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AI、専用クラウド、ミッションクリティカル――、オラクルがクラウド事業者としての強みをアピール
Oracle Cloud Forum基調講演レポート
2024年10月25日 11:30
米Oracle Corporationの日本法人である日本オラクル株式会社は、Oracleのクラウドサービスに関する最新情報を伝える「Oracle Cloud Forum」を、10月24日に都内で開催した。
基調講演では、9月に米国ラスベガスで開催されたOracleの年次イベント「Oracle CloudWorld 2024」での発表をまじえ、企業やパートナーの中で動く専用クラウドなど、クラウド事業者の中でのOracle Cloudの特色について――が語られた。
日本オラクル株式会社 取締役 執行役 社長の三澤智光氏は、基調講演の冒頭でOracle Corporationの今の業績を紹介した。2010年代にクラウドが発展した時代にOracleの業績が低迷したが、2020年に入ってクラウド戦略を本格化してから売上や株価を上げていると説明し、「IT業界で、一度成功した会社が低迷してから再浮上することは珍しい。それをできた要因がクラウド」と、クラウド事業が好調だと強調した。
三澤氏はOracle Cloudについて、「先行したハイパースケーラーに10年遅れてクラウドに参入した」としつつ、「10年遅れたぶん、10年後のテクノロジーを採用し、違う進化を遂げている」と主張。先行したハイパースケーラーとの違いを、AI、専用クラウド、マルチクラウド、ミッションクリティカル、SaaSの5分野に分けて説明した。
AI:GPUスーパーコンピュータ「OCI SuperCluster」がNVIDIA Blackwell GPUに対応
1つ目はAIだ。
三澤氏は「OracleにAIのイメージはないかもしれないが」と前置きしつつ、「Oracleは世界最高性能のGPUコンピュータをクラウドで提供している」として、GPUスーパーコンピュータ「OCI SuperCluster」のNVIDIA Blackwell GPU版を紹介した。Oracle CloudWorld 2024で発表されたものだ。
最大13万1072基のNVIDIA Blackwell GPUを搭載可能で、2.4ゼタFLOPSのピーク性能を発揮するという。
三澤氏はクラウド各社のGPU対応を比較し、NVIDIA H200や、NVIDIA B200(Blackwell)、NVIDIA GB200(Grace Blackwell)にOCIが対応していることを示して、「10年後に作ったクラウドならではの進化を遂げている」と主張した。そして、世界の名だたるAI企業がOCIを採用していると語った。
さらに三澤氏は、GPUスーパーコンピュータなどのインフラ層から、データベースなどのデータ層、各種AIモデルを使ったアプリケーションを開発できるAIアービス層、そしてその上にSaaSアプリケーション層と、AIスタックのすべての層でエンタープライズAIを提供していると述べた。
専用クラウド:NTTデータがOracle Alloyのパートナーシップを結びソブリンクラウドを提供
2つ目は専用クラウドだ。
Oracle Cloudのデプロイ形態には、通常のパブリッククラウドのほか、顧客企業のデータセンター内で動く「OCI Dedicated Region」や、SIerなどパートナー企業のデータセンター内で動く「Oracle Alloy」がある。これらは、サイズ以外は同じ機能が動くと三澤氏は説明した。
こうした専用クラウドを提供できる理由として、三澤氏はコンパクトな設計を挙げた。パブリッククラウドと同じ構成を3ラックからで構築できるようになっており、Oracle CloudWorld 2024では3ラックからの「Dedicated Region25」を発表している。
特にOracle Alloyについて三澤氏は説明した。なお「Alloy」とは合金のことで、Oracleとパートナーを一つ掛け合わせることを表しているのだという。
Alloyは日本では富士通や野村総合研究所(NRI)がパートナーとなっており、Oracle Cloud Forum開催前日の10月23日にはNTTデータもパートナーになったことを発表している。
国内パートナーでOCI Alloyを動かす場合、所有やサービス提供が日本企業になる。そのため、データ主権や運用主権が日本企業にある。これによって、経済安保や地政学リスクに対応する「ソブリン(主権)クラウド」になると三澤氏は説明した。
パブリッククラウドとソブリンクラウドの両方の特徴を持ったニーズに応える
ここで、前日にOCS Alloyのパートナーになったことを発表した株式会社NTTデータの新谷哲也氏(執行役員 テクノロジーコンサルティング事業本部長)が、三澤氏との対談形式で登壇した。
新谷氏は、現在ヨーロッパを中心にソブリンクラウドのニーズが高まっており、日本での金融業を中心としたニーズに応えるためにソブリンクラウド「OpenCanvas」を提供している。特に金融機関では、閉域ネットワークや、立ち入り監査、データ消去証明などの要件があり、パブリッククラウドでは対応が難しいのだという。
ただし、以前はパブリッククラウドかオンプレミスかソブリンクラウドかの二択だったのに対し、近年ではその中間のニーズが増えてきていると新谷氏は言う。パブリッククラウド側では経済安全保障や自社データを使ったAIニーズなどが、ソブリンクラウド側ではビジネススピードの加速などの要因がある。
そこで今回のパートナーシップにより、OpenCanvasとOracle Alloyを組み合わせたサービスを提供する。2025年12月末から東日本リージョンで、2027年3月末までに西日本リージョンでの提供開始を予定している。
これによってOpenCanvasでは、ソブリンクラウドのニーズにOCIの拡張性やアジリティを加えたサービスが提供可能になる、と新谷氏。両サービスのどちらにデータを置くかなどは、顧客の必要とする主権レベルによってさまざまなパターンに対応するとのことだった。
