イベント
AMD、2種類の第5世代EPYC「Zen 5/Zen 5c」で、高密度サーバーも高性能サーバーも高性能を実現
AMD Advancing AI 2024レポート
2024年10月15日 12:15
AMDは10月10日(米国時間、日本時間10月11日)、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市にあるモスコーンセンター南館において「AMD Advancing AI 2024」を開催し、同社CEO リサ・スー氏などがAI向け最新製品を発表した。
この中でAMDは同社の最新データセンター向けのソリューションを発表した。その中で最も注目されたのは、AMDが発表した「5th Gen AMD EPYC processors(第5世代AMD EPYCプロセッサ)」(以下、第5世代EPYC)だろう。第5世代EPYCは、2023年11月にAMDが発表した「4th Gen AMD EPYC processors(第4世代AMD EPYCプロセッサ)」(以下、第4世代EPYC)以来2年ぶりの新製品で、Zen 5コアベースの最大128コア製品(Turin Classic)と、Zen 5cベースの最大192コア製品(Turin Dens)の2つのラインアップが用意されている。
AMDは直近の市場調査で、エンタープライズ向けのデータセンター向けCPUの市場において、売上金額ベースで34%の市場シェアを得ており、特にここ数年、競合となるIntelから市場シェアを奪ってきている。今回の新製品で、Intelの市場シェアをさらに奪っていきたい意向だ。
ほぼゼロからデータセンター向け製品をリスタートしたAMD、7年で市場シェアを34%まで急上昇させる
AMDが10月10日に開催した、AIデータセンター向け製品の発表であるAMD Advancing AI 2024において、AMDはエンタープライズのオンプレミス・データセンター向けのCPU市場において、同社の市場シェアが34%に達したことを明らかにした。AMDのデータセンター向けCPUのシェアがここまで高くなったのは、2000年代前半にK8の開発コード名で開発されて来た新世代のCPUコアを採用したOpteronブランドの製品で、Intelに対して64ビットISA(AMDの呼称はAMD64、Intel側の呼称はIntel64、Microsoftの呼称はx64)を先行して導入した、2000年代半ばから中盤にまでさかのぼる。
その後、AMDは新世代CPUコアの開発がうまくいかず、シェアを再びIntelに奪われていく。2010年代の前半に徐々に落ち込んでいき、AMDのデータセンター向けの市場シェアはほぼ0%まで落ち込む。データセンター向けCPU市場は、x86 ISAのCPUがほとんどで、現状x86 ISAのCPUを発売できるのはそのIPを保持しているIntelと、Intelからライセンスを受けているAMDの2社しかなく、その結果としてデータセンター市場はほぼIntelの独占市場になっていた。
そんな散々な状態から再始動したAMDのデータセンター向け製品にとって、救世主となったのが「Zen」(ゼン、日本語の善からとった開発コード名)と呼ばれる、AMDが開発したCPUアーキテクチャだ。K9世代の後に、K10の開発に失敗したAMDは、その延長線上として開発されるはずだったK11をキャンセルし、ゼロからモダンなCPUデザインを目指して開発したCPUアーキテクチャがZenで、従来のCPUアーキテクチャに比較して高いIPC(Instructions Per Clock-cycle、1クロックで実行できる命令数)を実現し、それに伴って高い電力効率を実現したことで、一挙に劣勢を挽回(ばんかい)することに成功したのだ。
その後Zenは、第2世代EPYCでZen 2、第3世代EPYCでZen 3、第4世代EPYCでZen 4と進化させてきて、いずれも競合他社に比べて高い性能と電力効率を実現してきた。
そして、もう1つAMDの武器になったのだが、第2世代EPYCで導入されたチップレットだ。チップレットとは、複数のチップ(ダイ)をパッケージ上に混載する技術で、製造時に重要になる、チップのダイサイズ(底面積)を小さくできることがメリットだ。ダイサイズを小さくできれば、歩留まり(1つのウエハーから取れる良品の率)が向上し、チップを製造するコストが劇的に下がる。それにより、顧客に対したコスト対効果が高い製品を提供することが可能になるのだ。AMDは、このチップレットを競合に先駆けて初代Zenで導入することで、価格性能比で競争力を高めてきた。
その結果が、初代EPYCをリリースした2018年の前年にはほぼ0%だった市場シェアが、2024年前半の段階で34%にまで高まっている。データセンター向けCPUの市場は、IntelとAMDの1社による競争になっているので、AMDがIntelから市場シェアを奪ってきた形だ。
