インタビュー

Microsoftと開発者との関係をAzureが変えた――? ジュリア・ホワイトCVPが話すAzureへの取り組み

 「Azureは、多くの開発者に支持されるクラウドプラットフォームであり、ユーザー企業に対しては、デジタルファーストを実現するために最適な環境を提供できる」――。

 米MicrosoftのMicrosoft Azure Marketing担当、ジュリア・ホワイト(Julia White)コーポレートバイスプレジデント(CVP)はこう語る。オープンソースに強力にコミットしているMicrosoft Azureは、Microsoftと開発者との関係を大きく変えたのは明らかで、「Microsoftは嫌いだが、Azureは大好きだという開発者が多い」とのデータをもとに、状況の変化を示してみせる。

 ホワイト コーポレートバイスプレジデントに、Microsoft Azureの取り組みについて聞いた。

米MicrosoftのMicrosoft Azure Marketing担当、ジュリア・ホワイト コーポレートバイスプレジデント

ここ数年で開発者からの関心が大きくなった

――今年春に、日米で相次いで開発者向けイベントを開催しました。米国では「Build」、日本では「de:code」です。これらのイベントを通じて、開発者とMicrosoftとの関係はどう変化してきたと考えていますか。

 残念ながら、いまから5年前のMicrosoftと開発者の関係は、決して良好であったとはいえませんでした。開発者の多くが、iOSやAndroid向けのアプリ開発を優先し、Windows向けアプリの開発はそのあとまわしにしていた、という事実を振り返っても、それがわかります。

 しかし、この数年、開発者との関係は大きく変化しています。今年5月に、日本で開催したde:codeでは、事前申し込みがあっという間に定員に達しました。これだけ多くの日本の開発者に参加していただいたことに、私自身、驚いたほどです。それだけ、開発者がMicrosoftに関心を持っていただいているということの証しだといえます。

 これは米国で開催したde:codeでも同様であり、全世界から多くの開発者に参加していただきました。今年は、Buildの開催時期と、それを受けて日本で開催するde:codeの時期がわずか2週間の差だったことから、最新の情報とメッセージを日本の開発者の皆さんにお届けすることができました。これは完ぺきなタイミングだったといえます。

 ちなみにde:codeでは、基調講演への登壇者が私を含めて全員が女性だったことは特筆できるできごとでしたね。実は、こんな経験は私も初めてでした。

de:codeの基調講演は、日本マイクロソフトの平野卓也社長を除いて、すべての登壇者が女性。基調講演終了後に登壇者が記念撮影をした

――今年のBuildとde:codeを通じて、Microsoftが最も伝えたかったメッセージはなんだったのでしょうか。

 これまでMicrosoftが発信してきたインテリジェントエッジとインテリジェントクラウドの関係がより緊密になること、これからの世界において、インテリジェントエッジとインテリジェントクラウドの重要性が高まること。この2つを強く訴求したことだといえます。

 例えば、ここ数年はハイブリッドクラウドに注目が集まっていましたが、Microsoftは、ハイブリッドクラウドを進化させた「ハイブリッドネクスト」というメッセージを発信しています。これは、インテリジェントエッジとインテリジェントクラウドとの組み合わせによって実現されるものとなります。

 単にデータセンター(オンプレミス)とクラウドがつながるとか、クラウドとデバイスがつながるということではなく、IoTをはじめとしたインテリジェントエッジと言われるデバイスがインテリジェントクラウドに接続することで、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速したり、新たなビジネスを創出したりといったことが可能になります。

 これに対して競合他社が語る「クラウド」とは、クラウドとデバイスを結んで完結させるという単純な提案でしかありません。これは、われわれがモバイルファースト、クラウドファーストと表現をしていた時代の話と同じです。

 Microsoftは、インテリジェントエッジやインテリジェントクラウドの世界では、クラウドだけで完結するのではなく、インテリジェントなエッジともつながり、パワフルな世界を実現することができる、という提案を行っていくことになります。

Azureはすべての人が恩恵を受けられるクラウド

――インテリジェントクラウドを実現するのが、Azureということになりますが、AWS(Amazon Web Services)やGCP(Google Cloud Platform)と異なる点はどこですか。

 ひとつは、すべての企業や、すべての人が恩恵を受けることができるクラウドであるという点です。AIなどの最先端の高度な技術を誰でもが使える環境で提供し、しかも、それを開発者に対してすぐに使える環境を提供します。

 例えばAWSはサーバーレスのLambdaを発表し、この分野では先行しましたが、開発者向けの開発ツールやリソースを提供しなかったため、開発者はすぐにそれを使うことができず、大きな問題となりました。

 これに対して、Microsoftは、Azure Functionsを通じて、すぐに最新の技術を利用できる環境を提供しています。

 2つめは、次世代のハイブリッドクラウドの実現に向けた環境を整えているという点です。Azure Stackによって、顧客が持つデータセンターのなかでAzureを活用することができ、インテリジェントクラウドをベースにしたハイブリッドクラウドを実現する環境を提供しています。

 そして3つめが、セキュリティやプライバシーの保護に代表される信頼性です。Microsoftは、いかにしてトラステッドクラウドを構築するかという点に、多くの投資をしています。多くのリージョンにおいて、データセンターを展開し、そのすべてのデータセンターにおいて、強固なセキュリティの実現と、柔軟性、汎用性を実現しています。

