「シスコの考えるデータセンターを具現化した」~単なるサーバーではない、UCSの持つ価値とは?
シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)がサーバー製品群「UCS(Unified Computing System)」を国内で発表したのは2009年4月だ。UCSは、業界標準のx86ベースのサーバーをはじめ、10Gigabit Ethernet(GbE)ユニファイドファブリック、ストレージアクセス、仮想化インターフェイスカードなど主要なハードウェアを統合し、デバイス数や管理対象が増大しても複雑化しない統合管理機能のもと、システムを限りなくシンプルにし、着実な進化をみせている。
こんにち、クラウドコンピューティングの立役者としてUCSは誕生以来どのような変ぼうを遂げユーザーに浸透しているのか、あらためてシスコ プロダクトマーケティング データセンタ・バーチャライゼーション プロダクトマネージャの中村智氏、ユニファイド・コンピューティング事業 エリアセールスマネージャーの石田浩之氏、同 ユニファイド・コンピューティング事業 データセンタアーキテクチャ シニアマネージャの井村直哉氏に話を聞いた。
■UCSのコンセプトと提供意義
――UCSを発表されて約3年が経過しました。まずは、これまでの発展推移をお聞かせください。
プロダクトマーケティング データセンタ・バーチャライゼーション プロダクトマネージャの中村智氏 |
中村氏
UCSのデザインコンセプトは、すでに10年前に練られていました。当時は仮想化が出始め、その後5年前からはブレードサーバーの導入が本格化していました。こうした技術的背景をふまえてシスコでは、顧客に今後のITの針路を聞きました。
そこで得られた強い意見は、ITが一段とビジネスに接近するとともに、仮想化やブレードサーバーを活用しつつシステムの集約率を高め、コスト削減を図りたいというものでした。その背景には、当時、例えば仮想化しても導入および運用コストが減るどころか逆に膨らむし、導入しても運用までの期間があまりにかかりすぎる、という事情があります。
また、システム集約化のためにブレードサーバーを導入しても、システム改善が頻繁に発生し、そのたびに構成変更作業やシャーシの入れ替えを余儀なくされるし、さらにファームウェアのアップデートも複雑化してしまいがちというものでした。そこでシスコが、こうしたユーザーの課題を解決すべく投入したのがUCSなのです。
――UCSのコンセプトとは、何でしょうか。
中村氏
第一に、サーバーの集約化、利用率を高めるために仮想化を活用することがあげられます。
第二は、サーバーやネットワーク、ストレージを含めた全体として、システムデザインをシンプル化し、導入から運用までのスピードアップとコスト削減を同時に実現させることです。ここでUCSの具体的な製品化は、仮想化およびコンピュータ、ネットワークの各プラットフォームを融合(Unified)させる形で実現させています。
第三が、UCS自体のシスコ製品のほか、ユーザーシステムによってストレージやOS、そして仮想化ソフトウェアの垂直統合型のソリューションを提供することです。シスコで扱っていない業界標準的な技術・製品を垂直統合化させ、ユーザー規模にあわせたシステム形態を、テクノロジーパートナーとの協力のもと、検証を行いこの結果をオープンな形で公開しております。この代表例が(EMC、VMwareとの)Vblockや(NetAppとの)FlexPodに代表されるような、リファレンスアーキテクチャに基づくソリューションです。
そして第四が、UCSのほかお客さまニーズに応じた提案・提供を実現するため、チャネルパートナーとのパートナーシップに基づくお客さまへの提供です。
UCSのコンセプト |
■順当に進化しているUCS
――UCSはいまどこまできていますか。
中村氏
UCS製品番号の後に「M1」と付されたものが発表当時のものです。当時のUCS製品はブレードサーバーが中心でしたが、その後、最新のIntel Xeonプロセッサに対応したCisco UCS B200 M3ブレードサーバーに加えて、ラックサーバーであるCisco UCS C220/C240 M3や、仮想化インターフェイスカードのCisco UCS VIC 1280/1240など、最新技術を基にさらに性能向上と拡張性・集約性を高めています。
このインターフェイスカードとファブリックインターコネクトが、ファイバチャネルとネットワークアクセス、そして管理をシンプルにまとめます。このソリューションでは、仮想スイッチ部分に相当するハイパーバイザーがカード上でサポートされています。
仮想化を進めていくとNICがその都度必要になりますが、このとき物理カード1枚で、OSに対して何枚独立したカードにみせるかがキーポイントなのです。当初は、サーバーあたり2枚でしたが、現在では最大256枚分までサポート可能ですから、最近のVDIや高集約化するサーバーに必要なインターフェイスカードを、十分確保可能な容量となっています。
さらにWebやクラウドサービスにおける帯域確保や、ドメインではマルチデータに対応しディザスタリカバリやデータセンター分散化にも対応可能です。クラウドでは非常に多数のサーバーが接続されることがありますが、数千台まで統合管理できます。
UCSの進化 |
■最大の差別化は「使えばわかるUCSの便利さ」
――このところUCSの対抗馬も他社から発表されていますが、差別化のポイントはどこにあるのでしょう?
