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クラウドインフラ運用技術者のための年次カンファレンス「CODT2022」、クロージングイベントを開催

アワードの結果や基調講演、パネルディスカッションなどの様子をレポート

 クラウドインフラ運用技術者のための年次カンファレンスイベント「Cloud Operator Days Tokyo 2022(CODT2022)」が、オンラインで5月31日にスタートし、7月27日のクロージングイベントで閉幕した。なお、オンラインのセッション動画は8月いっぱいまで公開される。

 クロージングイベントは、リアル開催とインターネット中継のハイブリッド形式で開催された。セッションを表彰する「輝け!クラウドオペレーターアワード2022」の発表と授賞式が行われたほか、基調講演や、毎年恒例であるモバイル通信事業者によるパネルディスカッションも開かれた。

 オープニングで、CODT2022実行委会 委員長の長谷川章博氏(AXLBIT株式会社)は、「OpenStack Days」として2013年に初開催されてから今年で10回目と説明した。

 アンケートを見ると、2013年当時は9割が情報収集としての参加だったのに対し、現在では73%の企業がクラウドを利用しているという。

 一方で、オペレーター(運用技術者)の悩みは「新技術の追随」「人材不足」「属人化」と変わらない。そうしたことから今年のテーマが「運用者に光を!~変革への挑戦~」となったと語られた。

CODT2022実行委会 委員長 長谷川章博氏(AXLBIT株式会社)
水野伸太郎氏(日本OpenStackユーザ会 会長/日本電信電話株式会社)
2013年当時は9割が情報収集としての参加
現在では73%の企業がクラウドを利用

優れたセッションを表彰する「輝け!クラウドオペレーターアワード2022」発表

 「輝け!クラウドオペレーターアワード2022」授賞式では、審査委員会が選んだ「最優秀オペレーター賞」「審査員特別賞(変革編)」「審査員特別賞(挑戦編)」と、実行委員会が選んだ「実行委員会特別賞」、視聴者の人気から選んだ「オーディエンス賞」、若手発表者を表彰する「ヤングオペレーターアワード」が発表された。

最優秀オペレーター賞

 最優秀オペレーター賞には、米村淳氏・松本良輔氏(KDDI株式会社)による「OpenStack NFV基盤のバージョンアップと運用改善を内製対応した話」が選ばれた。

 KDDIの音声通話のNFV仮想化基盤(OpenStackベース)の運用にまつわる内容で、Ansible Playbookによる構成によってかえって自動化されなかったのを変更したことや、Cephの冗長化や動作モードの構成を見直したことを説明。そして、これらをSIerに頼らず内製化に舵を切ったことと、それによるチームの変化なども紹介した。

 選考理由としては、基盤のライフサイクルを回していきサービスにつなげることは難しく並々ならぬ苦労が伺われること、さらに内製にチャレンジしてチームの文化を変えたことなど、Cloud Operator Daysにふさわしいと説明された。

 受賞コメントとしては、米村氏はチーム一丸となって引き続き改善やバージョンアップをしていくことを、松本氏はなかなか改善できなくて困っていたが改善できて自信がついたことを語った。

最優秀オペレーター賞「OpenStack NFV基盤のバージョンアップと運用改善を内製対応した話」
左から、審査委員長の関谷勇司氏(東京大学 教授)、KDDIの米村淳氏、松本良輔氏

審査員特別賞(変革編)

 審査員特別賞(変革編)には、寺田圭太氏・水落啓太氏(ヤフー株式会社)による「Yahoo! JAPAN プライベートクラウドにおける事故防止の取り組みの変遷」が選ばれた。

 Yahoo! JAPANが自社基盤で使っているプライベートクラウドについて、事故が増加傾向にあったことと、それを分析して事故削減やダメージコントロールなどの対策に取り組んだことが解説された。

 選考理由としては、事故に関しての対応が赤裸々に語られたことや、分析にあたって予見できる事故とできない事故を切り分けていたところが挙げられた。

 リモートから表彰式に参加した寺田氏は受賞コメントとして、小さな施策が大きな組織を想像以上にいい方向に影響したと語った。

審査員特別賞(変革編)「Yahoo! JAPAN プライベートクラウドにおける事故防止の取り組みの変遷」
ヤフー株式会社の寺田圭太氏

審査員特別賞(挑戦編)

 審査員特別賞(挑戦編)には、鳩貝祐斗氏(株式会社ジェーシービー)による「クレジットカード会社のGameday、あるいはKubernetesに“Gremlin”を解き放った話」が選ばれた。

