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1社だけで成功を生み出す時代は終わった――、富士通・田中達也社長が共創による価値創出をアピール

~富士通フォーラム2018基調講演

 富士通の年次イベント「富士通フォーラム2018」が、5月17日、18日の2日間、東京・丸の内の東京国際フォーラムにおいて開催されている。

 今年のテーマは、「Human Centric Innovation:Co-creation for Success」。会期中に1万8000人の来場を見込んでいる。

 開催初日の5月17日9時からは、富士通の田中達也社長による「Human Centric Innovation:Co-creation for Success」と題した基調講演が行われた。

さまざまな組織がつながることで大きな成功を可能にする

 会場からの大きな拍手に迎えられた田中社長は、なんと手に風呂桶を持って登場。アメリカンフットボールの富士通フロンティアーズが2年連続で日本一になったこと、Jリーグの川崎フロンターレが初優勝を遂げたことを報告しながら、「川崎フロンターレは長年、シルバーコレクターと言われ、今回も直前までは別のチームが優勝すると予測されていた。そのため、優勝が決定した会場には優勝杯が用意されておらず、この風呂桶を記念に掲げた。この風呂桶は、川崎に根を下ろし、地域密着を続け、タイトルを勝ち取った象徴であった」と説明した。

富士通の田中達也社長は、手に風呂桶を持って登場した

 また田中社長は、「スポーツが感動を呼ぶのは、人と人のつながりが織りなすドラマがあるからである。選手の力は、チームメート、監督、コーチ、応援をする人たちがつながることで最大化される。そして、その先には勝利というサクセスがある。ビジネスも同じである。人と人、会社と会社、さまざまな組織がつながることで、パワーが発揮され、大きな成功を可能にすると信じている」と、今年のテーマである「Co-creation for Success」の意味に触れた。

 「Co-creation for Successには、多くのみなさんとつながり、みなさんにとって、社会にとっての多くの成功を生み出したいという強い思いを込めている」(田中社長)。

 一方で、「私たちはデジタル革新という大きな変化のなかにある。AIやIoTがビジネスや暮らしを大きく変えていくことになる。しかし、デジタルやAI、IoTという言葉には冷たい印象がある。自動化が進むことで、人間が置き去りにされるという不安がある。だが、革新を生み出すのは常に人である。なにかを実現したいという強い思いが共感を生み、つながりを生み出す。デジタル化によって、人と人のつながりを実現するハードルはかつてないほど低くなった。人と人のつながりがデジタル革新の推進力になっている。だからこそ、富士通はつながるサービスを追求し、Co-creationに取り組んでいる。富士通はテクノロジーで人を幸せにする会社になりたい」などとした。

 具体的なCo-creationの取り組みのひとつとして、働き方改革を挙げ、Microsoftとの協業について説明。ここで、米Microsoftのサティア・ナデラCEOによるビデオメッセージを放映した。

 ナデラCEOは、「デジタルトランスフォーメーション(DX)は、私たちの生き方と働き方を変革している。当社のミッションは、世界中のすべての人々と、ビジネスの持つ可能性を、最大限に引き出すことである。ミッションを実現する上で重要なのは、富士通のような企業との、深いパートナーシップだ。富士通と協力して、この急速な技術変化と進歩の時代に、お客さまを支援することを目指す。両社のパートナーシップにより、組織全体に新しいレベルのコラボレーションと生産性をもたらすことで、両社がお客さまに届けることができる利益を楽しみにしている」と述べた。

 ビデオメッセージを受けて田中社長は、「富士通とMicrosoftが、働き方改革における最高のチームであるといわれるようになりたい」とした。

デジタルアニーラへの取り組み

 DXのもうひとつの事例がデジタルアニーラへの取り組みである。

 田中社長は、「次世代のコンピュータ技術として、量子コンピュータが注目を集めているが、これは扱いが難しく、実用化に向けてはハードルが高い。だが、その実現を待たずに量子のパワーを実際に利用できるテクノロジーが、デジタルアニーラである」とし、その心臓部になる専用CPUであるDAU(Digital Annealing Unit)を手に持って公開した。

