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de:code 2018基調講演レポート “女性パワー”で最新の開発ツールを紹介
2018年5月24日 06:00
日本マイクロソフト株式会社は22日から、プライベートイベント「de:code 2018」を開催している。
開発者やITエンジニアを対象としたイベントであり、3時間弱に及んだ今回の基調講演は、現在のマイクロソフトが提供する、開発関連の最新情報が詰め込まれた講演となったが、日本マイクロソフトの代表取締役社長である平野拓也氏を除き、登壇者は全員女性だった。特徴的なできごとといえるだろう。
マルチデバイス時代を考慮してOSを再定義
最初に登壇したのは、日本マイクロソフト 執行役員 常務 デジタルトランスフォーメーション事業本部長の伊藤かつら氏。伊藤氏は、現在マイクロソフトが注力するプラットフォームがMicrosoft Azure、Microsoft 365だとした上で、Intelligent Cloud、Intelligent Edgeというコンセプトに言及。コアとなるテクノロジーとして、1)ユビキタスコンピューティング、2)AI、3)デバイス間にまたがったエクスペリエンス、の3つについて言及した。
この中の「AI」については、「The Future Computed」という英語の書籍が2018年1月に発行されている。AIに関する倫理や、仕事にどのように影響していくのかなどについて解説したものだが、5月22日付けで日本語版が提供されたことがアナウンスされた。
3)の「デバイスをまたがったエクスペリエンス」については、マルチデバイス時代を考慮してOSが再定義されたと説明。「Windows 10は全世界で2億台のPCにインストールされているが、使っているデバイスがWindows 10搭載クライアントだけ、という人は限られている」ことから、複数のOS間をまたがった利用を想定した機能が紹介された。
具体的には、Windows 10を搭載したPCとAndroid搭載端末、iOS搭載端末の間を行き来しながら使い勝手を上げる、「Time Line」「Your Phone」という2つの機能が紹介されている。
Time Lineは、2018年春のアップデートでWindows 10に実装された機能。30日前までさかのぼって、利用したファイルをタイムライン上に表示することにより、ファイルを探す手間を削減する。この機能がスマートフォンにも実装されることになり、Android端末ではMicrosoft Launcher、iOS端末ではMicrosoft Edgeから利用できるようになるという。デバイスが異なっても1つのタイムラインでファイルを探せるようになるため、手間が大幅に削減されることになりそうだ。
Your Phoneは、次のアップデートで実装される予定となっており、Windows上でスマートフォンの機能をシームレスに利用できるようにするもの。スマートフォンでの通知をPC上のアプリから確認し、PCに保存された画像をスマートフォンに送って利用する、といった使い方ができるようになる。
次に登壇したのは、Microsoft Azureのコーポレートマーケティングを担当するバイスプレジデントのジュリア・ホワイト氏。Microsoft Azureに関する、「コンテナ+サーバーレス」「IoT」「データ」「AI」の4つのイノベーションについて言及した。
Microsoft Azureはさまざまな用途で活用できるが、提供されているサービスを使うことでより、迅速にサービスの構築を行えるという。
コンテナ+サーバーレスでは、Azure Platform ServicesがWeb Apps、Serverless Functions、Kubernetes Service(AKS)、Service Fabricという4つのサービスを通じて、コンテナベースのモダンなアプリケーションを簡単に構築できるとした。
また新しい機能の1つが、Azure Event Gridだ。これはルーティングサービスで、イベントをいろいろなところから取り出して簡単に処理できるようになるとのことで、何百万ものイベントを1秒あたりにサポート可能にする。信頼性あるイベントでリバーが可能となり、レイテンシに関連するコストとポーリングの除去を実現するという。
IoTについては、数百のパートナーから、数千を超えるAzure IoT認定デバイスが提供されている。