 クレジットカードのJCBが、ビジネスのスピードアップのために内製やアジャイル開発を出島戦略で開始し、パブリッククラウドでKubernetesやCI/CDを採用。そのうえで、マイクロサービスアーキテクチャのため全異常系を考慮しきることは困難なことから、カオスエンジニアリングを実施したことが解説された。

 選考理由としては、エンドユーザー企業であること、クレジットカードという固めの運用が想像されるところに、カオスエンジニアリングという新しいものを採用したことなどが挙げられた。

 リモートから表彰式に参加した鳩貝氏は受賞コメントとして、初めての取り組みだったので技術面も運用面も大変だったことや、実施した結果社内のアンケートでも好評だったことなどを紹介し、さらに向上させていきたいと語った。

審査員特別賞(挑戦編)「クレジットカード会社のGameday、あるいはKubernetesに“Gremlin”を解き放った話」
株式会社ジェーシービーの鳩貝祐斗氏

実行委員会特別賞

 実行委員会特別賞には、石川大樹氏(国立研究開発法人情報通信研究機構)による「国内最大級のコンテナ型データセンタをイチから作ってみた~クラウドの先にあるモノ~」が選ばれた。

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が石川県能美市でコンテナ型(モジュラー型)データセンターを建設して運用していることについて、建設までの経緯やその後の改良などが解説された。

 選考理由としては、インフラエンジニアとして働いていても、データセンターをどう作るかは知らなかったので興味深かったと紹介。特に、普通のデータセンターと違い、地方に短期間と限られた予算で作って運用していることや、耐雪荷重などのことなど苦労がしのばれたことなども挙げられた。

 受賞コメントとして石川氏は、ふだんコンピューティングがどう提供されているか、認識していてもあまり意識されないが、ベーシックな足まわりから運用者に光をあてたと説明。発表の機会が与えられたことに感謝を述べた。

実行委員会特別賞「国内最大級のコンテナ型データセンタをイチから作ってみた~クラウドの先にあるモノ~」
左から、実行委員会の古川勇志郎氏(LINE株式会社)と、国立研究開発法人情報通信研究機構の石川大樹氏

オーディエンス賞

 オーディエンス賞には、左近充裕樹氏(株式会社ブロードリーフ)による「効果的なアラートを再考する [メモリ使用率が80%になりました。] んで、どうすればいいん?」が選ばれた。

 監視によるアラートについて、アラートの条件や通知方法の工夫によりアラート疲れを減らすことや、アラートを対策につなげるための手順書の保守などが語られた。

 選考コメントとしては、タイトルにインパクトがあったことと、その80%という悩むラインや、そこから「どうすればいいん?」という対応の工夫について、経験から語られたことが視聴者の共感を得たのだろうという点が挙げられた。

 リモートから表彰式に参加した左近充氏は受賞コメントとして、多くの視聴者に見てもらえたことに感謝し、アラートは運用している方は誰もが悩み苦しんでいる部分で、少しでも学びがあれば幸いだと語った。

オーディエンス賞「効果的なアラートを再考する [メモリ使用率が80%になりました。] んで、どうすればいいん?」
株式会社ブロードリーフの左近充裕樹氏

ヤングオペレーターアワード

 ヤングオペレーターアワードには、上田璃空氏(AXLBIT株式会社)による「インフラ部門に配属された新卒社員がAWS,SSMとか色々使ってテスト環境の構築時間を爆速にした件」、笹沢椋太氏(株式会社ZOZO)による「Cloud RunからGKE Autopilotへ、FAANSにおけるKubernetes移行の背景とは」、木村璃音氏(楽天モバイル株式会社)による「楽天モバイルの仮想化基盤開発に“本格”Agileを取り入れた話」、豊岡大地氏(東日本電信電話株式会社)による「監視オペレータはもういらない?-Amazon Connectを用いた、スペシャリスト自動手配システムの内製開発-」の4セッションが選ばれた。

 「インフラ部門に配属された新卒社員がAWS,SSMとか色々使ってテスト環境の構築時間を爆速にした件」では、統合テストの必要があるごとにインフラ部門に環境構築を依頼する必要があったのを、環境構築を自動化し、時間を2時間から20分に短縮した経緯が語られた。

 「Cloud RunからGKE Autopilotへ、FAANSにおけるKubernetes移行の背景とは」では、DOckerコンテナをサーバーレスで動かすCloud Runの組み合わせで構築していたシステムを、Datadog APMを利用するためと組織面での変化から、GKE Autopilotに以降したことについて語られた。

 「楽天モバイルの仮想化基盤開発に“本格”Agileを取り入れた話」では、楽天モバイルのクラウドプラットフォームの開発において、見よう見まねではなく社外のアジャイルコーチを導入してアジャイル開発を採用し、チームやプロセスを改善したことが語られた。

