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NTTとNTTドコモがAI技術の「大規模行動モデル」を確立、電話での受注率が最大2倍に

 NTT株式会社と株式会社NTTドコモは12日、1to1マーケティングを加速するAI技術「大規模行動モデル(LAM:Large Action Model)」を確立したと発表した。

大規模行動モデル(LAM)

 LAMは、顧客の行動順序のパターンを学習したモデルで、オンラインや店舗など多様な顧客接点における時系列データから、施策の内容や方法、タイミングといった実施条件ごとの販売促進効果を予測する。

 この予測に基づき、「個々の顧客に最適な販促施策をパーソナライズできるほか、顧客全体を横断的に比較することで、どの顧客から優先的にサービス提案を行うべきかという施策の優先順位も明確に把握できる」と、NTT コンピュータ&データサイエンス研究所 スマートデータサイエンス研究プロジェクト 主幹研究員の倉沢央氏は説明する。

NTT コンピュータ&データサイエンス研究所 スマートデータサイエンス研究プロジェクト 主幹研究員 倉沢央氏

 実際にLAMを活用した販促施策の一例では、テレマーケティングにおいて受注率が従来比で最大2倍に向上することが確認できたという。また、モデル構築の費用対効果も高く、「ドコモ独自のLAMはGPUサーバー約1日分の計算で構築可能だ」(倉沢氏)としている。

LAMの成果

デジタルマーケティングの課題を解決するLAM

 従来の一般的なデジタルマーケティングは、顧客を年代や購買履歴などの属性に基づいてセグメント化し、各セグメントに対して販促施策を個別に展開するセグメントマーケティングが主流だったが、「この手法では、属性に基づく一括配信により、顧客の状況に合わない施策が生じることがある」と倉沢氏。そこで近年は、個々の行動や意思決定の文脈を踏まえた1to1マーケティングが注目されているという。

 倉沢氏によると、NTTがLAMの研究開発に取り組むようになったのは2021年のこと。文章の次の単語を予測するLLMに対し、LAMは顧客の次の行動を予測することで、行動の意味関係を理解する。「これにより、過去の行動データをもとに、施策条件ごとの行動確率をシミュレーションし、最適なタイミングでの1to1マーケティングが可能になった」と倉沢氏は説明する。

LAMによる1to1マーケティング

 今回の取り組みは、NTTとNTTドコモが共同で推進した。NTTがLAMの研究開発およびチューニング手法を提供し、NTTドコモは許諾済み顧客データを「4W1H(誰が・いつ・どこで・何を・どうした)」形式へと統合してLAMを構築し、販促施策の効果を検証した。

取り組みのフローと役割分担

 LAMの技術的特徴について倉沢氏は、「数値やカテゴリが混在する非言語の時系列データに対応した生成AIで、顧客の不規則な行動によって生じるデータの欠損や偏りに対しても、階層構造や損失関数にNTTの独自技術を採用している」と説明する。「NTTが定義した販促の顧客ターゲティングタスクにおいて、LAMは従来の機械学習手法に対して約30%、一般的なTransformer構造に対して約10%の性能向上を確認した」と、倉沢氏はその成果を強調した。

LAMの特徴

医療やエネルギー分野への展開も

 LAMは、数値やカテゴリデータを含む時系列情報に広く対応できる汎用性を備えていることから、医療やエネルギー分野への展開も進めているという。

 医療分野では、糖尿病患者の治療歴など電子カルテに記録された時系列データをもとに、病態の変化や薬剤処方の順序パターンを学習。大学病院との共同研究により、専門医の処方判断を高精度で再現できることが確認され、かかりつけ医向けの治療支援ツールとしての有効性が期待されている。

 またエネルギー分野では、太陽光発電設備の発電量と気象観測データを活用し、雲の動きや位置による日射量への影響パターンをLAMで学習。発電設備単位での予測精度を従来の気象予報比で約30%向上できたという。

LAMの応用

 「NTTは今後もLAMの技術改善を継続する」と倉沢氏は述べており、2028年までに数値やデータの入出力の柔軟性を高め、企業で扱う非言語データの大部分への対応を目指すとしている。また、「1to1マーケティングの高度化を通じ、より個々のニーズに寄り添ったサービスの提案を実現したい」(倉沢氏)と述べている。