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AIインフラ、自律型エージェント、Windows連携――Microsoft Build 2026に見る最新技術と現在地

 米Microsoftが、米国サンフランシスコのフォートメイソンセンターで2026年6月に開催した「Microsoft Build 2026」では、新たな製品やサービスなどが相次いで発表された。それは、2026年7月からスタートしている同社2027年度における重点領域や、それ以降のMicrosoftの方向性を示すものだったといえる。

 今回は、Microsoft Build 2026での発表内容を振り返りながら、Microsoftの現在地と、今後の方向性についてまとめてみた。

4つの階層で提示された新製品・サービス

 Microsoft Build 2026は、開発者を対象にした同社年次イベントだ。今年は、フォートメイソンセンターのキャパシティの制限から約2500人が会場に参加。その一方で、全世界15万人以上がオンライン参加したという。

 テーマは、「frontier intelligence ecosystemをいかに作り上げるか?」とし、開発者に向けて、AIを支える「Infrastructure」、AIを動作させるための「Models o Context o Tools」、これらを活用してAIを動かすための「Agent runtime」、そして、AIおよびAIエージェントを作り上げるための「Developer tools」という4つの階層において、さまざまな製品やサービスが発表されている。

4つの階層でさまざまな製品・サービスが発表された

 ひとつめの「Infrastructure」では、ローカルAI推論フレームワークである「Windows ML」、一般的なローカルAIシナリオのためのターンキーAPIである「Windows AI APIs」、共通のオープンソースモデルをローカルで実行する「Foundry Local」により、すべてのWindows PCにおいてローカルで稼働するAIアプリを開発、実行できる環境を提供できるようになったと発表した。

 これは、昨今の課題となっているトークン使用量の増加を抑制する提案ともいえるものだ。

すべてのWindows PCでローカルで稼働するAIアプリを作り、実行する
Foundry Local
Windows ML

 また、エッジサイドの強化だけでなく、サーバーサイドの強化も発表している。それが、推論に特化したAIアクセラレーターである「Maia 200」である。TSMCの最先端3nmプロセスで製造され、1400億個以上のトランジスタを搭載。大規模AIワークロードに最適化されたコスト効率の高いパフォーマンスを実現できる。Microsoftによると、FP4で10PFLOPS超、FP8で5PFLOPS超の性能を実現。いずれも750WのSoC TDP内で提供できるという。

推論に特化したAIアクセラレーターである「Maia 200」

 AIエージェントおよびアプリ向けに自社開発したArm CPUの「Cobalt 200」も発表した。Cobalt 100と比較して50%の性能向上を実現するとともに、レイテンシーを33%低減。スループットは23%向上したという。

AIエージェント向けに自社開発したArm CPUの「Cobalt 200」

 さらに、データベース処理の向上に向けては、PostgreSQLベースの「Azure HorizonDB」のパブリックプレビューの提供を開始したことを発表。GPUアクセラレーションによるクエリ実行機能である「GPU-accelerated Fabric Data Warehouse」も発表し、最大7倍のパフォーマンス向上が見込まれるという。

Azure HorizonDB

 2つめの「Models o Context o Tools」においては、エンタープライズAIのための統合インテリジェンスと位置づける「Microsoft IQ Platform」が重要な柱になる。

 これまでにも、仕事のコンテキストを提供する「Work IQ」、ビジネスのデータ基盤を整備する「Fabric IQ」、エージェント向けのナレッジ基盤である「Foundry IQ」を提供してきたが、新たに、社外にある世界中の情報を取り入れる「Web IQ」を発表した。

 従来は、人が外部の情報を取り入れるために最適化した技術にとどまっていたが、「Web IQ」では、AIエージェントが活用するために最適化された形で外部の情報を取り込み、効率やレイテンシ、処理精度の課題を解決できる。

Web IQ

 3つめの「Agent runtime」では、エージェントの実行基盤として「Microsoft Execution Containers」を発表。OpenClawをエンタープライズ環境で実行することが懸念されるという課題に対応し、サンドボックス型によりセキュリティを確保。ポリシーベースでの制御が可能になるという。

 また、「Hosted agents」では、複数のAIエージェントが実行する環境において、スケーラブルに、安全に管理することができるという。

 4つめの「Developer tools」では、エージェント駆動型開発に特化したデスクトップアプリケーションである「GitHub Copilot App」を発表。複数の人が参加したチームで、マルチAIエージェントを活用しながら開発を進める際に最適化したプラットフォームになっているという。

GitHub Copilot App

自律型AI「Scout」から独自推論モデル「MAI Thinking-1」まで、さまざまなAI関連製品群を発表

 一方で、フロンティア組織が活用する新たなAI関連製品群についても発表している。

 Copilotでは、Chat、Cowork、Codeに加えて、新たにAutopilotについて発表した。3年前に、Copilotを発表した際に、「Autopilotは作らない」と明言していたMicrosoftだが、3年が経過して技術的にAutopilotを市場投入できる環境が整ったことで、今回の発表に至ったと説明している。

