インタビュー

AirTrunk豪本社CEO・CFO・日本代表インタビュー~「データセンター調査報告書2023」より

本記事は『データセンター調査報告書2023(インプレス刊、3月17日発売)』より一部記事を抜粋・加筆して掲載しています。

 アジア太平洋地域と日本でハイパースケール型データセンターを手掛けている豪AirTrunkは、日本2つ目のデータセンターキャンパスである「TOK2」を2022年5月に発表し、半年後の11月中旬に現地で地鎮祭を執り行った。その地鎮祭に合わせて来日したAirTrunk創業者で豪本社CEOのロビン・クーダ氏、CFOのプラシャント・マーシー氏、日本代表の松下典弘氏に、1つ目のキャンパスであるTOK1の現状とTOK2の予定、同社における東京圏の東西分散、同社顧客の動向、日本国内のデータセンターで初のグリーンファイナンスについてインタビューする機会を得た。

TOK1は2棟目を開設・TOK2は着工

 AirTrunkは日本1つ目のデータセンターキャンパスとして全7棟からなるTOK1の建設を東京圏東部エリアで順次進めている。TOK1は、同社の日本パートナーである大和ハウス工業の「DPDC印西パーク」の一部を用地として利用しており、また共同で計画を進めている。大和ハウス工業のDPDC印西パークは2020年10月5日に「(仮称)千葉ニュータウンデータセンターパークプロジェクト」として発表されている(※1)。そのタイミングがTOK1-Bの地鎮祭直後であったためTOK1-Bがクローズアップされたが、開設順での1棟目はTOK1-C(2021年11月30日開設)で、2棟目のTOK1-Bも2022年3月に開設となっている(2棟目開設のプレスリリースは行っていない)。その1棟目の開設発表では、環境に配慮して屋上に太陽光パネルを設置し、設置面積4000㎡・年間100万kWhの発電を見込んでいることも発表している(※2)。

 AirTrunkは2022年5月16日、日本2つ目となるTOK2について東京圏の西部エリアに4万6000㎡、全3棟、IT供給電力110MWとして発表している(※3)。その半年後の2022年11月中旬にTOK2現地で地鎮祭を執り行い、着工した(※4)。なおインタビュー後の2023年2月21日、TOK2 2棟目の着工を発表している(※5)。


※1 大和ハウス工業、千葉県印西市に豪AirTrunkと共同で600MW級データセンターパークを建設(クラウドWatch、2020/10/06)
※2 AIRTRUNK、日本のデジタル化を促進する 日本最大、最高効率のデータセンター、TOK1を開設(AirTrunk、2021/11/30)
※3 AIRTRUNK、日本事業を拡張し、 東京で2つめのハイパースケールデータセンターを開設(AirTrunk、2022/05/16)
※4 AIRTRUNK TOK2建設着工 東京圏西部に110メガワット超のデータセンターを新設(AirTrunk、2022/11/17)
※5 AIRTRUNK TOK2データセンターの第2期工事に着手(AirTrunk、2023/02/21)

東京圏の東西でハイパースケール型に注力

 西のTOK2のターゲットについて同社は、既存顧客であり、その拡張ニーズ対応であるとし、1棟目(TOK2-A)の開設は2024年初頭としている。

 データセンターは災害対策・事業継続の点から地理分散が望ましいとされているが、1つ目・2つ目なら東京・大阪など広域においてが一般的である。そのため東西が千葉県と東京都の西というのは日本ではあまり聞かない。同社は本国オーストラリアのシドニー市で3カ所に設置していること、東の最終フェーズである7棟目の開設を待たずに西のTOK2を追加したことについて日本代表の松下典弘氏は、県・都という日本の地区単位をCEOのロビン・クーダ氏に説明・確認しつつ、「顧客の東京圏ニーズは東と西、中央部の3つで、それを考慮しての計画」だとし、「顧客はアベイラビリティーゾーンの考えに従っているため、例えば1社の顧客から東・西・中央部のデータセンター需要が寄せられているので、それに対応している。レイテンシー(通信遅延)も重要な点である」とする。

 埼玉県や川崎市などで建設を進めているハイパースケール型データセンターがあることを同社は承知しているが、そうした東京圏南北については、「顧客のニーズに合わせる、顧客の成長をサポートする。そうした形でデータセンターを提供している。そのため、顧客からニーズが出て来れば、そうした地域でも検討する」(クーダ氏)。

 同社は地理分散の重要性や適した場所、地価、電力、通信など日本の事情も把握済みだろうが、あくまで顧客の需要が顕在化したタイミングでとしている。

 CFOのプラシャント・マーシー氏は日本マーケットの重要性について、「日本のIT成長率は年率19.5%という予測もある魅力的なマーケットで、我々のキーカスタマーであるグローバルクラウドプレイヤーは世界中にデータセンターを持っていて、日本はその中でもトップ5に入っているため重要なマーケットと考えている」と語る。

