インタビュー
日本オラクル・杉原社長が語る、クラウドのナンバーワンに向けた取り組み
(2014/10/3 11:45)
米国サンフランシスコで開催された「Oracle OpenWorld San Francisco 2014」の会場で、記者団のインタビューに答えた日本オラクルの杉原博茂社長兼CEOは、「技術をしっかりと伝導するイベントであることがOracle OpenWorldの最大の特徴。サンフランシスコ市への130億円という経済効果にも驚いた」と切り出した。
今年4月に日本オラクルの社長に就任した杉原社長にとって、Oracle OpenWorldは初参加となる。クラウドビジネスでナンバーワンになることをいち早く打ち出した杉原社長だが、今回のOracle OpenWorldでは、ラリー・エリソン会長をはじめとする同社幹部が、相次いでクラウドでナンバーワンになることを表明。まさに日米の足並みがそろった格好だ。
そして、杉原社長は、日本でのクラウドナンバーワン奪取に向けて、PaaSおよびIaaS向けのデータセンターを新設する準備を進めていることも明らかにした。クラウドナンバーワンに向けた取り組みについて、杉原社長に話を聞いた。なお、インタビューは共同で行われた。
イベントの規模に驚き
――Oracle OpenWorldに初参加して、日本オラクルの社長として、どんな印象を持ちましたか。
今年4月に日本オラクルの社長に就任したわけですから、私にとっては、今回が初めてのOracle OpenWorldだったわけですが、145カ国から6万人が来場するという、その盛り上がりには驚きました。今回のOracle OpenWorldがもたらすサンフランシスコ市への経済効果は130億円に達するといわれており、市と企業が一緒になって盛り上がることができる数少ないイベントだといえます。
かつて在籍していたHPやEMCのイベントには参加したことがありますが、(Oracle OpenWorldの)2700以上のセッションという規模にも驚きました。さらに、併催されたJava Oneでは、テクノロジーを伝導するということに主眼が置かれていた特別なイベントであるということも感じました。今回はどんなことを話してくれるのか。この先のテクノロジーはどうするのかといったことを、技術者たちが期待を持って参加している。
そして、ラリー・エリソンも、オラクル初のCTOに就任して最初のデモンストレーションが今回のOracle OpenWorldでした。CTOの立場を楽しむように講演していたのが印象的でした。オンプレミスのデータを、クラウドに移行させて、さらにそれをオンプレミスの環境に戻す。ラリーは本当に無邪気に話をしていましたね。
全世界の大手IT企業のトップは、こうしたイベントにおいては、ビジネスのディレクションについて話すことが多いのですが、ラリーはテクノロジーをディレクションしている。これは大手IT企業のトップとしては、珍しいのではないでしょうか。
そして、強いリーダーシップをみせたといえます。70歳という年齢でありながら、あれだけほえて(笑)講演をしている。その姿をみて、みんなの目がキラキラしはじめた。Oracle教のようなものですね(笑)。もしかしたら、なかにはOracleを嫌っている人がいるかもしれませんが、それでも離れられない、あるいはこの人のためになにかやりたいというような不思議な魅力がラリーにはある。ホンダの本田宗一郎さんなどに通じるものがあるのではないでしょうか。
一方で、マツダ、CTC、KDDI、ベネッセ、IHI、NTTドコモといった日本のパートナー企業や顧客が、世界の競合を押しのけて表彰されたことにも勇気づけられました。来年は、日本からノミネートする企業の数を2倍にして、日本からの発信をもっと盛り上げていきたいですね。
――今回のOracle OpenWorldでは、クラウドへのフォーカスが打ち出されました。これから日本に帰って、どんなことに取り組みますか。
「2014年は、オラクルにとって大きな転機になった1年であった」とエリソン自らが語り、それと同じことを、すべての幹部が話していました。また、ラリーは、「クラウドナンバーワンを目指す」ということも語りました。
