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日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介

 日本マイクロソフト株式会社は16日、報道向けの説明会を開催。最高技術責任者(CTO)の榊原彰氏が、米Microsoftが9月に開催したイベント「Ignite 2017」で発表された内容を中心に、最新の取り組みを紹介した。

 Ignite 2017の基調講演では、「Mixed Reality(複合現実)」「AI」「量子コンピューティング」という3つのテーマでさまざまな取り組みが紹介されており、今回はAIと量子コンピューティングについて、榊原氏がより詳しく解説している。

日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者(CTO)の榊原彰氏
日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者(CTO)の榊原彰氏
日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 Ignite 2017の基調講演では、「Mixed Reality(複合現実)」「AI(人工知能)」「量子コンピューティング」という3つのテーマでさまざまな取り組みが紹介された
Ignite 2017の基調講演では、「Mixed Reality(複合現実)」「AI(人工知能)」「量子コンピューティング」という3つのテーマでさまざまな取り組みが紹介された

マイクロソフトはAIを民主化する

 以前からマイクロソフトは「AIの民主化」というメッセージを通じて、誰でも簡単に、リーズナブルな価格でAIを利用できるようにすることを目指してきた。その具体的な施策として榊原氏が紹介したのは、「プラットフォームの提供」「既存製品への組み込み」「ビジネスソリューションの展開」だ。

日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 マイクロソフトはAIを民主化する
マイクロソフトはAIを民主化する
日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 「プラットフォームの提供」「既存製品への組み込み」「ビジネスソリューションの展開」
「プラットフォームの提供」「既存製品への組み込み」「ビジネスソリューションの展開」

 プラットフォームの提供について榊原氏は、「主にクラウドでの提供となるが、ネットワークレイテンシや容量によっては、Edge側に持ってくることもある。臨機応変にAIが配置できるようにしていく」と述べた。

 AIプラットフォームの最下層レイヤーである、演算を実行するハードウェアについて榊原氏は、8月に発表された「Project BrainWave」を紹介した。Project BrainWaveでは、機械学習の処理を高速化するため、深層学習などに利用されることの多いIntel製のFPGA(Field Programmable Gate Array)と市販製品を用いて、新しいFPGAボードを開発している。さらに、このFPGAボードと連動して動くコンパイラやランタイムも用意されている。

 榊原氏は、「今後、このFPGAボードは、Azureのデータセンターに次々と導入していく。これによって、よりレイテンシの低い深層学習の実行システムを提供していくことが、Project BrainWaveの目的」と説明した。

日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 Intel製のFPGAを搭載したProject BrainWaveのFPGAボード
Intel製のFPGAを搭載したProject BrainWaveのFPGAボード

 機械学習モデルを作成するツールとして、「Azure Machine Learning Workbench」も紹介された。Visual Studioをはじめとする各種開発プラットフォームと統合可能なデスクトップツールで、Windows版とmacOS版が提供されている。Azure Machine Learningで作成した機械学習モデルは、Dockerコンテナを用いることでクラウド/エッジ/オンプレミスなど任意の場所に展開が可能となっており、CNTK以外にもTensorFlowやCaffe2など複数の機械学習ライブラリに対応している。

日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 機械学習モデル作成ツール「Azure Machine Learning Workbench」
機械学習モデル作成ツール「Azure Machine Learning Workbench」
日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 作成したモデルDockerコンテナを用いて任意の場所に展開が可能。
作成したモデルDockerコンテナを用いて任意の場所に展開が可能。

 既存製品へのAI取り込みについては、Office製品に取り込んで作業を効率化することに加え、Skypeなどのコミュニケーションツールにおいて、翻訳機能の提供などを実施していく。

 ビジネスソリューション展開については、DynamicsやOffice 365などアプリケーションレイヤーのソリューションにもAIを組み込み、使いやすくて効率の良い仕事を実現していくという。

汎用的な量子コンピュータの実現を目指す

 次いで榊原氏が紹介したのは、Ignite 2017の基調講演でMicrosoftのサティア・ナデラCEOがチップを掲げたことで話題になった、同社の量子コンピュータだ。トポロジカル量子ビットとして紹介されたこのチップは、専門家の間でも本当に実現しているのかと、実在性を疑われるほどの画期的なチップであるという。

 既存のコンピュータの電子的なビットは、0か1のいずれかの状態を取る。しかし、量子コンピュータの場合「0であり、かつ1である」というあいまいな重ね合わせの状態を取ることで、並列処理の性能を飛躍的に向上させることができる。n量子ビットあれば、2^nの状態を同時に計算できるため、Microsoft Researchの拠点のひとつである「Station Q」において専門的な研究が進められてきた。

 量子コンピュータには「量子アニーリング方式」と「量子ゲート方式」がある。2011年にカナダのD-Wave Systemが発表した量子コンピュータは、量子アニーリング方式を採用している。

 一方で量子ゲート方式を採用しているベンダーにはIBM、Google(量子アニーリング方式も研究している)、Intelがいる。そして、Microsoftも量子ゲート方式を採用しており、その理由を榊原氏は「汎用的な計算に強い量子コンピュータを実現するため」と説明している。

 量子コンピュータは、超電導体を絶対零度(マイナス273度)に近い温度まで冷却し、量子の状態を安定させてコントロールする。ところが、量子ゲート方式は外部からのノイズなどの影響を受けやすく、なかなか量子の状態が安定しないことが課題となる。これに対して、Microsoftが研究しているトポロジカル量子コンピュータは、量子の状態が安定しやすいことが特徴であるという。

 また冷却が重要な意味を持つため、量子コンピュータ用の冷却装置を製造できるベンダーがとても少ない。そのためMicrosoftはBlueForsと共同で、ノイズを遮断し、一定の温度を保つ冷却装置を開発したという。

 「量子コンピュータ向けの冷却装置のノウハウを持ったベンダーは非常に少ないので、ほぼ1社独占のようになっている。GoogleやIBMでもBlueForsの冷却装置を使っている」(榊原氏)。

 Microsoftはトポロジカル量子コンピュータを、単に実験室でデモを行うためのコンピュータにしておくつもりはない。フル機能のトポロジカルコンピューティングシステムを提供するために、ハードウェアだけではなく、その上で実行するソフトウェアやプログラミング言語も提供される。

 すでにプログラミング言語がIgnite 2017で紹介されており、その構文はF#によく似ている。この言語には、まだ正式な名前は付けられておらず、「Quantum Hello World」と呼ばれているという。

日本マイクロソフト、汎用性の高い量子コンピュータの実現に向けた最新の取り組みなどを紹介 F#に似た量子コンピューティング用の開発言語
F#に似た量子コンピューティング用の開発言語

 現在は実験用のチップを発表した段階のため、実際にMicrosoftの量子コンピュータを利用できるようになるのは、数年先の話だ。提供方法なども決まっていない。しかし、競合であるIBM Qは、2016年5月の時点で5量子ビットプロセッサを搭載していたが、翌年の2017年5月は16量子ビットプロセッサを搭載するなど、着実に進歩している。榊原氏は「IBMが1年で3倍成長したことを考えると、5年もたてば部分的な利用はできるのではないか」と予想しているという。