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Google Cloud Next '23、GoogleのピチャイCEOやNVIDIA フアンCEOが基調講演にサプライズ登壇
~Googleは生成AIへの取り組み強化をアピール
2023年8月31日 11:39
米Googleが運営するCSP(クラウドサービスプロバイダー)部門となるGoogle Cloudは、年次イベント「Next '23」を8月29日(米国時間、日本時間8月30日)より、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市のモスコーン・センターにおいて開催している。8月29日午前には、Alphabet/Google CEO ズンダー・ピチャイ氏、Google Cloud CEO トーマス・クリアン氏が登壇して、Google Cloudの製品計画などに関して説明を行った。
この中でGoogle Cloudは、新しいインフラストラクチャのインスタンスとして「Cloud TPU v5e」、「A3 supercomputer」などを発表し、そのA3にGPU(NVIDIA H100 GPU)を提供するNVIDIAのジェンスン・フアンCEOがゲストとして登壇した、また、同社のAIソフトウェア開発環境であるVertex AI、さらにGoogle WorkspaceやGoogle Cloudに生成AIの機能を付加するDuet AIなどの新機能などが紹介されて注目を集めた。
GoogleのピチャイCEOがサプライズ登壇し、Google全体の生成AIへの取り組みをアピール。業界初のデジタル透かしも試験的提供へ
Google CloudのイベントであるNext '23の冒頭には、登壇が公表されていなかったAlphabet/Google CEO ズンダー・ピチャイ氏がサプライズ登壇して、詰めかけた参加者を驚かせた。
ピチャイ氏は「今回のNext '23ではTPUやGPUなどのインフラ関連の話題や、生成AIの話題を中心にお届けする。TransformerモデルのようなLLMは急速な勢いで成長しており、IT関連だけでなくさまざまな産業に大きな変革をもたらしている。われわれの創業の事業である検索も例外ではなく、今後は”Search Generative Experience”(筆者注:日本語に直訳すると検索生成体験、生成AIを利用した検索機能という意味)になっていくだろう」と述べ、生成AIがGoogleにとって重要な技術であることを強調。Google Cloudだけでなく、Googleのサービスなど全般に展開していくという姿勢を明らかにした。
ピチャイ氏がそうした説明をする背景としては、ChatGPTやLLM(大規模言語モデル)を利用した生成AIの採用では、Googleの直接の競合となるMicrosoftが先行しているという「イメージ」が定着していることにあると考えられる。実態がどうかはともかくとして、Googleにとっては、そうしたイメージがこれからも定着して、生成AI=Microsoftとなってしまうことは得策ではない。
このため、急速にGoogleもそちらの方向にかじを切っており、5月に行ったGoogle自身の開発者イベントとなる「Google I/O」にでも、後述するようなGoogle Workspace(Googleが提供するSaaSの生産性向上ツール)向けの生成AIオプションとなる「Duet AI」を発表し、今後提供する計画であることや、「PaLM 2」と呼ばれるGoogle自身のLLMなどを発表している。
今回ピチャイ氏が、子会社であるGoogle CloudのCEOが主役のはずのGoogle Cloudのイベントの基調講演にトップバッターとして登壇したのは、そうした危機感の裏返しと理解するのがいいだろう。要するにGoogle Cloudのユーザーである来場者に向けて「反撃開始のラッパ」を鳴らしにきたという訳だ。
また、ピチャイ氏はGoogleが「デジタル透かし」(Digital Watermarking)の仕組みを導入することを明らかにした。GoogleのDeep Mind事業部により開発されたデジタル透かし機能で、イメージそのものには手を加えず、ピクセルに人間の目には見えないデータを追加することで、透かしとして機能する仕組みとなる。そうしたデジタル透かしを導入することで、生成AIが作成したものであるかなどがわかるようになり、生成AIの登場で問題となっている「ディープフェイク」を防ぐ仕組みとなる。