私は、4月に社長に就任してから「2020年にクラウドナンバーワンを目指す」と言いましたが、多くの人は「急に社長に就任して、この人はなにを言っているのか」と思ったのではないでしょうか(笑)。しかし、今度は、Oracle本社が、クラウドでナンバーワンになることを明言したわけです。日本オラクルも、スピード感を持ってアクションを取らなくてはなりません。
一方で、CEOのマーク・ハードは、モバイルソリューションに関しても素晴らしい技術が発表されたが、あまりこれが表に出ていないことが反省材料だといっていました。グローバルでモバイルソリューションへの取り組みが忘れられないように訴求してほしい、という要望が出ていました。ここにも力を注ぐことになります。
いまやITは、電気、水道、ガスなどと同じく、社会インフラの一部になっています。だが、まだITに振り回されている企業が多いのも事実です。ITに振り回されずに、いかに使いこなすかが社会的な命題であり、ここにOracleの使命があるといえます。そして、クラウドのリソースの使うことが、こうした問題を解決できることにつながるといえます。
日本オラクルの社員は、日本に帰ったら、まずは棚卸しをして、自分だけでなく、パートナーに対してなにを提供できるのかということを考えなくてはいけないですね。
日本データセンター設置に向けた準備を開始する
――今回は、SaaSだけでなく、PaaS、IaaSへの取り組みも強調しました。これに関して、日本でのデータセンターの取り組みは考えていますか。
いま、日本において、PaaS、IaaSのためのデータセンター設置に向けた準備を開始したところです。社内に、BUのリーダーが参加したクラウドタスクフォースチームを設置し、日本におけるクラウドビジネスを展開する上で、なにが必要なのかといったことを検討しています。ここでデータセンターをいつまでに作るのか、規模はどうするのか、自前でやるのか、それともパートナーとの連携でやるのかといったことを決めていきます。
いまはOracle RightNowをはじめとするSaaS向けのデータセンターがありますが、これを拡張する形でやるだけでいいのかということも検討していきます。ただ、PaaSやIaaSでは、最も重要といわれるデータベースを扱うわけですから、SaaSのように簡単に作るわけにはいかない。慌てて作るということは考えていません。
日本に新たなデータセンターを作ることにはコミットするが、中身をどうするのかといったことはまだ決まっていません。また、今後3~5年に向けて、われわれはどこに力を注いでいくのかということも、米本社と連携しながら考えなくてはいけない。ラリーやマークからは、HCMやRightNow、Oracle EBS、Marketing Cloudでも一番になってほしいといわれています。それに向けて、データセンターをどうするのか、それぞれのクラウドサービスに向けた営業体制はどうするのか、サポート体制はどうするのかといったことも同時に決めていかなくてはなりません。
クラウドサービスは、サービスを売るという点では、通信業と同じです。このビジネスモデルをしっかりと理解し、海外と接続したビジネスモデルをどう提案するかといったことも考えていかなくてはなりません。
いま、多くのパートナー企業は、AWS(Amazon Web Services)やsalesforce.comを取り扱うことにメリットを感じていると思います。しかし、長期的に考えると、生計を成り立たせることができるビジネスなのかという点での不安があるはずです。
日本オラクルが提供するクラウドビジネスは、パートナー企業にとって長年にわたって、一緒に取り組むことができるものでなくてはならないと考えています。オラクルと組むとうま味があるということを、パートナーの方々にもご理解をいただくようにしなくてはなりません。次世代のビジネスを、パートナーと共存共栄できる形にしていきたいと考えています。
まだまだ塩漬けになっているシステムがあります。これはユーザー企業にとっても、パートナーにとっても利益が出ていない場合がある。塩漬けになっているシステムの塩を、PaaSで薄めて、新たなところに投資をしてもらうといったような提案もできるのではないかと考えています。
AWSやGoogleとクラウドで対抗
――とはいえ、日本オラクルはクラウドに出遅れているという感じは否めません。
