大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

シャープのB2Bシフトが加速――ITサービス強化とdynabook、AIサーバーで描く再成長シナリオ

 シャープが、ITおよびITサービス領域での事業拡大を進めている。SalesforceをベースにERPを展開するシナプスイノベーションを完全子会社化するなど、国内外での買収戦略を加速することで、ITサービス事業の体制を強化。また、PC事業であるdynabookは、2026年度第1四半期も前年実績を上回る販売台数を出荷。存在感を増している。

 そして2026年9月からは、鴻海が生産するシャープブランドのAIサーバーを、国内市場に投入する計画を明らかにしたほか、将来的には国内生産も視野に入れているという。

 シャープのITおよびITサービス分野における取り組みを追った。

シャープの法人向けソリューション

B2B事業が売上の約6割を占める

 一般的に、シャープといえば、AQUOSブランドで展開するテレビやスマートフォン、ヘルシオなどの白物家電に代表されるB2Cのイメージが強い。だが、2025年度連結業績では、ブランド事業のうち、B2Cを担当するスマートライフの売上高は5979億円であるのに対して、B2B事業を担うスマートワークプレイスの売上高は8338億円となり、約6割をB2B事業が占めている。

 2026年4月1日に社長に就任したシャープの河村哲治社長 CEOは、家電業界の再編が起こる中、「シャープは、脱家電は考えていない。家電事業は捨てるべきものではないと考えている」と断言する一方で、「B2BとB2Cの切り分けがなく、両方の事業領域から、1日中、人に寄り添えることをシャープの強みにしていく」と語る。

 B2C事業の維持・拡大とともに、B2B事業を成長の推進役に位置づけているのだ。

シャープの河村哲治社長 CEO

 スマートワークプレイスの中核となるのが、スマートビジネスソリューション(SBS)事業本部だ。複合機(MFP)や業務用ディスプレイ、POS、ロボティクスなどの事業を中心に、国内外におけるB2B事業を担当している。

 そのSBS事業本部が近年注力しているのが、ITサービス領域への取り組みである。

 これは、シャープが打ち出しているB2B事業の基本戦略にのっとったものだ。

 シャープでは、「ハードウェア×AI」「DXサービス×技術」を軸に、未来の職場と社会を支えるテクノロジーサービスパートナーになることを目指しており、MFPや業務用ディスプレイ、POSといった既存事業の維持、効率化を図る一方、これらの顧客に対して、ITノウハウや連携機器などを提供する付加価値提案を推進している。

成長と変革に向けたスマートビジネス事業への調整

 さらに、今後の成長領域として、MFPによるリカーリング型ビジネスモデル体系を踏襲しながら、ITサービスを立ち上げ、「働き方・業務効率の改善を提案するテクノロジーサービスプロバイダーを目指す」(シャープ 執行役員 CTOの徳山満氏)とする。

 シャープでは、2024年度には310億円だったサービス関連売上高を、2027年度には約600億円へと倍増させる計画で、こうした新たなビジネスモデルの構築に向けて、ITサービス領域での積極的なM&Aを進めているところである。

スマートビジネスで働く現場を強化する

欧州やアジア・大洋州で先行するITサービス事業拡大に向けた地盤づくり

 実は、この取り組みは、SBS事業の売上高の約7割を占める海外で先行している。

 英国では、2019年7月に、ITコンサルティングおよびセキュリティのComplete IT Serviceを買収し、2022年11月にSHARP IT Service UKに社名を変更。2026年4月には販売会社であるSHARP Business Systems UKに統合し、一体運営を行う体制を構築している。

 またスイスでは、2021年3月にマネージドITサービスおよび基盤サービスを提供するITpoint Systemsを買収し、2026年4月にSHARP DX Schweizに社名を変更した。

 さらにフランスでは、2024年12月に業務およびアプリケーション支援を提供するApsiaを買収。2026年1月に、SHARP DX Franceに社名を変更している。

 これらの3社の買収により、シャープは、ITサービスをフルカバーできる体制を欧州市場で構築。今後、独自の包括ソリューションの提供を加速することになる。

欧州のモデルケース
欧州の事例

 一方、アジア・大洋州では、2026年3月にマネージドITサービスやセキュリティサービスを提供するニュージーランドのSecurecomを買収した。同社は、地場の有力ITサービス企業の1社だ。