 Autopilotの具体的なソリューションが、「Microsoft Scout」である。

 「Microsoft Scout」に関しては、Microsoft Build 2026において、出張経費の精算を自動的に行う様子をデモしてみせた。Microsoft 365上にあるデータと、ローカルデータを同時に探索し、該当する領収書や関連するファイルの内容を解析。ブラウザで経費精算ツールを自動的に立ち上げて、操作を開始する。

 この時、「Microsoft Scout」には経費精算ツールがどれであるかを教えておらず、日々の操作の中からAIが学習して経費精算ツールを起動しているという。

 また、経費精算の作業が完了し、実際に経費精算レポートを作成する前に、人が承認を行う仕組みとしており、作業は自動化しても最終確認は人が行い、安心・安全に運用できるようにしている。

Microsoft Scout

 Microsoftでは、人の代わりに仕事を完了させる最初の「デジタルワーカー」と位置づけており、「Work IQ」と連動することで、メールや会議、ドキュメントなどの企業知識を活用した自動化を実現。エンタープライズレベルでも活用できるAutopilotを可能にすると述べている。

 Microsoft Build 2026においては、Microsoftのサティア・ナデラCEOは、「Hill climbing machine」という言葉を使い、AIエージェントを進化させ、組織知を誰にもまねができない資産に変える仕組みを提供する考えを示した。

Hill climbing machine
米Microsoftのサティア・ナデラCEO

 業務ごとに最適化したさまざまなモデルを活用できる環境や、企業自らが持つナレッジを活用することで、モデルが想定通りに動作するように、コンテキストを重視したりハーネスエンジニアリングを行ったりしながら、最適なエージェントを開発する。

 さらに、Evals(イーバル)という新たな概念を示し、これによってエージェントの行動を評価し、進化させていくことができるとした。これらの仕組みを「Reinforcement learning environment」と定義している。

 また、Microsoftでは、すでに1万1000以上のモデルをサポートしていることに加えて、新たにClaudeがMicrosoft Foundryで動作すること、Fireworks AIをMicrosoft Foundryでサポートしたこと、新たなMAI(Microsoft AI)モデルを、Microsoft Foundryを通じて提供することを発表した。

すでに1万1000以上のモデルをサポート

 MAIについては、画像認識や音声認識など、7種類のモデルが公開されている。

 中でも、Microsoft独自の推論モデルであるMAI Thinking-1に大きな注目が集まった。MAIのフラッグシップとなる推論モデルであり、クリーンなデータをもとに一から学習。350億パラメータと中規模であり、低コストでの利用が可能でありながら、同クラスではトップレベルの性能を実現。さらに、コーディング性能が高いのが特徴だという。

 また、Frontier Tuningと呼ぶ新たなサービスにより、ユーザー自らが管理する環境のもと、自社のデータを用いて独自のモデルを構築できる機能の提供も発表した。

 エンタープライズにおけるSecurity with AIやSecurity for AIに関しては、自律型AIエージェントを用いて脆弱性を管理する「MDASH」を発表した。MDASHでは、OpenAIやAnthropicなど、4つのモデルを組み合わせているほか、約100の専門AIエージェントが稼働。これによって、脆弱性を発見する精度向上を実現しているとした。

 また、AIエージェントの状況をリアルタイムで可視化し、管理できるAgent 365では、シャドーエージェントを検出し、ローカルエージェントを保護する機能を追加したほか、Agent 365 SDKでは、AWSやGCPで開発したエージェントも管理できるようにしているという。

Agent 365 SDK

 そのほか、研究開発分野向けに開発したエンタープライズAIプラットフォームであるMicrosoft Discoveryの一般提供を開始したほか、Microsoft Discoveryのエージェント型AIを活用して開発した次世代トポロジカル量子チップ「Majorana 2」を発表。前世代の量子ビットと比べて信頼性が1000倍向上しており、2029年までにスケーラブルな量子コンピュータを実現することを宣言した。これは、当初の想定から開発期間を半減することになる。

Majorana 2

 なお、Microsoft Build 2026では、Project Solaraと呼ぶハードウェアの発表も行われた。専用のハードウェアソリューションと組み合わせた新しいソフトウェアプラットフォームと位置づけ、「エージェント・ファースト」な体験を切り拓く、ノートパソコンでもデスクトップパソコンでもない、次世代コンピュータの新たなフォームファクターとも表現している。

 ここでは、企業向けに設計した据え置き型の「デスクコンセプト」と、携帯型の「バッジコンセプト」を発表。大きな画面がなくても、音声でエージェントを操作でき、セキュアな環境で利用できるようになるという。

 だが、Microsoftがデバイスを作るのではなく、デザインやソリューションを提供。デバイスメーカーとの連携によって製品化することになるという。公開した2つのコンセプトモデルも、モトローラが開発したものだという。将来的には、日本のデバイスメーカーの参入も想定される。

