ニュース

Azureはセキュリティなどの観点から評価されている――、日本マイクロソフトが金融向け事業戦略を説明

 日本マイクロソフト株式会社は28日、金融分野における事業戦略やデジタルトランスフォーメーション(DX)の事例などについて説明。そのなかで、日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部金融サービス営業統括本部 業務執行役員 統括本部長の綱田和功氏は、「金融機関におけるMicrosoft Azureの採用が加速しており、前年比200~300%で推移している。この分野では、AWSと拮抗(きっこう)しており、安心感の観点から評価が高まっている」などとした。

 また5月29日から、「金融デジタルイノベーションコンソーシアム」を設立することを発表。6月からは、金融機関向けDX変革特別支援施策を開始することも明らかにしている。

Azureはセキュリティなどの観点から評価されている

 日本マイクロソフトでは、今年度の事業計画のなかで「インダストリーイノベーション」を注力領域として掲げており、その取り組み対象として6つの業界を挙げているが、金融市場はそのうちのひとつに位置づけられている。

 日本マイクロソフトの綱田業務執行役員は、「金融分野はクラウドが浸透しにくい分野であり、当社では、この1、2年において、金融分野に向け、クラウドやAI、MRなどのインテリジェントテクノロジーを活用したDXの提案を強化してきた」とする。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部金融サービス営業統括本部 業務執行役員 統括本部長の綱田和功氏
インダストリーイノベーション

 調査によると、金融機関を選択する理由として、「オンラインサービスが使いやすい/便利である」と回答した利用者が37.3%に達しており、1位の「金利が有利だった」とする回答者(38.0%)と、ほぼ同等水準にあることがわかっている。

 「金融機関において、DXは避けては通れない。“モード1”と呼ばれる、従来の守りのITをモダナイゼーションしていくには、いかにクラウド化するかが前提となる。そうした動きをとらえて、日本国内でもMicrosoft Azureを採用する例が増えており、Azureの金融機関向け売上高は前年比200~300%の成長を継続。この分野では、AWSと拮抗している。特に今年に入ってから、生保や銀行などの導入が加速しており、個人情報の取り扱いなどにおいて、セキュリティなどの観点から評価されている。金融機関からは、『Azureは安心である』という声が上がっており、Microsoft Azureに対するモメンタムがある」などとした。

なぜDXなのか

 加えて、「Microsoft Azureでは、2014年2月という早い時期から東日本/西日本の国内2つのリージョンによるサービスを提供しており、すべてのサービスでSLAを提供している。また、金融機関自身による立ち入り監査を行えるようにしているのも特徴だ。さらに、FISC第9版にもいち早く対応し、これを2018年5月15日に発表。ここでは、第9版に対応したセキュリティリファレンスを、三菱総合研究所や電通国際情報サービスなどのパートナー各社によって、近々公開する予定であるほか、野村総合研究所による第9版対応リスクアセスメントサービスをすでに提供している」などと述べた。

 さらに、クラウド以外の強みについても説明。日本マイクロソフトでは、「以前からエンタープライズ向け体制を整えているが、インダストリーイノベーションを推進する上で、金融分野に多くの人材をアサインしており、金融機関におけるMicrosoft Azureの利用支援に関しては、現時点で約200人の体制を確立している。これは他社にはないものである。レッドハットとの連携により、Red Hat Enterprise Linuxにおける統合サポートモデルを提供。金融機関ではRed Hat Linuxを活用している例が多いが、Microsoftでは米本社にRed Hatのサポート部隊が常駐しており、手厚く、一貫したサポートを提供している。圧倒的な安心感を提供できる」とした。

Microsoft Azureが選ばれる理由

 日本ユニシスとの提携についても説明した。両社はすでに「Bank Vision on Azure」を発表しており、パブリッククラウドによるフルバンキングシステムを国内で初めて提供。新時代の金融サービス向けプラットフォームと位置づけている。