 シャープは、ニュージーランドにおいて、MFPで高いシェアを持っており、ここで培った顧客基盤や販売網、サービス網を活用しながら、SecurecomによるITサービスを提供し、B2B事業の拡大を目指す。

 このように、海外におけるITサービス事業拡大に向けた地盤づくりは、着実に進めている。

アジア・大洋州での投資によりスマートビジネスを加速

シナプスイノベーション買収で国内DX基盤を強化

 日本でも、ITサービスの強化に向けた取り組みを進めている。

 その成果のひとつが、2026年3月に行ったシナプスイノベーションの完全子会社化である。

 シナプスイノベーションは、1984年に設立したシステムインテグレータで、2020年から、Salesforceを基盤としたクラウドサービスを開発。製造業向けDXプラットフォーム「UM SaaS Cloud」を通じて、生産管理、販売購買管理、在庫管理、工程負荷計画などを提供している。すでに300社以上への導入実績を持ち、年商10億円から1兆円規模の企業まで、導入実績は幅広い。

シナプスイノベーション

 シナプスイノベーションの会長を兼務するシャープの徳山満CTOは、「シャープは、ハードウェアと親和性が高いソフトウェアやアプリケーションとの組み合わせ提案を推進する上で、コアとなる統合基幹業務システムを持ちたいと考えていた。シナプスイノベーションのERPを活用することで、シャープのITサービスに欠けていたデータ統合や、ERPとの機器連携が実現しやすくなり、ハードウェアの価値を高めることができる。現場、計画、経営がリアルタイムにつながり、顧客課題の解決と、社会課題の解決につなげることができる。そして、お客さまの業務フローのすべてに対して、ワンストップでアプローチすることができるようになる」と語る。

 シナプスイノベーションでは、Salesforceの基盤を活用することで、強固なセキュリティや柔軟なカスタマイズが可能になり、同時に、常に最新機能が利用できることをメリットに挙げている。さらに、コンポーザブルERPのコンセプトにより、さまざまなソリューションや機能との連携を実現。同社独自のグローバルで利用できる生産管理機能を採用している点も大きな特徴となっている。

 シナプスイノベーションの藤本繁夫社長は、「シャープ傘下となったことで、グローバル展開を加速するほか、シャープグループへの導入や、シャープが実績を持つリテール分野への導入提案、シャープが取り組んでいる量子アニーリング技術およびロボティクス技術との連携などにより、新たな領域への展開を図りたい」と語る。

シャープの徳山満CTO(左)とシナプスイノベーションの藤本繁夫社長(右)

 シナプスイノベーションの完全子会社化により、シャープの国内ITサービスへの取り組みは、当面、Salesforceを中心としたソリューション提案が軸になりそうだ。

シャープ×シナプスイノベーションが生み出すDXシナジー

「ハード×AI×技術」で挑む業種特化型ソリューション

 シャープは、「オフィス」、「パブリック」、「リテール」、「ロジスティクス」の4つの事業ドメインに対して、「テクノロジーサービスプロバイダー」ならではの強みを生かし、SBS事業を加速する考えを示しており、具体的なソリューションとして、デジタルサイネージソリューションやサイネージ視聴効果測定システム、AI接客支援ソリューション、カスタマイズ型業務DXソリューション、議事録作成支援ソリューションなどを提供している。

シャープの法人向けソリューション

 さらに、業種に特化したソリューション展開にも注力。ここでも、シャープが持つハードウェアとAI・DXサービス、技術の組み合わせによる提案を差別化に位置づける。

 例えば、シャープは、ガソリンスタンド向けソリューションでは約45%のシェアを持つ。「SS(サービスステーション)-POSターミナル」や「SS-POS外設機」などのハードウェアに、システム構築や運用サービスといったノウハウを組み合わせ、セルフ形式のガソリンスタンドでも24時間稼働に対応し、障害発生時にも停止しない販売管理システムを実現している。POSターミナルなどには、シャープが持つ技術が生かされている。

シャープのこれまでの取り組み

 また、コンビニエンスストアに導入されているMFPでは、シャープが約6割のシェアを獲得。在宅勤務でのコンビニプリントの増加や、コンビニでの手軽な写真プリントのほか、ブロマイドや楽譜などコンテンツ販売サービス、住民票の写しや印鑑証明などをプリントできる行政サービスなど、パブリックプリントの増加とともに、コンビニ向けMFPでもハードウェアとサービスを組み合わせた同社ならではの差別化が進められている。

