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オープンハイブリッドクラウドで企業のDXに寄与――、レッドハットの新年度戦略

 レッドハット株式会社は24日、新年度(2018年3月~2019年2月)の事業戦略に関する報道関係者・アナリスト向け説明会を開催。ビジョンとして「オープンソースウェイで日本のビジネスを元気にする」を、戦略として「オープンハイブリッドクラウド」を掲げ、顧客企業のデジタルフォーメーションに寄与することを目標とした。

 その一環として、企業とレッドハットとで密接に連携して、アジャイル開発やDevOpsについて、企業における文化・組織、プロセス、技術の3要素において取り組む「Red Hat Open Innovation Labs」を日本でも開始することも発表した。

 説明会では、オープンハイブリッドクラウドのパートナーエコシステム拡大に向けて、3社のパートナーによるOpenStackやOpenShiftへの取り組みも紹介された。

右から、HPEの五十嵐毅氏、レッドハットの望月弘一氏、CTCの菅野政治氏、NTTデータの冨安寛氏

新年度戦略は「オープンハイブリッドクラウド」

 レッドハットの望月弘一氏(代表取締役社長)はまず、米本社を中心とする世界中での業績を報告。売上が前年度比21%増の成長であり、特にアプリケーション開発アプリケーション開発&新興テクノロジー製品分野が売上42%増と、業績を引っ張っていると紹介した。

 続いて日本の業績についても、数字は非公開ながら好調を報告。アプリケーションの高度化の分野(JBoss Middlewareや3scale API)では大型の案件が多く獲得できたこと、クラウド&コンテナの分野(OpenStackやOpenShift)ではOpenStack市場の成長やコンテナ市場の日本到来などで売り上げ2.5倍となったこと、DevOpsの分野(Ansibleなど)では売上が20倍になり、国内でもAnsible導入事例が30社以上となったことと、3分野の要因を説明した。

レッドハット株式会社 望月弘一氏(代表取締役社長)
前年度(2018年度)の国内業績

 事業方針については「カスタマーニーズ(顧客のニーズ)」と「culture-based advantage(企業文化)」の2つを源泉とし、「オープンソースウェイで日本のビジネスを元気にする」ことをビジョンとして掲げた。「具体的には、製品サービスを提供するだけでなく、いっしょにお客様に参加して文化を変える」(望月氏)という。

 顧客のニーズを実現するための、企業システム基盤の3要素として、マルチクラウド、DevOps・コンテナ、自動化・俊敏性を望月氏は挙げた。そして、その戦略として、「オープンハイブリッドクラウド クラウドの選択に自由を」を掲げた。これを支えるのがculture-based advantageであり、それを企業が実現するために日本で新しく発表するのが「Red Hat Open Innovation Labs」だ。

ビジョン「オープンソースウェイで日本のビジネスを元気にする」と2つの源泉
顧客のニーズを実現するための、企業システム基盤の3要素

 この3要素に対応する製品として、まずマルチクラウドのためのハイブリッドクラウド基盤が、OpenStackディストリビューションの「Red Hat OpenStack Platform」だ。望月氏は、5月にOpenStackの新バージョンがリリースされること(完全なコンテナ対応や5年サポートなど)、Red Hatは包括提案を強化すること、通信業界の5Gに向けてNFVi(Network Functions Virtualisation Infrastructure)ビジネスを強化することを説明した。

 Red Hat OpenStack Platformの事例としては、NTTコムウェアの例が挙げられた。社内の4000人の開発者が使うプライベートクラウド基盤「DevaaS」の新バージョンにRed Hat OpenStack Platformを採用し、開発の即応性・柔軟性とインフラ運用効率が工場したという。

ハイブリッドクラウド基盤の「Red Hat OpenStack Platform」
NTTコムウェアのRed Hat OpenStack Platform採用事例

 コンテナ基盤に対応するのが、Kubernetesをベースにした「Red Hat OpenShift Container Platform」だ。望月氏は、コンテナの利用が拡大していることや、Kubernetesの初期からRed HatがGoogleらとともに開発に参加していること、CoreOS社を買収したことなどを優位点として語った。

 Red Hat OpenShift Container Platformの事例としては、NRIの例が挙げられた。ある金融機関向けにアジャイル開発の基盤を準備する必要があり、OpenShiftを採用した。効果としては、初期費用を45%削減し、インフラ準備期間が3か月から1週間になったという。

コンテナ基盤の「Red Hat OpenShift Container Platform」
NRIのRed Hat OpenShift Container Platform採用事例

 自動化に対応するのが、「Red Hat Ansible Automation」だ。望月氏は国内事例として、あるデータセンター業者が60時間の作業を10分に短縮した例や、サーバー払い出しに12日かかっていたのを10分に短縮した例を紹介した。また、顧客基盤を拡大するために、パートナーを拡大することを重要だとし、「数多くのパートナーとエコシステムを作っていくのが今年度の目標」と語った。

 Red Hat Ansible Automationの事例としては九電ビジネスソリューションズの例が挙げられた。新規事業のための自動化としてAnsibleを採用し、オペレーションミスをなくしたほか、運用コストが半分になったという。