初代EPYCから徐々に製品を進化させてきたAMD、その強さの秘密は着実なロードマップの実行
AMDがそうした市場シェアを獲得してきた最大の要因は、AMD 上級副社長 サーバービジネス事業部 事業部長 ダン・マクナマラ氏の言葉である「われわれはほぼ2年に一度、新製品をスケジュール通りにリリースしてきた」に集約されている。
AMDは2018年に初代EPYCを、2019年に第2世代EPYCを、そして2020年の第3世代EPYCを、その2年後の2022年の第4世代EPYCをと、最初の2年は1年に1製品を、その後は2年に一度新製品を着実に投入してきた。そうした製品をロードマップ通りに遅れることなく製品を投入できてきたことが、顧客の信頼を獲得してその結果として市場シェアの上昇があるというのがAMDの見解ということになる。
実際、AMDの公開した資料を見ると、AMDの市場シェアが伸びているのは第3世代EPYCのリリース前後(2020年)から第4世代EPYCのリリース前後(2022年)になる。2020年に8%だった市場シェアは、2022年に27%になっている。
この間に、Intelは第3世代Xeon Scalable Processor(Ice Lake-SP)を21年にリリースしているが、その次の製品の第4世代Xeon Scalable Processor(Sapphire Rapids)は、本来2022年前半にリリースされるはずだったのが、開発に手間取り2023年の1月にようやく発表にこぎ着ける状況だった。その間にAMDがシェアを伸ばしたのだから、マクナマラ氏の言うとおり予定通りに製品を出すことが重要であることは言うまでもないだろう。
そうしたAMDが発表したEPYC製品の最新製品が、開発コード名「Turin」で呼ばれてきた第5世代EPYCだ。
Zenアーキテクチャを進化させ、パッケージ混載のチップ数を増やした第5世代EPYC
今回AMDが発表した第5世代EPYCは、基本的には第4世代EPYCの延長線上にある製品になる。CPUソケットは、第4世代EPYCで導入されたSP5で、第4世代EPYCとはピン互換になる。このため、第4世代EPYCのマザーボードのファームウェアをアップデートすることで、CPUを第5世代EPYCに交換して利用することが可能だ(ただし、DDR5-6400やCXL 2.0のような第5世代EPYCから対応したような機能は、マザーボード側の対応も必要になるので、そこは第4世代EPYCと同じスペックになる)。
今回第5世代EPYCの強化点で大きなものは、2つある。1つはCPUアーキテクチャがZen 4からZen 5に強化されていることであり、もう1つがチップレットの構成(具体的にはCCD=CPUダイの数が増やされていること)の強化が行われ、1パッケージでサポートされるCPUコアの数が増やされていることだ。
Zen 5は、AMDがクライアントPC向けに7月に発表、発売を開始した「AMD Ryzen AI 300シリーズ プロセッサ」(ノートPC向け、Strix Point)および「AMD Ryzen 9000シリーズ プロセッサ」(デスクトップPC向け、Granite Ridge)に利用されている、第5世代Zen CPUアーキテクチャとなる。
Zen 4に比べると、フロントエンド、実行ユニット、バックエンドのすべてに手が入れられており、2桁以上のIPCの向上が実現されていることが大きな特徴となる。また、CPUは、L3キャッシュが半分(フルバージョンのCPUコアあたり4MBに対して、CPUコアあたり2MB)になる高効率版のZen 5cも用意されており、高密度バージョン向けのCPUコアとして採用されている。
こうした高密度版は、第4世代EPYCでは別のコード名(Bergamo)が与えられて、発表も半年遅れだったが、今回の第5世代EPYCでは同時に発表され、コード名はいずれもTurinとなり、区別はされていないことが違いになる。ただ、AMDの社内では通常版(Zen 5版)と高密度版(Zen 5c版)を区別するために、前者をClassic(Turin Classic)、後者をDens(Turin Dens)と呼んで区別している。
なお、Zen 5のCCD(Core Complex Die、CPUコアから構成されるダイのこと)は8コアでTSMC 4nm(N4)、Zen 5cのCCDは16コアでTSMC 3nm(N3)で製造される。L3キャッシュの容量が小さいはずのZen 5cの方が3nmという、より微細化されたプロセスノードで製造されるのは、パッケージ上に統合されるCCDの数が関係している。
