インタビュー

高いパフォーマンスとコストの最適化を実現するOracleクラウドのHPC ~ HPC on OCI

 ビッグデータ分析、マシンラーニング、科学技術計算、3Dグラフィック処理など、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の活用領域が急速に拡大している。

 利用環境としても、パブリッククラウドにおいてHPC環境を提供するサービスが登場したことで、これまでのような大規模な投資をしなくても利用できるようになり、より身近な存在となってきた。

 多くのクラウドベンダーがさまざまなHPCサービスを提供しており、Oracle Cloudを展開するOracleでも、同社のIaaSである「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」から、マルチテナントのVMインスタンスと、占有可能なベアメタルインスタンスを提供している。

 今回は、来日した米OracleのOracle Cloud Infrastructure シニアプリンシパル製品マネージャー、Karan Batta氏にインタービューする機会をいただいたことから、同社が提供するHPCについて、その特徴や競合との差別化ポイントなどについて話を聞いた。

米OracleのOracle Cloud Infrastructure シニアプリンシパル製品マネージャー、Karan Batta氏

Oracleの優位性は?

――昨今、HPC環境を提供するクラウドベンダーが増えています。さまざまなサービスがあり競合も少なくないと思いますが、OracleのHPCを利用すると得られるメリットとは何でしょうか。

 お客さまがHPC環境を検討する際、パフォーマンス、コスト、柔軟性などが課題となりますが、そのいずれにおいてもOCIのHPCにはメリットがあります。パフォーマンスについては、IntelやNVIDIAといったベンダーと協業し、常に最新のハードウェアを採用しています。最初にNVIDIA VoltaによるHPC環境をクラウドから提供したのもOracleです。

 また、OCIから提供しているGPUのベアメタルインスタンスは、競合と比べて15%の優位性があることを示すことが可能です。さらに、OCIのHPCには用途に応じていくつかのラインアップが用意されています。これらはベアメタルインスタンスも含めてすべてオンデマンドで調達可能です。

 お客さまの要求に対して柔軟にスケールし、料金は使用した分だけを支払う従量課金でコストを最小化することができます。また、性能に対する価格は競合と比較しても40%の優位性を持っています。

 このほか、Oracleは単にハードウェアを提供するだけではなく、そのハードウェアに基づいたエコシステムも構築し、提供しています。

――HPCで利用するストレージの特徴や差別化のポイントを教えてください。

 HPC環境ではストレージが非常に重要な役割を果たしますが、OCIはさまざまな形態のストレージ提供オプションを用意しています。ブロックストレージはNVMe対応のSSDを選択可能ですし、オブジェクトストレージも提供されています。

 これらのストレージを用途に合わせてご利用いただけるのはもちろんですが、クラスタの構築やカスタマイズを望まれないお客さまについても、マネージドという形でNFSを「as a Service」で提供しています。パブリッククラウドのベンダーとして、真にマネージドされたNFSをas a Serviceとして提供しているのは、現状ではOracle Cloudだけです。

 HPC環境のストレージサービスはSLAでパフォーマンスを保証しており、IOPSもお客さまとOracleの間で確約します。主要な競合のパブリッククラウドベンダーでは、IOPS Per GBの価格がOCIの倍であり、しかもプロビジョニングされた形態で提供しています。

――また、膨大なデータを扱うHPCではネットワークも非常に重要な要素だと思いますが、OCIで利用するネットワークはいかがでしょうか。

 HPCのネットワークについてよく聞かれる課題は、クラウドとオンプレミス、あるいはほかのパブリッククラウドとの間で膨大なデータがやり取りされることによって、コストが増大することにあります。

 OCIのHPCは、ネットワークにもいくつかのオプションが用意されています。それほど帯域をお持ちでいないお客さまについては、通常のVPNで、10TBまで無償でingress(上り)かegress(下り)の形でサービスを提供します。

 また、Oracleのデータセンターまでプライベートネットワーク(閉域網)で接続することを希望されるお客さまには、「FastConnect」というソリューションを提供しています。FastConnectはポートごとの課金となっており、帯域に対しては課金しません。

 競合のプライベートネットワークサービスでは、ポートごとの課金に加えて帯域利用でも課金されるため、月額で5万ドルから10万ドル程度の料金が発生しています。しかし、OCIはポートに対する固定費用のみとなり、同じパフォーマンスのネットワークが1000ドル程度になります。この差は非常に大きいです。

データセンターの拡充を急速に進めている

――ネットワークという側面からみた場合、データセンターとの物理的な距離も問題になると思います。しかし主要なパブリッククラウドベンダーと比較すると、Oracleが保有しているデータセンターの数やカバーしている地域はあまり多くないように見えるのですが。

 HPCを利用されるお客さまにとって、パフォーマンスやレイテンシ、あるいはコストが重要であることは十分に承知しています。さらに多くの地域をカバーするため、Oracleは積極的に新たなデータセンターを開設しています。

 OCIのサービスが市場に登場してから、まだ2年ほどしか経過していません。この間にOracleは主要な4つの地域に、それぞれ3つのデータセンターを開設しました。さらに今後2年の間に、さらに12のデータセンターを開設する予定となっています。もちろん、その中には日本も含まれています。