その点は理解しています。しかし、今回の発表で、クラウドの「ク」の字の活字が、3ポイントから、20ポイントぐらいにまで拡大したのではないでしょうか(笑)。確実に文字が大きくなった。セールスフォースやマイクロソフトは、さまざまな情報発信を行い、広告展開も活発化しているが、本当に勝っているのは、あまり広告展開をしていないAWSである。認知度が高いのと、ビジネスが成功しているというのは違うということも見極めなくてはならないですね。
――クラウド事業における対抗は、AWSになりますか。
まずは、AWSやGoogleに対抗していくことになります。ラリーも価格でもAWSに負けないと宣言しましたし、そこにわれわれにしかないサーバー、ストレージ、ミドルウェア、アプリケーションといった強みを生かしていく。
いまクラウドで活躍している企業の本業は、クラウドビジネスではありません。Amazon.comの本業はeコマースであり、それを実現するためにIT基盤が必要になり、その基盤を使って、PaaSを提供している。ミッションクリティカルな基盤を持ち、そこで年間何億円も投資しているような企業であれば、すぐにクラウドビジネスができるともいえます。
IBMのクラウドビジネスはコンサルティングが強く、また別のクラウドの提案手法を持っています。ただ、Oracleの強みは別のところにあります。当社は技術の会社であり、本業がIT基盤を提供することであり、チップやサーバー、データベース、アプリケーションの開発に力を注いでいます。これは大きな違いです。これからどこが強くなるのか。今後、5~10年の見どころは、こうした企業体質の差に出てくるのではないかと思っています。
――今回、パートナー向けの新制度として、Oracle Partner Network Cloud Connectionが発表されました。これは日本でも展開することになりますか。
Oracle Partner Network Cloud Connectionは、日本でもやっていくことになります。現時点ではいつからスタートするとはいえませんが、今年中にはやりたい。日本オラクルは、6月から新年度が始まっています。もっとスピード感を加速させて、意思決定をしていきたいと考えています。
日本の強さを取り戻すお手伝いを
――ユーザー企業との接点はどうなりますか。
大手企業ユーザーを対象とするエンタープライズセールス部門では、もっと深堀りができる関係を作りたいと考えています。そして、この取り組みでは、パートナーとの連携も考えていきます。他社のやり方は広く浅くですが、もっと深く入りこむことを重視し、さらに、グローバル展開も支援していきたいですね。
日本オラクルの社員が、日本のユーザー企業の海外の出先に出向いたり、買収した海外企業に出向いてITを確認し、対応策を提案するといったこともできる関係を築きたいですね。そのために、グローバル人材による特定顧客向けの専任営業、専任SE、専任サービスマネージャで構成する体制を確立して対応したい。ハイタッチで、ディープな関係を確立したいですね。
日本は貿易立国です。日本のもともとの強みは、材料を輸入して、そこから新たなものを作り上げ、海外に売りにいって利益を稼ぐというもの。しかし、これができていない。日本の強さを取り戻すことをお手伝いしたい。そのためには、日本オラクルの技術社員、営業社員が、全世界145カ国に出向いて、IT基盤を作り上げるためのお手伝いをしたい。そこに私の使命があると考えています。
――Oracleでは、ラリー・エリソン氏がCEOを退き、会長兼CTOに就任し、さらにマーク・ハード氏とサフラ・キャッツ氏の2人がCEOに就任しました。この影響はありますか。
HPに在籍していた私にとっては、HPのCEOを務めたマーク・ハードが上司であること、その上には、世界的に優秀な経営者であり、富豪でもあるラリー・エリソンがいる、という環境で働けることは大変恵まれている。
もしマークが、HPで行ってきたいい文化を取り入れたいといえば、私はマークがなにを意図しているのか、なにを展開したいのかということが理解できます。私は、2014年4月1日から、日本オラクルの社長として働き始めたわけですが、マークは、電話やSMSで、よく私にプレッシャーをかけますし(笑)、ラリーからも、桜と紅葉の時期には京都に呼ばれます。そして、日本の大手企業のエグゼクティブが、ラリーやマークと直接会って話をする機会は、従来の2倍以上になっています。それだけ直接対話できる場を増やしています。これがオラクルとパートナー、お客さまとの関係にもよい変化を及ぼすことを期待しています。