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“AI-First”の時代にMicrosoftが考えること――、Microsoft Ignite ナデラCEO基調講演レポート

 米Microsoftは、9月25日~29日(現地時間)の5日間、フロリダ州オーランドにおいてプライベートイベント「Microsoft Ignite」を開催している。

 Microsoft Igniteは、ビジネスを推進するために必要とされる、Microsoftの最新テクノロジーに関する情報を、ITリーダーとITプロフェッショナルなどを対象に提供するイベントと位置づけられている。

 参加者は2万5000人以上に達し、会期中には700以上のセッションが行われるほか、ハンズオンセミナーや製品ロードマップの紹介、専門エンジニアとのネットワーキングの場が設けられる。

 さらに、CxOや業務部門の責任者などを対象にしたMicrosoft Envisionも、9月25日~27日まで同じ場所で開催されており、企業や組織の変革に向けたテクノロジーの最新情報などが提供された。日本からは約80人が参加しているという。

 なお日本では、11月8日・9日の2日間、東京・恵比寿のウェスティンホテル東京で「Microsoft Tech Summit 2017」が開催される。ここでは、Microsoft Igniteで発表された内容が紹介されるほか、日本マイクロソフトの平野拓也社長による基調講演、現役年数62年10カ月という史上最長記録を持ち、棋士を引退した加藤一二三氏による「人工知能は私たちにどんな勝負を挑んでくるのか?」をテーマにした対談などが行われる。

テクノロジーを使えば人々の力になれるのか?

 現地時間の25日午前9時から行われたVision Keynoteは、Microsoft Igniteと、Microsoft Envisionの双方にまたがる講演となり、Microsoftのサティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOが登壇した。なお今回の講演では、AIを活用し、12カ国語へリアルタイムで翻訳するといった試みも行われた。

米Microsoftのサティア・ナデラCEO

 ナデラCEOは、冒頭に、開催地のフロリダ州を含めて米国で猛威を振るった台風の影響について触れ、「ここにいる10人に1人が影響を受けている。この大変な時期に参加をしてくれたことに感謝している」と切り出した。

 さらにナデラCEOは、「デジタルテクノロジーが広がり、トランスフォーメーションが起き、あらゆる業界に影響を及ぼしている。だがわれわれは、機能や役割を越えて一緒になることで、変革を乗り切ることができる。テクノロジーの広さだけでなく、それぞれのエリアを深堀りすることも大切である。Microsoftは、テクノロジーを使えば人々の力になれるのかということを常に考えている。みなさんの変革を支援したいと考えている。ビジネスで必要なのは、テクノロジーを使って、従業員の力をいかに発揮するか、顧客の満足度をいかに高めるか、それによってビジネスモデルをいかに変えるかである。デジタルフィードバックループにより、会社のなかの文化を変えなくてはならない」などと述べた。

さまざまな新しいコンポーネントの組み合わせでワークプレイスを変革

 続いて、ナデラCEOは、「AI-First」をキーワードにしながら、「モダンワークプレイス」「ビジネスアプリケーション」「アプリケーション&インフラストラクチャ」「データ&AI」という4つの観点から説明をした。

 「モダンワークプレイス」では、Fordがホログラフィックコンピュータ「Microsoft Hololens」を使用することで、粘土材などの従来のクレイモデルを使用していた開発環境から、Mixed Realityによる開発環境へと移行している事例を示し、デザイン部門と開発者部門がセキュアな環境のなかで同時に作業ができるようになったことや、複数の人があらゆる場所から共有体験ができること、短時間で作業が完了するようになったことなどを、事例として紹介した。

 「HoloLensと(グループチャットの)Microsoft Teams、Microsoft 365を利用することで、これまでにないに体験が実現できる。これは、HoloLensというひとつのデバイスだけによって生み出されるものではなく、組み合わせによって実現するものであり、それによって新たなレベルのコラボレーションが可能になる。そしてMicrosoft 365は、新たな仕事の文化を生み出すものであり、クリエイティビテリィを発揮するためのものだ。これが、Microsoft 365の根幹となるコンセプトである」などと述べた。

 さらにMicrosoft 365によって、戦略的なデータ資産を蓄積できること、Microsoft GraphとLinkedIn、新たにプレビュー版として提供を開始するBing for Businessとの組み合わせによって、多くの人につながることができること、AI-Firstによるイノベーションによってデジタル変革を促進できることなどを示して見せた。

 ここでは、Microsoft 365を通じて、LinkedInのプロファイル情報を表示する機能を提供することが発表されたほか、Office 365とWindows 10、Enterprise Mobility+Securityを統合したMicrosoft 365 F1も、Microsoft Igniteにおいて発表されている。

 また「ビジネスアプリケーション」に関しては、ビジネスプロセスの自動化のニーズが高まっていることを指摘。モジュール性と柔軟性を持ったDynamics 365に、AIを組み合わせることでインテリジェントなシステムを開発でき、こうしたニーズに対応できることを強調した。

 ここでは、HP.incのカスタマーサポートにおいて、AIを活用し、効率的な問題解決を実現していることを紹介。「今後はAI-Firstのアプリケーションを活用することが大切である。来年には、これらを実現するモジュールを提供して、みなさんのビジネスを変革させたい」と語った。

先端技術を利用した事例を紹介

 「アプリケーション&インフラストラクチャ」と「データ&AI」については、「AIの民主化を実現するのがMicrosoft Azureであり、今後は、AI-FirstおよびMixed Reality-Firstの取り組みが重要になる」とし、TrimbleやTetra Pak、Land O'Lakesといった企業、大学の研究機関や医療機関が、AIおよびMixed Realityによるデジタル変革に挑んでいる事例を紹介した。

 「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジのアプリケーションは、将来のものではなく、すでに起こっていることである。AIは昨年1年のなかで最も大きな進歩があった技術だ。AIやMixed Realityによって、インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジのアプリケーションは、実現できるものになる」とアピールする。

 一方で、「われわれは、これまでに演算能力が高めることに実績はあるが、その演算能力では解決できていない問題がある。例えば、エネルギーや食糧の問題を解決しなくてはならない。こうした課題を解決するためには量子コンピュータが必要であり、これによって新たな世界を生み出すことができる。これまでに解決できなかったことにも対応できるようになる。そのためには、数学、物理学、コンピュータサイエンスといったさまざまな専門知識を用いたチームで挑まなくてならない」などとした。

 このほか基調講演では、Station Qのテクニカルフェローであるマイケル・フリードマン(Michael Freedman)氏、Qfabのプリンシパルリサーチャーのレオ・カウウェンホーブン(Leo Kouwenhoven)氏、同じくQfabのプリンシパルリサーチャーであるチャーリー・マーカス(Charlie Marcus)氏、QuArC Softwareのプリンシパルリサーチャー Krysta Svore氏といった各分野の専門家が登壇して、今後の量子コンピュータの開発に向けた意見を述べた。