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「Everyday AI」で何が便利になる? 日本マイクロソフトがAIへの取り組みを説明

Preferred Networksとの協業に関しても進ちょくを解説

 日本マイクロソフト株式会社は18日、「Everyday AI」を発表し、その内容について説明した。また2017年5月に発表した、Preferred Networksとの協業による日本でのディープラーニングへの取り組みに関し、進ちょく状況を説明している。

 「Everyday AI」は2017年12月13日(現地時間)、米国サンフランシスコで開催した同社イベントにおいて発表したもの。

 「いよいよ毎日AIに触れるフェーズに入ってきたことを示すものである。MicrosoftはAIに関して、技術研究、製品提供、既存製品への導入、プラットフォームづくり、ビジネスソリューションへの導入という点で投資を行っており、人間の創造力を拡大することが狙いとなる。当社が目指すAIは、人々を支援するものであること、すべての人に向けて提供する技術であること、そして、人間が信頼できる技術をベースに開発することであると決めている。これを検証する活動がAether Advisory Committeeである。76万人以上の開発者が、コグニティブサービスを使ったAIを自社ソリューションに採用している」(日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者の榊原彰氏)と説明。

 さらに、「ユーザーが最も利用しているプロダクトがOffice 365。ここにAIの機能を積極的に搭載していく」と述べた。

日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者の榊原彰氏

 Office 365にAIを活用する「AI in Office 365」では、抽出したパターンを自動的に強調表示してデータの傾向や異常値などを視覚的に把握できるようにする機能において、機械学習によって精度を向上させた「Insights in Excel」を提供。また、ドキュメントやメール内の社内専門用語や略称を判別し定義できるWord対応機能の「Acronyms」のほか、会話ボットとして、「Microsoft Azure Bot Service」および「Language Understanding (LUIS)」の一般提供を開始。「Cortana スキルキット」では、Cortanaの新しい生産性向上機能を発表した。

Microsoft Azure Bot Service

 特に強調したのが、視覚障害者や視力の弱い人を支援するアプリ「Seeing AI」のアップデートだ。機能強化では、色や通貨の認識、明かりがついているかどうかを音で知らせる「Musical light detector」を提供したほか、利用可能地域を35カ国に拡大した。なお、日本語版の提供は現時点では未定となっており、現在、日本のAppStoreではダウンロードできない。

 「Seeing AIはiOS向けにアプリが提供されているが、これまでに10万人がダウンロードした。視覚障害者に対し生活を豊かにするための支援ができており、それに対するつぶやきも増えている」とした。

Seeing AI

ビジネスデータにAIを活用した成果が生まれている

 またONNX(Open Neural Network Exchange)、GLUONといったコミュニティとの連携や、加MaluubaをはじめとするAI関連企業への投資を加速していること、Graphの機能拡充により、ビジネスデータにAIを活用した成果が生まれていることなどを示した。

コミュニティとの連携

 医療分野においては、Adaptive BioTechnologiesとのパートナーシップによるAIを活用した免疫システムの解読や、遺伝子編集技術としてCRISPR CAS9への応用を紹介。「いよいよ医療の分野にも、AIが活用されるようになってきた」とした。

 さらに、ドローンや自動運転、船舶などの動作検証のためのシミュレーションツールである「AirSim」では、仮想空間において動作を検証。AIがシミュレーションの内容を学習して高度化させ、自動運転などの動作を確認。「検証にかかわるコストと期間を削減できる」という。

Adaptive BioTechnologiesとのパートナーシップ

 また、AIによるマシンリーディングでは、人間と同等の読解力を実現したことに触れ、Wikipediaの500件のデータをもとに読解力を調査するスタンフォード大学の読書テスト「SQuAD(Stanford Question Answering Dataset)」では、人間の読解力は82.304であったのに対して82.650となり、人間の読解力を上回ったという。

SQuADのスコア

 そのほかMicrosoftでは、「AI for Earth」に取り組んでいること紹介。「これまでは、ひとつのプロジェクトに対して200万ドルの投資を行うことを発表していたが、今後5年間で5000万ドルの追加投資を行うことを新たに発表した。AIを活用することで、気候変動への対応など地球環境保護に携わる世界中の個人や組織を支援することになる」という。

AI for Earth

 また、IBMやGoogleなどと取り組んでいるPartnership on AIでは、AI同士の会話をするときに、可読性のあるものにすることや、ベストプラクティスをシェアしていくことなどを取り決め、共同で推進していくことになると述べた。

Preferred Networksとの協業を推進

 一方で米Microsoftは、株式会社Preferred Networksと、ディープラーニングソリューション分野で戦略的協業を行っており、これにより、AIや深層学習(ディープラーニング)の実社会での活用を推進している。

Preferred Networksとの協業

 Preferred Networksは、IoTにフォーカスした深層学習技術のビジネス活用を目的に、2014年3月に創業した企業で、最先端の深層学習技術を提供する「Deep Intelligence in-Motion(DIMo、ダイモ)」プラットフォームをベースとしたソリューションの開発、提供を行っている。

 両社の協業では、MicrosoftのパブリッククラウドプラットフォームMicrosoft Azureと、Preferred Networksの深層学習テクノロジーの連携を推進し、業種業態ごとのビジネス課題を解決する深層学習ソリューションを提供する。

 具体的には、Preferred Networksの深層学習フレームワーク「Chainer」をワンクリックでAzure IaaS上に展開するAzure Templateの提供、データサイエンス仮想マシン(VM)へのChainerの搭載、Azure Batch ServicesおよびSQL ServerへのChainer対応、ChainerのWindows対応を進める。

Chainerの展開を推進

 またONNXへの参加により、Chainerをインポートできる機能を提供することを新たに発表した。

 「ONNXへの対応によって、Chainerと各種エッジデバイスに最適化したニューラルネットワークの配布を両立でき、日本の技術者が深層学習のメリットを享受できるようになる。環境構築の自動化および大規模学習環境をサポートしており、やりたいことができるようになるという点で、深層学習の技術者には歓迎されるものである。また、数時間かかる深層学習の環境構築作業を、VMを立ち上げるだけで進められるように、Azure Data Science VMへChainerを同梱しており、Preferred Networksとの提携を発表して以降、日本でのAzure Data Science VMの使用量は4倍に増えている」という。

 人材育成では、大学生や企業内エンジニア、研究者向けのトレーニングプログラムを提供。ワークショップを開催するほか、顧客とコンサルティング企業とのマッチングの場として、「Deep Learning Lab」を発足している。

 「3年間で5万人の人材育成を目指しているが、これまでの半年間で12回のコミュニティ勉強会を開催し、合計で1700人が参加している。いまでは、Deep Learning Labがディープラーニング分野において最も勢いがあるコミュニティになっている。金融、製造、医療などの業種に特化した上位レイヤのAIソリューションを推進するため、人材育成を進めていく」とした。

 Deep Learning Labでは「ACADEMY」と呼ぶハンズオンを実施しているが、「3日間で20万円の費用にもかかわらず、10回で150人が参加し、満足度では100%である。政府が推進する第4次産業革命スキル習得講座認定制度に認定されており、今後、パートナーとともに全国展開をしていく予定である」とした。

Deep Learning Lab

 また、協業による具体的な活用事例も紹介した。アイシン・エィ・ダブリュでは、深層学習をナビの描画異常検知に使用し、たまにしか発生しない異常を効率よく自動的に発見することができているという。

 このほかマネックス証券では、創業以来蓄積したデータをベースに学習した深層学習による文書構成ツールを開発。人の意思決定や作業の効率化に活用していくと説明した。