物内や施設でサーモグラフィによる検温を実施するサービスを提供。今後の需要も期待されるという。

 また、小売業向けクラウドロボティクスサービスのTelexistenceについても紹介。ロボットが小売店内の203形状、2200種類の商品を陳列することが可能であり、人材不足の解消にも貢献できるサービスとして、ニューノーマルの時代での活用が期待されているという。

 同サービスにおいては、Microsoft Azureを全面的に採用。「今後、サービスを展開していく上で、日本マイクロソフトが持つ小売、流通企業のネットワークを活用して、業界のDXを加速するために協業を深めていく」(三上本部長)とした。

Telexistenceとの協業

 Telexistence 代表取締役兼最高経営責任者の富岡仁氏は、「ロボットを自分のもうひとつの身体として使うことで、日々の生活や仕事を行ったり、社会参画をしていく技術を実装することを目的としている。人の動きを、遠隔地にあるロボットに同期させて、現実社会で作業ができる。人が場所に制約されず、どこからでも労働に参画できる拡張労働基盤(Augmented Workforce Platform)の実現を目指している」と説明。

 さらに、「小売業においては、労働力の不足や賃金上昇という課題があり、それがますます加速している。陳列や品出し、調理といった小売業における約35%の作業を置き換えることができる。現場での仕事はリモートワーク化できないという状況をなくすことができ、小売店の半径約2km以内から人材を確保していたという常識も崩れ、日本のあらゆる場所から労働力を確保できる。一番安い賃金の地域から雇用できるというメリットもある」などとした。2020年7月以降に、大手小売店に導入し、商品の陳列業務などに利用する予定だという。

Telexistence 代表取締役兼最高経営責任者の富岡仁氏

日本のSMBでもリモートワークに取り組んでいる企業は50%に達した

 一方、オンライン会見では、米Microsoftのサティア・ナデラCEOが、「この2カ月で2年分のデジタル変革が起きた(2 years of digital transformation in 2 months)」と発言したことに触れながら、「世界中のあらゆる場所で、これまでは起きそうで起きなかったデジタル変革が起きた」(三上本部長)とし、同社が発表した数字や調査結果から、その動きを裏づけてみせた。

 それによると、2019年11月時点では1日2000万人だったMicrosoft Teamsの利用者が、2020年4月末には1日7500万人と、3倍以上に増加。在宅から会社の環境にアクセスできる仮想デスクトップソリューションの「Windows Virtual Desktop」の利用者も、3月28日時点で3倍以上に増加したという。

 「3月には全世界でTeamsの使用率が急激に上昇したが、日本はそこまで大きくは伸びなかった。だが、4月に緊急事態宣言が発令されてから急激に増加。1カ月遅れで増えた格好だ。同時に、日本でもデジタル変革が中堅・中小企業でも進んでいることがわかった」とした。

Microsoft Teamsの利用者が、2020年4月末には1日7500万人へと増加した

 日本マイクロソフトの調べによると、5月26日時点で、国内1246社の中堅・中小企業のうち、リモートワークに取り組んでいる企業は50%に達したという。

 調査では、リモートワークを検討中とする企業が26%、予定なしの回答は24%であることを示しながら、「24%は現場で仕事をせざるを得ない企業。できる企業はリモートワークにシフトしたいという声が多い。そして、将来に向けたテレワークの必要性を多くの中堅・中小企業が実感していることがわかる」と語る。ちなみに5月11日の週は、89%の中小企業がリモートワークを実施したと回答しているという。

日本でも加速するデジタル変革
中小企業のリモートワーク実施推移

 一方で、リモートワークの課題も生まれていると語る。

 「ハンコの押印をはじめ、ビジネスプロセスが紙ベースであるため、リモートワークへの移行がネックになっていることに加えて、ネットワークの帯域確保の問題、コラボレーションツールの整備の課題、さらには、電話対応の仕事や、デスクトップPCを利用している社員が自宅で仕事ができないこと、社内制度やポリシーを、リモートワークを前提にしたものに変えていかなくてはならないといった課題が浮き彫りになっている」とした。

 日本マイクロソフトでは、緊急事態宣言が解除されたことで、多くの企業がニューノーマルに向けた新たな取り組みを実施する段階に入りつつあることを指摘。「新たな働き方の確立やニューノーマル時代のビジネスの創出に取り組む中堅・中小企業を、しっかりと支援をしたい」と述べた。

 また日本マイクロソフトでは、中堅・中小企業向けの具体的な施策についても説明。コミュニケーション環境支援では、Microsoft Teamsを活用段階までをサポートすることを目的に、オンラインワークショップの適用範囲を拡大する。

 デスクトップ環境支援では、6月末までとしていたWVDの導入支援期間を7月以降に延長。セキュリティ診断サービスの拡大も行う。

 さらに6月1日からは、従業員数25人以下の中小企業を対象に、「中小企業テレワーク応援プロジェクト」を開始。OEMメーカー5社とさまざまな取り組みを行うという。

 「まずは、モバイルで働く際にお勧めのPCと、無料で利用できるTeamsとの組み合わせによって、リモートワーク環境の整備を提案する。さらに、リモートワークを実施するためのガイドブックの提供や、大規模オンラインイベントも予定している」と語る。

 そのほか、ソリューションを超えた複雑な問題を解決するための技術相談サポートの「Xインテリジェンスセンター よろず相談所」を開設したことにも触れた。

日本マイクロソフトによる支援策