 「監視オペレータはもういらない?~Amazon Connectを用いた、スペシャリスト自動手配システムの内製開発~」では、何かあったときの監視オペレーターからスペシャリストへのエスカレーションを、AWS LambdaとAmazon connectを使って自動化した試みが紹介された。作っただけではなく、現場からのフィードバックにより変更を加えたことも語られた。

 受賞コメントとしては、会場に来場した3人のうち、豊岡氏は「光栄な賞をいただいてうれしい」と、上田氏は「光栄です」と、木村氏は「クラウドエンジニアとしてまだ未熟な部分があるので、がんばっていきたい」と語った。

ヤングオペレーターアワードを受賞した4セッション
左から、豊岡大地氏(東日本電信電話株式会社)、実行委会委員長の長谷川章博氏、上田璃空氏(AXLBIT株式会社)、木村璃音氏(楽天モバイル株式会社)
「インフラ部門に配属された新卒社員がAWS,SSMとか色々使ってテスト環境の構築時間を爆速にした件」
「Cloud RunからGKE Autopilotへ、FAANSにおけるKubernetes移行の背景とは」
「楽天モバイルの仮想化基盤開発に“本格”Agileを取り入れた話」
「監視オペレータはもういらない?~Amazon Connectを用いた、スペシャリスト自動手配システムの内製開発~」

江崎浩氏「システムを発注する側にも運用の経験がある人を」

 クロージングイベントでは、3本のキーノートセッションが開かれた。

 1つめのキーノートとしては、「デジタル田園都市構想を実現するクラウドインフラ」と題して、デジタル庁Chief Architectを務める江崎浩氏(東京大学 教授)が講演。デジタル田園都市国家構想やカーボンニュートラルなど、社会的取り組みにおけるデジタル基盤とそれを支える運用者の役割について語った。

デジタル庁の活動と、運用のプロの必要性

 江崎氏はまず、デジタル庁でやっていることを紹介。さらに、「システムを発注する側にも運用の経験がある人がいないとうまく動かない」として、運用のプロフェッショナルが組織のマネジメントに入る必要を説いた。

 ここで江崎氏は、政府が2018年に発表した「クラウド・バイ・デフォルト原則」を紹介。「このころのクラウドは、Lift&Shiftであり、既存のシステムをそのままIaaSに乗せるだけだった。それではソフトウェアの構造は変わらない」とし、次のステップとしてCloud Nativeな開発が求められると語った。

 デジタル庁では3月に「政府相互運用性フレームワーク」を発表した。これには粗結合やメタデータなどの考えが含まれるが、江崎氏は「役人には、運用や実装がわからないから、なかなか理解できない」として、運用のわかる人材の必要性を繰り返した。

 もう1つ、「サイロ構造はデータサイエンスの大障害」として、データのサイロ構造からの脱却(De-Silo-ing)と、そこにおけるサイバーセキュリティの必要性を主張。「邪魔をするのがこれまでの商慣習を変えないほうが安定するという考え」として、ここでも調達側に運用の知識がある人が必要と強調した。

江崎浩氏(デジタル庁 Chief Architect/東京大学 教授)
2018年の「クラウド・バイ・デフォルト原則」
2022年3月の「政府相互運用性フレームワーク」
データのサイロ構造からの脱却(De-Silo-ing)

IPv6の現状

 続いて、2000年の「e-Japan戦略」に含まれたIPv6の状況について。NGNでのIPv6普及率が80%で、JPRSの人によると実トラフィックでも過半数だという。携帯3社ではIPv6が54.5%で、さらに増えるだろうと江崎氏。メガクラウドなどはIPv6対応がほぼ終わっていると説明しつつ、なかなか日本国内ではそこまで行ってないのではないかと氏は語った。

 さらに、ドコモが5GのネットワークをIPv6シングルスタックで実装していく話や、CSAによるスマートホームの規格「Matter」がIPv6のシングルスタックで作るという話を江崎氏は取り上げた。そして、IPv6を無効にするほうがビジネス的に危険であり、またIPv4・IPv6のデュアルスタックはオペレーターの負担が増すと氏は主張し、さらなるIPv6推進を訴えた。

現在のIPv6の状況
ドコモのIPv6シングルスタック実装
スマートホームの規格「Matter」

デジタル基盤の変化とデジタル田園都市国家構想

 次にデジタル基盤の変化について。江崎氏は、1990年代中盤のインターネット登場、2000年ごろのITバブル、2000年代終盤からのクラウドやビッグデータに続いて、現在は第4の波にあると述べた。COVID-19によりオンライン化の早回しが起こり、カーボンニュートラルや、GDPRのようなソブリンポリシー(国境を意識したデータ運用)の問題が急浮上しているという。