中村氏
他社は、UCSに十分追いついていないと思います。
UCSでは、トップオブラックにあたる10GbEスイッチのファブリックインターコネクトからユニファイドファブリックにより、物理サーバーから仮想サーバーまでのインターフェイスに、透過的にアクセスします。
すなわち、ブレードシャーシには一切ネットワークスイッチは搭載せず、また管理モジュールも搭載しません。ファブリックインターコネクトに接続することで数十台の複数ブレードシャーシやラックサーバーを1つに統合していますが、こうした環境の実現例はほかにありません。
特にUCSでシステム拡張性を高めているシステム規模、ストレージも含めたワンシステム統合にはなっていないのです。サーバーやネットワーク、管理、仮想環境をユーザーにとってシンプルかつ実用的な形で統合できているのはUCSのみと自負しています。
ユニファイド・コンピューティング事業 データセンタアーキテクチャ シニアマネージャの井村直哉氏 |
井村氏
例えばある代表的な他社ソリューションは、リファレンスアーキテクチャを意識したものと考えられます。また別のタイプはUCSそっくりですが、この場合も、スイッチや管理などはUCSとまったく異なります。UCSは管理ポイントが1つなのに対し、そちらは数多くの管理ポイントがあるので、シンプルさがまったく違うのです。
先日あるパートナーの方とお話しする機会がありました。計画停電のために、やむをえずサーバーシステム全体をシャットダウンしなければならなくなった。このとき、通常はサーバーを止めてストレージを止める、さらにネットワークを止めるなどといったシステムごとに定められた手順が必要になるのですが、UCSの場合は、1カ所のみのシャットダウン操作ですみ、あらためてUCSの便利さを現場サイドから評価いただけました。
中村氏
一般的な他社ブレードサーバーでは、例えばネットワーク、サーバーモジュールを組み合わせるときにさまざまなファームウェア管理が必要です。しかしUCSはUCSマネージャと1つの管理モジュールで、UCSのすべてのファームウェアを1セットとして管理できるので、インテグレータの立場から見ても、バージョンアップやシステム増強時に複数のファームウェアの組み合わせを検査・検証するといった手間がありません。
井村氏
UCSのいろいろなベンチマークをみますと、66種類でNo.1となっています。このように単体性能がよかったり、バーチャルインターフェイスカードも当初のSCSI/IOの公称値が500k IOPSでしたが、実際の測定では600k IOPSが出るなど、他社よりも20%くらいパフォーマンスがいい結果を得ています。こうしたこと1つとってみましても、その積み重ねによって、UCSが有利な勝負をできるという条件が整いつつあります(図3がこの辺)。
UCSは、さまざまなベンチマークで好結果をマークしているという |
■ビジネスは年々成長、ワールドワイドではブレードサーバーのシェア2位を獲得
――UCSの市場動向とユーザーからの手応えは。
ユニファイド・コンピューティング事業 エリアセールスマネージャーの石田浩之氏 |
石田氏
UCS関連の売り上げは年々倍々といったペースです。中でも海外が順調で、特に北米ではブレードサーバーがここ2半期分で、IBMを超えHPに次ぐ第2位と健闘を続けています。またワールドワイドでは第3位ですね。日本でもペースは順調といえます。
こうした好調な原因に、他社ソリューションと比べたアーキテクチャのちがいがあげられます。パブリックおよびプライベートの各クラウド構築において運用管理が楽で、特にOPEX(設備投資)が最大20%削減できることは魅力としてご評価いただいています。
現在、ユーザー数は全世界で1万6000件あり、その半数が先にUCSを導入しそのよさをご理解、評価いただき、さらにその後増設いただけますリピーターとなっています。特に販売好調な分野はVDI(仮想デスクトップ)ですね。
例えば、数千から数万台規模環境におけるバックエンドのデータセンターでのVDI向けにUCSが導入されています。UCSを導入される大きな理由は、仮想化密度が高い点があげられます。1台のサーバーに、他社ソリューションよりも多くのクライアントを設定できます。この結果、UCSによれば低価格ですむという点が効いているのではないでしょうか。
UCSの市場占有率 |
中村氏
