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MRを活用した第一線現場業務支援システム「QuantuMR」、変電所での利用をデモ

 東京電力パワーグリッド株式会社は21日、Mixed Reality(MR:複合現実)を活用した第一線現場業務支援システム「QuantuMR(クァンタムアール)」の実証実験を行っている、東京都世田谷区の変電所内で活用している様子を公開した。

【お詫びと訂正】

  • 初出時、「『QuantuMR』を導入している」と記載しておりましたが、正しくは「『QuantuMR』の実証実験を行っている」となります。お詫びして訂正いたします。

 QuantuMRは、東京電力ホールディングスと、ARやVRを活用したシステム開発を手がけるポケット・クエリーズが、2018年5月から、第一線現場における業務の支援や高度化を目的に共同開発を行い、7月から変電所において実証実験を実施してきたもの。このほど、その有効性を確認できたとして、製造業をはじめ、さまざまな業種での採用を目指し外販を開始する。

 デバイスには、日本マイクロソフトのHoloLensを利用。MRの特長を生かして、デバイス上に実際に見えるものとホログラムを同時に表示するとともに、遠隔地からの音声を組み合わせ、離れた場所にいる管理者が遠隔コミュニケーションにより作業を支援。直観的でわかりやすい操作メニューなどにより、作業の迅速化や省力化、異常の早期発見による費用削減といった効果を提供するほか、ベテラン作業員のノウハウの活用や、技術継承、人材育成などにも活用できるという。

QuantuMR(クァンタムアール)

 東京電力パワーグリッド 渋谷支社の中山隆志支社長は、「労働者不足、技術継承の課題解決にも一役買えると期待している。また、技術継承においても活用できると考えており、若手作業者の教育にも利用したい。変電所は、点検ひとつをとっても失敗が許されない場所だが、トレーニング施設とMRの組み合わせによって、問題が発生したときにどう対処するのかといった教育も可能になる」とした。

東京電力パワーグリッド 渋谷支社の中山隆志支社長

 東京電力ホールディングス 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室エネルギー経済グループの大木功主幹研究員は、「現場での活用を前提とし、VRとARのいいところ取りをしたMRの特長を生かして、効率性、安全性向上、遠隔支援による課題解決手段として開発した。MRを活用して現場の保守業務に利用しているのは、初めての取り組みといえるだろう。紙の図面やマニュアルの取り出しが不要となり、使いやすい空間配置、アニメーションの展開、安全確認の強化、遠隔支援などの観点で、有効性が確認できた」と語る。

 また、「変電所での実証実験で製品化に必要な基本機能を確立できた。さまざまな現場に展開できる技術と考えている。基本機能を整備し、しっかりしたビジネス展開を図り、年間2億円の売り上げを目指す」とした。

東京電力ホールディングス 経営技術戦略研究所 経営戦略調査室エネルギー経済グループの大木功主幹研究員

【お詫びと訂正】

  • 初出時、大木氏のお名前を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。

 さらに、ポケット・クエリーズの佐々木宣彦社長は、「遠隔で支援する機能を搭載しており、ゲームのような3D空間を再現。遠隔地からも必要なところを見るために、現場の映像をPC画面上で操作することができる。紙の操作手順書が不要になり、動画や図面といった必要なものが、必要なタイミングで呼び出せる。MRならではの利用環境に配慮した新たなユーザーインターフェイスを採用するとともに、業務に照らし合わせて最適化する工夫も凝らしている」と、特長を説明。

 「MRの用途を広げる、汎用性の高い機能を持たせている。これらの基本機能をパッケージ化することで、電気設備のみならず、保守、点検などを中心に、さまざまな業種における第一線現場の業務支援に活用できる」としている。

ポケット・クエリーズの佐々木宣彦社長

 価格は、1ユーザーあたり年間100万円(税別、HoloLensを除く)。導入支援サポートも用意するという。

変電所での利用例をデモ

 変電所では、巡視点検で実施する機器操作時の支援や安全サポートに活用しているとのことで、マニュアルなどを表示して作業を支援している様子を、デモンストレーションした。

 東京電力管内には1600の変電所があり、世田谷区内には19カ所の変電所が存在する。今回公開した変電所では、6万6000ボルトの電圧を6600ボルトに変圧しているという。

変電所内での利用の様子を公開した
6万6000ボルトの電気が流れるクラットの設備。クラットは家庭内に設置されているブレーカーと同じ役目を果たす
変電所内に設置されている変圧器。6万6000ボルトの電圧を6600ボルトに変圧
6600ボルトに変圧した電気を流すミニクラット室での点検の様子をデモ

 変電所内で使用したQuantuMRでは、空間に図表を表示したり、作業者が進む方向を表示したり、操作マニュアルなどを表示したりするほか、ログも記録する。

 図面を呼び出して画面上に自由に配置できるほか、オーバルメニューを画面上側に表示し、下部には総合メニューを表示。インジケーターを常時表示できるだけでなく、自己追従するメニューインターフェイスも採用しており、点検や巡視時に確実な確認操作が可能という。

 さらに、危険区域を知らせたり、機器操作のための作業手順書なども表示したりすることも可能で、必要に応じて空間に文字を書き込むこともできる。

 ユーザーインターフェイスの開発には、ゲーム開発技術を取り入れているほか、直近の手順をわかりやすく表示する、作業ポイントの動画を表示するなど、現場からの声を反映して操作性を高めている。

作業員の歩く方向を指示する
検査対象の機器の前に着くと作業指示がでる
エアータップをして操作を始める
作業履歴を表示。どれぐらいの時間で作業が完了したのかといったログも取る
動画の表示も行える
遠隔で作業を指示することができるのも特徴だ