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OpenStack Days 2018とCloud Native Days Tokyo 2018が開催、OpenStackとコンテナの最新動向を紹介

 8月2日~3日、クラウド基盤ソフトウェアOpenStackに関するカンファレンス「OpenStack Days 2018」が開催された。2日間の来場者数は、のべ約1700名(ユニーク数1100名)。

 今年は、クラウドネイティブなインフラからアプリケーションまでを扱う「Cloud Native Days Tokyo 2018」が同時開催となったのが最大の特徴だ。これにより、クラウドのインフラからアプリケーションまでの各レイヤーまで幅広いテーマをカバーするイベントとなった。

 各種セッションを見た印象としても、今回はOpenStackの話題にも増して、Kubernetesによるコンテナインフラの話題が多かった。そのほか、機械学習関連の話題も目立っている。

 なお開会あいさつに立った実行委員会委員長の長谷川章博氏は、今年の特徴として、Cloud Native Days Tokyo 2018同時開催に加え、参加の有償化を挙げた。

 また、「consumption(消費)よりcontribution(貢献)しよう」という言葉を掲げ、スピーカーやイベントを支えることも貢献だと語った。

実行委員会委員長の長谷川章博氏

OpenStackの最新状況を紹介

 1日目の基調講演には、OpenStack FoundationのExecutive DirectorであるJonathan Bryce氏と、Cloud Foundry FoundationのExecutive DirectorであるAbby Kearns氏が登壇した。それぞれ、OpenStack DaysとCloud Native Daysの基調講演といえる。

 Bryce氏は、OpenStackおよびOpenStack Foundationの現状について講演した。

 まずBryce氏は、OpenStackユーザー調査の結果を紹介した。現在、合計1000万のCPUコアで動いており、71%の事業者が使っている、または使おうとしているとのこと。2018年時点で61億ドルの市場機会があり、非常にグローバルに使われている。

OpenStack FoundationのJonathan Bryce氏(Executive Director)
OpenStackは合計1000万のCPUコアで動いている
71%の事業者が使っているまたは使おうとしている
2018年時点で61億ドルの市場機会

 OpenStackにはさまざまなプロジェクトがある。その中からBryce氏は、最近の重要なトピックとして、Nova(コンピュート)のvGPUサポートと、複数バージョンにわたるアップグレードを実行するFast Forward Upgrade、1つのバージョンのメンテナンスサポート期間として、従来の18カ月間を超えるExtended Maintenance Branchを紹介した。

OpenStackのさまざまなプロジェクト
NovaのvGPUサポート
Fast forward Upgrade
Extended Maintenance Branch

 続いてBryce氏は、クラウド技術はさまざまな業種で使われていると説明した。「ワークロードも機械学習やコンテナなどいろいろ広がり、動かす場所も自動車などのエッジコンピューティングに広がった。アーキテクチャもGPUやFPGAなどに広がっている。関連するオープンソースソフトウェアの数も増えている」。

 また、「クラウドは特定の会社など集約される方向に向かうと思われていたが、現在では多様化に向かっている」とBryce氏は述べた。

さまざまなワークロード
動く場所もさまざま
さまざまなアーキテクチャ
オープンソースソフトウェアもさまざま

 これをふまえたOpenStackの戦略として、Bryce氏は「ユースケース」「コラボレーション」「新技術」「すべてをテストする」の4つのステップを語った。

 ユースケースとしては、コンテナやエッジコンピューティングの分野についてホワイトペーパーを作った。エッジコンピューティングについてはよく言われる通信事業者分野だけでなく、製造や小売りも扱っているという。

「ユースケース」「コラボレーション」「新技術」「すべてをテストする」の4つのステップ
コンテナのユースケースのホワイトペーパー

 コラボレーションについては、1つのテクノロジーやコミュニティではカバーできないとして、開発コミュニティ間のコラボレーションが重要だと語った。そして、エッジコンピューティングでの例が紹介された。