Azure IoT Hubでは、数十億のIoTデバイスのセキュアな管理を実現。あらゆるIoTデバイスと連携し、テレメトリデータの収集および管理、制御を行う。会場では、日本マイクロソフトの本間咲来氏が、Azure IoT Hubを使い、5分でIoTプログラムを開発して披露した。
本間氏が行ったもう1つのデモは、Azure IoT Edgeを使ったもの。Azure IoT EdgeはWindowsとLinuxのデバイスをサポートし、コンテナを使った信頼性の高いアプリ展開を行える。本間氏は、Raspberry Piを使い、画像認識をリアルタイムで行うサービスを開発し、会場で披露した。
ホワイト氏は、「本間が行ったデモ、私が紹介したAzureのIoTソリューションは、今日からすぐ利用していただくことができる。これを使うことで、強力なIoTソリューションを開発することが可能になる」と述べ、AzureベースのIoTソリューションが簡単に使えることを強調した。
Azure Operational Data Servicesは、Serviceとしてデータベースを利用できるようにするもの。その中の1つAzure Cosmos DBは、世界初のグローバル分散データベースサービスだ。柔軟なスケールを持ち、MongoDB、SQL、Sparkなどさまざまなデータタイプにプログラミングすることができる。また、マルチマスター書き込みをサポート。複数の国間で1つのデータに書き込みをすることも可能だ。
会場では、“ちょまど(chomado)”こと、千代田まどか氏が登壇し、1つのデータに複数の人が書き込みを行うデモが行われた。会場は近接した場所からの同時書き込みだが、遠隔地からの書き込みでもデータを保存することができる。
AIを紹介するコーナーでは、Azure Cognitive Servicesについて、事前に用意された強力なAIモデルで、イメージ、ビデオ、スピーチ、言語など、.NET、Java、Pythonなどあらゆる言語から呼び出すことができる強力なREST APIsと紹介した。
新たにAzure SearchとCognitive Servicesを統合し、AIモデルを使用したコンテンツが強化され、あらゆるデータから目的のものを検索することが可能となり、さまざまなカスタマイズが可能となった。
「自分で作るAIモデル」として紹介されたAzure Databricksは、Apache Sparkベースの分析プラットフォームで、データを用意する段階で利用できる。迅速にSpark環境を構築およびスケールすることが可能で、リッチでインタラクティブなワークスペースとノートブックとして活用できる。Azure Data Servicesとシームレスな統合も実現している。
Azure Machine Learningは、自分で作るAIモデルのビルドとトレーニングの際に活用できる。幅広いフレームワークとツールをサポートし、事前に用意されたAIパッケージモデルを利用することができる。
こうした利用環境が豊富であることなどもあって、「Azureは最も信頼性の高いクラウド」だとホワイト氏はアピール。フォーチュン500社に名を連ねる企業の90%がAzureを利用しているとアピールして講演を締めくくった。
最もポピュラーな開発環境、Visual Studio
続いて登壇したジュリア・リウソン氏は、デベロッパー部門のコーポレートバイスプレジデント。Visual Studioについて、「最もポピュラーな開発環境」と紹介した。
Visual Studio Live Shareは、リアルタイムコラボレーションを実現する開発ツール。好きなツールを利用してリアルタイムに共有可能で、個々に独立した共同編集、コードのコンテキストの共有、個々に調査をしながら共同デバッグといった作業が可能となる。独立した画面での共同デバッグなどを実現するリアルタイムコラボレーションについて、日本マイクロソフトの大森彩子氏、原綾香氏が会場でデモを行った。
GitHubについては、「マイクロソフトはGitHub上のオープンソースに貢献している、最大の単一企業」とあらためて紹介を行った。VisualStudio App Center+GitHubで、iOS、Androidのアプリ開発、build、テストなどの作業をすべて継続的に実施できる。
このデモについては、再び、ちょまど氏が登場し、ホテルのアプリにチップを提供する機能を付け加えるための開発を行う場面を実演した。