 そして、これに応えるのが、地方からデジタルの実装を進める「デジタル田園都市国家構想」だと説明した。

デジタル基盤の第4の波
デジタル田園都市国家構想

EP100への挑戦

 次にカーボンニュートラルについて。江崎氏は、RE100(企業が事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化)とEP100(事業のエネルギー効率を倍増させる)の2つのイニシアチブの方向性を取り上げた。そして、EP100は生産性向上により100%でも200%でも実現できると説明し、「しっかりしたデジタルツインを作らない限りEP-100はできない」と語った。

 その例として、Googleがデータセンターを自動化により人間のオペレーションを減らしたクラウド型にしたことより、データセンターが都会から疎開可能になったことを挙げた。

 またBMWが仕事を調べたところ、8割の仕事はクリティカルではないとわかり、その分を都市部ではないデータセンターに移し、アイスランドの水力&地熱発電のデータセンターなども採用した事例も紹介した。

 こうしたEP100への挑戦はソフトウェアだけでは解決できず、ハードウェアとオープン化で解決するしかないと江崎氏は言う。そして、いままで“アメ車のよう”だったCiscoの通信機器が独自チップSilicon Oneによって省エネを実現した事例や、データセンターのエアコンなどの設備もソフトウェアからコントロールできるようにして電力消費を抑える試みなどを紹介した。

RE100とEP100
Googleは自動化によりデータセンターを都会から疎開
BMWが都市部からデータセンターを移した事例

Mark Collier氏がOpenInfra Foundationの活動動向を紹介

 2つめのキーノートでは、OpenInfra Foundation(旧OpenStack Foundation)のCOOのMark Collier氏が、「Combining Forces: How Open Source Cloud Collaboration is Tackling a Trillion Dollar Industry」と題して動画で講演。OpenInfra Foundation関連の動向を紹介した。

 まず、年次イベント「OpenInfra Summit Berlin」が6月上旬に開催され、現在動画が公開されている。なお、次回のOpenInfra Summitは、2023年6月にバンクーバーで開催される。

OpenInfra Foundation COO Mark Collier氏
OpenInfra Summit Berlin

 OpenInfra Summit Berlinで発表された「Superuser Awards」には、軽量ハイパーバイザーによるコンテナランタイムの「Kata Container」を大規模利用している中国ANT Groupと、OpenInfraプロダクトを利用したパブリッククラウドサービスのOVHcloudの2組織が受賞した。

 そのKata Containerプロジェクトが5周年を迎えたことと、CI/CDのZuulプロジェクトが10周年を迎えたことをContainer氏は紹介した。Zuulについては、日本のKDDI、NEC、NTTが、ETSI(欧州電気通信標準化機構)適合性について検証を進めているという。

 またCollier氏は日本でのOpenInfraプロダクト利用事例として、OpenStackによる巨大なプライベートクラウドを運用しているLINEを紹介した。

 そのほか「OpenInfra Foundationのミッションは本番で使われるコードを作るコミュニティを支援すること」として、その例として5G基地局や産業用IoTなどのエッジコンピューティング向けのStarlingXを紹介。富士通とNECも参加していると説明した。

Superuser AwardsをANT GroupとOVHcloudが受賞
Kata Containerプロジェクトの5周年とZuulプロジェクトの10周年
Zuulプロジェクトと日本企業
LINEのOpenStack採用事例
StarlingXへの日本企業の参加

 OpenInfra Foundationの意義を説明するにあたり、Collier氏はAmazonのCEOの「企業のIT予算の95%がオンプレミスで使われている」という言葉を引用した。古い言葉にも見えるが、これは2022年4月に、Andy Jassy氏が言った言葉だ。「彼が言わんとしているのは、AWSがまだ20倍大きくなるということだ」とCollier氏は言う。

 さらにCollier氏は、クラウド市場のシェアについての調査を紹介した。1位のAmazon(33%)に続いて2位になったのは「その他」(27%)だという。こうしたビッグ3以外のクラウドではOpenStackがよく使われているとした。

 そうしたOpenStackによるクラウドサービスの例として、Collier氏は富士通のサービスを挙げた。

AmazonのCEOの「企業のIT予算の95%がオンプレミスで使われている」という言葉
……は2020年のもの
クラウドのシェアの2位は「その他」
OpenStackによるクラウドサービスの例:富士通