エッジコンピューティングでの開発コミュニティ間のコラボレーション

 新技術については、OpenStack Foundationの新しいプロジェクトが紹介されている。「Kata Container」は、コンテナとして使う軽量仮想マシン。「Zuul」はOpenStackの開発で使われているCIツールで、GitHubやほかのクラウドにも対応している。「StarlingX」はエッジコンピューティングのプラットフォームで、インダストリアルIoTなどで使われる。「Airship」は、クラウド基盤の運用と管理のためのツールだ。

軽量仮想マシン「Kata Container」
CIツール「Zuul」
エッジコンピューティングの「StarlingX」
運用と管理のための「Airship」

 OpenLabやOpenCIを使って、複数のプロジェクトを、OpenStackを含む複数のプラットフォームでテストしている例が紹介された。

複数のプロジェクトを、OpenStackを含む複数のプラットフォームでテスト

 Bryce氏は最後に、「こうしたものを組み合わせることで大きなチャンスが広がっている」と、オープンソースとコラボレーションによるオープンなインフラを強調した。

PaaSはデジタルトランスフォーメーションのために

 Cloud Foundry FoundationのAbby Kearns氏も、デジタル変革とクラウドへの流れについて講演した。

 Kearns氏は、「最近、デジタルネイティブな銀行に口座を移した」という「新しい選択」の話から始めた。使い方が簡単でシンプル、そして何より自分で「コントロール」できることにより、人生が楽になったという。

 このように、顧客のニーズが変化し、どの業界でもテクノロジーの利点を享受することが大切になってくることで、すべての企業がクラウド化されてきた。「クラウドは、新しいアイデアをすばやく実現し、イノベーションを起こす能力だ」とKearns氏は語った。

 クラウドでは技術が日進月歩でベンダーも変わっていく。新しい技術と従来の技術を結び、外部の技術と内部の技術を組み合わせることが求められるとKearns氏は言う。

 Kearns氏は最新の調査から、クラウドネイティブのアプリケーションは、今後2年で100%増(2倍)となると予測されていることを紹介した。

Cloud Foundry FoundationのAbby Kearns氏(Executive Director)
クラウドネイティブのアプリケーションは、今後2年で100%増(2倍)となると予測

 このとき、CIOから見ると、考えるのは投資とその回収だ。またシステム運用部門から見ると、考えるのはインフラとそのアーキテクチャだ。さらに開発者から見ると、考えるのは未来をどう作るかということだ。

 「これらの立場の連携をとるのがCloud Foundryの役割だ」とKearns氏。氏はCloud FoundryのようなPaaSが必要な理由を「デジタルトランスフォーメーションのため」の一言に集約した。PaaSの即応性によって「早く失敗する」ことができ、イノベーションのサイクルを早く回せ、顧客の要望に応える。

Cloud Foundryの構成
PaaSはデジタルトランスフォーメーションのため

 ここでKearns氏は、Cloud Foundryを採用した企業の例を紹介した。楽天の場合は「フレキシビリティ」が目的で、5000の仮想マシンの1200以上のアプリケーションを、2つのデータセンターと複数のクラウドで運用しているという。

 Yahoo! JAPANの場合は「スケーラビリティ」が目的で、国内最大級のアクセスがあるサイトで利用者のニーズを満たすために、OpenStack上でCloud Foundryを動かしているとした。

 またホームデポの場合は「スピード」が目的で、これによりAmazonと競合する中で売り上げを伸ばしているという。

楽天の採用事例:柔軟性のために採用
Yahoo! JAPANの採用事例:スケーラビリティのために採用
ホームデポの採用事例:スピードのために採用

 Kearns氏はオープンソースの力についても語った。オープンソースソフトウェア(OSS)は1社や1人で作っているわけではなく、それによって1社ではできないペースで開発が行われている。

 そのためにも、コントリビュートの重要性、スキルのある技術者を増やすためのトレーニングの必要性、コミュニティへの参加の重要性、といた3つをKearns氏は訴えた。

 最後にKearns氏は、冒頭の言葉を再び使って「コントロールを手にするための選択」という言葉を掲げた。そして「いかにしてコントロールを手にするか。クラウドはみなさんの手元にある」と語った。

