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日本オラクル、最新テクノロジによって進化する自律型クラウドプラットフォームを紹介

~Oracle Innovation Summit Tokyo 2018 基調講演

 日本オラクル株式会社は7月27日、Oracle Cloud Platformを中心に同社のテクノロジや事例などを紹介するイベント「Innovation Summit Tokyo 2018」を都内で開催した。

 基調講演では、Autonomous(自律化)へと進化する「Platform as a Service(PaaS)」、最新アーキテクチャの「Infrastructure as a Service(IaaS)」など、Oracle Cloud Platformが提供する性能、セキュリティ、コストメリットなどに関する最新情報を、製品担当のエグゼクティブが紹介した。

日本企業のクラウド活用のニーズとOracleへの期待

 最初に登壇した日本オラクル 執行役員 クラウドプラットフォーム戦略統括 竹爪慎治氏は、日本企業のクラウド活用ニーズやOracleへの期待値には大きく3つあると説明する。1つ目は既存システムのクラウド移行で、Oracleに対するもっとも大きな期待となっているという。

「お客さまの多くは、クラウド化することでコストの最適化や生産性の向上を実現したいと考えている。また、最新のインターフェイスへの対応やデータストレージの拡張など、既存システムを最新の技術で拡張したい、といった要望も多く聞かれる。しかし、現状オンプレミスで実現されている可用性、信頼性、拡張性といった要件は、クラウド化しても維持したいと考えている」(竹爪氏)。

 2つ目のニーズはクラウドプラットフォーム利用による新規ビジネスの迅速な立ち上げだ。IoT、ブロックチェーン、AIなど最新のテクノロジを利用し、より付加価値の高い新しいビジネスを創造するデジタル・トランスフォーメーションを実現したいという要望が多いという。

「新しいビジネスの立ち上げに対するニーズと、パブリッククラウドは非常に親和性が高い。デジタル・トランスフォーメーション実現のため、幅広いポートフォリオを持ちつつ、しかも簡単で迅速に対応できるプラットフォームを要望されている」(竹爪氏)。

 3つ目はビジネスプロセスの効率化・迅速化。業界のベストプラクティスを導入したり、より深いインサイト(洞察)を享受したいと考えているという。

「これらの要望は、プラットフォームというよりも、サービス(アプリケーション)のレイヤの要望として認識している。また、単にビジネスプロセスの効率化や迅速化を実現するだけではなく、自分たちのビジネスに合わせ、簡単にカスタマイズできるようなサービスが求められている」(竹爪氏)。

日本オラクル 執行役員 クラウドプラットフォーム戦略統括 竹爪慎治氏
日本企業のクラウド活用ニーズやOracleへの期待値には大きく3つある

 これらのニーズに対応するため、Oracleでは「IaaS」「PaaS」「SaaS」の3つのスタックでクラウドサービスを展開していく、と竹爪氏は説明する。最初にIaaSによって既存システムをクラウドに移行し、効率化・迅速化の実現や新規ビジネスの立ち上げにPaaSを活用する。さらに、ビジネスプロセスのさらなる効率化と迅速化のために、さまざまなSaaSを組み合わせるといった提案を積極的に行っていくという。

 「IaaS、PaaS、SaaSすべてのスタックでサービスを提供していくことが、クラウドベンダーとして重要な位置付けになっていくと考えている。また、単にすべてのスタックでサービスを提供していくというだけではなく、お客さまの新たなニーズに応えていくため、クラウドそのものを進化させている。IaaSであればオンプレミスと同等あるいはそれ以上の性能、信頼性、拡張性、セキュリティを実現することで、エンタープライズ向けのクラウドを実現する。PaaSでは豊富なポートフォリオに対して簡単で迅速に、しかも最適なコストでサービスを立ち上げられるよう、自律型(Autonomous)機能を全体に適用していく。そしてSaaSに対しては、より高いインサイトの享受や効率化を実現するため、AIを活用していく」(竹爪氏)。

迅速なイノベーションを低コストで実現するAutonomous Cloud Platform

 進化するOracleのクラウド全体の戦略は、米OracleのOracle Cloud Platform製品管理および戦略担当グループバイスプレジデント、シッダールタ・アガルワル氏が説明した。

 企業が現在直面している課題としてアガルワル氏は、「ソフトウェアの運用コストが高い」「セキュリティ管理に時間と費用が掛かり過ぎている」「日々発生する問題に対して受け身になっている」「AIや機械学習の専門家が不足している」といった内容を挙げた。そして、これらの課題を解決するため「ソフトウェアはAutonomous(自律型)になっていく」と説明する。

 「将来的にエンタープライズアプリケーションの90%はAIが搭載され、エンタープライズデータの50%は自律管理されるようになる。例えばデータベースは、現在のようなチューニングや最適化といった作業をマニュアルで行う必要はなくなっていくと考えている」(アガルワル氏)。