次世代コンピュータと位置づける「Project Solara」

オンデバイスAIと開発環境の拡充を発表

 一方、Windows関連の発表も相次いだ。

 「Windowsは、Windows開発者のためのものではなく、すべての開発者のためのWindowsに進化していく」というメッセージが打ち出されたように、多くの開発者にとって、最適な開発環境を提供する取り組みを加速する考えを示した点も、今回のMicrosoft Build 2026では重要なポイントだ。

 例えば、Windows Subsystem for Linux(WSL)は、Windows上でLinuxワークロードを実行するための基盤となっており、今後、WSL containersを通じて、WSLをWindowsにより深く統合することを発表。使い慣れたCLIとAPIを使って、Linuxコンテナを作成、実行、操作できるようになる。

 また、一般提供の開始を発表したCoreutils for Windowsは、uutilsオープンソースプロジェクトをもとに構築。Windows上でネイティブに動作するLinux風のコマンドラインユーティリティとなる。LinuxやmacOS、WSL、コンテナ、クラウド環境を行き来しても、長年かけて築いたコマンドとワークフローは、そのままWindows環境で動作させることができる。

 さらに、「Copilot Cloud Agent」や「Copilot CLI」、「Copilot SDK」といった各種のツールが、さまざまなデバイスや多様なクラウドでもインストールが可能になり、エージェントに対して、必要なところから、自由にアクセスできる環境を実現していることも示した。

 Microsoftでは、1980年代の草創期に「A computer on every desk and in every home(すべての机と、すべての家庭にコンピュータを)」というスローガンを掲げたが、新たに「Unmetered Intelligence on every desk and in every home(あらゆるデスクと家庭に、無制限のインテリジェンスを)」を打ち出し、AI時代における同社の新たな方向性を打ち出している。

 このメッセージに呼応するように、オンデバイスAIの実現に向けた取り組みも加速。Windows上での定額無制限のインテリジェンスの提供も行うことを示した。具体的には、新たなオンデバイスSLMとして、「Aion 1.0 Plan」を発表。完全にローカルなAIエージェント機能を可能にする推論のツール呼び出しモデルであり、「Aion 1.0 Instruct」よりも、小型で、高速で、高性能なオンデバイスSLMと位置づけている。

 また、Windows AI APIを、CPUとGPU全体へ拡張し、より多くのWindows 11搭載PCに提供。音声テキスト変換認識APIが、NPUとCPUで利用可能になるという。また、オンデバイスSLMは、高性能dGPUへと拡張され、テキストインテリジェンス機能をローカルで実現。さらに、Video Super ResolutionがCPUで利用可能になり、新たな体験を提供できるとした。

 加えて、法人向けには、Windows 365 for Agentsを提供。業務ワークフローに必要で、適切に管理されたセキュアなクラウドPCから、Computer-Usingエージェント(CUA)を実行する機能を提供するという。

 注目を集めたのは、NVIDIA RTX Sparkスーパーチップを搭載した開発者向けワークステーションである「Surface RTX Spark Dev Box」の発表である。

 NVIDIA Blackwell RTX GPUとNVIDIA Grace CPUを組み合わせ、128GBのユニファイドメモリとともに最大1PFLOPSのAI演算を実現。1200億以上のパラメータを持つモデルを、100万トークンのコンテキストで実行できるほか、クラウドのGPUインスタンスを必要としていたモデルをファインチューニングする際にも、十分な演算性能を持っているという。

Surface RTX Spark Dev Box

持続可能なAI専用データセンター「Fairwater」とデータ基盤の強化

 Microsoft Build 2026では、AIデータセンターの取り組みについても公開している。

 これによると、Microsoftは、全世界80以上のリージョンに、500以上のデータセンターを展開。直近1年半におけるデータセンターへの投資規模は、Azureの提供開始から10年間の投資を超える規模になっているという。

 また、AI専用データセンターである「Fairwater(フェアウォーター)」についても言及。大規模なAIデータセンターを稼働させても、地域の電気代を上げずに水の実質消費量をゼロにし、地域の雇用に貢献することを掲げ、持続可能な環境で、AIデータセンターの新設と運用を実現することを目指している点を強調した。すでに米国のウィスコンシン州マウントプレザントと、ジョージア州アトランタで稼働している。

Microsoftが建設しているAIデータセンターの「Fairwater」

 さらに、データ領域では、Microsoft Fabric上で動作するRayfinを発表。Microsoft Fabricを、BIのようなデータ分析基盤としての利用だけでなく、蓄積したデータを活用し、本番環境の要件を満たすアプリケーションを簡単に開発できるようにしているという。

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 このように、Microsoft Build 2026では、さまざまな製品やサービスが発表されており、これ以外にも、開発者向けの製品、サービスの発表が相次いでいる。そのなかで、Microsoftは、AI時代においても、開発者に信頼される開発プラットフォームとして、さらに進化させる姿勢を打ち出してみせた。

 このメッセージが、Microsoft Build 2026を通じて、開発者たちに伝わったのか。そして、日本の開発者たちは、日本マイクロソフトに信頼感を持てたのか。その成果は、同社2027年度の取り組みのなかで明らかになる。