例えば、メモリを拡張したとしてもクロックが落ちない点も評価いただいています。したがって、仮想化ではパフォーマンスを落とさず多数のリソースを確保しやすくなるのですね。
また、先にご紹介したVIC(仮想化インターフェイスカード)はハイパーバイザパススルーがサポートされていますので、CPUに対する負荷を軽減します。この結果、CPUが本来のアプリケーション処理に対してパフォーマンスを発揮しやすくなる点なども、ユーザーから評価いただける要因です。
石田氏
Vblock/FlexPodのように、EMCやNetApp、VMwareやCitrix、Microsoftとともに取り組む、ストレージ/仮想化ソフトウェアも含めたリファレンスアーキテクチャに対するニーズも、OPEXの効果で増え始めています。このアプリケーション、このトランザクション数、この構成であればパフォーマンスを検証なしで保証できる、といったメリットが功を奏しています。
井村氏
これまでは、SIerが複数ベンダーから機器類を取り寄せて検証し、実際のシステムを構築することが多かったですね。この手法ですと、運用までに半年くらい要するのではないでしょうか。
しかしVblockなどのリファレンスアーキテクチャの場合、導入すべき業務システムであらかじめ見積もりを終え検証も済んでいますので、工場側で組み上げて即導入できます。
したがって国内の自治体クラウド基盤の事例では、実際にインストールしてカットオーバーまで2~3週間ですみました。この点が海外の多くのユーザーサイドで受け入れられる要因です。こうした波は、いずれ日本にもやってくるのではないでしょうか。
■USCはネットワークとサーバーが融合したもの
――UCSのユーザーアドバイスを。
井村氏
UCSのハードウェアはとことんシンプルを追及しています。一度構築しますと配線の組直しは、まず必要ありません。
他社ソリューションの場合、配線が複雑で拡張できないということを耳にします。UCSの場合、論理的に分割した配線ですので、変更が生じた際にはUCS管理ツールのGUIのみで簡単に変更することができます。
またブレードサーバーとはいっても見かけがそうであるだけで、ミッドプレーンから先はネットワークの世界なのです。まさにネットワークとサーバーが融合したものですね。仮想マシンが数多く動作するようになった時に管理をどうするか、という点にもフォーカスしています。
それはハイパーバイザ上で動くバーチャルアプライアンスです。これからは、ロードバランサやセキュリティなどで仮想マシンを効率よく管理していくということです。
石田氏
このバーチャルアプライアンスの中には、IP電話サーバーも搭載可能で、あるプロバイダによるホスティングのコラボレーションサービスでは、この形のUCSが利用されています。
また、VXI(Cisco Virtualization Experience Infrastructure)と呼ぶソリューションでもUCS上に搭載でき、VDI環境と音声やビデオサーバーが同時に搭載可能です。
さらにQoSについても、他社がプロプライエタリなテクノロジーをサーバー内に搭載しているのが一般的なのに対し、UCSでは仮想サーバーの入り口まで、標準テクノロジーが利用可能です。
UCSでは、ほかにも数多くのオープンで標準技術に基づいたアーキテクチャになっているのも、セールスポイントですね。Vblock/FlexPodなども標準に基づいてデザインされています。ネットワークにかかわる標準はすべからく対応しているといっても過言ではありません。
中村氏
データセンターの既存環境との混在の観点では、UCSの場合はファブリックインターコネクトが中核となりUCSシステム自体が中心となりますが、シスコでは他社ブレードやラックサーバーなどの運用に慣れているというユーザーに対して、Nexus5000/7000を利用したVM-FEXという技術で、UCSおよび他社サーバー環境での仮想化統合ニーズにおこたえできます。もちろんネットワーク管理も可能です。
このようにシスコの考えるデータセンター環境は、UCSのみならず他ベンダ機器との共存にフレキシブル性をもつことも強みなのです。いまユーザーの方たちの望みは、クラウド環境におけるインフラ上でどうやってサービスを利用するかでしょう。UCSはこうしたニーズにベストソリューションとしてお薦めします。
他社製品も取り込めるUCSのスケーラビリティ |