Visual Studio Team Servicesは、DevOpsを実現するためのソリューション。日本マイクロソフトの阿佐志保氏が、Azureアプリケーションを5分で開発する、Azure DevOps Projectsを壇上で実践した。
Azure Kubernetes Services(AKS)は、Azure Platform Servicesに新たに加わった。完全に管理されたオープンソース Kubernetesサービスで、自動パッチ、自動スケール、自動更新で、すべてのKubernetesエコシステムを利用することができる。
Dev Spaces for Azure Kubernetes Servicesは、短時間でクラウドにホストされた開発環境を作成。マイクロサービスをまたがったデバッグとブレイクポイント、共有環境での分離されたテストを実施することができる。
.NETについても言及され、間もなくリリースされる.NET Core 2.1 RCは、高速ビルドとランタイムパフォーマンスを実現し、ASP.NET CoreとEF Coreのギャップを縮小する。.NET Frameworkとの互換性も進化した。
Windows Desktop On .NET Core 3.0は、原綾香氏が再び登壇し、パイチャートを作成するデモを行った。
Mixed Realityの現状を紹介
Mixed Reality(MR)については、米本社のジェネラルマネージャーであるロレイン・バーデン氏が登壇して紹介した。
Microsoft 365は、マルチ・センス、マルチデバイスを実現する。人、データがさまざまな連携していくことが可能となる。
HoloLensを導入しているユーザーとして、自動車製造を行うZFマニファクチャリングの様子がビデオで紹介された。これまでのIT業界がターゲットとしてきたのがナレッジワーカー中心だったのに対し、HoloLensによって現場で働く人々がテクノロジーを使って仕事することができるようになる。「MRをワークフローに取り込むことで、作業の質、スピードがともに改善する」とバーデン氏は強調した。
現場を改善していくシナリオとしては、常に現場にいるわけではないエキスパートが遠隔地から現場を支援することや、空間プランニング、トレーニング、コラボレーションなどが想定されている。
マイクロソフトでは新しいMixed Reality用アプリケーションとして、「Microsoft Remote Assist」、「Microsoft Layout」を提供する。
現場を改善していくために、支援情報としてセンシング技術を使って、現場の状況をデータとして提供していく。このデータと併せて現場改善を進めていく。
日本のユーザーとして東急建設とインフォマティクスが工事現場での利用、JRCSの海上での利用が紹介され、利用場面が陸海空に広がっていることが明らかにされた。
最後に日本マイクロソフトの代表取締役社長である平野拓也氏が登壇。「今回の登壇者は女性ばかりだったので、私も女性がかぶるカツラをかぶって登壇するべきだったか?という意見もあったが、間に合わなかった」と笑わせながら、日本で進んでいるMixed Realityの現状を紹介した。
「昨年スタートしたMixed Realityパートナープログラムは、参加企業数が11社に拡大。パートナーの皆さんにはレドモンドの(米Microsoft)本社で研修を受けてもらっている。事例も毎月のように新しい事例が挙がってくる」(平野氏)。
IoT分野にも注力しており、4年間で50億ドルの投資を行うことが発表されているが、「IoT分野のエコシステムも着実に拡大し、13社でスタートしたIoTビジネス協創ラボの参加者は435社まで拡大した。豊田自動織機のフォークリフトの予兆保全、人員最適化などに活用する先進例や、ランドログの建設現場改革といった事例が登場している。今回、独自IoTプラットフォーム ルマーダを推進する日立との新しい取り組みを行うことも決定した」(平野氏)と、ビジネスが拡大していることアピールした。
AIに関しては、ソーシャルAIの「りんな」がすっかり有名になったが、次世代会話エンジンを搭載することが発表された。「今日から、新しいエンジンを試せるようになった」(平野氏)。
AIに関しては5年間で27億円を投資し、「サービス開発者の皆さまをさらに支援していく」と開発者支援につなげていくことを強調し、基調講演を締めくくった。