 TOK1とTOK2において土地と電力を確保した現在、他社との差別化について、「キーとなる企業価値は、スピード、安全性、信頼性、効率性の4つで、効率性についてはすでにPUE 1.15を達成している。信頼性の高さについてはトラックレコード(過去の実績)に裏打ちされている」とし、「グローバルカスタマーが強く求める効率性にしっかり応えている。我々は本国オーストラリア含めてのグローバルな実績に加えて、日本の実績も積み重ねつつある。それを生かして顧客との関係を強化していく。それが我々の差別化ポイントだ」とした(クーダ氏)。

AirTrunk日本代表の松下典弘氏
創業者・本社CEOのロビン・クーダ氏
本社CFOのプラシャント・マーシー氏

東京圏以外

 同社は本国オーストラリアにおいて別の都市・地域で複数展開する経験を持っていて、日本でも今後東京圏以外で展開する可能性はある。そのことについてクーダ氏は「グローバルカスタマーは東京圏以外にも関心はある」と明かし、例えば大阪について「顧客も強い関心を持っている」という。

 こうした日本各地での可能性について同社は、政府がデータセンターを首都圏以外に分散するプログラムを進めていることは把握していて、地方経済の活性化という点も共感できるとし、顧客の需要次第だがそうした地域での可能性も視野に入っているとした。

 インターコネクション目的のリテール型データセンターが東京・大阪の都心部で増加していることについては、「インターコネクションが重要なことは承知している。ただ本国オーストラリアでも手がけておらず、今のところ日本の予定もない。インターコネクションのデータセンターは通信キャリアが手がけていることが多いが、我々はハイパースケール型にフォーカスし、クラウドのニーズに注力する」とした(クーダ氏)。

国内データセンターで初のグリーンファイナンス

 TOK2では、日本国内初となる環境配慮型のグリーンファイナンス(グリーンボンド)で資金調達を行っている。日本人は世界に比して環境問題にまだまだ自覚的ではないが、「日本でもグリーンファイナンスは重要視され始めている」とクーダ氏は指摘する。

 同社では新たにグリーンファイナンスフレームワークを導入し、PUEに加えて水の使用についての効率的な活用を適格基準として採用したという。

 グリーンファイナンスによる資金調達についてCFOのマーシー氏に質問すると、「大きく分けて4つのメリットがある」という。「1つ目は顧客がこうした環境問題を重視していること。2つ目は資本市場としての金融機関も同様で、株や債権の発行者も重視していること。3つ目は日本での具体的な動きはまだそれほど現れていないが、各国政府が強い関心を打ち出していること」とし、「シンガポールではしばらくデータセンター建設が中止になっている。土地がないというより、環境に配慮したデータセンターを作っていかなくてはならないという中で、ベンダーも供給を規制し始めている」という(クーダ氏)。「4つ目は働いている人間やサプライヤーなど広い概念としてのコミュニティも環境に責任のある行動をしている会社としか仕事をしないという傾向が強まっていることだ」(マーシー氏)。

 TOK2のグリーンファイナンスについては三菱UFJ銀行がサステナビリティ・ストラクチャリング・エージェントとして参加していて、同行ら金融機関からこうした取り組みの重要性について聞いているという。グリーンファイナンスを発表した際は、他行などから反響があったとし、クラウドプレイヤーである顧客からもサスティナビリティー重視については強い要請があるという。「クラウドプレイヤー各社も2030年までに達成という目標があるため、こういった枠組みを歓迎している」(クーダ氏)。

 データセンター事業が電力の大きな消費者なのは変えようのない事実で、グローバルトレンドにおいて厳しい目でみられているのは確かだ。オランダのアムステルダム、米国のアッシュバーン、アイルランドのダブリンなどの都市では、電力事情も関係しているが、新たにデータセンターを建設することが容易でなくなってきているという。

 「日本ではまず、環境というより電力供給インフラにおいて、電力会社などは新しくデータセンターを建設するには長い時間がかかると言い始めている。また環境面として電力消費は減らさなくてはならないので、その点から政府が規制してもおかしくない」(クーダ氏)。

 グリーンファイナンスは、今後のデータセンター計画・建設を進めていく上で、サスティナビリティー重視を証明するものとして、その価値は大きくなっていきそうだ。

 首都圏ではデータセンターの建設ラッシュであり、それら各社の新規・追加発表のとおり今後2025年に向けてさらに加速し、関西圏ではデータセンターが不足気味のため今後は開発が加速するとの声もある。建設すればするほど、建設のハードルが高くなっていく中で、データセンター事業者各社は魅力を増しつつ、要望に応え、社会の要請にも応えていかなければならない。

データセンター調査報告書』は、株式会社インプレスの専門メディア『クラウド&データセンター完全ガイド』による監修のもと、データセンターの市場動向、サービス動向、データセンター事業者の意向、企業の利用動向などをまとめた調査報告書です。2007年より発行を開始。その後は年次で発行を続け、本年度で16回目を迎えました。