 そして、Oracleが目指すソフトウェアのビジョンも「Autonomous」だ。AIのテクノロジを活用し、ソフトウェアが自分自分を管理する。ソフトウェア自身が自動でスケールし、構成し、チューニングもできる。さらに問題を学び、問題を予測し、問題を修復できるようになっていくという。

 現状クラウドを利用している企業の多くは、単にインフラをクラウド化しただけで、ソフトウェアの管理は自分自身で実施していることが多い。運用の自動化はあまり進んでおらず、バックアップ、パッチ適用、アプリのチューニング、あるいは障害対応といったことをマニュアルで実行している。あるいは、クラウドベンダーがルールベースの自動化によって基本的なサービスの維持と運用を実施する場合であっても、自動的なパッチ適用などは行われない。

 これらの課題を解決するため、自律的なクラウドプラットフォームでは、顧客が設定したポリシーに沿ってクラウドベンダーがAIや機械学習によって運用を自動化し、ソフトウェアの管理、セキュリティ確保が行われる。仮に何らかの問題が発生した場合にも、クラウドベンダーが責任を負う。このような自律的なクラウドプラットフォームによって、企業はTCOを削減してリスクを軽減することができるだけではなく、イノベーションの加速にもつながるという。

 Oracle Autonomous Cloud Platformでは、「自動稼働」「自動保護」「自動修復」を可能にするという。自動稼働では自動的なプロビジョニング、スケール(縮小/拡大)、バックアップ/リストア、アップグレードを行う。自動保護ではセキュリティパッチを自動的にダウンタイムなく適用する。そして自動修復ではシステムが自分自身を監視してチューニングなどを行うことで可用性を最大化し、月のダウンタイムを2.5分未満に抑えるとした。

米OracleのOracle Cloud Platform製品管理および戦略担当グループバイスプレジデント、シッダールタ・アガルワル氏
Oracle Autonomous Cloud Platformが実現する「自動稼働」「自動保護」「自動修復」

 また、SaaSとして提供されるOracle Cloud Platform Autonomous Servicesでも、さまざまなサービスが提供される。例えばExadataがSaaSとして提供されるため、データ管理やアプリケーションとデータの統合が可能になったり、ほぼコーディングすることなくチャットボットなどのアプリケーション開発が可能になったり、アナリティクスの機能などを利用するといったことが可能になるという。

AIと機械学習によって実現する自律型SaaS「Oracle Cloud Platform Autonomous Services」

Oracleの新たなデータベースサービス「Autonomous Database」

 世界初の自律型データベース・クラウド「Oracle Autonomous Database Cloud」については、米OracleのDatabase Server Technologies マスタープロダクト マネージャー、マリア・コルガン氏が説明した。

 OracleはAutonomous Databaseの開発を始める際、大規模なエンタープライズの顧客に対し、データ・マネジメントの課題や、求めていることは何かを調査したという。その結果「既存インフラのクラウドモデルへの移行」「データの安全性や可用性の保障」「低コストでのイノベーションの実現」といったニーズがあったという。そこでOracleは、新たなアプリケーションだけではなく、既存のアプリケーションの両方に対応できる新しいデータベースを開発することにしたという。

 Autonomous Databaseも、AIと機械学習によって「自己動稼働(Self-Driving)」「自己保護(Self-Securing)」「自己修正(Self-Repairing)」を実現するという。自己稼働では、データベースとインフラストラク者を自身で監視し、チューニングを自動化する。自己保護では、外部からの攻撃と悪意を持った内部のユーザーの両面から保護する。自己修正では予定保守を含むすべてのダウンタイムからデータベースを保護する。

「Oracleは『Oracle Database 9i』のころから、データベースの自動化と最適化に投資してきた。また、データベース・インフラストラクチャの自動化にも同様に多くの投資を行ってきた。そして、データベースの自律化によって、データベースの全ライフサイクルを完全に自動化するという目的を達成できる」(コルガン氏)

米OracleのDatabase Server Technologies マスタープロダクト マネージャー、マリア・コルガン氏
自律化によってデータベースの全ライフサイクルを自動化するという目的を達成したという

 プロビジョニング機能としては、Exadataによるクラウドインフラの提供、RACによるスケールアウト、Active Data Guardによるスタンバイなどを実現。また、オンラインでのセキュリティアップデート、DB Vaultによる管理者によるのぞき見禁止、データの暗号化といったセキュリティ機能、オンラインでのパッチ適用、チューニング、障害対応、バックアップ/リストアといったインフラを含むデータベースの管理や保護も自動化できる。自動的に(人間の判断なしで)最適なワークロードを実行し、データフォーマット、索引、並列度、実行計画などを最適化する。

