イベント
Google、マルチクラウド管理プラットフォーム「Anthos」などの新サービスを一挙発表
Google Cloud Next '19基調講演レポート
2019年4月11日 06:00
GoogleのクラウドサービスであるGoogle Cloudのカンファレンス「Google Cloud Next '19」が9日、開幕した。米国サンフランシスコにて4月11日まで開催される。
初日となる9日の基調講演では、2018年11月に新しくGoogle CloudのCEOに就任したThomas Kurian氏が中心となり、GoogleのCEOであるSundar Pichai氏などもまじえて進行した。
基調講演では、マルチクラウド管理プラットフォーム「Anthos」が新しく発表された。また、RedisやMongoDBなどオープンソースのデータベース開発元との戦略的パートナーシップも発表された。基調講演ではほぼ触れられなかったが、新しいサーバーレスコンピューティングのプラットフォーム「Cloud Run」も同時に発表されている。
以下、その他の発表もまじえて、基調講演の模様をレポートする。
ソウルとソルトレークシティに新リージョン
最初にSundar Pichai氏が登場し、「Infrastructure」「Innovation」「Openness」の3つの言葉を掲げた。
そのうちInfrastructureでは、世界に広がるデータセンターとネットワークをあらためて紹介したあと、新たなリージョンとして、韓国のソウルと米国のソルトレークシティが加わることを発表した。
ソウルのリージョンは2020年初頭(early 2020)、ソルトレークシティのリージョンはそれから程なく(shortly thereafter)提供を開始する予定となっている。
Kubernetesでマルチクラウドとハイブリッドクラウドを実現するAnthos
「Innovation」ではAIの発展などについて触れたあと、Pichai氏は「Openness」について説明。業界標準となったKubernetesをもとに、マルチクラウドによる互換性や柔軟性の必要を語った。
そうしたクラウド時代の「Write once, write anyware」を実現するものとして発表するのが「Anthos」だ。
Anthosでは、パブリッククラウドであるGoogle Cloud Platform(GCP)のGoogle Kubernetes Engine(GKE)や、オンプレミスのGKE On-Prem、あるいはAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureのようなサードパーティクラウドを対象に、アプリケーションのデプロイや実行、管理を統合して管理できる。
なおAnthosは、2018年に発表されたCloud Services Platformをベースとしている。
ここから基調講演はThomas Kurian氏にバトンタッチ。Kurian氏により、Eyal Manor氏(VP of Engineering, Cloud Services Platform)が呼び込まれ、Anthosについて説明した。
「企業のCIOに話を聞くと、将来的にはクラウドへの全面移行を考えているが、現実にはハイブリッドクラウドを採用することになる」とManor氏。80%のワークロードがクラウドに移行しておらず、88%の企業がマルチクラウド戦略を考えているという調査結果を紹介した。
これに対する「異なるアプローチ」としてManor氏はAnthosを紹介した。Anthosは発表と同時にGA(正式リリース)となっている。
Anthosには、すでに多数のパートナーが参加しているという。例えばCiscoは、ハイパーコンバージドインフラ(HCI)のHyperFlexや、SDNのCisco ACI、ネットワークセキュリティのCisco Stealthwatch Cloud、SD-WANのCisco SD-WAN などとAnthosとを連携させるという。
また、VMwareやDell EMC、HPE、Intel、Lenovoは、HCIでAnthosを提供するという。さらにAccentureやDeloitte、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)などは、顧客企業へのAnthosの導入を支援するサービスやソリューションを提供するとした。
先行して、Anthosを採用した小売業のKohl'sの事例も紹介された。ハイブリッドクラウド戦略のもと、3年かけて70%のアプリケーションをクラウドに移行しているという。
仮想マシンをコンテナに変換するAnthos Migrate
Anthosと同時に、クラウド移行ツールのAnthos Migrateも発表された。Anthos Migrateによって仮想マシンをコンテナに変換し、Anthosなどで実行できるという。
Anthos Migrateについては、Jennifer Lin氏(Director of Product Management)がデモをまじえて紹介した。それによると、間もなくベータ版が登場する(in Beta soon)段階とのこと。
デモではまず、オンプレミスの仮想マシンで動いている服のECサイトのサンプルを例にした。Lin氏は「オンプレミスで動かしていると、ブラックフライデー対応や、顧客データの管理、セキュリティパッチなどで管理が大変になる」と説明。変換したアプリケーションをKubernetesの操作コマンドであるkubectlでデプロイし、GCPのコンソールからそのアプリケーションが動いているところを見せた。
「コンテナに変換してマネージドサービスで動くようにすれば、管理が減って、顧客にビジネス価値を届けることにフォーカスできる」とLin氏。
さらに、アプリケーションを一度Kubernetesに対応させたあと、さらにモダナイズすることもできる。デモでは、アプリケーションを複数のサービスに分け、Google Cloud Service Meshによるサービスメッシュを取り入れた場合を例に、テレメトリーやセキュリティの可視化ができるとLin氏は説明。
実際に、セキュリティについての警告をもとに、Istioのセキュリティ設定を変更してgitで反映してみせた。さらに、GCPのコンソール上でこのアプリケーションを構成する1サービスつのホスト名を拡大して、「本当に“ほかのクラウド”で動いて2います」と説明した。
Lin氏は最後にAnthos MigrateとAnthosについて「すばやく簡単にモダナイズ」「ハイブリッドクラウドやマルチクラウドにデリバリー」「パートナーシップによる成功」の3つの特徴を挙げた。
RedisやMongoDBなどの開発元とマネージドサービスで提携