 2カ月に1つのペースで大きなデータセンターが開設され、さらに今後も同じペースでカバーできる地域を増やしていくということになります。

――日本でのデータセンター開設はいつごろになるでしょうか

 詳細な時期はまだ明らかにできませんが、少なくとも2年以内には日本のデータセンターからHPCのサービスを提供できるようになります。

オンプレミスも“競合”として意識

――競合として強く意識しているベンダーはありますか

 HPCには2つの側面があると思っています。

 ビッグデータのアナリティクス、マシンラーニングなどのAI活用、コンテナなど比較的新しいワークロードについては、AWS、Google Cloud、Azureといった主要なパブリッククラウドはすべて競合といえます。今後もパフォーマンスや価格で、OCIがより魅力的な選択であることをアピールしていきます。

 そしてもう1つの側面は、科学技術計算や3Dグラフィックス処理などを行うレガシーなHPCです。大規模な多国籍企業を含め、多くのお客さまとHPCについてお話をしていますが、そのワークロードの99%は今でもオンプレミスにあります。大きな投資によって何千というコアがオンプレミスに展開されています。Oracleはこの99%のワークロードを強く意識しており、オンプレミスを競合と考えています。

 最初に申し上げたように、多くのお客さまはHPCのパフォーマンス、コスト、柔軟性といった課題を重視します。その中でもコストが最大の障壁であることは間違いありません。もちろんコストがすべてではありませんが、コスト面の課題を解決しなければ何もできないとおっしゃるお客さまはとても多いです。そのため、私たちはお客さまに、OCIのHPCがオンプレミスよりもコスト面でも魅力的であることをお伝えしていかなければなりません。

 またコストの問題が解決しても、オンプレミスからクラウドに移行することが妥当である、ということを納得していただく必要があります。私たちは常日ごろからOracle Cloudについて「過去をベースに将来を展望する」と言っています。

 これは既存のレガシーなHPCアプリケーションをOCIに移行してクラウド上でスケールし、アプリケーションのコンテナ化やストレージのクラスタ化といったマイグレーションを行っていく。さらに、新たにクラウドネイティブなアプリケーションを活用できるようにしていく、といったことなどを意味しています。

――オンプレミスからクラウドへの移行に障壁となるファクターはコストだけなのでしょうか

 HPCの多くはIT部門ではなく、エンジニアリング部門で直接管理されています。クラスタリングなどもエンジニア自身が行うため、自分たちが手を動かして管理したいという要求があり、物理的なハードウェアからクラウドに移行することで、自分たちがコントロールできなくなってしまうのではないかと思われがちです。

 しかし、これは完全に誤りです。OCIに移行しても、例えばベアメタルの上からBIOSセッティングなどを実行することができます。また、AWSなどはハイパースレッド機能のON/OFFをユーザーが操作することはできませんが、OCIのHPCはユーザー自身で操作可能です。

 OCIのHPCベアメタルインスタンスでは、Oracleのアプリケーションは一切動いていません。専有可能な物理サーバーとして提供されており、VMではありません。無理に仮想化環境で実行する必要はないのです。

 このように私たちは、「クラウドで実行する」ということの意味を根本から変えたいと考えています。既存のアプリケーションを無理に改変したり、ユーザーがコントロールできる部分制限されたり、といった妥協を一切する必要はありません。

11月に新発表を予定

――今後OCIのHPCは、どのような機能追加などが行われる予定でしょうか。

 2018年の11月11日から開催されるダラスのHPCカンファレンス(The International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage, and Analysis (SC18))で、OCIのHPCに関する新しいハード/ソフトウェアやパートナーシップなどを発表する予定です。

 今回、その内容を具体的に申し上げることはできないのですが、Innovation Summit Tokyo 2018で行われたHPC on OCIのセッション資料では、2019年の第1四半期の計画として、あるベンダーのロゴが掲載されています。これまでもOracleとは関係の深いベンダーですが、詳しいことはこれ以上は言えません。11月を楽しみにしていてください。

インタビュー中にBatta氏が言及したInnovation Summit Tokyo 2018で使われたプレゼンテーション資料。右上にメラノックスのロゴが掲載されていることから、11月には何らかの協業が明らかになると思われる

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 オンプレミスではOracle Databaseやアプリケーションは絶対的なシェアを持っているOracleも、パブリッククラウドベンダーとしては明らかに後発であり、AWS、Google Cloud、Azureのいわゆるビッグ3からは大きく水をあけられている。

 しかし、Oracleはこれらの競合を意識しつつ、独自の視点を持って進化を続けている。3年前にOracle Cloudが登場した際には、「Oracle on Oracle」という考え方のもと、既存のOracle Databaseやアプリケーションを動かすのにベストな環境であることを重視した。

 さらに、レガシーな環境で誰もサポートしてくれなくなった古いアプリケーションやOSを、Oracle Cloud上でサポートしていくという試みも行われている。

 そして、これら2つから自然に導きだされた新たなサービスこそがベアメタルのインスタンスであり、HPCのサービスと言える。

 昨今はビッグデータのアナリティクスやAI、マシンラーニングなどの大量の演算処理といった用途に、多くのHPCサービスがクラウドベンダーから提供されている。しかし、Oracleはそれだけにとどまらず、いわゆるレガシーなHPCを積極的にサポートすることで、いまだに99%がオンプレミスにある多くのワークロードについても、積極的にOCIに移行しようと考えている。

 おそらく今年の11月のSC18には、新たなHPCオプションが発表されることだろう。もしくは、10月22日からサンフランシスコで開催されるOracle OpenWorldでも何らかの進展がみられるかもしれない。そうした発表を注視していく必要がありそうだ。