OpenCanvas+Oracle Alloyのサービスは、まずは確実にリリースして国内の実績を作り、将来的にはNTTデータの海外事業にも展開したいと新谷氏は語った。
マルチクラウド:大手3クラウドでOracleデータベースサービスが利用可能に
3つ目はマルチクラウドだ。Oracle Cloudのマルチクラウドとしては主に、他社クラウドとの高速インターコネクトと、他社クラウド上でOCIのOracleデータベースサービスを提供するものの2種類がある。
これについては、日本オラクル株式会社の竹爪慎治氏(専務執行役員 クラウド事業統括)が説明した。
マルチクラウドは2020年にAzureとのインターコネクトから始まり、データベースサービスとあわせ各社との間に広がってきた。
そしてOracle CloudWorld 2024では、データベースサービスがAzure、Google Cloud、AWSのすべてで利用可能になったと発表した。
竹爪氏は、3社とのマルチクラウドについて、日本での展開状況も説明した。現状ではAzureとのマルチクラウドが一番進んでいるという。
Oracle Database @Azureが西日本リージョンを含むマルチゾーンに拡大予定
ここで、日本マイクロソフト株式会社の大谷健氏(業務執行役員)が、竹爪氏との対談形式で登壇した。
OracleデータベースサービスのOracle Database @Azureの意義について、大谷氏はAI時代を背景として説明。生成AIを試す時代から使う時代に移りつつある中で、企業で使うにはその企業のデータが大事ということがわかり、企業のミッションクリティカルデータが入ったOracleデータベースをAIアプリケーションの近くに持ってくるものとして重要だと説明した。
ロードマップとしては、東日本リージョンを含むいくつかの地域でOracle Database @Azureが前週に一般提供開始となり、近日中にリージョンをさらに増やす。さらに、ミッションクリティカルのための冗長性のニーズに応えるため、西日本リージョンを含むマルチゾーンに拡大すると大谷氏は語った。なおその時期については、非公式と断ったうえで、「来年の桜の花が咲くころにはなんとかしたい、という意気込み」と答えた。
大谷氏はそのほか、データ基盤のMicrosoft Fabricを通じてOracle Database @AzureからのデータをPowerBIなどが活用する可能性を、イメージ動画をまじえて語った。
ミッションクリティカル:大規模ミッションクリティカルの4つの条件
4つ目はミッションクリティカルクラウドだ。ここから再び三澤氏が説明した。
いまオンプレミスで動いている超巨大なミッションクリティカルシステムが満たすべき条件として、ピーク時を前提とした高性能処理のための専用のサーバーおよびストレージ、高速で低遅延な専用ネットワーク、障害があってもすぐに切り替わる専用のクラスタリング、つながりっぱなしのステートフルなデータベースの4つを三澤氏は挙げた。
「この4つを完璧に満たせるパブリッククラウドは、私の知るかぎり、ない」と三澤氏は言い、「Oracle Cloudはこの4つを満たせるようにデザインされている」と語った。
一番重いワークロードであるデータベースにおいては最大4,480万IOPSを記録するという。また、ほかのクラウドで使われているような複数のデータセンターに冗長化するアベイラビリティーゾーンではなく、1つのデータセンター内で複数系統を分けて障害があっても瞬時に切り替わるフォールトドメインによる冗長化を採用。このようにミッションクリティカル向きに作られている、と三澤氏は述べた。
そのほか、コストパフォーマンスや、さまざまなセキュリティ機能が標準料金に含まれる点なども三澤氏は挙げた。
Oracle CloudWorld 2024で発表された「OCI Zero Trust Packet Routing(ZPR)」についても三澤氏は紹介した。クラウドインフラを構成する大量のネットワーク機器について、ネットワーク担当者ではなくセキュリティ担当者が、人間の言葉でセキュリティルールを記述することで、ZPRが解釈してセキュリティポリシーを強制するものだ。
そしてあらためて、Oracleの中核製品であるデータベースのサービス「Oracle Autonomous Database」について、ミッションクリティカルのすべての機能が使え、グラフやベクターなどのマルチモーダルに対応し、マルチワークロード対応し、しかもフルマネージドで動くと、ミッションクリティカルでの用途を三澤氏は強調した。
SaaSアプリケーション:OCIで動く利点と、AI機能
最後の5つ目は、クラウドアプリケーション(SaaS)だ。
OracleのクラウドネイティブなSaaSは、大企業向けの「Oracle Cloud Applications」と、中小企業向けの「Oracle NetSuite」に分かれている。その理由について三澤氏は「大は小を兼ねない」と説明した。
Oracle Cloud Applicationsに含まれる一つとして、ERPの「Oracle Fusion Cloud ERP」がある。ほかのERPと違ってシングルデータモデルなことや、OCIの上で動くことを三澤氏は挙げた。OCI上で動くことによって、拡張性がサブスクリプション契約に含まれることや、セキュリティオプションが標準で含まれることなどが特徴だと氏は語った。
さらにAIについても、すでに100以上の生成AI機能を組み込み、50以上のロールごとの専用AIエージェントを提供しているという。これも、OCIを基盤とした強力なサービススタックによるスピード感だと三澤氏は述べた。
一方、中小企業向けのOracle NetSuiteについては、大企業との違いとしてはもはや中小企業が独自のAIを作るのは不可能で、そのかわりに短期間の準備で使えるようになるAIを提供するという。これも同じスピード感で取り組んでおり、それができるのも強力なサービススタックがあるからだと三澤氏は語った。