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イノベーションは皆の協力によって実現する――、SAPジャパン・福田社長が会見

 SAPジャパン株式会社は21日、2019年のビジネス戦略に関する会見を開催し、代表取締役社長の福田譲氏が社長就任以来の実績を振り返るとともに、同社の取り組みについて解説した。

SAPジャパン 代表取締役社長 福田譲氏

 福田氏が社長に就任したのは2014年7月。以来4年半が経過したことになる。同氏は過去4年間でSAPジャパンの総売上高が53%成長したとし、「特に2016~2018年はグローバルを大きく上回る成長を遂げ、SAPの中でも各国チームから一目置かれる存在になった」と述べた。

2014年、福田氏社長就任時の施策
SAPジャパンの売上は4年間で53%成長した

 高成長の背景として、福田氏は就任時に掲げた施策に対するこれまでの取り組みを振り返った。まず、グローバルでの知見を活用し、業界別に取り組みを進めるとしていた点については、「SAPの中核ビジネスがERPということもあり、当時は製造業と非製造業の顧客の割合が7対3程度だったが、今では非製造業が製造業を越えるまでに成長した」としている。中でも、公益事業は製造業に匹敵するほどのビジネスに成長したほか、自動車業界との関係も深まっているという。一方、保険業界への取り組みは時間がかかっていることも明かした。

 クラウド事業に関しては、「日本でも今や新規導入の3分の1がクラウドだ」と福田氏。グローバルではより多くの顧客がクラウドを導入しているというが、「日本では中長期的に利用することを踏まえ、クラウド利用ではなく買い取りを選択する顧客が多い」と福田氏は説明している。一方で、数年前まではERPをクラウドで利用するなど検討もされないような状況だったが、「この壁は思ったほど高くはなかった。住友商事が基幹業務システムにSAPのクラウドソリューションを導入するなど、顧客の変化のスピードは速い」と述べている。

 また福田氏は就任時、SAPジャパンのグローバル化も進めるとしていたが、この点については「経営層を含め、グローバル人材の採用を強化し、日本人以外の社員の数も倍増した」としている。「社内の英語化も推進し、世界で通用する人材を育てている。新卒社員は、世界50カ国の同期社員と半年以上共同生活してグローバル感覚を身につける教育研修にも参加した。また、既存の管理職も順次シリコンバレーに送り込み、さまざまな研修を受けている」と福田氏は説明する。

 さらに、ERPに再フォーカスするとしていた点については、「SAP S/4 HANA」が登場したこともあり、同製品を中心に進んでいるという。ただし、「やはり日本特有の難しさもある」と福田氏は述べ、ユーザー会JSUGにて進めている「ニッポンのERP再定義委員会」をはじめとして、「国内でのERPの取り組み方を再検討し、世界に劣らない企業ITの実現に向けて皆で協力して課題を解決していきたい」と話す。

 プラットフォームとテクノロジーへの取り組みについては、その一環としてパートナーとの連携強化を謳っていたが、今回の会見会場となった「Inspired.Lab」も、さまざまな企業と協力してイノベーションに取り組むべく三菱地所と共同で立ち上げた施設だ。同施設の別フロアには、SAPのソリューションを発信する拠点として「Leonardo Center」も開設予定で、「これからも皆でオープンにイノベーションに取り組む行動を加速させたい」としている。

2019年に注力することとは

 続いて福田氏は、2019年に注力する内容を語った。それは、次世代企業ITアーキテクチャとしてのインテリジェントエンタープライズを普及させること、日本型デジタル変革のフレームワークを作ること、そして協働イノベーションのためのデジタルエコシステムに取り組むことだ。

2019年にフォーカスする分野

 その具体例として福田氏は、SAP HANAを導入し工場用副資材の提供方法でイノベーションを起こしたトラスコ中山の事例を紹介した。

 トラスコ中山では、物品の調達が大変な建設現場において、「置き薬」のような「置き工具」ができる仕組みを構築。現場で必要となる可能性の高い工具を事前にストックしてもらい、使った分のみ請求することで、究極の短納期を実現しているという。福田氏は、「現状のプラクティスを他の方法に置き換えるイノベーションで、理想的な取り組みだ」と話す。

【お詫びと訂正】

  • 初出時、トラスコ中山社の社名を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。

 福田氏によると、全員が革新的な思考を持ち、アイデアを最速で実現するためには、「People(人)」「Process(プロセス)」「Place(場所)」が課題だと指摘、SAPではこの3つの「P」のパッケージ化に取り組んでいるという。

 Peopleについては、「物事を変えたいと考えているさまざまな人たちと交わり、各分野のプレイヤーが一緒になって変えていくことが必要だ」という。Processに関しては、「新しいモノが生まれる仕組みを形式化したい。デザインシンキングもそのひとつだ」と話す。この仕組みを業種別・業務別にまとめたものが「SAP Leonardo」だという。

 Placeについては、新事業が無秩序な広がり方をすると既存ビジネスに悪影響を及ぼす可能性があるため、特定の範囲を設けることが必要だとする一方で、「新事業立ち上げの環境は必ずしも最適化されていない。承認プロセスやリスクも関わってくるためだ。しかし、リスクあってもそれを管理して取り組むのがイノベーションで、違った考えやルールがなければ新しいモノは生まれない」と福田氏は説明、適切な場の重要性を主張した。

 このほか、デジタル変革のフレームワーク作りとしては、まず企業トップに理解してもらうところから、デザインシンキングをベースに新事業をパイロットとして立ち上げるまでを日本向けにカスタマイズしてフレームワーク化するという。「どの順番で何をすれば変革できるのか、経験を積んでわかってきた。デザインシンキングの方法論も含め、まとめてパッケージ化していきたい」と福田氏は述べた。