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SAPジャパン、「SAP NOW」の基調講演で福田社長が「インテリジェントエンタープライズ」について語る

 SAPジャパン株式会社は2日、ザ・プリンスパークタワー東京で年次イベント「SAP NOW」を開催した。オープニングのキーノートセッションでは、SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏と米SAP Chief Innovation Officerのユルゲン・ミュラー氏が登壇し、「インテリジェントエンタープライズ」をテーマに基調講演を行った。

 また、「インダストリー4.0とソサエティ5.0を推進するエンタープライズIT」と題し、ドイツ工学アカデミー(acatech)会長 ヘニング・カガーマン氏による特別講演も行われている。

エンタープライズITはインテリジェントエンタープライズへと変革

 基調講演に登壇したSAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏は、「ここ数年で、エンタープライズITの環境は大きく変わりつつある。IoT、ビッグデータ、アナリティクス、マシンラーニング、AIなど、データドリブンによって、今を把握することはもちろん、未来を予見したり、未来をコントロールすることも現実のものになってきている。そして、ビジネスに知性を身につけたインテリジェントな企業が登場し、各業界のルールや常識を変え、私たちの日常生活をも大きく変えようとしている」と、エンタープライズITはインテリジェントエンタープライズへと変革しつつあると語る。

SAPジャパン 代表取締役社長の福田譲氏

 インテリジェントエンタープライズについて福田氏は、スポーツを例に挙げて説明。「ビジネスとスポーツは、関係性がないように思えるが、ITによって自身のパフォーマンスを上げることで結果を出すという点では目指すゴールは同じだと考えている。例えば、今回のサッカーワールドカップロシア大会は、試合の経過がリアルタイムにデータ化された初の“デジタルワールドカップ”として、世界のデータアナリストやスポーツアナリストから注目を集めた。データドリブンによってチーム強化に取り組む国も出てきており、特にドイツ代表チームは2006年からデータサッカーに本格的に着手し、サッカースタイルを大きく変革させている」とした。

 実際にSAPでは、ドイツ代表チームと共同で、SAP Sports Oneソリューションを開発し、その取り組みをサポートしてきたという。「ドイツ代表チームは、練習や試合のさまざまなデータから、選手のパフォーマンスを上げるための重要なKPIを発見・設定し、デジタルツインを作成。そこから得られたインサイトをもとに、実際に指導方法や練習方法を変えていった。ここでポイントになるのは、データを可視化して知見を得るだけで終わらせず、それを物理世界に戻すということ。モノづくりに例えると、生産ラインからデータを収集・分析し、さまざまな気づきを得たら、物理的に生産ラインを変え、働く人のスキルを変えていくことが重要になる」と、データドリブンによってパフォーマンスを上げるためのポイントは、スポーツもビジネスも同じであると強調した。

 ここで、SAP Chief Innovation Officerのユルゲン・ミュラー氏が登壇。「AIや機械学習の進化によって、数年後には、人間が行っている作業の約60%が自動化されると予測されている。これは、1960年代の『産業オートメーション』から1980年代の『ビジネスプロセスオートメーション』、2000年代の『デジタル変革』を経て、インテリジェントエンタープライズへと向かう道のりでの大きな変化であり、自動化が進むことで、反復的な業務が減少し、高価値の業務が増加していく。そして、これによって企業の生産性も高まっていくことになる」とし、インテリジェントエンタープライズの実現に欠かせない要素として、「インテリジェントスイート」、「インテリジェントテクノロジー」、「デジタルプラットフォーム」の3つを挙げた。

SAP Chief Innovation Officerのユルゲン・ミュラー氏

 この中でも、インテリジェントエンタープライズの中核となる「インテリジェントテクノロジー」がビジネスにもたらす価値について、ミュラー氏は、「『アナリティクス』によって、データ主導型の意思決定が可能となる。『機械学習』では、自動運転型のビジネスソリューションを展開できる。『IoT』では、デジタルツインによって現実世界を再現することが可能だ。『ブロックチェーン』では、信頼のコミュニティとスマートコントラクトを実現する。『データインテリジェンス』では、データを商品として提供できるようになる」としている。