 OpenInfra Foundationの活動については、Collier氏は「うんざりするほど聞くかもしれないが」と前置きしながら、コラボレーションを強調した。「OpenInfra Foundationではオープンな開発にフォーカスしている。1社が中心になっているオープンソースソフトウェア(OSS)もあるが、それとは違う」(Collier氏)。

 Collier氏は、OpenInfra FoundationのExecutive DirectorであるJonathan Bryceが言う「ユーザー」「開発者」「エコシステム」の3つの力というコンセプトを紹介した。3つが連携して好循環をもたらすとともに、それぞれ強く機能することで1つの力が支配しないようにするものだ。

 そのいい例がOpenStackだとCollier氏は語った。450の組織が貢献し、8500人以上の開発者を採用し、2500万以上のコアで動いている。「このモデルはうまく機能している」とCollier氏はコメントした。

コラボレーションにおける「ユーザー」「開発者」「エコシステム」の3つの力
OpenStackにおける3つの力の例

 そのほかCollier氏は、OpenInfra Foundationが新しいプロジェクトモデルを発表したことを紹介した。プロジェクトごとに内容は異なるため、新しいプロジェクトモデルでは、プロジェクトに必要なところで投資できるようにしているという。

 最後にCollier氏は「OpenInfraのこれからの10年は、今作られている。ぜひ会員になって、国境を超えたコラボレーションに参加してほしい」と語った。

OpenInfra Foundationの新しいプロジェクトモデル

ドコモ秋永氏、「5Gのもっと面白いところ」を実現するMECを解説

 3つめのキーノートでは「ドコモMECの実現とクラウドのリアル」と題して秋永和計氏(株式会社NTTドコモ クロステック開発部 担当部長)が講演。5GにおけるMEC(Multi-access Edge Computing)の用途や可能性について語った。

秋永和計氏(株式会社NTTドコモ クロステック開発部 担当部長)

「5Gはまだ本領を発揮していない」

 秋永氏は「5Gはまだ本領を発揮していない」と言う。5Gの3つの特徴として、高速・大容量、低遅延、多数端末接続がよく言われている。しかし「それはbetter than before(以前よりもよい)でしかない。5Gには本当はもっと面白いことが詰まっている」と氏は主張する。

 5Gネットワークには、4Gのコアネットワークを使うNSA(ノンスタンドアローン)と、5G専用のコアネットワークを使うSA(スタンドアローン)の2つの方式がある。ドコモではSA方式のサービスを2021年12月に法人向けに開始したところだ。

 「いまbetter than beforeの話しかしていないのは、NSAなので4Gの延長の話しかできないからだ。SAでようやく新しいことができる。5Gは4Gからの“非連続的な価値の向上”を秘めていると考えている」と秋永氏。その具体例として、ネットワークカスタマイゼーション(スライシング)&QOS、MEC、ネットワークローカル(NPN。ローカル5Gなど)を挙げた。

5Gの3つの特徴と、3つの“非連続的な価値の向上”
NSA方式とSA方式

docomo MECの特徴と事例

 今回の講演は、そのうちMECを取り上げるものだ。ドコモでもMECついて、NSAから先行して取り組んで「docomo MEC(旧称Open Innovation Cloud)」として提供している。特徴としては、250以上の商用実績があり、全国9拠点で提供し、GPUも使えるという。docomo MECの事例として、地域医療における閉域網による遠隔診療の例を秋永氏は紹介した。

 docoo MECには、Compute-O(OpenStackベース)、Compute-V(VMwareベース)、Compute-D(OpenStackベース)の3種類がある。もともといち早くサービス提供するために既存のリソースを使った第1世代がCompute-OとCompute-Vで、新しく専用に開発した第2世代がCompute-Dだと秋永氏は説明した。

docomo MEC
docomo MECの事例
Compute-O、Compute-V、Compute-Dの3種類の基盤

 ここであらためて秋永氏は(docomo)MECの基本的な考え方を「アクセスのところから一番手前にコンピューティングリソースを置く」ことだと説明した。パブリッククラウドと異なり、ドコモの網内にコンピューティングリソースが置かれる。例外としては、KDDIでAWSのMECサービスであるWavelengthを提供している。

 さらに秋永氏は、インターネットに対するローカルネットワークについても言及した。インターネットはもともと最適ルートでなくても、とにかくつなぐ形で作られた。そのため、例えば北海道と北海道との通信でも東京や大阪を経由するといったこともありうる。しかし現在ではトラフィックが増えて最適化する必要があり、ネットワークは変わりつつある。そこにMECが乗ることで、地産地消型になるということだ。

