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シュナイダーエレクトリックの液体冷却ソリューション、チップで発生した熱を外気に排出するまでの全ての領域をカバー
2025年10月16日 06:30
シュナイダーエレクトリックは8日、液体冷却製品のポートフォリオを紹介する説明会を開催した。同社は2025年2月に米モチベア社を買収し、液体冷却ソリューションを自社製品のラインアップに加えた。これにより、チップで発生した熱を外気に排熱するまでの全ての領域(Chip to Chiller)で製品を提供できるようになっている。
モチベア買収でChip to Chillerのフルラインアップ
説明会ではまず、日本のカントリープレジデントの青柳亮子氏が、シュナイダーエレクトリックの事業全体と上半期のニュースを紹介した。
グローバルでは、世界経済フォーラムやガートナー、TIME誌、データセンターマガジンなどによる外部評価で、今年1位を獲得している。日本に関するニュースとしては、グローバルでシュナイダーが展開する「Sustainability IMPACT Award」で、日本企業であるゲットワークスが、Global Winnerに選出されている。
全世界から450社以上がエントリーした中から7社が選ばれ、そのうちの1社が日本での事例ということだ。ゲットワークスはコンテナデータセンターを越後湯沢に展開しており、そこにシュナイダーエレクトリックのIn-Row空調機を採用している。
シュナイダーエレクトリックはビルや工場、モビリティなど、さまざまな分野に対してエネルギーマネジメントの事業を展開している。その中で、データセンター分野に対して最も強い接点を持っているのが、セキュアパワー事業というセクションだ。
今年9月には、日本市場におけるセキュアパワー事業部全体を統括するバイスプレジデントに、八木彰貴氏が就任した。AI向けデータセンターの建設が増えている日本でのセキュアパワー事業部のビジネス強化を図っているようで、「AI向け液体冷却ソリューションは、2026年には2025年比で5倍以上の成長達成を見込んでいる」(八木氏)という。
説明会では、直前に開催された全世界同時のオンライン記者発表会の内容を、八木氏がかいつまんで紹介した。これは、モチベア買収後、初のポートフォリオ発表となっている。液体冷却と空冷を網羅した包括的なポートフォリオは、CDU、リアドア型空調機、HDU、コールドプレート、チラーなどのデータセンター物理インフラに加え、ソフトウェアとサービスで構成されている。
モチベア社は、1988年の創業以来、30年以上にわたって液冷および高密度計算環境に特化した製品を提供している。特に近年ではAIやスーパーコンピューターの分野で活躍するシリコンメーカーと連携し、設計段階から冷却戦略を共に考える企業となっているのが強みだ。
このモチベア買収により、シュナイダーエレクトリックは新規の建設でも既存データセンターの改修でも大規模に導入できる、液体冷却ソリューションの完全なエンドツーエンドのポートフォリオを手に入れた。「30年以上にわたるモチベアの経験と知見、数々のスーパーコンピューターに採用されてきた実績、そして将来的な高密度化に耐えるソリューションを用意しています」と八木氏は言う。
空冷データセンターでもDLCサーバーを使える
液体冷却にはいくつかの方式があるが、モチベアの製品はチップにコールドプレートを密着させて冷却するDLC方式だ。現在、液体冷却市場で最もポピュラーな方式だ。
DLC方式の心臓部であるCDU(Coolant Distribution Unit)は、冷水温度制御やサーバー送水量制御、水圧制御などをつかさどる。モチベアでは、床置きタイプとラックマウントタイプをラインアップしている。さらに、モチベアではHDU(Heat Dissipation Unit)も提供している。これは、建物の冷却水が利用できない空冷データセンターでも、水冷サーバーを使える環境を作るための装置だ。
CDUは、コールドプレートからの熱を受け取ったクーラントを冷却水で冷やすため、水をデータホール内に引き込む必要がある。これに対してHDUは、クーラントにファンで風を当てて空気で冷やすため、コールドプレートからHDUまでのクーラント以外の水はデータホール内に必要ない。
空冷サーバーの排気ファンと同様、暖まった空気はデータホール内に排出されるので、PUE値の改善には貢献しない。しかし、データホール内の防水工事は不要だし、パッケージ空調を使っているため冷水がないデータセンターでも、水冷サーバーを設置できるのが最大のメリットだ。
HDUはサステナビリティや脱炭素に貢献しないため、シュナイダーエレクトリックでは当初、国内向けポートフォリオから外すことも考えていた。しかし国内でヒアリングすると、水を引き込むことが難しいために、顧客の水冷サーバーを置きたいという要望に応えられない課題を抱える事業者がいることが分かり、ラインアップに加えたという。
液冷化が進んでも空冷の需要は伸びている
高密度サーバーの液冷化が進んでいるが、DLC方式の場合は空冷が不要になるわけではない。サーバー内にはメモリや電源ユニット、ネットワークソケットといった発熱するものがまだ存在しており、それがサーバー内の熱の10~30%と言われている。
つまり、液冷サーバーの伸びと一緒に、空冷も需要が伸びているということだ。これに対しても、シュナイダーエレクトリックではさまざまな空冷ソリューションをラインアップしており、フレキシブルな設計に貢献できる。
新たにラインアップに加わったモチベアのリアドア型空調機「ChilledDoor」は、さまざまな高さとサイズのモデルで提供されているため、利用しているラックに合わせて選択できる。リアドアはラック背面に設置するだけなので、非常に省スペースである点が魅力だ。
これらの補助空冷機器や電源系の機器を、どのように組み合わせて設計すればいいかは、まだ業界内にスタンダードがない。そこでシュナイダーエレクトリックでは、実機検証済みのリファレンスデザインを提供している。
コンテナデータセンターを含むさまざまなタイプの水冷対応データセンターにおける、設計のたたき台として提供されており、AIデータセンターインフラを強化するものだと期待されている。