Zen 5の方は12基のCCDにIODという構成になっているが、Zen 5cの方は16基のCCDにIODという構成になっている。第4世代EPYC(Zen 4とZen 4c)では、それぞれ8基のCCD+IOD、12基のCCD+IODという構成になっていたので、いずれもCCDが4基分増えている計算になる。こうした構成を実現するため、それぞれCCDのプロセスノードが5nmから4nm(Zen 4>Zen 5)、5nmから3nm(Zen 4c>Zen 5c)へと微細化されたと考えられる。いずれも結構ツメツメでCCDが搭載されており、特に1基のCCDで16CPUコアを搭載しているZen 5cの方は、3nmという最先端のプロセスノードの利用が必要だったと考えられるだろう。
なおAMDによれば、IODは従来と同じ6nmのIODだが、CXL 2.0やDDR5-6400への対応などにより再設計しているとのことで、見た目は同じに見えるがダイサイズなども異なっていると説明している。
なお、既に発表されたSKUを見ると、TDPが500Wに引き上げられた製品がある。AMDは「基本的には従来cTDPで400Wになっていた製品がTDP400Wになっており、500Wになっているのは今回新しく128コア、129コアという、従来はなかったCPUコア数を実現したトップSKUだけになる。その意味では、従来グレードと同じCPUコア数の製品を選択する場合には、インパクトは大きくないと考えている」と説明しており、TDP500Wになっているのは、新しく設定された128コア(Zen 5)、192コア(Zen 5c)という従来はなかったコア数の製品だけだと説明した。
ただ、すでに400Wの段階でも、多くのOEMメーカーが水冷・液冷などの冷却機構の導入を決めており、今回500Wや400Wなどが多くのSKUで設定されたことで、空冷ではやや厳しくなっているのも事実だ。
AMDも「OEMメーカーによるが、空冷では厳しくなっているのは否定できない。ただOEMメーカーによっては、400Wなどでも、新しい空冷装置を導入することで水冷にいくことなく冷却を実現している場合もある」と説明し、空冷か水冷/液冷は引き続きOEMメーカーの選択によると説明した。
発表会では多くのOEMメーカーが登壇し、第5世代EPYC搭載製品を展示
今回、AMDはリサ・スーCEOなどが行った基調講演の中で、多くのOEMメーカーの担当者やCSP(クラウドサービスプロバイダー)などの担当者をステージに呼び、第5世代EPYCへの期待を語らせている。
CSPではGoogle Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)の3社と、巨大データセンターを自社で構築しているMeta、HPE(Hewlett Packard Enterprise)、Supermicro、Dell Technologies、LenovoなどのOEMメーカーの担当者がAMDの基調講演に登壇し、第5世代EPYCや同時に発表されたデータセンター向けGPU「Instinct MI325X」への期待感を表明している。
また展示会場でも、多くのOEM/ODMメーカーが第5世代EPYCに対応したシステムを展示しており、いくつかのベンダーは第5世代EPYCを搭載したシステムを展示していた。
AMDによれば、第5世代EPYCは既にOEMメーカーへ出荷が開始されており、Cisco、Dell Technologies、Hewlett Packard Enterprise(HPE)、Lenovo、Supermicroなどの大手OEMメーカーやODMメーカーなどからの製品提供が予定されている。
なお、今回AMDは性能データとして、Intelの第5世代Xeon Scalable Processor(以下第5世代Xeon SP、開発コード名はEmerald Rapids)との比較データを紹介し、Intelの最新製品となるXeon 6(そのうち発表済みのXeon 6700E、6900P)との比較データは公開しなかった。
AMDのマクナマラ氏は「現時点ではXeon 6は一部のレビューアーによるデータはあるが、実際に市場には出回っていないので、われわれ自身がテストできるデータがないため、第5世代Xeon SPとの比較を行っている。今後、Xeon 6が手に入れられるようになれば、環境を整えてテストしていきたい」と述べ、現時点ではパブリックに入手可能なXeon 6のシステムがないため、比較していないのだと説明した。
Intelは、Xeon 6 6900Pの発表において、AMD自身がCOMPUTEXで公開したデータを元に第5世代EPYC(当時はTurin)とXeon 6 6900Pの比較を行い、その結果を公開している。その意味では、Intelも今回はXeon 6の性能に自信がありそうなことは見てとれるが、実際にどうなのかは両社の製品が市場に出そろい、公平に比較できるようになった後になるだろう。