MECの基本的な考え方
インターネットとローカルネットワーク

MECの問題点

 秋永氏は、MECを扱ううえでの問題点として、どこにあるかわからないのがクラウドであるのに対してMECはネットワークを意識しないと使えないという「最近傍探索問題」、ドコモしか使えないとゲームなどコンシューマー用途には使えないという「マルチキャリア対応」、そもそもMECはどう使うべきなのかと簡単な方法はないかという「デザインパターン、MEC PaaS」の3つを挙げた。

 最近傍探索問題というのは、例えば、九州で接続してから東京に移動すると、九州につながったままで遅いという問題だ。これについては、DNSベース探索や、GPSベース探索、端末側での実装など、実装方法をいろいろ試していると秋永氏は説明した。

 マルチキャリア対応については、現状は各社がそれぞれサービス提供しているシングルキャリアの状態だ。これを、例えばパブリッククラウドがWavelengthのようなサービスを各社で実施する方法も考えられるが、利用企業は結局それぞれにアプリを配置することになってコストがかかる。そこで、秋永氏は、キャリアの相互接続によるマルチキャリア対応でないとビジネス効果がない、と説明した。

 相互接続には、IaaSレイヤーでの連携や、マネージドコンテナPaaS、イベントドリブンサーバーレスといった方法が考えられる。これについて秋永氏は「いま考えていて、各社に声をかけている」と語った。

MECを扱ううえでの3つの問題点
最近傍探索問題
最近傍の探索方法の案
マルチキャリア対応問題
マルチキャリアの提供方式の案

 そしてMECのデザインパターンだ。

 MECのメリットとしては、アクセス側からインターネットを経由せずに通信を折り返すトラフィック最適化、通信の低遅延・ゆらぎの抑制、セキュアなプライベートネットワーク、コンピューティングパワーの提供の4つがある。

 しかし、これらはまだわかりにくく、価値を理解して利用できる顧客は一部に限られると秋永氏は言う。

 かわりに秋永氏が提唱するのが、MECデザインパターンだ。CDNパターンや高速大容量アップロードパターンなど、さまざまな利用パターンを示す。いずれもMECを揮発性のあるキャッシュ的なものとし、永続性をパブリッククラウドで担保する。

 また、デザインパターンだけでは実装できない顧客のために、これらのパターンの機能のPaaS化も進めているという。

 MECパターンに対応したPaaSサービスから、秋永氏は2つを例として挙げた。1つめは「超低遅延音声通話」で、WebRTCをMECで折り返すことで、超低遅延の音声通話の基盤を開発する。

 もう1つは「XRリモートレンダリング」だ。VR機器に向けて、MECのGPUと5G回線で高解像度のクラウドレンダリングを提供する。すでに建築業界で、「CADから3Dレンダリングしたパース図をウォークスルーで見たい」といった用途で使われているという。

一般的なMECのメリット
MECデザインパターンの提供
MECデザインパターンの機能を提供するPaaS
PaaSの例:超低遅延音声通話
PaaSの例:XRリモートレンダリング
XRリモートレンダリングの建築業界での利用例

 最後に秋永氏は、「5G×MECが新しい価値を生むんじゃないかと思ってやっている」として、「これはキャリアの人間だけが考えていてもいけない。アイデアをみなさんといっしょに作っていきたい」と語った。

小野和俊氏、クレディセゾンでのバイモーダルなDX推進を語る

 特別講演「CSDX:クレディセゾンのDXへの取り組み」では、小野和俊氏(株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員 CTO(兼)CIO)が講演。クレジットカード会社のシステムのモダン化について、組織やカルチャーを含む変革のアプローチを語った。

 なお、小野和俊氏はEAIソフトウェアDataSpiderの株式会社アプレッソを起業し、後に株式会社セゾン情報システムズに子会社化を経て吸収合併された。

 まず、取り組み前の課題として、基幹システム更改の苦しみや、ITの外部ベンダーへの完全依存、経営レベルでのIT費用削減要請ということがあった。これに対して「いままでのやりかたはそれはそれで否定しない」という方針で取り組んだと小野氏は語った。

小野和俊氏(株式会社クレディセゾン 取締役(兼)専務執行役員 CTO(兼)CIO)

まず独立してデジタル組織を立ち上げる

 フェーズ1は、デジタル組織/カルチャーの立ち上げと融合(2019~2020)だ。

 クレディセゾンの全社システムには、顧客管理や入出金などの「基幹システム」、入会審査や与信管理などの「コア業務アプリ」、ポイントやスマホなどの「デジタルサービス」の3種類があった。このうち、リソースのほとんどが幹である基幹システムに偏っていて、ほかにお金も時間もまわせなかったという。