 今後、事業拡大に取り組む領域のひとつが、駐車場向けソリューションである。

 これまでにも、コインパーキング向けに在車センサー検知システムやゲートレス車番認識課金システムを製品化してきたが、2026年9月上旬から受注を開始するコインパーキングシステム用センサー付きポールカメラは、ネットワークカメラの死角を補完し、駐車場運営をさらに効率化できるのが特徴で、狭小な遊休地や空き地を駐車場として活用する場合にも適しているという。

シャープが開発したコインパーキングシステム用センサー付きポールカメラ

 注目を集めているロック板レス式およびゲートレス式駐車場を実現するソリューションのひとつであり、精算機や管理システムとの連携提案により、導入コストおよび運用コストにおけるメリットを訴求する考えだ。

 シャープ スマートビジネスソリューション事業本部ワークプレイスイノベーション事業部の畑直行副事業部長は、「ロック板レス式およびゲートレス式駐車場では、駐車判定を支える高精度技術への重要性がより高まる。新しい技術で、新しいカタチの駐車場を実現することが求められており、そこにシャープの技術を生かすことができる」とする。

 センサー付きポールカメラにより、車室(駐車スペース)をセンシング。クルマが駐車すると、撮影データを送信して、精算機で課金を開始し、入庫情報はクラウド上の管理システムに送信する。管理者は、蓄積したデータから駐車場の利用状況や稼働状況を把握することができる。

 「コインパーキングシステム用ポールカメラは、精算機やカメラなどのハードウェア、クラウド管理システムなどのソフトウェア、画像認識技術といった中核テクノロジーをシャープ自らが保有している強みを生かし、レーダー、赤外線センサー、地磁気センサーの3種類のセンサーを活用する独自の方式と、カメラによる画像認識技術を組み合わせることで、高精度に入出庫を判定することができる」とする。

 ロック板方式やゲート方式のコインパーキングからの置き換え需要を想定しており、現在、約1000カ所のコインパーキングへの導入実績を、2031年までには1万カ所にまで拡大し、国内シェア10%を獲得する考えだ。

ポールカメラの活用イメージ

好調dynabookの強みを生かしたB2B事業連携

 シャープのIT事業領域において重要な役割を担う製品のひとつが、dynabookである。

dynabookのブランドアンバサダーを務める北村匠海さん

 2025年度実績では、Windows 10のサポート終了に伴う特需や、GIGAスクール構想による教育分野向けPCの整備に加えて、メモリー価格の高騰に伴う駆け込み需要を着実に取り込んだことで販売が大幅に拡大。特に、第3四半期(2025年10月~12月)には前年同期比7割超の増収を達成するほどの好調ぶりだった。2025年度のスマートワークプレイスを支えたのは、PC事業だったといってもいい。

 これに対して、2026年度のdynabookの事業計画は、特需の反動などを考慮。販売台数は年間で約4割の減少を想定している。さらにdynabookの営業利益は、100億円を超える大幅な減少を見込んでいる。

 だが、先ごろ発表した2026年度第1四半期(2026年4月~6月)業績では、前年同期比で増益を達成。販売台数も前年同期比3%増となったという。

 河村社長 CEOは、「PC事業は、価格転嫁が進展したことに加え、売価上昇に備えた前倒し需要もあり、国内B2Bや、官公庁および自治体向け、GIGAスクール向けが大幅に伸長した」と説明する。

 当初の想定とは異なり、2026年度も好調な出足を見せたというわけだ。

 シャープ 執行役員 Co-COO兼スマートワークプレイスビジネスグループ長の小林繁氏は、「2025年度には、約20%だったAI PCの比率を、2026年度には40%へと、1年間で倍増させる。高付加価値化と上位モデルへのシフトを進める」と意気込む。

 シャープは一度、PC事業から撤退しているが、2018年10月に東芝のPC事業(dynabook)を買収し、再参入した経緯がある。

 だが、沖津雅浩副会長は、「dynabookは、当社にとって重要な事業である」としながら、「dynabookによる現在のPC事業と、かつてのシャープのPC事業とはまったく異なるものである」と位置づける。