Kurian氏は、「Googleには、新技術を開発してオープンソースにしてきた長い歴史がある」としつつ、「最近では、オープンソースコミュニティとクラウドプロバイダーが、オープンソースのマネタイズに関して衝突している。われわれGoogleは、これは顧客にも開発コミュニティにもよいことではないと考えている」と語った。
そしてKurian氏は、オープンソースのデータベース関連の企業7社と戦略的提携を新たに発表している。Confluent(Apache Kafka)、DataStax(Apache Cassandra)、Elastic、InfluxData(InflusDB)、MongoDB、Neo4j、Redis Labsといった各社で、それぞれのプロダクトを、GCPに統合したマネージドサービスとして提供する。
背景として、Redis LabsやMongoDB、Kafkaは先ごろ、クラウドプロバイダーによる商用サービスを制限するようにライセンスを変更し、Kurian氏の言うような議論を呼んでいたことがある。
基調講演にはRedis LabsのCEOのOfer Bengal氏が登壇した。氏は「この提携はすばらしいことだ。オープンソースのマネタイジングはベンダーにとって常に大きな課題だからだ」と語った。
そして、Googleネイティブの「Cloud Memorystore for Redis」とRedis Labの「Redis Enterprise」とで、同じユーザーエクスペリエンスで利用できることを評価。そのうえで、ユースケースによってClod MemorystoreとRedis Enterpriseが使い分けられるだろうとコメントした。
続いて登場したGoogleのGopal Ashok氏(Product Manager, Database)も「選択の問題」とし、Redis EnterpriseでもGCPと統合したサポート、統合した支払い、統合した使い勝手がもたらされると語った。
実際に、GCPのコンソールからRedis Enterpriseのインスタンスを作成するところをデモ。さらに、モニタリング画面がGCPのコンソールに表示されるところをメリットとして見せた。
Knativeベースのサーバーレスコンピューティング「Cloud Run」
なお、Kurian氏のスライドで名前が挙がっていたものの、具体的な説明はなかった「Cloud Run」も、同日に新発表されており、別途開催されたプレス説明会でOren Teich氏(Director, Product Management)が解説した。現在はパブリックベータとして公開されている。
Cloud Runはフルマネージドのサーバーレスコンピューティングのサービスだ。HTTPリクエストにより起動し、自動的にスケールする。Kubernetes上で動くオープンソースのサーバーレスコンピュータプラットフォーム「Knative」をベースにしており、ポータビリティがあるのが特徴である。
単体のサービスとしてのCloud Runのほか、ユーザーがGKEで作ったクラスターでアドオンとして動く「Cloud Run on GKE」も提供される。
GCPではすでにサーバーレスプラットフォームとして「Cloud Functions」を提供している。Teich氏の説明によると、Cloud Functionsではイベントに対応するコードだけをユーザーが用意すれば、あとはサービスがうまく動かしてくれる。それに対してCloud Runでは、Knative内部でコードを動かすコンテナをユーザーがカスタマイズできる。
プレス陣からの「Cloud Runの対応プログラミング言語は?」という質問に、Teich氏がジョークまじりに「答えはDockerfile。つまり何でも」と答えているが、こうした性質を指したものだ。
「利用者は、例えば数値計算のためにNumPyやPandasを使いたい、動画変換のためにFFmpegライブラリを使いたい、独自のバイナリを使いたい、といった要望がある」とTeich氏。Cloud Runでは、基になるDockerイメージを指定することで、ユーザーコードの動くコンテナをビルドするときにそのDockerイメージが使われる。
Cloud Runについては、Datadog、NodeSource、GitLab、StackBlitzとのパートナーシップがアナウンスされている。また先行ユーザーとして、エネルギーや水のグローバル企業であるVeoliaがCloud Runを、Airbusの商用ドローンサービスのスタートアップであるAirbus AerialがCloud Run on GKEを採用したことがアナウンスされている。
なお、Cloud Functionsについても機能追加が同時に発表された。対応言語としては、Node.js 8、Python 3.7、Go 1.11がGA(正式リリース)に、Node.js 10がベータ版に、Java 8とGo 1.12がアルファ版になった。
また、Node.js 10用の「Functions Framework」がオープンソースとして公開された。Cloud FunctionsからVPCのリソースにアクセスする「Serverless VPC Access」もベータ版として開始した。ファンクションごとの異なるIDを持つ「Per-function identity」機能がGAとして、スケーリングに制限をかけられる「Scaling controls」機能がベータ版として開始した。
このほか、Googleがサーバーレスコンピューティングの先駆けとして位置づけているApp Engineでも新機能が発表された。Node.js 10、Go 1.11、PHP 7.2がGAに、Ruby 2.5とJava 11がアルファ版となった。Cloud Functionsと同様にServerless VPC Accessにも対応した。
SAP向けの大容量メモリの仮想マシン
これら以外では、SAP向けに、メモリ6TBと12TBの仮想マシンがアーリーアクセス版として発表された。
SAP向けに求められる要素として、Brad Calder氏(VP of Engineering, Technical Infrastructure)は、可用性、セキュリティ、柔軟性を挙げた。「システムで大きな金額が動くため、ダウンタイムは非常に高くつく」とCalder氏。そのため、ライブマイグレーションやセキュリティアップデートなどもダウンタイムを最小にする必要がある。
そのデモとして、Hanan Youssef氏(Product Manager for High Memory VMs)が、S4HANAを動かすTBクラスのメモリーで秒数万トランザクションのインスタンスを、ダウンタイムなしでライブマイグレーションさせるところを実演してみせた。