インテリジェントエンタープライズへの道のり
インテリジェントエンタープライズに必要な3つの要素

 また、ミュラー氏は、顧客企業のデジタル変革を支援する「SAP Leonardo Center」の展開についても言及し、「現在、『SAP Leonardo Center』は、ニューヨーク、サン・レオポルド(ブラジル)、パリ、バンガロール(インド)、シンガポールの世界5カ国に展開している。今後、さらに拠点を拡大していく計画で、東京をはじめソウル、上海、モスクワ、ベルリン、ヨハネスブルグ(南アフリカ)、シリコンバレーへの設置を予定している」と、今後の計画を明らかにした。

 再び、SAPジャパン 代表取締役社長の福田氏が登壇し、「ビジネスをよりインテリジェントに、データドリブンに変えて、ビジネス全体をデジタル化していく取り組みは、日本でも本格的に始まりつつある」と述べ、SAPジャパンとコマツ、NTTドコモ、オプティムによる合弁会社ランドログの取り組み事例を紹介。「国内の建設現場をデータドリブンによって大きく変えようとしている」と訴えた。

 さらに、昨年立ち上げたオープンな異業種コミュニティ「Business Innovators Network」の活動にも触れ、「現在、『Business Innovators Network』には、本気で変革を志向する企業やベンチャーキャピタル/アクセラレーター、スタートアップ、自治体/アカデミアなどが立場を超えて集まっている。今年11月には、企業の変革を起こすオープンイノベーションの実行拠点として、東京・大手町に『TechLab』を開設し、日本のイノベーションに総力を挙げて取り組んでいく」と意欲を見せていた。

インダストリー4.0時代でのビジネスはバイモーダル化がポイントに

 続いてカガーマン氏が、「インダストリー4.0とソサエティ5.0を推進するエンタープライズIT」をテーマに特別講演を行った。

ドイツ工学アカデミー(acatech)会長のヘニング・カガーマン氏

 カガーマン氏は、インダストリー4.0が提供するビジネス価値について、「従来のインダストリー3.0では、コンピュータ化とコネクティビティがビジネス価値であった。これに対して、インダストリー4.0では、現状を把握する『可視性』から、原因を理解する『透明性』、未来への備えを提供する『予測可能性』、自己最適化を実現する『適応性』まで、データによるビジネス価値がもたらされることになる」と説明する。そして、デジタルエコノミーのビジネスモデルとして、価値を生み出すための「価値創造のアーキテクチャ」、価値を提供するための「バリュープロポジション」、収益/利益を生み出すための「利益方程式」のサイクルが重要であると指摘した。

 これからのERPの方向性としては、「ERPのプロセスを、タスクベースの仕事と行動ベースの仕事に分割して対応する必要があると考えている。タスクベースの仕事は、コネクテッドマシンやコネクテッドフリート、コネクテッドグッズなどAIを活用した自律システムで処理を行う。一方、柔軟性が必要な行動ベースの仕事は、設計・生産・ロジスティクスなど関係者とのコラボレーションやビジネスネットワークを通じて、それぞれの状況に応じたテーラーメードの対応を行っていくことになる」と述べた。

 また、ソフトウェアアーキテクチャの未来像については、「スマートアプリケーション」、「クラウドベースのテクノロジープラットフォーム」、「非集中型のデータハブと環境」の3層に集約されるとの見解を示した。

 「インダストリー4.0時代でのビジネスは、新旧2つのテクノロジーとビジネスコンセプトが共生するバイモーダル化がポイントになる」とカガーマン氏。1つめのコンセプトは、確立されたビジネスモデルをベースにした「ビジネスの最適化」で、従来の生産方式のスマート化、バリューチェーン、RPAによる自動化プロセスの活用をキーテクノロジーに挙げている。

 もう1つのコンセプトは、新しいデジタルビジネスモデルによる「ビジネスの差別化」。イノベーションと俊敏性、分散型でコネクテッドな自律システムとチーム、AIを活用した適応性のあるプロセスをキーテクノロジーとして挙げた。「これら2つのビジネスコンセプトを、クラウドベースのテクノロジープラットフォームで統合的に運営していくことが重要だ」としている。

 インダストリー4.0におけるエンタープライズITの課題についてカガーマン氏は、「まず、デジタルエコノミーの実現に向けて、業界や国を超えて相互運用可能なデジタル技術プラットフォームが重要だ。また、マシン同士の自律的なデータ交換が発生するため、これに対応する新たなサイバーセキュリティが求められる。そして、人とロボットをいかに共生させていくかも大きな課題だと考えている。人とロボットのハイブリッドチームで問題を解決していくためには、ロボットが人の行動に適応して動くようになる必要がある」と語った。