自動化の「Red Hat Ansible Automation」
Ansibleのパートナーエコシステム
九電ビジネスソリューションズのRed Hat Ansible Automation採用事例

 そのほか、新年度の役員体制として、2人の新任役員の就任が発表された。常務執行役員 パートナー・アライアンス営業統括本部長に、三澤優子氏が就任する。また、執行役員 エンタープライズ営業統括本部長に河野義孝氏が就任する。

新年度の役員体制
レッドハット株式会社の常務執行役員 パートナー・アライアンス営業統括本部長に就任した三澤優子氏
レッドハット株式会社の執行役員 エンタープライズ営業統括本部長に就任した河野義孝氏

Red Hat Open Innovation Labsを国内で開始

 新サービスとして発表された「Red Hat Open Innovation Labs」は、企業の文化/組織、開発プロセス、技術の3点でDevOpsやデジタルトランスフォーメーションを実現するため、レッドハットのコンサルタントやエンジニア、対象分野の専門家が企業といっしょに常駐する形で取り組むというサービス。取り組みは、およそ4~12週間の期間となる。世界ではシンガポール、ボストン、ロンドンの3拠点で実施しており、日本が4拠点目となる。

 新規開発も既存システムの変革も対象となる。世界の事例としては、オーストラリアのHelitage Bankや旅行会社のAmadeusがラボを活用してサービスを実現する一方、スタートアップ企業の開発などにも利用されているという。

 ラボ環境としては場所の制約を受けず、レッドハットでも顧客企業でも、あるいはそれ以外の場所でも取り組む。そのためにクラウド上の開発環境やツール、ライブラリを利用する。「レッドハット社内では、ラボ専用ではないが、恵比寿のオフィスに新しい会議室を用意した。個人的には将来は専用の場所を作りたいと思っているが、まずはこの形で始める」(サービス事業統括本部長 水橋久人氏)。

 Red Hat Open Innovation Labsは、技術のコンサルティングだけでなく、ビジネスのコンサルティングの要素も強くなる。そのための社内体制としては「社内でそのようなスキルを持つ人間の抜擢や、ハイヤリング(採用)で、エンゲージメントリードに据えている」(水橋氏)という。

Red Hat Open Innovation Labsの概要
Red Hat Open Innovation Labsの内容
オーストラリアのHelitage BankによるRed Hat Open Innovation Labs利用の様子

OpenShiftやOpenStackのパートナー拡大

 OpenShiftやOpenStackのパートナー拡大において、3社とのパートナー協業も発表された。

 1社目は伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)との協業で、オリエントコーポレーション(オリコ)のシステムの事例が語られた。CTCの菅野政治氏(流通・エンタープライズ事業グループ 流通・EPビジネス企画室 プロダクトビジネス推進部 部長)によると、ユーザーエクスペリエンスに優れたWebフロントエンドの構築や、新規サービスの迅速な構築のために、コンテナ技術に着目。そのためのプラットフォームとして、最新のテクノロジーと高いセキュリティレベルという要件から、Red Hat OpenShift Container Platformを採用したという。

 その導入効果としては、まずメンテナンスの所有時間が1/2に、インフラコストが1/3になり、アプリケーションとインフラの疎結合ができたという。オリコ以外の金融業からも引き合いが来ているとののことで、「今後ますますレッドハットとのパートナーを強化することで、信頼性のある最新のソリューションを提供したい」と菅野氏は語った。

CTC 菅野政治氏(流通・エンタープライズ事業グループ 流通・EPビジネス企画室 プロダクトビジネス推進部 部長)
CTCとレッドハットの協業

 2社目は、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)との協業。NTTデータの冨安寛氏(技術革新統括本部 システム技術本部長)氏は、「数年前からレッドハットとの協業によりOpenStack基盤を提供している」として、その一つとして金融系の高SLAクラウド「OpenCanvas」を紹介。OpenShiftはまだ日本では動いていないが、スペインの子会社のeverisでは大きく展開していると語った。

 今年度については、顧客のデジタルトランスフォーメーションに向けて、デジタルコンサルティングからLift & Shiftまで取り組むと説明して、「コンサルティングにおいても、レッドハットのコンサルティング部隊とともに取り組む」と語った。

NTTデータ 冨安寛氏(技術革新統括本部 システム技術本部長)氏
NTTデータとレッドハットの協業
NTTデータによるデジタルトランスフォーメーション支援

 3社目は、日本ヒューレット・パッカード株式会社(HPE)との協業。Red Hat OpenShift Container Platformと、HPEのハイパーコンバージドインフラ製品HPE SimpliVityおよびHPE Synergyとを組み合わせて、構築サービスやプロフェッショナルサービスなどを組み合わせて販売するという。HPEの五十嵐毅氏(執行役員 ハイブリッドIT事業統括)は、「お客様が困っているのがオンプレミスのクラウド化であり、そこを実現するのがこの製品」と語った。

HPE 五十嵐毅氏(執行役員 ハイブリッドIT事業統括)
HPEとレッドハットの協業