現時点では、そのウォーターマークを確認するツールなどは提供されていないが、将来そうしたツールも提供し、Google製品にもデジタル透かし機能を実装していく計画だと、ピチャイ氏は明らかにした。ピチャイ氏によれば、現時点では試験的機能としてプレビューがGoogleの一部顧客に提供開始されており、将来的に一般的にも提供する計画だとピチャイ氏は説明した。
次世代のTPU v5eが発表され、H100 GPU採用したA3インスタンスがGAに、NVIDIAのフアンCEOもサプライズ登場
ピチャイ氏と入れ替わって登壇したのは、Google Cloud CEO トーマス・クリアン氏。クリアン氏は今回、Next '23でGoogle Cloudが発表した各種の内容を説明した。
最初に取り上げられたのが、Google Cloudではインフラストラクチャと呼ばれる、ハードウェアのインスタンスの最新製品となる。今回発表されたインスタンスは「Cloud TPU v5e」と同社が呼んでいる、同社が独自に設計して同社のクラウド経由でだけ提供しているTPU(Tensor Processing Unit)だ。TPUはCPUやGPUのように汎用プロセッサが必要とする分岐予測、Out-of-Order実行ユニットなどの、幅広いソフトウェアに対応できるけど、ダイ面積の肥大化や消費電力が増えてしまうような要素を取り払い、マシンラーニング/ディープラーニングの学習や推論に特化した演算だけに必要な演算器(Tensor Processor)に集中することで、CPUやGPUなどと比較すると比較的低消費電力で、かつ低コストで提供できるようなプロセッサとなる。
Googleは昨年から、TPU v4という第4世代TPUの提供を開始してきたが、今回新たにTPU v5eという半導体製品を投入し、それを利用した新しいインスタンスとしてCloud TPU v5eをプレビュー提供する計画だと明らかにした。Google Cloudによれば、Cloud TPU v5eは、前世代となるCloud TPU v4と比較して、学習時に2倍の価格性能比、推論時に2.5倍になっていることが特徴だと説明している。
また、同社が「A3 VMs」や「A3 supercomputer」(以下、A3)と呼んでいるインスタンスでは、NVIDIA H100 GPUを学習や推論に利用できる。このA3は既に概要は発表されていたが、今回GA(一般提供開始)になったことが明らかにされた。言うまでもなく、AIの学習の演算にはNVIDIA GPUが市場のほとんどを占有している状態で、生成AIへの企業の興味の高まりとともに、NVIDIA GPUが世界的に供給不足になっている現状がある。Google CloudのA3インスタンスを利用すればGPUを活用できるようになるということで、GPUの入手が困難な企業にとっては大きな意味があると言える。
クリアン氏はその発表の後、NVIDIA 共同創業者 兼 CEOのジェンスン・フアン氏を壇上に呼び、A3に関して一緒に説明を行った。フアン氏は「このA3は当社が提供しているクラウドDGXがベースになっている。クラウドDGXはDGX H100をクラウド向けに特化した製品で、A3を利用することでDGX H100を購入したのと同じような演算環境を入手できる。また、先日発表したGH200を搭載したシステムも、Google CloudがCSPとしては最初にインスタンスとして導入する」と述べ、NVIDIAがCOMPUTEX 23で導入を発表したCPU(ArmベースのCPUとなるGrace)とGPU(H100 GPUとなるHopper)が1モジュールになっているGH200(開発コードネーム:Grace Hopper)を、Google CloudがCSPとしては最初に提供すると明らかにした。
またGoogleは、現在A3 supercomputerなどに搭載している、CPUが処理しているようなVM制御などをオフロードするIPU(Infrastructure Processing Unit)の発展形として、「Titanium System」(タイタニウム・システム)を導入したことを明らかにした。Titanium SystemはIPUなどから構成されており、ストレージのI/OでCPUにかかる負荷などをより広範囲にオフロードする仕組み。これまでよりも、より広範囲にオフロードできるようになるため、クラウド全体の性能が向上することになる。
PaLM 2などGoogleのLLMも進化、統合開発環境Vertex AIとGoogle Cloudを利用することで安全に生成AIを構築可能に
