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Google、Cloud Next'18でAIの大衆化を実現する「AutoML」の新API、「G Suite」の拡張などを発表

G Suiteはデータを置くリージョンを選択可能に

 Googleは、7月24日~7月26日(現地時間)の3日間にわたり、同社のクラウドサービスである「Google Cloud」の戦略や技術、開発ツールなどについての説明を行うイベントとなる「Google Cloud Next '18」(以下Next '18)を、米国カリフォルニア州サンフランシスコ市にあるモスコーン・センター・サウスで開催している。

 7月24日午前からは、初日の基調講演が行われ、Google Cloud部門 CEO ダイアン・グリーン氏などGoogle Cloud部門の幹部が登壇して説明した。

Google Cloud CEO ダイアン・グリーン氏

 この中でGoogleは、同社が2018年1月に発表した、クラウドベースのマシンラーニング(機械学習)向けのサービス「AutoML」のAPIが拡張されたことを明らかにした。発表と同時に提供される「AutoML Vision」に加えて、自然言語向けの「AutoML Natural Language」、翻訳向けの「AutoML Translation」を提供するという。

 また、同社が企業や個人事業主などビジネス向けに提供しているクラウドサービスの「G Suite」も拡張され、セキュリティ機能が強化されるほか、企業が自社のデータを置くサーバーのリージョン(地域)が選べるようになった。

 これにより、コンプライアンスの規定から国外のパブリッククラウドにデータを置くことを不可にしている企業でも、国内のデータセンターを指定することで回避できる可能性が出てくる。

AutoMLの新しいAPIとしてAutoML Natural Language/Translationを追加、日経新聞が機械翻訳の精度向上に採用

 Googleは1月17日(現地時間)に、AutoMLと呼ばれる新しいGoogle Cloudのサービスを発表している(発表時点の記事は僚誌PC Watchの記事を参照)。

 このAutoMLは、Google Cloudが提供しているマシンラーニング(機械学習、以下ML)サービスをベースにした開発されたサービスで、ユーザーが持っているデータをGoogleのMLに学習させることで、自前のMLエンジンを構築することができるようになる。

 従来であれば、MLを利用するには、MLを理解しているエンジニアがコードを自分で書き、MLのモデルを構築し、それにデータを読み込ませて学習していくという専門知識を必要とするものだった。

 しかしAutoMLを利用すれば、データさえあれば誰でもAIを作ることができるため、専門のデータ科学者がいないような企業や、個人のプログラマーなどでもAIが利用できるようになるサービスとして注目を集めていた。Googleではこれをもって「AIの大衆化」と表現しており、誰もがAIを使いこなせるような世の中にするためのファーストステップだと常々説明している。

Google CloudのAIを使うユーザーは増え続けている
1月に発表されたAutoML Vision

 AutoMLは発表時点では「AutoML Vision」という画像認識に特化したAPIが提供され、既に利用できるようになっていたが、今回のNext '18ではそれに加えて自然言語向けの「AutoML Natural Language」、翻訳向けの「AutoML Translation」という2つのAPIが追加されたことが明らかにされた。

 例えばAutoML Translationでは、日本語>英語の翻訳記事を持っている出版社などがそのデータを元にAutoMLで学習させることで、自動翻訳の精度を高めることができるという。Googleによれば、日経新聞がこのAutoML Translationを利用し、日経新聞の日本語の記事を英語版に、そして傘下のファイナンシャルタイムズの英語記事にする自動翻訳サービスを自前で構築し、検証したという。

新しく発表されたAutoML Natural LanguageとAutoML Translation
AutoML Visionを利用したデモ、AutoML Visionのパブリックベータが開始されたこともアナウンスされた

 またGoogleは、第3世代のTPUに基づいたアルファ版の提供開始を明らかにした。第3世代のTPUは5月に開催されたGoogle I/Oで概要は発表されていたが、従来世代に比べて高い学習性能を持っていると明らかにされており、Google CloudのMLの学習性能が今後飛躍的に向上していくことになるとGoogleでは説明している。

第3世代TPUのアルファテストが開始された
基調講演の途中にはGoogle CEOのサンダー・ピチャイも登壇した
コンタクトセンターAIと呼ばれるコールセンター用のAIソリューションも発表された
Google Cloud チーフサイエンティスト フェイフェイ・リー氏
AIは人間のためにとGoogleはアピール

