「CMOがITをリードするという時代が確実にやってくる」~セールスフォース・宇陀栄次社長


 米salesforce.comが、米カリフォルニア州サンフランシスコのモスコーニ・コンベンションセンターで開催中のDreamforce 2012において、株式会社セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長にインタビューする機会があったので、その様子をお届けする。

 

salesforce.com製品の採用が加速している

――今年で10回目となるDreamforceに参加してどんな印象を受けましたか。

セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次社長

宇陀社長
 開催初日に行われたマーク・ベニオフ(会長兼CEO)の基調講演を聴き、世界的な大手企業が、salesforce.comのプロダクトを相次いで採用し、これが加速していることを感じました。ヴァージングループやコカ・コーラ、オーストラリアのCommonwealth Bankなどの事例が紹介されましたが、まさにこうした動きが代表的なものといえます。これは今後、火がつくような形で増加していくのではないでしょうか。

 また、ユーザー企業におけるシステムのデザインそのものがこれから大きく変化することを、参加者に強く印象付けたのではないでしょうか。これは私自身も漠然と思っていたことなのですが、それが確信に変わりました。

 例えば、銀行のシステムのキャパシティを考えた場合、窓口となるATMの台数を考えておけば、そこにどれだけお客さまが並んでいても、アクセスする量は予測できたわけです。

 しかし、ソーシャルの時代になると、どれぐらいのアクセス数があるかわからない。その予測を見誤ると、システムがパンクするという事態が発生することになる。ただ、ソーシャルのキャパシティは読めない。ソーシャルになった途端に、システムに対して圧倒的なスケーラビリティが要求されるわけで、それを従来型のシステムで実現しようとするとコストが合わなくなってきます。1社ごとに余裕を持ったキャパシティを確保するなんてことはあり得ません。

 つまり、ソーシャルの時代になり、それに対応していくということになると、必然的にクラウドを選択するしかないのです。クラウドは、ここで大きな役割を果たすことになります。バックエンドの社内システムであればいいが、フロント側の顧客接点型のシステム、あるいはパートナー向けのシステムということであれば、ソーシャルでダイレクトにつながることが、これからの欠かせないトレンドであり、それに向けて、システムのデザインの考え方が大きく転換する必要があるのです。ソーシャルというのは、企業システムの考え方を根底から変えていくものになるといえます。

 そして、今回の発表された製品のなかでは、Salesforce Touch Platformをはじめ、モバイル環境で活用するといった点でも、製品の大幅な強化を図っています。

 いまや、オフィスにずっと座ったままで仕事をしている人は、全体の一割程度だといえます。それ以外の人は動き回って仕事をしている。そうした背景を考えれば、クラウドとモバイル、そしてソーシャルとがつながっていくことは、必然のことだといえます。
また、講演のなかでは、ガートナーの資料から、2017年には、CIOよりも、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)のほうがITに詳しくなる必要があるという予測を披露していたのも印象的でしたね。

 

プラスとマイナスがあるリプテーションの重要性

――CMOがITをリードするという時代は本当にやってくるのでしょうか。

宇陀社長
 それは間違いないと思います。バックオフィス系はCIOが担当する範囲ですが、フロント系システムではCMOの役割が重視されてくるのではないでしょうか。企業にとって顧客に対する戦略はますます重要になってくる。ここでいう顧客に対する「戦略」というものをしっかりと理解するのであれば、CMO自らがITを知らなくてはならない時代が確実に訪れると考えています。

 今後は、企業にとって成長の源泉が顧客であるということが、より明確になってくるでしょう。そこをどうカバーしていくかということが重要になってきます。一時期、企業の成長のためにはERPが必要だといわれていましたが、これを導入したからといっても企業の業績が上向くわけでもない。また、CRMという限られた考え方や、顧客満足度を高めるだけでなく、もっと広い視点で顧客との接点を考えていく必要がある。例えば、製品開発にまで影響を与えるものとしてとらえることもひとつの流れです。

