MicrosoftバルマーCEOがデベロッパー向け講演、「日本は米に並ぶ最先端ハイテクの国」
Windows 8の登場は2012年に
日本マイクロソフト株式会社は23日、「Microsoft Developer Forum 2011」を開催し、米Microsoft本社のスティーブ・バルマーCEOが講演を行った。
バルマーCEOは、「今回の来日は、1年半ぶりになる。これほど長いこと日本を訪れなかったことは、これまでにはなかった。日本は震災の影響で大変な状況にあるが、それを解決するものはイノベーションであり、その進展を担っているのが日本のデベロッパーだ」と開発者にエールを送った。
■コアテクノロジーとして5つに注力
米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO |
Microsoftが注力する5つのコアテクノロジー |
バルマーCEOは、現在Microsoftが注力するコアテクノロジーとして、(1)ナチュラルユーザーインターフェイス、(2)自然言語処理、(3)HTML/JavaScript、(4)ICチップとフォームファクター、(5)クラウドの5つをあげた。
「Microsoftはこの5分野に対し投資を行っていく。この5分野は、当社だけでなく、競合各社も注力している分野である」
ナチュラルユーザーインターフェイスは、会場を見渡して、「ノートPCで入力している人もいれば、スレートPCを利用されている方もいるし、手書きのメモを利用されている方もいる。現段階では手書きメモの方がPCやスレートでの入力よりもまだ、自由度が高い。ノートPC、スレートPC共にまだ改善すべき部分がある」と言及した。
その上で、音声認識、手書き入力といったものに加え、同社がKinectで手掛ける手を振るなどの動作も対象であると説明。さらに、買収したばかりのSkypeのようなビデオフォンを利用した視覚認識など、「さまざまなアイデアを実現させる余地がある」と、可能性が大きい分野であると話した。
自然言語処理では、「現段階では自分のコンピュータに、例えば『ファイルを開け』と入力しても、それが実現されるわけではない。現在は、コンピュータがユーザーの意図をしっかり把握し、それを実行できる段階ではない。われわれがBingに注力するのは、単なるサーチエンジンとしての可能性だけでなく、自然言語を利用し、コンピュータがわれわれの代わりに適切なアクションを提示してくれる可能性を持つからだ」と説明した。
HTMLとJava Scriptについては、「業界で標準のテクノロジーをきちんとサポートし、世界中のプログラマーが利用できる環境を提供する」という姿勢を強調した。
ICチップとフォームファクターは、AMD、ARMアーキテクチャーもサポートし、より幅広いデバイスに対応していく方向性を説明した。
継続的に強化していくことを強調しているクラウドについては、「Skypeのようなテクノロジーと連動していくことで、われわれが重要だと考える新しい方向性を体現していく」とクラウドの新しい可能性を示唆した。
■Facebookなどのソーシャルネットワークからも学びたい
Microsoftが掲げるテクノロジー的な課題 |
注力しているものの1つ、Windows Phone 7 |
さらにMicrosoftとしては、サーバーの冗長性といった問題を、現在の手動ではなくできる限り自動化し、「さらに震災が起こった際に起こった問題をどのように学習し、さらに自動化していくのかが課題となる」と言及。その学習法として、「先週、Facebookとの新たな提携を発表したが、友人の意見や世間の評価を聞くといった方法も活用できる」とした。
その上でMicrosoft自身は従来通り、BIツール、SQL Server、SharePointのような情報を活用するソフトを、「さらに情報を活用するための仕掛けに注力していく」ことも強調した。
コミュニケーションについては、「ITの基本はコミュニケーション」とした上で、Skypeの買収に言及。「Skypeは世界で最も人気があるリアルタイムビデオプログラムであり、コンシューマのコミュニケーション変革をさらに進めていくことになるだろう」とその可能性を訴えた。
日本での投入が遅れているWindows Phone 7は、「現状では予定よりも1年開発が遅れている。日本での投入も遅れているが、メジャーなバージョンを今年の後半に投入する。明日(24日)に大きな発表があるので、詳細は説明できないが期待してほしい」と話した。
Windows Azureについては、数週間ごとに新たなリリースがあり、日本のトヨタ自動車との提携発表といったビジネスも進展。さらに、日本デジタルオフィスが提供している被災時緊急連絡用アプリケーション「J!ResQ」を紹介し、「ビデオメッセージ、音声メッセージ、GPSなどの情報が利用できる被災した人向けソリューションだが、こうしたアプリケーションが登場するのがAzureの進展を示している」とした。
クラウドアプリケーションについては、「企業のクラウドを考えた場合、企業は急いでクラウド化を進めていくわけではない。クラウド用アプリケーションに加え、バーチャルマシン用アプリケーションとのハイブリッド環境が当面続くのではないか」という方向性を示唆した。
Windowsの次期バージョン(Windows 8)の開発も、「われわれは開発を進めている。来年には製品が登場するが、スレート対応、タブレットなどと新しい展開が期待できる」と2012年登場を予告した。
その次期Windowsと連動するものとしてInternet Explorer 9をあげ、「最速なブラウザ体験を提供する。新しい方向性を実現する」と話した。
Windows Azureの方向性 | 主要製品とテクノロジー |
