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クラウドインフラ運用者のためのイベント「Cloud Operator Days Tokyo 2021」、キーノートやパネルディスカッションをレポート

 クラウドインフラ運用技術者のための年次カンファレンスイベント「Cloud Operator Days Tokyo 2021(CODT2021)」が、7月14日から8月31日までオンデマンド配信形式で開催された。なお、通信(テレコム)事業者のネットワークインフラについて議論する「Cloud Native Telecom Operator Meetup 2021(CNTOM2021)」も共催されている。

 8月27日にはクライマックスとして、ライブ配信形式のイベントが開催され、キーノートセッションやパネルディスカッションなどが行われた。

 実行委員長の長谷川章博氏はオープニングで、登録者数は、同じくオンライン開催だった去年が1400名弱だったのに対し、今年は1897名に増えたと報告した。

CODT実行委員長の長谷川章博氏(AXLBIT株式会社、左)とCNTOM実行委員長の宮本元氏(KDDI株式会社、右)

 登録者のアンケートの結果も長谷川氏は紹介した。まず、所属企業の従業員数については、1000名を超える企業が56.1%と過半数を占めた。

 続いて、運用・利用しているクラウド基盤については、AWSが多いが、Azureも伸びており、VMwareやOpenStackも多いことがわかった。

 運用中のクラウドの規模としては、100台以下が多い一方で、5000台以上も7.5%と、二極化している。

 最後のアンケート項目は「バンドでのパート」。長谷川氏の「インフラエンジニアは、ベースやドラムの、下支えするリズム隊経験者が多い」という仮説による質問だ。今回の結果を世間一般と比べると、ベースやドラムが多く、またキーボードも多いことがわかった。そして、ボーカルが世間一般から大きく下回る結果となった。

登録者アンケート結果:所属企業の従業員数
登録者アンケート結果:運用・利用しているクラウド基盤
登録者アンケート結果:運用中のクラウドの規模
登録者アンケート結果:バンドでのパート

Kubernetesはクラウドへの架け橋

 1つめのキーノートセッションは、Kubernetes生みの親のひとりであるVMwareのCraing McLukie氏による「Kubernetes and the Cloud Native Journey」。企業のクラウドネイティブジャーニーにおけるKubernetesの意義について講演した。

 McLukie氏はまず「私はKubernetesをクラウドへの架け橋と考えている」として、Kubernetesでインフラを抽象化しやすくなると語った。

 最初の論点は、企業が企業システムのパブリッククラウドへの移行を検討するときだ。移行先のインフラ(クラウド)はアプリケーションが構築された当時のインフラ(オンプレミス)とは異なるため、運用手法が異なる。

 このとき、Kubernetesによって大量のリソースを結びつけることで、クラウドへの移行に発生する多くの問題に対処できるとMcLukie氏は言う。さらに、アプリケーションの構築方法や運用方法を考えなおす機会にもなるというわけだ。

Kubernetesはクラウドへの架け橋
クラウドに移行すると運用方法が異なる

 次の論点は、ITがこれまで、オペレーターがチケットを受け取り、アクションを実行し、構築・設定するという「オペレータードリブン」の世界だったことだ。これがKubernetesにより、APIベース、そして意図からシステムをあるべき姿にするというインテントベースのITが実現するとMcLukie氏は述べた。

 こうして組織内の各分野でソフトウェアをサービスとして提供するようになることで、組織内でサービスがAPI経由で配布され、組織レベルでの生産性が向上するとMcLukie氏はまとめた。

チケットベースのITからインテントベースのITへ
組織内にAPIエコノミーができる

本番環境のインフラを動かすソフトウェアを開発するコミュニティ

 2つめのキーノートセッションは、OpenInfra FoundationのMark Collier氏(COO)、Jonathan Bryce氏(Executive Director)、Thierry Carrez(VP Engineering)による「加速するオープンソースクラウドインフラ」。OpenInfra Foundation(旧OpenStack Foundation)の活動について紹介した。

 Collier氏はまず、OpenStack Foundation/OpenInfra Foundationの11年以上の歩みを振り返ったあと、次の10年で重視する分野を紹介。ARM・FPGA・GPUなどの新たなハードウェアアーキテクチャや、今まで以上にオープンソースが用いられること、データセンターからエッジまでさまざまなデプロイの異なるモデルなどを取り上げた。さらに社会的な問題として、データの支配権など多くのことについて世界中の政府が口をはさむことについても触れた。

次の10年で重視する分野

 Open Stack Foundationは2021年からOpenInfra Foundation(Open Infrastructure Foundation)と名称を変更した。引き続きOpenStackに取り組むほか、いくつかのプロジェクトやコミュニティをサポートしている。

