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単独では解決しづらいスクラムチームの問題解決を支援――、デンソーにおけるSRE課の取り組み

Cloud Operator Days Tokyo 2020 2日目基調講演レポート

 クラウドインフラ運用技術者のための年次カンファレンスイベント「Cloud Operator Days Tokyo 2020」が、7月29日~30日にオンライン開催された。

 事前登録者数は1435名。オンライン視聴者数は1260名(ユニーク数)で、講演者やスポンサー、メディア関係者を合わせると、合計1387名が参加した。

 ここでは2日目の7月30日の講演から、基調講演の模様をレポートする。この日の基調講演は、いずれも組織づくりに関するものだった。

デンソー:SREがDevOpsを実装する

 1つめの基調講演は、株式会社デンソーの石田晋哉氏による「デジタルイノベーション室はデンソーにおいてどのように class SRE implements DevOps を実装してきたか」。自動車部品メーカーのデンソーがデジタルイノベーション室の中に設けている、SRE課の活動について語られた。

 デンソーでは近年、マイクロモビリティのシェアサービスや、MaaS、コールドチェーン、車両向けSOCなど、ものづくりではないサービスの部分にも力を入れている。

 ものづくりの確実に量産するモデルと異なり、サービスでは利用者の反応を見ながら進めるモデルであり、不確実性に立ち向かうために、内製やアジャイルのスタイルにシフトしようとしている。そのためにできたのがデジタルイノベーション室という組織だ、と石田氏は説明した。

 デジタルイノベーション室には4つの課があり、その1つがSRE課である。

ものづくりでないサービスの不確実性のために内製やアジャイルにシフト
デジタルイノベーション室と、その中のSRE課

 ここで石田氏はSREの定義として、Googleの「class SRE implements DevOps」、つまりDevOpsという概念を実装するのがSREだと語った。

 さて、アジャイルな開発が取り入れられ、スクラムチームが増えてきたことにより、各自の視野がプロジェクト内に閉じこもりがちという問題が見えてきたという。その結果、各チームが同じ課題で悩み、似たものを作り、クオリティが違うものができる。さらに、わかってはいるが自分たちでは打破できなかったという。

 こうした、単独チームでは解決しづらい問題を解決するためにSRE課が作られた。SREが各チームに1人以上常駐し、サービスを運用可能な状態にするほか、共通化・コード化して知見を他チームに伝搬させる。

視野がプロジェクト内になりがちという問題
単独チームでは解決しづらい問題をSRE課が解決

 石田氏はSRE課で心がけている2点を挙げた。1つめは「運用は競争力の源泉」で、運用して初めて実評価が得られ、そこからフィードバックや課題の発見などにつなげる。2つめは「経験は競争力の源泉」で、経験だけが学びであり教科書的なものはないということだ。

SRE課の心がけ:運用は競争力の源泉
SRE課の心がけ:経験は競争力の源泉

 その活動は、チームメンバーとしてプロダクトオーナーや開発者を支援すること。スプリントの支援から、可用性、運用・保守、性能、セキュリティまでにわたる。

チームメンバーとしてPO・Developersを支援する

 また、石田氏は「SRE課の究極の目標は、SRE課がいらなくなること」だとし、そのための活動も並行してやっていると語った。つまり、プロジェクトチームがSREの技術素養を備え、プロジェクトチーム同士が知識や経験を交換し合うのが目標となる。

SRE課の究極の目標は、SRE課がいらなくなること

 さて、DevOpsですべきことの1つに、サイロの壁を減らすことがある。石田氏は、「壁を壊すのは大変難しいので、いったん置いておいて、壁を透明にする活動をしている」と説明した。

 それは、「SRE課で雑談の場を設け、その中に仕事の話が入ってくることにより、情報を共有する」「ブログのようなシステムノウハウを共有し、それを全社に公開する」「インナーソーシング(Inner Sourcing)で、全社でソースコードを共有する」「社内のテックトークや研修を実施する」「『未来会議』として、未来をどうしたいかという話を毎日したりする」ことだ。

サイロの壁を透明にする

 最後に石田氏はまとめとして、開発・運用を回して経験を得続けることでしかゴールにたどりつけないことを繰り返し、「そのためにできることは何でもやる。それも上司から言われたわけでなく自発的に、1人でなくみんなでやる、ほかのチームを巻き込む」と語った。

メルカリ:マネジャーはメンバーとどう向き合うか

 2つめの基調講演は、株式会社メルカリの塚穣氏による「クラウド時代のマネジャーは人々やチームとどう向き合っていくのか」だ。

 塚氏はまず、理想と現実の板挟みについて語った。「マネジャーの責務は、組織の意識と生産性を最大化すること」としながら、「会社や法律などの事情で、なかなかうまくいかない」と述べた。

理想と現実の板挟み

 さて現状。マネジャーがメンバーと話すときには、キャリアの話は外せない。しかし、先が見えない中、どうするか。「個人としてやってきたことが、だんだん価値がなくなっていくんじゃないかと不安をお持ちの人も多いのではないか」と塚氏。

 次に課題。「クラウド時代は道具が変わる。ではわれわれの道具は? 私は変わった。お作法も変えていく」(塚氏)。

現状
課題

 そして解決方法。「具体的な答えは難しいが、考え方はシンプル」と塚氏。「変えることができるのは、一歩をふみだせる心理的安全性。それはマネジャーの仕事だ」。このとき、正直であることが大事で、過去のやりかたが捨てられない人も受け入れることが必要だという。

解決方法

 その具体的な方法はどうか。塚氏は「私もわからない」としつつ「確実なことは自分から始めること」だとした。「すべてを急に変えるのは難しい。例えば道具としてパターンランゲージを、などだ」

具体的な方法は?

 事例として塚氏は、自身がメルカリでやっていることについて語った。それは“組織をより筋肉質にする”こと。つまり、個々人がリーダーシップを持って会社に貢献することだ。そのために塚氏は、自分の意見に共感して、やっていこうという強い意志を持った人を探したという。

事例

 まとめとして塚氏は、「銀の弾丸はない」としつつ、インフラエンジニアやオペレーションエンジニアのキャリアとして、プライドを持ってやれるように支援していくと語った。

 そして、「大事なのは、改善を続けるということ」として、『愚者と死者だけは自分を変えない』という格言を引用しながら、「何もしないというのが一番よくない」と述べた。

大事なのは、改善を続けるということ