 フォーチュン500社の90%の企業が、Azureを利用していることからも、Azureは最も信頼性の高いクラウドであることが証明されています。Azureはこれらの点で、競合他社と大きな差が生まれています。

 そして、もうひとつ付け加えておきたいのが、Microsoftが、パートナーと長年に渡る関係を持つ企業であり、パートナーと一緒になってビジネスを成長させるノウハウを蓄積している点です。パートナーの成長が自らの成長につながるという考え方を持っているのはMicrosoftだけです。

 さらにAWSの場合には、Amazon.comそのものが、小売業界の多くの企業と競合していますから、その業界のユーザーが、敵対する関係にあるAWSのクラウドサービスを活用するという選択はしません。Microsoftはあらゆる業界に対して、中立的な立場で最新のテクノロジーを提供できます。このように、顧客とパートナーと一緒に成長することができる立場にあるのはMicrosoftの大きな特徴のひとつです。

今後4年でIoT分野に50億ドルを投資

――Azureの特徴のひとつに、さまざまなAIをコグニティブサービスとして提供している点が挙げられます。開発者の間では、AIに対する関心が高まっていますね。

 AIは、Microsoftが最もフォーカスをし、大きな投資をしているエリアです。いまMicrosoftが重視しているのは、専門知識を持っているエンジニアが使えるAIではなく、誰でもが使えるAIを提供することです。これによって、最先端のAI技術を活用したアプリケーションを開発することができます。

 ただ、その一方で、データサイエンティストは自らAIモデルを構築したり、カスタマイズをしたりといったことに取り組んでおり、そうしたニーズに対応できるAIも提供していくことになります。

 現在、80~90%の開発者は、誰でもが使えるコグニティブサービスを活用していますが、それ以外の開発者は、カスタマイズしたモデルを必要としています。そして、今後は、こうした開発者が増加していくのではないかと考えています。そうしたニーズにもしっかりと対応できる環境を確立していきます。

――一方で、インテリジェントエッジでは、やはりIoTが鍵になりますね。

 IoTの市場は、これまではゆっくりとした成長でしたが、これから先は、急成長を遂げることが考えられます。そうした流れのなかで、インテリジェントエッジにも息が吹き込まれることになります。IoTがビジネスを変えていくということが、あらゆる場面でみられることになるでしょう。

 Microsoftは今後4年間をかけて、IoT分野に50億ドルを投資する予定です。ここでは、IoTセキュリティ、開発ツール、エッジ向けのインテリジェントサービス、パートナーエコシステム拡大といった主要分野への研究開発投資を行っていきます。

 顧客、パートナーは、IoT分野における新たな製品、サービス、リソース、プログラムを活用することができるようになります。Microsoftにとって、IoT分野における強みは、エコシステムの存在です。多くのパートナー企業が、Microsoftの IoT プラットフォームを活用して、ビジネスを変革する新しい製品やソリューション、サービスを開発しています。

 これは日本でも同様のことが起こっています。すでに数百社のパートナー企業から、数千を超えるAzure IoT認定デバイスが提供されたり、Microsoftが提供するAzure IoT Hubでは、数十億台のIoTデバイスを、セキュアに管理できる環境を実現したりしています。

 これらの動きをさらに拡大する今後4年間の新たな投資は、エコシステムから生まれるIoTの未来を加速するものになります。

――冒頭に、Microsoftと開発者の関係が、大きく変化してきたとの指摘がありましたが、その理由はなんですか。

 いま、開発者が最重視しているのがオープンソースです。オープンソース指向が高まる市場環境において、オープンソースを最もサポートし、オープンソースに最もコミットしているのがAzureだといえます。

 これまでは、Microsoftと開発者との関係は、Windowsのアプリを開発するということでしかありませんでしたが、Azureでは、.NETだけでなく、Java、Pythonといった、あらゆる言語を活用してアプリを開発でき、開発プラットフォームとしてAzureを使いたいという開発者が増加しています。

 つまり、AzureがMicrosoftと開発者の関係変化をもたらしたといえます。実は、アンケートを採ると、Microsoftは嫌いだが、Azureは大好きだという開発者が多いことがわかります(笑)。さまざまな言語の開発者にAzureを活用してもらうことで、Microsoftは収益を上げることができる仕組みもできてきました。

 これは、Microsoft自らがビジネスモデルを変えることにもつながっています。

――Microsoftの最新四半期決算では、コマーシャルクラウドの成長やAzureの成長率の高さが注目されていますが。

 クラウドの市場規模は、将来的には4兆ドルに達するともいわれており、まだまだ成長を遂げる市場です。Microsoftとしても、そこに対して、さらに投資をしていくつもりです。

 多くの顧客は、DXに取り組んでいます。いま、企業が持つ課題を解決するためにはAzureを活用することが最適ですし、多くの企業がAzureを活用して利益を創出しています。企業がデジタルファーストの組織になるためには、Azureは重要なツールになります。

 そして、Microsoftの最大の特徴は、販売パートナーとのエコシステムを構築しているという点です。パートナーとともに、顧客のDXを支援していきます。