 富士通のCTOであり、富士通研究所の社長を兼務する佐々木繁氏は、「デジタルアニーラは、いまのコンピュータでは解けない膨大な数の組み合わせ最適化問題を解決することができる。創薬では、50原子の分子の組み合わせだけでも10の48乗通りに達し、この計算には高性能のコンピュータを利用しても、不可能なほどの膨大な時間がかかる。だが、デジタルアニーラを活用すればこれを瞬時に解くことができ、新たな薬をみつけられる」とした。

 ゲストとして登壇したトロント大学 電気・コンピュータ工学部のアリ・シェイコレスラミ教授は、「富士通とトロント大学は長年のパートナーである。きっかけは、私が20年前に富士通研究所でインターンをする機会があり、共同で論文を発表したこと。今年3月には、トロント大学内にFUJITSU Co-Creation Research Laboratory at the University of Torontoを設立した。これは、富士通が新たな木を植えたともいえる。その根になるのがデジタルアニーラ。この木は、トロント大学の2万2000人の研究者の専門知識を受けて成長していくことになる。デジタルアニーラは、医療、神経科学、経済学、ネットワーク、環境など多くの分野で利用されることになるだろう」とした。

 また、富士通 執行役員常務 デジタルサービス部門副部門長の吉澤尚子氏は、「デジタルアニーラは、5月15日からクラウドサービスおよびテクニカルサービスの提供を開始した。多くの人に利用してもらえることを期待している。デジタルアニーラは、不可能だったことを可能にする新たな技術である。今後も性能を強化する計画であり、いままでにない価値を生み出していく」とし、「お客さまに価値を届けるにはハードウェア技術だけでなく、ソフトウェアの知見が必要であった。この分野において、その両方を備えた1QBitとパートナーシップを組んでいる」とした。

 同じくゲストとして登壇した1QB Information Technology Inc.のアンドリュー・フルスマンCEOは、「私たちは、量子コンピュータに最適化したソフトウェアを開発するために優れたコンピュータを求めていた。富士通のデジタルアニーラの実力は、それまで使っていた環境を大きく上回るものであり、われわれが開発しているソフトウェアの力を発揮する最高のハードウェアである。これからの未来を大きく進化させることができる」と語った。

 田中社長は最後に、「1社だけで成功を生み出す時代は終わった。まさにCo-creationが加速することになる。富士通はすばらしい多くのパートナーに恵まれている。人と人がつながり、みなさんにとってのサクセス、社会全体のサクセスを数多く生み出したい。富士通はつながるサービスに向けた研究開発力を高め、お客さまに価値を届けられる専門力を磨き、グローバルに活躍している有力な企業、大学などとエコシステムを構築する。一緒にサクセスを目指そう」と呼びかけて、講演を締めくくった。

デジタル革新の最新事例を紹介

 続いて、マーケティングを担当する富士通 山田厳英執行役員が登壇し、富士通のCo-creationへの取り組みを通じたデジタル革新の事例などを紹介した。

富士通 山田厳英執行役員

 最初に示したのが、世界の企業経営者を対象にした調査結果だ。ここでは、デジタル革新を実行、試行、検討中という企業は全体の67%に達し、そのうち、24%の企業がすでに成果をあげていることを示し、「デジタル革新に取り組むことが、いまや当たり前の時代になっている」とした。

 具体的な事例として最初に紹介したのは、韓国のロッテカードである。ロッテカードでは、手のひら静脈認証を利用することで、なにも持たずに手ぶらで買い物ができる仕組みを、韓国内のセブンイレブンをはじめ、30店舗以上に導入しているという。

 登壇したロッテカード デジタルペイメントチームのアン・ビョンイル マネージャーは、「すべてのお客さまが、安全で簡単にクレジットカードを使えることを目指した。未来の決済手段を考えたときに、なにも持たないのが一番便利である。そこで、認証の精度が高い手のひら静脈を採用した。富士通は、韓国特有の環境を理解した上で、高い技術力を提供してくれ、わずか80日で『ハンドペイシステム』を完成させることができた。利用者からは決済が速いなどの声が聞かれている。今後は、ロッテグループのデパート、スーパーなどに拡大していく」と語った。

 富士通の手のひら静脈認証「PalmSecure」は、全世界60カ国で、7000万人が利用。「金融、公共などの社会システムや、企業や団体におけるデジタル革新の認証のためのキーデバイスとして利用されている」という。