続いてGoogle Cloudのクリアン氏は、同社が提供するエンタープライズAIの開発環境である「Vertex AI」と、同社の生産性向上のためのSaaSツール「Google Workspace」、およびGoogle Cloudの各種ツールに生成AIの機能をアドオンする「Duet AI」に関する説明を行った。
Vertex AIは、Googleが提供するさまざまなAIの開発ツール(例えばフレームワークになるTensorFlow)をまとめて1つにして提供する開発環境で、エンタープライズが自前のAIを自社で開発して顧客に提供したい場合などに利用するものとなる。Googleは、そのVertex AIに生成AI関連の機能を続々と追加しており、今年に入ってからは「PaLM 2」(パルムツー)などのLLM(大規模言語モデル)を追加しており、それを利用することで顧客企業がChatGPTライクなサービスを顧客に提供することが可能になっている。
クリアン氏は「われわれが強調したいのは、Google Cloudでは完全なデータコントロールが可能になっている。顧客のデータを利用してわれわれが学習することもない。顧客のデータは顧客自身のものだ」と述べ、Vertex AIを利用するメリットは、容易に生成AIやマシンラーニング/ディープラーニングベースのAIを利用したアプリケーションを構築できるだけでなく、現在エンタープライズがもっとも懸念している、生成AIを利用すると、自社のデータがほかの企業にも提供されるサービスの学習に活用されるなどはなく、「一切のデータ漏えいがない」(zero data leakage)と強調した。
そしてVertex AIを利用したアプリケーションの例として、画像生成サービスを紹介し、写真を「夕焼け」のスタイルに変更して、昼間の写真を一括して夕焼けの写真に変更するなどのデモを行った。
Google WorkspaceやGoogle Cloudの生産性向上を実現するDuet AI、Workspace向けは月額30ドルで一般提供開始
エンタープライズ向けのAI開発環境となるVertex AIに対して、Duet AIは、Google WorkspaceやGoogle Cloudを利用するユーザーの生産性を向上させるAI機能を、サービスに追加するアドオンとなる。
Duet AIは、Google Workspaceと同じようにSaaSとして提供されるアドオンで、Workspaceに生成AI由来の機能を実装するものとなる。今回のNext '23では、Presentation(Microsoft 365ではPowerPointに相当するアプリケーション)にDuet AIによる付加される機能として、自動プレゼンスライド作成機能をデモした。
具体的には、テキストでこうしたスライドを作成してほしいという指示を出すと、クラウドストレージに保存されているユーザーデータの中から、関連するデータや画像などをAIが探してきて、それを利用してスライドを自動生成してくれる。もちろん、生成されたスライドに、必要に応じて追加の指示を出すこともできるし、必要のないスライドをユーザーがマニュアルで削除するといった編集も可能だ。
またGoogle Meetでは、これまでも文字起こし機能が用意されてきたが、今回のDuet AIによる機能強化として、ミーティング終了後に要約が作成され、それを参加者に自動配布するといった機能も追加されることなどが明らかにされた。
今回Googleは、こうしたGoogle Workspace向けのDuet AIのGA(一般提供開始)を明らかにした。それに合わせて価格も発表され、エンタープライズ版の契約では月額30ドル/1ユーザーの価格になるという。この1ユーザーあたり月額30ドルという価格は、Microsoftが7月に発表した対抗製品「Microsoft 365 Copilot」の価格30ドルと完全に同価格になっており、競争を意識した価格だと理解されている。
Google Cloud向けのDuet AIでは、Google Cloudを利用する時に必要になるプログラムのコードを書いたりとか、ソースコードを分析したり、プログラムをデバックしたりなど、これまでプログラマーが時間をかけて行ってきたことを、Duet AIが代わりにやってくれることになる。チャットボットとやりとりするだけ、そうした作業がこれまでよりも高速に行うことが可能になる。
クリアン氏は「今回のNextでは、生成AIを支える強力なインフラ、WorkspaceやGoogle Cloudの利便性を向上させるAI、そして顧客の成功を支えるための多くの投資と大きく3つを紹介した。これからもどんどん変革を進めていき、みなさんのビジネスをよりよいモノにしていくつもりだ」とまとめて、講演を締めくくった。