 この状況に対して、基幹システムはできるだけ安定化させて固定化し、内製化チームとクラウドにより連携基盤を開発するという方針を立てた。

 また、IT部門(情シス)とは別に、“小さな理想的な組織”としてデジタル組織を立ち上げた。この時点で、徐々にIT部門と交流していってやがては融合していくことを想定していたという。

 つまり、システムにおいても、既存のシステムや組織とは別に、新しいシステムやデジタル組織を立ち上げるという形態だ。

 この時点での課題としては、既存社員や組織の「突然の内製化への戸惑い」「カルチャーの違い」「外部依存が長く続く中で染み付いた「発注者しぐさ」」を小野氏は挙げた。

クレディセゾンの3種類の全社システム
全社システムの課題と対策
IT部門とは別にデジタル組織を立ち上げ
フェーズ1での課題

内製化、バイモーダル戦略、デジタル人材育成がキー

 フェーズ2は、CSDXの策定と推進(2021~)だ。クレディセゾンではDX戦略として「CXDX戦略」を策定した。ここで小野氏が打ち出したのは、すべてはCX(Customer Experience)とEX(Employee Experience)の2つに集約され、それ以外は技術の乱用だということだ。

 ここで外せないキーワードが、内製化とバイモーダル戦略の2つだ。まず内製化により、スピード、要件の柔軟さ、ノウハウが残ることを目指す。

 バイモーダル戦略は、安定性を重視する「モード1」と、すばやく対応する「モード2」のシステムを組み合わせるということだ。クレディセゾンの場合は、2値ではなく、プロジェクトの性質にあわせて1.1や1.9のようにスペクトル状に展開することにしたという。さらに、この2つは混ぜるとぶつかりやすいので、コンフリクトマネジメントも必要になる。

 デジタル人材もキーになる。これを、Layer 1(外部から転職してきたコアデジタル人材)、Layer 2(社内から営業の人などがフルタイムで移ってくるビジネスデジタル人材)、Layer 3(総合職などが考え方を学ぶデジタルIT人材)に分類。小野氏は「Layer 2が大事だし、すごく効いている。社内の知っている人がデジタル化して、コミュニケーションパイプが太い」と語った。

 こうしてデジタル人材が2021年度で150人。2024年度には1000人に増やすという。

 内製においては、伴走型内製開発を推進した。ビジネス部門が自動化を考えると、まずRPAといった手段に走りがちだという。それに対してデジタル部門とビジネス部門が伴奏することで、まずビジネス部門の困りごとを調査して、「RPAじゃなくてこういう技術で簡単にできる」といったことを判断する。

内製化
バイモーダル戦略
デジタル人材育成
伴走型内製開発

 そのほか業務改善としては、紙や手作業が多かったところをデジタル化するだけで効果が大きかったことも語られた。紙が年間1.6トン削減されたという。

 デジタル基盤強化としては、クラウド利用を加速。メインフレームで動いていたものをAmazon EKSに移行するなどしていて、2025年には8割をクラウドに、と決めていると小野氏は語った。

 そのほか、コミュニケーションやデータ利活用のために各種ツールの導入を推進したことや、伴奏型ではできないサービスについてアジャイル開発体制を構築したこと、内製化によりスマートフォンアプリを短期間でリリースしていることなどを小野氏は紹介した。

紙や手作業をデジタル化
クラウド利用を加速
各種ツールを導入
アジャイル開発体制
アプリなどの内製化

従来型チームと、タスク型ダイバーシティのチーム

 組織面では「タスク型ダイバーシティ」を実現していると小野氏は語った。これまでの、開発や運用などごとにチームが分かれている形態に対して、1つのチームに開発や運用などの専門家が集まるうことで、そこで物事を決められるという。

 これについてもバイモーダルで、間違いが許されないところでは従来型チームに、動きの速いところはタスク型ダイバーシティの高いチームにしているという。例えば、IT部門(情シス)は意図的に従来型にし、デジタル部門のモード2に近いところでは個人も部門もタスク型ダイバーシティの高い状態にしているという。

 「5年後や10年後にぜんぶモード2に持っていく、といったことは考えていない。例えばカードの債券の部分など、アジャイルに改善していくより、ちゃんと守られていることが大事なので、モード1が向いている。そこを分けていくのが現時点の考えで、今のところこれからもそうあるべきだと考えている」と小野氏は語った。

タスク型ダイバーシティ
IT部門(情シス)とデジタル部門

モバイル通信事業者、SAやMEC、OSSについて語る

 クロージングイベントでは、毎年恒例となるテレコム事業者によるパネルディスカッション「テレコム運用のクラウドネイティブ化における持続性の課題」も開かれた。Cloud Native Telecom Operators Meetup(CNTOM)とのコラボセッションでもある。