 では、ここでいうOpenInfraとは何か。Collier氏はクイズ形式で、「A. インフラ向けのOSSを作るグローバルなコミュニティ」「B. OSSを備えたインフラ」「C. OpenStackから始まり今や180か国以上で11万以上の会員を有する活動」のあと「D. 以上のすべて」という選択肢を示し、「これまでの話を聞いた皆さんは、すべてが当てはまると思うでしょう」と語った。

 そして、OpenInfra Foundationは、本番環境のクラウドインフラを動かすソフトウェアを開発するコミュニティであることを強調。Ant GroupがKata ContainersでAlipayを動かしていることや、Walmartが100万コアをOpenStackで使っていること、VerizonがStarlingXで5G無線アクセスネットワークを動かしていること、VolvoがCI/CDのためにZoolを動かしていることを紹介した。

OpenStack FoundationはOpenInfra Foundationに
OpenInfra Foundationのプロジェクトや活動
OpenInfraとは何か
本番環境のインフラを動かしている例

 そこからBryce氏とCarrezが登場。開発コミュニティの活動例として、日本のLINEによるRabbitMQとOpenStackの大規模運用についての議論、AMDによるハードウェアベルでの仮想化セキュリティの業界的な取り組み、CERNによる余剰能力に関する議論、VerizonによるエッジコンピューティングのStarlingXの議論、データがどの国の法の下に置かれるかについてのデジタル支配権の議論、大規模で稼働中のOpenStackのアップデートに関する議論などを紹介した。

日本のLINEによるRabbitMQとOpenStackの大規模運用の議論
AMDによるハードウェアレベルの仮想化セキュリティ
CERNによる余剰能力に関する議論
VerizonによるエッジコンピューティングのStarlingXの議論
デジタル支配権の議論
大規模で稼働中のOpenStackのアップデートに関する議論

クラウドでもハードウェアに悩まされる? モバイルネットワークの内幕話

 パネルディスカッションは2つ、CODTとCNTOMのそれぞれのテーマで開かれた。

 CNTOMのパネルディスカッションは「あれからどうなった?ソフトウェア化(Cloud Native)のウソホント」。5G時代のモバイルネットワークののクラウド化について語られた。

 パネリストは、ソフトバンクの古川大介氏(クラウド基盤開発部 部長)、KDDIの辻広志氏(コアネットワーク部 課長補佐)、NTTドコモの清水和人氏(NW開発部 5GC担当)、楽天モバイルの外山達也氏(アプリケーションプラットフォーム部 課長)。モデレーターは、株式会社 企のクロサカタツヤ氏。

パネルディスカッションは「あれからどうなった?ソフトウェア化(Cloud Native)のウソホント」
モデレーターのクロサカタツヤ氏(株式会社 企)

 1つめのテーマは、6月末にAT&Tが5GなどのためのプラットフォームであるNetwork CloudをAzureに移管したことについて。クロサカ氏は最初に「ハイパースケーラーが狙っていることはわかっているが、発表されるとインパクトが大きい」として話を振った。

 これについては、驚いたという声とともに、ビッグクラウドがキャリアの需要に柔軟に対応できるかどうかが疑問という声、Network CloudにAzureの名前を付けただけではないのかという声、背景として通信系出身のCEOからメディア系出身のCEOによる業務シフトがあるのではないかという声などがあった。

ソフトバンクの古川大介氏(クラウド基盤開発部 部長)

 2つめのテーマは、この2~3年で急激に盛り上がってきた最近のNFV苦労話。まず、仮想化したのにハードウェアに悩まされることが多い、という意見にパネリストから同感の声が上がり、オートスケールといいながらCPUピニング(固定)を多用しているなどの実情が語られた。

 また、アプライアンス機器なら1つだがクラウドではIaaSやPaaSなどのレイヤーが増えて複雑化していること、そのためには自動化やクラウド運用を合わせて考えないと立ちゆかないという声もあった。さらに、さまざまなソフトウェアをつなげるオーケストレーションの大変さも挙げられた。

 さらに、これまでベンダーがよきにはからってくれたのが、オープンソースソフトウェア(OSS)が増えてやりかたが変わってきたことや、キャリアからアップストリームになかなかコントリビューションされない問題も語られた。

 そのほか、アプリケーションの移行にはアーキテクチャレベルで検討しなくてはならないので時間がかかるはずだが、経営のスピード感が許してくれないことや、そこからハードウェアにも影響することも挙げられた。

KDDIの辻広志氏(コアネットワーク部 課長補佐)

 3つめのテーマは、クラウドネイティブの期待と現実。

 まず、ソフトウェアならアジャイルに軽快にできるんでしょと思われがちだが、それは分野が重い軽いによるという声があった。また、問題解決にあたって、ベンダーに頼れなくなり、広く深く知っているエンジニアが必要だが、どこにいるのかという声も出された。