 また、山田執行役員は、デジタル革新を成功させるための共通ポイントがあると語った。

 それは、経営層の「リーダーシップ」、課題解決に向けた「俊敏性」、デジタルビジネスと既存ビジネスの「融合」、企業が保有する大量のデータからの「価値創出」、デジタルスキルを持つ「人材」、価値を拡大させる「エコシステム」の6つだとし、「これを身体にたとえて、デジタルマッスルと呼んでいる。デジタル革新を目指す企業は、強い意志を持って、体質を鍛え続ける必要がある」と述べた。

 ここでは、トヨタ自動車サービス技術部の事例をビデオで紹介。「カイゼンは、われわれの強みであったが、自分たちで課題を設定することができなかった。そこで富士通からデザイン思考の提案を受け、未来のサービスエンジニアのありたい姿を設定。サービス技術開発ラボラトリというオープンイノベーションの場を作った。富士通のオープンイノベーションの手法を用いることで、カイゼンとカイカクを進めることができた」などとした。

 富士通では、デジタル思考の実践の場となる「Digital Transformation Center(DTC)」を、東京、大阪、ロンドン、ニューヨーク、ミュンヘン、ストックホルムに展開。「デザイン思考は、デジタル革新のリスクを最小限に抑えることができる一番の方法である」とする。

 続いて、口腔状況をデータ化し、歯周病などの口内トラブルを未然に防ぐことができるサンスターのIoT歯ブラシ「G・U・M PLAY(ガムプレイ)」を紹介。

 サンスター オーラルケアカンパニー アジア/日本エリア マーケティング統括部長兼日本ブロックマーケティング部長の淡島史浩氏は、「単なる歯磨きガイドにとどまるのではなく、歯科医療のトータルソリューションという新たな価値として提供したいと考えた。富士通のクラウドサービスを組み合わせることで、患者は家庭にいながら歯科衛生士に見守ってもらい、オーラルケアができる。今後は、さまざまなヘルスケアデータと連動しながら新たな仕組みを作り、一人ひとりが健康になるように努力したい」と語った。

 さらに、既存ビジネスとの融合という観点から、関西電力のスマートメーターの取り組みを紹介した。関西電力では、スマートメーターのデータを分析して、生活リズムの変化を察知し、それによって見守りサービスを提供しているとのことで、このサービスに富士通のAI技術を活用。高精度の分析が可能になっているという。

 また、デジタル人材の育成についても言及。富士通社内にデジタルフロント事業本部を設置し、イノベーションのマインドセットを養うために、50%ルールや他流試合といった仕組みを導入していることを紹介した。

 このほか、Pivotalとの協業により、同社が30カ国、1000社以上で実績を持つアジャイル開発ノウハウを活用していることや、2017年7月に開校した富士通デジタルビジネスカレッジを通じて、デジタル人材を育成していることを説明。

 「富士通デジタルビジネスカレッジでは、より実践的な内容になるように、実ビジネスの課題を持ち込んだディスカッションなどを行っている。ここではアジャイル開発手法も持ち込んでおり、すでに70人が受講している」と語った。

 また「富士通デジタルビジネスカレッジは、Co-creationの場にもなる」とし、受講企業同士のつながりをきっかけにした成果として、そごうと西武が、IoTメジャーによるオーダーメードのニット製作を、2018年6月から開始することを明らかにした。

 「採寸の時間短縮、約2割も発生している測り間違いを無くすことができる。データを店舗間で共有することで、価値を高め、デパートを再び人が集まる場所に変えることができる」。

メジャーを手にする山田執行役員

 東京・丸の内エリアでの新たな街づくりが、三菱地所、東京大学、ソフトバンクにより、2018年5月から始まっていることを示し、「三菱地所が持つ商業施設の情報に加えて、オープンデータや外部企業のデータを組み合わせることで価値を高めることができる。ここにはブロックチェーン技術を用いた富士通のプラットフォームを活用している。企業や業種の垣根を越えて、データを利活用しあうことで、新たな事業やサービスを構築することができる」ともアピールしている。

 最後に山田執行役員は、「富士通は、MetaArcとデジタル変革の知見、ノウハウを活用すること、そして、エコシステムを活用することで、お客さまとのCo-creationによって、ビジネスの成功に役立つことができると考えている。そのために富士通はつながるサービスを強化し、常によりよいパートナーであるように努力する。ベストパートナーになりたい」と語った。