 「例えば、dynabookは官公庁や大手企業から高い評価を得ており、ここはかつてのシャープのPC事業にはなかった部分である。そしてdynabookが持つ販路は、シャープがB2B事業の拡大において積極的に活用できるものとなる。PC事業を単独でとらえるのではなく、スマートワークプレイスという切り口で、dynabookとシャープブランドのスマホや電子黒板、ディスプレイ、XRグラスなどを組み合わせた提案を進める。PCそのものに投資をするのではなく、PCと連携する領域に投資を行い、そこで新たな事業を育てていきたい」と語る。

 B2B市場に長年の実績を持つdynabookだからこそ、シャープのスマートワークプレイスにおける事業の広がりにも貢献できるというわけだ。

鴻海との連携で描くAIサーバー事業参入と将来シナリオ

 ここにきて注目を集めているのが、シャープのAIサーバー市場への参入である。

 8月7日に開催したシャープの第1四半期連結業績説明の会場に、シャープのロゴが入ったAIサーバーを参考展示。シャープの河村社長CEOは、2026年9月からAIサーバー事業を開始し、それに関する記者説明会を行うことを明らかにしてみせた。

シャープのAIサーバーと河村哲治社長 CEO

 もともとは2027年度以降での事業化を目指していたが、河村社長 CEOは、「AIサーバー事業はリードタイムがあるビジネスであり、現在、需給がひっ迫している。時間が勝負になる」と発言。前倒しでの市場参入を図ることを示唆していたが、それが現実のものになった格好だ。

 パートナー戦略を含むAIサーバー事業戦略の詳細は9月の説明会で明らかになるが、現時点で明かされている内容をまとめると、まずは、世界最大規模でAIサーバーを生産し、この分野では約4割のシェアを持つ鴻海のリソースを活用して、鴻海が生産したAIサーバーを、シャープブランドで2026年9月から販売開始することになる。

 それに伴い、シャープが国内全域に持つ保守網やパートナーとの連携により、AIサーバーの運用、保守体制も構築する計画だ。

シャープのAIサーバー

 また、次のステップでは、亀山工場内のテレビ組立工場の建屋を再利用して国内でのAIサーバーの生産を開始。国産AIサーバーとしての供給を開始するとともに、AIサーバーの構築、運用支援体制を確立する。ここでは、dynabookとの連携も図ることで、事業領域の拡大を図ることになりそうだ。

 さらに、将来的には、シャープが得意とするASEANなどを対象にしたグローバル展開を開始する一方、日本においては、フィジカルAIやAIエージェントのための次世代プラットフォームを構築し、エッジデバイスからデータセンターまでのAI基盤と、顧客課題を解決するためのソリューションを一体提供する新たなビジネスモデルの構築を目指すことになる。

AIサーバー展開のシナリオ

 シャープの河村社長 CEOは、「鴻海の製造能力や調達力を活用するとともに、鴻海が持つ主要プレーヤーとの強固なパートナーシップも生かすことができるだろう。AIサーバーの確実な供給、最適なスペックの提案、顧客の課題解決に向けた総合提案、ユーザーの事業立地に合わせた細かな保守提案を進める。また、シャープが培ってきたB2B事業のノウハウを生かすこともできる」と説明。

 さらに、「AIサーバー市場がこれから立ち上がる日本では、学習用途の利用ではなく、最初から推論用途が中心になる。シャープはここで大きな事業機会を獲得することができる。当初は販売がメインとなるが、運用、保守、構築支援、導入支援といった形で付加価値を高め、利益率を高めたい。さらに、データセンターの計算基盤だけでなく、アプリケーションのところにも踏み出したいと考えている」と事業拡大に意欲を見せた。

 シャープでは、2030年度には新規事業で年間2000~3000億円の売上規模を目指す考えを示しており、そのうち、約8割をAIサーバーが占めると見ている。そして、AIサーバー事業を、2028年度以降の次期中期経営計画における「飛躍の材料」と位置づけている。

 同社は、「再成長」と位置づける2027年度までの中期経営計画を推進しているところであり、その中で、B2B事業はB2C事業とともに再成長戦略の両輪のひとつになる。

 また、河村社長 CEO自身も長年にわたり、海外を中心としたB2B事業に関わってきた経験があり、前任の沖津雅浩副会長が家電一筋であったのとは異なる経歴だ。B2B事業を知り尽くした河村社長CEOが陣頭指揮を執る中で、鴻海との連携強化も加速し、シャープのB2B事業を拡大しやすい環境が整っていることは間違いがない。

 シャープの成長戦略の要は、IT領域を中心としたB2B事業になるといえそうだ。