■エンタープライズ、コンシューマ両方の異なるニーズに対応する
この後、開発者から事前に寄せられた質問を受けた。
開発者からのQ&Aセッションに臨むバルマーCEOと、日本マイクロソフト株式会社 デベロッパー&プラットフォーム統括本部 執行役 統括本部長 大場章弘氏 |
1問目の質問は、「消費者分野におけるイノベーションの増大は、エンタープライズ分野へのフォーカスにどのような影響を与えましたか?」。
コンシューマとエンタープライズのどちらかに注力する企業もあるが、Microsoftとしては「切り分けることはできないと思っている」と説明。その上で、「エンタープライズ領域にはセキュリティ、コラボレーションなどユニークなニーズがある。そこにきちんと対応しながら、コンシューマユーザーに向けた最新テクノロジーを実現するために高品質なインターフェイスに対応する」と、エンタープライズ、コンシューマ両方の異なるニーズに対応する姿勢をアピールした。
2問目の質問は、「約9万人の従業員を擁するグローバル企業であるMicrosoftを経営する上での成功要因は何でしょうか?」という経営に関するもの。
この問いにバルマーCEOは、「Microsoftを経営していくことは決して容易なことではない」と即答。その上で、「うまく区分けを行い、経営上の管理が行いやすい組織に分けて取り組んでいくことが必要になる。ただし、それぞれのチームは連携して動かなければならず、例えばWindowsチームは迅速に動く体制を持たなければならないが、ほかの開発部門とも密接に連動して動く必要がある。また、テクノロジーという視点でいえば、将来を作り出すことができる人間にチームを任せる必要がある。例えば、アレックス・キッドマンはKinectを生み出した。こうした新しいテクノロジーを生み出せるスタッフを組織し、開発を託すことが経営判断として重要」と答えた。
3問目の質問は、「Kinectは日本でも話題になっていますが、ナチュラルユーザーインターフェイスの今後の方向性について教えてください」というもの。
この質問に対しては、「まだまだいろいろなチャンスが生まれる分野だと思っている」と説明。「Kinectにはセンサー、マイク、カメラを搭載したが、最初のバージョンはうまく動きをとらえられず、しかも特定の場所に立たなければセンサーが反応しなかった。もっとほかの表情を読んで、反応するといったものに性能を向上させていく必要がある」とした。
さらに、日本マイクロソフト デベロッパー&プラットフォーム統括本部 執行役で統括本部長の大場章弘氏が、「今後はKinectとWindowsの接続性が高まっていくことになる」とKinectのゲームにとどまらない方向性があると付け加えた。
■ARMベースのWindowsでスレートPCが大きく変わる?
4問目の質問は、「近年AndroidスマートフォンやiPadといったタブレットをはじめとするデバイスが注目を集めていますが、Microsoftのデバイス戦略を教えてください」という多くの人が気になる内容。
バルマーCEOは、「われわれの姿勢は明確」と断った上で次の様に説明した。
「Windows PhoneはAndroidと競合し、スレートPCはiPadと競合する。現在のWindows 7ベースのスレートPCは、これからさらにバッテリー寿命を延ばす。ARMバージョンはもっと大きく変わるだろう。iPadはセキュリティや管理の機能にもっと工夫が必要で、われわれが提供するスレートデバイスは、次の世代ではこの点を加味したコンシューマ向けスマートデバイスとする」
5問目の質問は、「Microsoftのクラウドが開発者とITプロフェッショナルにもたらすメリットとは何でしょうか?」という内容。
この質問に対しては、「2つの考え方がある。1つはデベロッパーやITプロフェッショナルなどの生産性にかかわる点。経営者はコストを増やさなければ、ITの増強をしたいと望んでいるがこれを実現するのがクラウドとなる。もう1つはわれわれのOffice365のように全く新しいカテゴリーのアプリケーション。今後はアプリケーションを作る際、クラウドを意識する必要があり、情報の共有などデータの有効活用がクラウドを使うことで実現する。こうした成果を確固たるセキュリティを確保した上で提供していく必要がある」と、クラウドの影響を効率、新しいクラスのアプリケーションという2つの視点からとらえる必要があるとした。
最後の質問は、「日本のITエンジニアがグローバル市場で成功するために必要な要素は何でしょうか?」という開発者自身に関するもの。
バルマーCEOは、「日本は現在厳しい時期にある。しかし、忘れてはいけないが、日本は世界でもトップクラスのスーパーハイテク市場である。日本で最先端ということは、世界でも最先端ということだ」と日本が有数のハイテク市場であることをあらためて強調。
その上で、「ただし、世界は変わり、1つの国だけを意識したソフトを開発している時代ではない。世界での展開を意識したソフトを開発すべきだ。そのよい例がSkypeで、このソフトはエストニアで始まった。Skypeを日本のソフトエンジニアも教訓の1つとして学ぶことができるのではないか」と世界展開を意識したソフト開発の必要性を訴えた。
最後に、開発者向けメッセージとして、「日本は米国と共に世界で、最も素晴らしいテクノロジー企業が存在している国で、素晴らしい機会がある」と日本のエンジニアの可能性を強調。そして、「今日、集まっていただいた開発者の皆さんに向け、いつものメッセージを」と話して、「デベロッパー!デベロッパー!デベロッパー!」とおなじみのことばで締めくくった。
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