 さらに、CPUとストレージの能力を、それぞれ独立してオンラインから即座にスケールすることができるため、“真の”従量課金が実現できるとコルガン氏は説明する。

データベースライフサイクルの自動化

 さらにコルガン氏は、「Autonomous Databaseをもとに、さまざまなワークロードに特化したプロダクトファミリが存在する」と説明する。

 まずは2018年3月にリリースされた「Autonomouss Data Warehouse(ADW)」で、分析処理のワークロードにもっとも適しているという。データウェアハウス(DWH)、データマート、データレイクなどに利用することを想定している。

 そして、これからリリースが予定されているのが「Autonomous Transaction Processing(ATP)」だ。トランザクションプロセスや混合ワークロードに最適化しており、トランザクションおよびレポーティングを同じシステムで同時に実行したい場合には、ATPが適しているという。

ADWはビジネスアナリティクス、機械学習、データ分析用のデータレイクなどに適しており、ATPはミッションクリティカルなアプリケーション、混合ワークロード、アプリケーション開発に適している

 Autonomous Databaseは、既存のデータベースと完全な互換性を保っており、オンプレミスからクラウドへの移行も容易で安全に実現できるという。また、自動的なパッチ適用によって、サイバー攻撃の標的となる脆弱性にも迅速に対応できることや、計画停止を含む99.995%の稼働を保証(1カ月あたり2.5分未満のダウンタイム)することでデータの安全性が保障される。

 さらに、従量課金で最適化されたランタイムコストや、自律管理による管理コストの削減も実現する。コルガン氏は「Autonomous Databaseによって、主要ITの目的を達成することができる」とアピールした。

エンタープライズグレードなクラウドプラットフォーム

 Oracle Cloud Infrastructureの戦略については、米OracleのOracle Cloud Infrastructure製品戦略アーキテクト兼エバンジェリスト、ローレント・ジル氏が説明した。

 エンタープライズにおけるクラウドでの最大の課題はセキュリティだが、次いでコスト、リソースや専門知識の不足などが課題になっているとジル氏は説明する。オンプレミスと同等のセキュリティレベルを担保できなければ、既存のシステムをクラウドに移行することは難しい。コストについても、クラウドのコストは明確化しにくいという問題もある。さらに、人的なリソースや専門知識の不足によって、クラウドに移行できないでいる企業も多い。また、その他の課題としては、コンプライアンス、マルチクラウドの管理、パフォーマンスなどがあるという。ジル氏は「このようなさまざまな課題に対し、Oracle Cloudは積極的に対応している」と述べた。

米OracleのOracle Cloud Infrastructure製品戦略アーキテクト兼エバンジェリスト、ローレント・ジル氏

 ジル氏は「Oracle Cloud Infrastructureは、オンプレミスの利点とクラウドの利点の両方を提供するエンタープライズグレードのクラウドプラットフォーム」と述べ、安定したパフォーマンス、専用のハードウェア、ガバナンスとコントロールといったオンプレミスの利点に加え、キャパシティの追加が数分で行える、従量課金制、データセンターコストの削減といったパブリッククラウドの利点をOracle Cloud Infrastructureは兼ね備えている、とアピールした。

Oracle Cloud Infrastructureはエンタープライズグレードのクラウドプラットフォーム

 現在、Oracleは12以上の地域で、あらゆるエンタープライズアプリケーションとワークロードを、安全に実行できるクラウドを提供しているが、今後はさらにデータセンターを増やしていく予定であるという。

 日本においてもフルスタックのOracle Cloud Infrastructure(コンピュート、ストレージ、ネットワーク)、高性能なGPUインスタンス、高性能コンピューティング環境を提供できるデータセンターの開設を予定しており、ジル氏は「Very Very Soon(とてもとても早い時期に)」と述べている。

 ジル氏は、Oracleがほかのクラウドサービスとは違う点として「既存の投資を保護」を強くアピールしている。Oracle Cloud Infrastructure Edge Computeサービスは、ホスティング場所から独立しており、古いインフラに適用されたものと同じセキュリティ方針を新しいインフラへシームレスに適用していくことができるという。また、リスクの少ないリフトアンドシフトが可能になるとも述べた。

 多くの企業がOracle以外のクラウドサービスを利用していることについてもジル氏は、「すでにGoogle、AWS、Azureを利用しているお客さまは多くいる。そのようなお客さまには『どうぞそのまま使ってください』と言っている。Oracleはほかのクラウドと連携するさまざまな機能を提供しており、お客さまの投資を無駄にすることはない」と述べている。

 また、独立したエッジサービスやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)なども、Oracle Cloud Infrastructureの特徴であるとジル氏は述べている。特にHPCについては、近くさらに新しいサービスが発表されるとした。

 なお同社はすでに、NVIDIAのGPU「Tesla V100(16GB)」によるベアメタルコンピューティングインスタンスなどの提供を開始しており、「Tesla V100(32GB)」によるサービスも年内には開始することを発表している。