 製品には、ブランディングとリプテーション(reptation:評判)がありますが、むしろ、これからはリプテーションのほうが重視されるのではないでしょうか。

――それはどうしてですか。

宇陀社長
 例えば、高級ブランドの製品があった場合、それをすぐに買うという人はなかなかいません。しかし、高価だといっても、長年にわたって使うと結局は安いんだよ、というような評判があれば、消費者が購買に動くこともあるでしょう。

 ソーシャルの時代は、リプテーションが重視されるということは、体感的にわかっていただけるのではないでしょうか。しかも、リプテーションは、すべてがプラスの評価だけではない。プラス100までの評価があれば、その裏返しにはマイナス100の評判がある。CMOにとって、リプテーションが重要になってくるのは明らかです。

 

世界最大規模のベンダー主体イベントに成長

――今回のDreamforceでは、事前登録が9万人に達し、ベンダー主体のイベントとしては、世界最大規模になったと、ベニオフ会長兼CEOは発言しましたね。これだけ注目を集めた理由はなんだと判断していますか。

宇陀社長
 企業の関心が、こちらに寄ってきているということではないでしょうか。特に注目してほしいのは、CxOと呼ばれるCレベルの最高責任者の参加が、昨年から倍増し、3000人以上に達しているという点です。

 ERPベンダーのイベントをはじめ、これだけ多くのCレベルの参加者が多いイベントは、ほかにはないといえます。ではなぜ、ユーザー企業のトップがこれだけ参加するのか。それは彼らにとっても、お客さまに対するメッセージにつながるからです。

 ERPのようなバックエンド系のシステム再構築では、外にアピールしても仕方がないが、フロント型のシステムを活用して、どんなサービスを行おうとしているのか、というところにsalesforce.comの製品を使っているわけですから、まさにこれは、顧客に対する企業の戦略そのものなんです。

 そして、このイベントでのキーワードのひとつが、トランスフォーション。あらゆる業務のなかで、また、あらゆる業種で変革が求められている。マーク(=ベニオフ会長兼CEO)の基調講演のなかで、昨年のDreamforceが終わった直後に、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト会長兼CEOから連絡があり、会いたいという話になったという逸話を披露していましたが、そのなかで、「君はGEのことを勉強しなくていい。私が君のことを勉強したい」という話は、まさに印象的でしたね。

――今回、多くの新製品が発表されています。また、新たな方向性も発表されました。日本においては、これをどう展開していきますか。

宇陀社長
 ちょっと悩ましい問題だと感じているのが、ここで臨場感を持って聞いた話を、どう日本のユーザーにお伝えするかという点です。

 例えば、Googleを見たことがない人に、この良さを説明するのは大変難しい(笑)。百聞は一見にしかず、であり、このイベントに参加した企業と、しなかった企業ではかなりの温度差が出てくるのではないでしょうか。これをうまく伝えていかないと、日本の企業が、世界から遅れてしまうことにもつながりかねない、という私自身の危機感もある。それだけ、今回のイベントは大きな意味があったと思っています。

 日本がアジアの盟主として、いまなにをしなくてはならないか、グローバル競争において、近隣諸国に遅れてはならない、日本を元気にするという点でも、今回のイベントの意図をしっかりとお伝えする意味がある。

 マークも、講演の途中で、日本からの参加者を見つけて、日本語で話をしたり、ゲストスピーカーのなかでもまだ日本語対応していないというような発言があるなど、日本の市場を意識した発言が多かったですよね。マーク自身が日本の市場を重要視していますから、日本の企業が元気になれるための提案を加速させていきたいですね。

 

CMOに働きかける前に、まずCMOの設置を呼びかける

――つまり、これからは日本のCMOに対するメッセージ発信を加速していくことになると。

宇陀社長
 ここにも悩ましい問題があります。というのも、日本の企業にCMOと呼ばれる職種の人がどれだけいるのか、という点です。ようやくCIOの数が増加してきたなかで、まだCMOと呼ばれる人はほとんどいない。日本では、まずはそうしたところを含めて提案をしていかなくてはならない。これが世界から遅れる原因になってはいけないと強く感じています。ソーシャルの広がりによって、これだけ社会のインフラが変わると、顧客の発言が重要になってくる。それに対応するための職種と、システムの活用がこれからの鍵になるのではないでしょうか。

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