企業のコンテナプラットフォーム採用のパターン

 2日目の基調講演としては、コンテナプラットフォームによるクラウドネイティブへの変化について、ガートナージャパン株式会社 リサーチディレクターの桂島航氏が理論面を、ゼットラボ株式会社 代表取締役の河宜成氏が実体験を語った。

 ガートナーの桂島航氏は、コンテナへの誤解として、「エンタープライズにはまだまだ」「マイクロサービスのためのもの」「仮想マシンの置き換え」「サーバーレスで置き換えられる」といったものを紹介。そして、ガートナーの調査結果から、本番環境でコンテナを使っている企業が多いこと、ただし大規模はまだこれからであることに触れている。

ガートナージャパン株式会社の桂島航氏(リサーチディレクター)
コンテナの採用状況

 コンテナのユースケースの方向性として桂島氏は、既存アプリケーションをコンテナに持っていってモダナイズするリフト&シフト、既存アプリケーションを作り変えて持っていくケース、新しいマイクロサービスを作るケースの3つを挙げた。

 このうち現状についてガードナーでは、新しいマイクロサービスを作るケースが多いと考えており、これからリフト&シフトが増えるのではないかと考えているという。作り変えるのは専門知識やノウハウが必要で難しいのではないかと考えており、今そのノウハウがたまりつつあるという。

 ガートナーではKubernetesによるコンテナプラットフォームのリファレンスアーキテクチャを定義した。そこから、企業で動かすために今のKubernetesでは足りないものとして、VMに比べると隔離性が低いことや、コンテナレベルでの性能監視などのモニタリング、サービスディスカバリ、DevOpsなどが挙がったという。そして、これらをKubernetes周辺のソリューションが補っていると桂島氏は語った。

 コンテナプラットフォームのこれからとしては、エンタープライズでの採用、ISVでの採用、買収や製品の統廃合などのベンダーの動き、サーバーレスなどほかの技術との重ねあわせ、セキュリティの改善などを桂島氏は語った。

 最後に、ガートナーの推奨として、(インフラ担当者は)自社にコンテナについてどんな計画があるかをアプリケーション開発者に確認することを挙げた。また、ベンダーのプランを明確にすることと、要件を明確にすることを勧めている。

コンテナのユースケースの3つの方向性
コンテナプラットフォームのリファレンスアーキテクチャ

クラウドネイティブによる技術、エンジニア、組織の変化

 ゼットラボの河氏は、クラウドネイティブによって体験した変化について語った。同社はヤフー株式会社の100%子会社で、基盤開発および構築を担当。Yahoo! JAPANのKubernetes as a Service基盤を構築し、Yahoo!ズバトクで採用されている。

 河宜成氏は変化を、技術の変化、エンジニアの変化、組織の変化の3つから説明した。

 技術の変化としては、Dockerにより、開発環境や本番環境の間で環境依存がなくポータブルになった。また、Kubernetesにより、大規模で煩雑な管理を人でなく機械が行うようになり、リソースを抽象化し、さまざまな関連技術が次々と現れるようになった。

 また、エンジニアも変化を強制されるとして、早く失敗すること、常に新しいものをウォッチして使うこと、変化に対応するために手作業を最小化して自動化を最大化すること、個人で技術を追いかけるのは不可能なので、身近に相談できる人を増やすことなどを挙げた。

ゼットラボ株式会社の河宜成氏(代表取締役)
技術の変化:リソースを抽象化して煩雑な管理を機械が行う
エンジニアの変化:変化に対応するために自動化

 これら2つ以上に大きいのが組織の変化だ。クラウドネイティブ導入期には何を始めたらいいかわからないため、ファーストペンギン(群の中から最初に水に飛び込むペンギン=挑戦者)に「早く失敗する」方法で活躍してもらう。

 このとき、「ビジネスに影響がありすぎてもなさすぎてもだめ。ビジネスへの影響が中ぐらいのものが最適」と河氏は説明した。

 また、クラウドネイティブ以前と以後ではまったく別物なので、特に段階的移行では移行前の仕様を持ち込まないように注意する必要があるという。また、イニシャルコストがかかるのである程度寛大な気持ちでいることも語られた。