 「金融機関の勘定系システムは“モード1”の最たるものであるが、これをモダナイゼーションするとともに、データ分析やAIなどを活用した新たなサービスを提供する“モード2”とを連携させることもできる。Bank Vision on Azureは1年半にわたって検証を行い、製品化したものであり、勘定系のモダナイゼーションを推進することになる」(日本マイクロソフトの綱田業務執行役員)とした。

マイクロソフトが考える変革プロセス
Bank Vision on Azure

三井住友銀行と住友生命保険での事例を担当者が紹介

 説明会では、Azureを導入した金融分野の事例についても紹介された。

 まず、三井住友銀行 システム統括部の高橋健二部長が登壇し、Office 365を採用した働き方改革に取り組んでいる例について説明した。

 「約20年間活用してきたメールの利用から、チャットやWeb会議を活用することで、コミュニケーションの仕方が変わったり、在宅勤務が可能になったりしている。また、My Analyticsから得られる気づきにより、働き方を変えて、効率を高めることができている。さらに、Azure上のCNTK(編集注:Deep Learningライブラリ)を用いてチャットボットエンジンを独自に開発し、ワークプレイスや人事関連の照会をチャットボット化した。このほか、グループ会社の対顧客向けチャットボットにも展開している」(高橋部長)。

 また、「2016年から新たなシステム構築基盤としてAzureを採用しているのは、セキュリティ、コンプライアンスの観点で安心できるという理由によるもの」と述べ、セキュリティ面での評価の高さを示した。

SMBCグループでの取り組み
Office 365による働き方改革
Azure上にチャットボットを構築
三井住友銀行 システム統括部の高橋健二部長

 住友生命保険(住友生命) 情報システム部担当部長兼代理店事業部担当部長の岸和良氏は、「2018年夏から健康増進型保険を導入する予定であるが、ここでは、健康維持活動をすると保険料が変動するといった仕組みを導入することになる。この仕組みを運用するために、Azureを採用。日本の開発拠点だけでなく、アフリカやインドの開発拠点を活用することで、24時間365日間の開発体制を敷いた」と、自社での採用事例を紹介。

 その上で、「Microsoft Azureでは英語でのコミュニケーションや英語のドキュメントが用意されていることを評価した。一方、監督当局からはデータ保護に関する厳しい基準が提示されており、それに対応するために、Azureに用意された豊富なセキュリティオプションを活用することで、監査対応力が高まる点を評価した」と、Azure採用の理由を説明した。

 このほか、「Azureを活用することで開発のスピードが速まるなどのメリットを確認でき、今後は住友生命グループ全体でクラウド活用を図っていくなかで、Azureを採用する予定である。新たなサービスを創出するにはクラウドの方が優位である」などとも述べている。

住友生命のクラウド戦略
住友生命 情報システム部担当部長兼代理店事業部担当部長の岸和良氏

金融向けの支援体制を説明

 一方、5月29日に「金融デジタルイノベーションコンソーシアム」を設立することを発表。金融機関などの参加が決定しているほか、いくつかの分科会を立ち上げることで、顧客同士の会話の場などを通じて、金融分野におけるデジタルイノベーションの推進を加速するという。

金融デジタルイノベーションコンソーシアム

 このほか、6月から提供する金融機関向けDX変革特別支援施策について、「クラウドを活用したITモダナイゼーションを推進する上では、IaaS化で止まってしまい、PaaS化やSaaS化に進まないという技術的課題と、社内の古いルールが近代化を阻害してしまうという組織的課題がある。金融機関向けDX変革特別支援施策では、クラウド移行診断や近代化ギャップ診断を通じて、技術的側面、組織的側面での課題を解決するための初期フェーズを、9月末までの期間限定で無償提供。適切なクラウド化方針の選択、組織の近代化による全社的クラウド推進を支援する」と説明している。

 この取り組みでは、「検証」を行うフェーズ2として、移行テストおよびモデルケース構築を、さらに「展開」を行うフェーズ3では、順次クラウド化と近代的組織への移行を、それぞれ有償で提供する予定。

 なお、金融機関向けDX変革特別支援施策で提供するサービスは、日本マイクロソフトおよび株式会社FIXERが提供することになる。

クラウド移行の初期フェーズを無償提供