G Suiteではデータを置くデータセンターを選べる「データリージョン機能」が追加される

 Googleが企業や個人事業主向けのビジネスプラットフォームとして提供している「G Suite」においても、拡張が発表された。

G Suiteはセキュア、スマート、シンプルを実現する

 特に法人ユーザーにとって注目したいのは、「データリージョン」と呼ばれる新しい管理機能が追加されることだ。

 これは、以前から開発中であることが明らかにされてきた機能。G Suiteのようなクラウドベースのビジネスツールを活用する場合には、データをパブリッククラウドのクラウドストレージに置いておく必要がある。これまでのG Suiteでは、そうしたデータを、Google Cloudのどこのサーバーに置くかを選択することができなかった。

 今回発表されたデータリージョンでは、管理者が明示的にデータをどこに置くかを選ぶことができる。最初の段階ではグローバル(これまでと同様どこのサーバーに置かれているかは分からない設定)、米国、欧州の3つの中から選ぶことができる。この中に日本という選択肢はまだないため、日本のリージョンを明確に指定して、というわけにはいかないが、グローバル企業であれば、米国に社員が多いから米国を明示的に選ぶ、といった選択が可能になる。

 このデータリージョンの機能は、G SuiteのBusiness/Enterpriseどちらの顧客もこれから利用可能になる。日本企業には、日本のデータセンターにデータを格納したいというニーズが強いと考えられるので、早期に日本リージョンも選択できるようになってほしいところだ。

G Suiteにデータリージョンを選択できる機能が追加

 このほかにも、G Suiteのセキュリティ性を高めるツールであるセキュリティセンターの新機能として、新しい調査ツールが提供される。アーリーアダプタープログラム(EAP)としてEnterpriseのSKUを選択している顧客が、プログラムで参加を申し込めば利用できるという。

 この新しい調査ツールを利用すると、ユーザーがセキュリティ的に問題がある使い方をしていないかなどを、管理者がシンプルなUIで監査できるようになる。

G SuiteセキュリティセンターにInvestigation Toolが追加された

 このほか、すでにコンシューマ向けのGmailでは提供が開始されているスマート・コンポーズの機能が、G SuiteのGmailユーザー向けにも提供が開始されたこと、Hangouts Chatにスマートリプライの機能が追加されたこと、ドキュメントにグラマーサゼスチョン機能が追加されたことなどが発表された。

Gmailの新機能スマート・コンポーズ
ハングアウトの新機能となるボイスコマンド
Hangouts Chatにはスマートリプライを追加

エンタープライズITをオンプレミスからクラウドへの移行を促す「Cloud Services Platform」のビジョンを説明

 また、GoogleはNext'18初日の基調講演で、「Cloud Services Platform」のビジョンを説明した。

 Cloud Services Platformは、オンプレミスのITを使っている企業にクラウドへの移行を促すサービス群のこと。現在エンタープライズがオンプレミスで利用しているITシステムをKubernetesのコンテナへと転換し、Google Cloud Platform(GCP)へ移行したり、ハイブリッドクラウド環境を構築するのに役立つツールなどを提供したりしていく。

 例えばIstioの管理やAPIなどの統合環境となるサービスメッシュ、GKE(Google Kubernetes Engine)のオンプレミス機能やポリシー管理機能、GKEを利用したサーバーレスのコンピューティング環境、Cloud Buildと呼ばれる開発ツールなどを提供する。

 Googleによれば、2017年のKubernetes Engineの利用時間は数年前の9倍になっているとのことで、エンタープライズでも利用例が増えてきており注目を集めている。こうしたサービスやツールを利用することで、企業がオンプレミスで運用しているサービスをKubernetesのコンテナにして、まずオンプレミス環境で展開したり、その後クラウドへの移行を実現したりしていく、という狙いがあるものと考えられる。

サーバーにかかるコストでは、管理コストが増え続けている
エンタープライズの75%がKubernetesを選択している
Istio 1.0が製品版に
Google Kubernetes Engineのオンプレミス版が追加される
アルファ版は今年の秋から提供される