 こうしてクラウドネイティブが成長期になれば、ファーストペンギンからノウハウを共有して開発者を増やす。このとき注意するのは、管理されないコンテナの重複や、セキュリティと監査などさまざまな課題が出てくることだという。「この問題はエンジニア個人では解決できないので、早めに組織で対応したほうがいい」と河氏は語った。

最初はビジネスに影響がありすぎてもなさすぎてもだめ
さまざまな課題が出てくる

 「この3つの変化は非常に大変だ。しかし、これを乗り越えれば変化を受け入れられる人材や組織になり、将来の技術導入や技術変化にすばやく対応できる。それをひしひしと感じている」と河氏。「クラウドネイティブの波にのって組織を変えるには、今が最適と感じている」

3つの変化により変化に対応できる組織に

モバイルキャリア3社のエンジニアが語るNFVの現場

 さまざまなブレークアウトセッションも開かれた。

 パネルディスカッション「オープンなNFVインフラの実状と5Gでの期待」では、OpenStackのユースケースの1つである通信事業者のNFVについて、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのモバイルキャリア3社でNFV関連の仕事をしている3人が集まった。

 登壇者は、株式会社NTTドコモの中島佳宏氏(ネットワーク開発部)、KDDI株式会社の宮本元氏(モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部)、ソフトバンク株式会社の三上紘輝氏(コア&トランスポート技術本部 コアネットワーク統括部 モバイルコアネットワーク部 NFV推進課)。司会は日本電気株式会社(NEC)の壬生亮太氏(SDN/NFVソリューション事業部)。

 NFVとOpenStackの導入目的や利点については、自動化や、短期でサービスを動かせるようになったことなどが挙げられた。さらには、ハードとひもづくのをやめたことで故障時のサービス継続性が改善されたという話も出た。「ITではあまりないが、モバイルキャリアのコアネットワークで問題が起こると、深夜かけつけになる」(中島氏)。

株式会社NTTドコモの中島佳宏氏(ネットワーク開発部)

 またNFVにより、専用のベンダー以外にも声をかけられ、選定に呼べるようになったという。「決まった会社ばかりだと競争がない。そこから脱却できる」(三上氏)点は大きなメリットだ。

ソフトバンク株式会社の三上紘輝氏(コア&トランスポート技術本部 コアネットワーク統括部 モバイルコアネットワーク部 NFV推進課)

 NFVの課題としては、まず技術面では、性能的には十分なものとなっているのではないか、ソフトウェアスイッチがボトルネックになっているのではないかという話が出た。

 また運用自動化については、「自動修復やオートスケールについては以前からの延長で導入しやすいが、ビジネスプロセスの自動化となると大変。とはいえ、人の手でやることは残るが、何割かは自動化できるのではないかと思う」(宮本氏)とする。

KDDI株式会社の宮本元氏(モバイル技術本部 次世代ネットワーク開発部)

 経済的な面については、専用ハードウェアがなくなることでコスト削減を期待されるが、OSSといってもベンダーのサポートを受けるのでタダにはならないことや、今後はOpenStackのアップグレードが問題になるのではないかという話が出た。

NECの壬生亮太氏(SDN/NFVソリューション事業部)

 最後に、5Gについても話し合われた。宮本氏は個人的な意見として、低遅延になるとVRなどできることが増えて楽しくなるのではないかと語った。中島氏は、5Gを含めてNFVによる仮想化を使いやすく運用したいものにしたいと語った。三上氏は、5Gによって新しいコラボレーションが広がることへの期待を語った。

OpenStackの誕生8周年を祝う

 会場には展示会場が設けられ、各社のOpenStackやクラウドに関連したソリューションが展示された。

展示会場の様子

 同会場では初日の夕方、参加者交流会の中で、毎年恒例であるOpenStackの誕生記念パーティーが開かれた。8周年を記念するケーキが飾られ、参加者に切り分けられた。

OpenStack誕生8周年記念ケーキ
OpenStack FoundationのJonathan Bryce氏と実行委員会委員長の長谷川章博氏を中心に記念撮影