 そこからやや脱線して、トップがこの苦労や価値を理解しているかどうかという質問をクロサカ氏が投げた。これについては全員がおおむねイエスだと答えた。

NTTドコモの清水和人氏(NW開発部 5GC担当)楽天モバイルの外山達也氏(アプリケーションプラットフォーム部 課長)

 最後のテーマは「これで出世しますか?」。これについて、出世かどうかはわからないがスキルを磨いていくという声や、モバイルキャリアのスキルは業界の外では役に立たないがクラウドは外にも通用するスキルという声、理想では出世できると思うがそれをどう現実にしていうかが課題という声などが出た。

楽天モバイルの外山達也氏(アプリケーションプラットフォーム部 課長)

仕組みを知らなくてもいいのは良い点? 悪い点? 運用者が議論

 CODTのパネルディスカッションは、「クラウド技術、自動化技術が基盤 “運用者” にもたらした効果と功罪」。大規模オペレーターからユーザー企業までが集まり、運用者から見たクラウド技術のよい点や辛い点などについて語られた。

 パネリストは、トヨタ自動車の伊藤雅典氏(コネクティッド先行開発部 主査)、LINEの室井雅仁氏(Senior Software Engineer)、ヤフーの奥村司氏(クラウドプラットフォーム本部技術1部 リーダー)、レッドハットの伊藤拓矢氏(クラウドソリューションアーキテクト部 スペシャリストソリューションアーキテクト)。モデレーターは日本OpenStackユーザ会/NTTの水野伸太郎氏。

パネルディスカッション「クラウド技術、自動化技術が基盤 “運用者” にもたらした効果と功罪」
モデレーターの水野伸太郎氏(日本OpenStackユーザ会/NTT)

 1つめのテーマは「運用者視点での効果(もしくは期待する効果)」で、まずはうれしい点について。

 これについては、自分たちでコントロールできない環境がクラウドなので、コントロールできない障害に備えてやわらかな耐障害性を意識するようになったという意見が出た。オンプレミスと比べるとトラブルが減って、本来の業務ロジックに集中できるという現場の声も紹介された。

 また、開発者に標準化意識がめばえたことや、ハードウェア・クラウド基盤・アプリケーションのレイヤーで共通の言葉ができたこと、CI/CDやテスト基盤などソフトウェア化してオンデマンドでできるようになったのでチーム編成や仕事のやり方を変える契機になったことなど、仕事へのアプローチが変わったという意見も出た。

ヤフーの奥村司氏(クラウドプラットフォーム本部技術1部 リーダー)

 2つめのテーマは「運用者に残した功罪」で、1つめとは反対に辛い点だ。

 これについてはまず、基盤部分を知らないでよくなり本来のことに集中できるようになったぶん、物理構成など基盤部分の理解が薄くなったことが指摘された。これについて、動いているぶんにはいいがトラブル対応やボトルネックの調査に時間がかかることや、仕組みの理解がないことによりスケールするかどうか見通しが困難なこと、学びの機会が経ることなど、一同から同様の意見が集まった。

 一方で、下のレイヤーまで知らないといけないとすると、フルスタックでなんでもかんでも知らなくてはならないことになり、現在では幅広いスキルセットが必要になるという意見も出された。

 また、トラブルのときに、ベンダーとユーザーという関係ではベンダーが解決をはかっていたのが、マネージドサービスでは解決の主体がユーザー側になってきていつつサービスを細部まで調べられないという意見も出された。

レッドハットの伊藤拓矢氏(クラウドソリューションアーキテクト部 スペシャリストソリューションアーキテクト)

 3つめは「今後の運用者像」として、今後どのようなスキルが求められるかだ。

 まず、自動化などシステムが貢献できることが多くなってきているので、マニュアルどおりの運用から変化し、目の前のあたりまえに疑問を持てる人が重要という意見が出された。

 一方、これについて、マニュアルは属人依存を減らすという面もあると指摘。そして、今までは文書に対して作業していたのが、行動に変わり、gitやCI/CDなど“運用を開発する”ことが求められているという意見が出た。

 目の前のあたりまえに疑問を持つということについては、トヨタの伊藤氏は、トヨタの工場においてリーダー以上は常に「なぜ」を問いかけて効率化していくことを考えていることを紹介。アジャイルと共通することが多いと語った。

トヨタ自動車の伊藤雅典氏(コネクティッド先行開発部 主査)

 聴衆からの質問では、過去の仕組みの属人化やゾンビ化(無人化)の「誰が作ったんだこれ」問題の話も出た。これに対してLINEの室井氏が「そういうときは作りなおす」と答えた。いなくなった人が書いたコードは2~3年前のもので、今の状況とずれていたりするので、作り直すと運用まで解決するという意図とのこと。新陳代謝の早い会社ならではのやり方に、驚きを誘った。

LINEの室井雅仁氏(Senior Software Engineer)