 パネリストは、清水和人氏(株式会社NTTドコモ)、Ashiq Khan氏(ソフトバンク株式会社)、小杉正昭氏(楽天モバイル株式会社)。このうちKhan氏は都合によりリモートで登場した。モデレーターは関谷勇司氏(東京大学 教授)。

パネルディスカッション「テレコム運用のクラウドネイティブ化における持続性の課題」

 1つめの話題は、5G SAについて。

 ドコモは法人向けSAサービスを開始し、個人向けSAサービスも予定している段階だ。ドコモの清水はまず、NSAはできることは4Gと同じようなもので、高速大容量などを実現すると説明。SAになると、スライシングなど、次のステップに進めることができると説明した。

 ソフトバンクはSAのサービスをすでに提供している。ソフバンクのKhan氏は、速度は大幅に高速化しているが、混雑にもよるので、すごい変わるかというと正直なところ実感ではわからないと思うと答えた。また、SAでの今後の展開については、MECやネットワークスライシングを挙げた。

 楽天モバイルの小杉氏は、いままさにSAに取り組んでいると回答。既存の仮想化基盤とコンテナ基盤にソフトウェアをデプロイしているところで、基盤側ではNSAやSAのそれぞれの要求をいかに吸収するかに注力して取り組んでいると説明した。

清水和人氏(株式会社NTTドコモ)

 2つめの話題は、アプリケーションやオペレーターの言うクラウドネイティブと、通信事業者の言うクラウドネイティブは違うかどうかについて。

 これについては小杉氏は、「クラウドネイティブ」として期待するのはアプリケーションと基盤が意識せずに運用できることだ、という点は共通していると回答。違う点としては、パブリッククラウドでは基盤が先でそこでアプリケーションを動かすが、テレコムではアプリケーションを選定してからそれを動かす基盤を用意するところだと答えた。

 Khan氏もそれに同意。パブリッククラウドは基盤とアプリケーションが別の会社だが、テレコムでは両方持っていて、基盤が後付けになるだとした。

 清水氏も、アプリにあわせて基盤を用意するという形であることに同意し、テレコム事業者にはレガシーの装置も残っているなど、特殊要件が入ることを付け加えた。

 ここで視聴者からMECの数について質問が出た。Khan氏は、「あまり具体的なことは言えないが、都道府県レベルは超える」とし、日本は国土が大きくないので遅延もそれほど大きくないとしつつも、「低遅延が必要な要件では都道府県以上になる可能性もある」と付け加えた。

 清水氏も、米国で州ごとに設置するというレベルを日本に当てはめると国内で1つ置くことに相当するとしつつ、「日本をいくつかに分割した、それぞれの場所に設置している」と答えた。

 小杉氏も「同じぐらいを想定している」と答えつつ、楽天モバイルではエッジのエッジまでクラウド化していることや、その一方でエッジに行くほど多くのサーバーを置けないことを述べて、「今後、どういうユースケースを実現するかを想定して設置していく」と語った。

Ashiq Khan氏(ソフトバンク株式会社)

 次のテーマは、OSSとの付き合い方だ。Khan氏は、OSSは積極的に利用しているが、例えばOpenStackやKubernetesのバージョンのリリースサイクルはテレコムには合わないことや、セキュリティの面から、商用ベンダーによりパッケージ化されたものを利用していると語った。

 小杉氏もそれに同意。さらに、サポートの部分をもし自前でやろうとすると、例えばOpenStackでは問題が起きたときにOSのレイヤーなどまで解析してバグ修正する必要が出てくるため、規模などがあってすぐにできるものではないと補足した。

 清水氏も、Khan氏が言ったようにテレコムのサイクルとOSSのリリースサイクルが違い、かといって専用装置にも戻れず、テレコム事業者もベンダーも頭を悩ませていると回答した。

小杉正昭氏(楽天モバイル株式会社)

 最後のテーマは、来年のこのパネルディスカッションまでに何ができていると思うかについて。

 小杉氏は、基盤の立場にあるのでエンドユーザー向けのことを話すのは難しいが、運用コストを削減できるシステムにしていかなくてはと思っていると答えた。

 Khan氏は、10年前にドコモでETSI NFVを立ち上げたときの夢を1/10も達成できていないとし、来年はnetwork functionの部分をより基盤から独立させて報告すると語った。

 清水氏は、1年後には5G SAを一般ユーザーに提供できているだろうことを挙げた。また、「パブリッククラウドとどう付き合うかについてPoCをやっているので、来年はその結果を一部でも発表できればいいなというレベルで」と語った。

モデレーターの関谷勇司氏(東京大学 教授)