インタビュー

セールスフォース・小出伸一社長、エージェント型AI活用の鍵として「4つのR」を提唱 組織変革とFDEで日本企業のAI化を伴走支援

 米Salesforceは、9月15日から9月17日までの3日間にわたり、米国カリフォルニア州サンフランシスコにおいて、同社の年次イベント「Dreamforce」を開催。同社がライブインターフェイスと説明する新しいSalesforce CRMへの入り口「AIforce」などについて説明した。

 この中で、Salesforceの日本法人となる株式会社セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長兼社長の小出伸一氏が、報道関係者を対象とした記者説明会を行い、日本におけるエージェンティック・エンタープライズ(エージェント型AIを活用した企業)の実現のために、4つのR(リデザイン、リスキリング、リディプロイメント、リバランス)を掲げ、顧客に同社のAI搭載CRMの活用を呼びかけていくと説明した。

 また、日本市場向けという観点では、2桁%の大きな伸びを見せていると述べ、日本市場がSalesforceにとって期待される市場になっていることを強調した。

株式会社セールスフォース・ジャパン 代表取締役会長兼社長の小出伸一氏

エージェント型AI活用のカギを握る「4つのR」

 小出氏によれば、今回、同氏が統括する日本、韓国、台湾の各市場から合わせて900名超の顧客が今回のDreamforceに参加しているという。実際、会場や会場近くを歩いていると、Dreamforceのバッジをつけた日本人とみられる参加者に多く遭遇し、日本からの参加者が多いことを実感できた。

 そうした日本の顧客のCXO(CEOやCIO、CTOレベルのエグゼクティブのこと)とも意見交換を行ったという小出氏は、「お客さまの関心は、すでにAI製品・技術から、具体的なユースケース、ROI(投資対効果)、そしてどう組織を変えていけばAIエージェントとともに働けるのかなどに移りつつある」と話す。

 AI導入の初期段階から一歩進み、エージェント型AIを本格的に活用するためには、HR(人事)など会社側の組織のあり方そのものを変える必要があり、その方法についての相談が増えていると指摘した。

Salesforceのマーク・ベニオフCEOとおそろいだという寿司のミニチュアがついているスマートフォンケースを見せる小出氏。ベニオフCEOは禅の文化に精通し、日本に滞在する時は京都で座禅を組むなど、日本通としても知られている

 そうした日本の顧客に対して、4つのRというキーワードでITや組織のあり方を変えていくべきだと説明しているという。その4つのRとは、リデザイン(Re-design)、リスキリング(Re-skilling)、リディプロイメント(Re-deployment)、リバランス(Re-balance)のことで、それぞれエージェント型AIを活用できる組織にするために必要な要素だと小出氏は説明した。

 このうち、リデザインは「組織の形やビジネスの形、さらにはAIと人間の役割を再定義すること」(小出氏)。AIエージェントが効率よく実行できる環境を整えることだという。エージェント型AI時代に人間とAIが協業していく上で、例えば社内の人材配置をエージェント型AIを意識した形に変え、ビジネスプロセスのあり方そのものを見直す必要があるとする。

 リスキリングとは「人間に高付加価値業務をやってもらい、AIエージェントにも必要なスキルを与えること」(小出氏)。人間だけでなくAIエージェントにもスキルを与え、スキル教育を再度行うことだという。

 リディプロイメントは、「人間とAIエージェントの役割を適切な場所へ再配置すること」(小出氏)。これまでの人間の配置やAIエージェントの役割などを見直し、それを再度適用していくという実行段階のことだ。

 そしてリバランスとは「結果を継続的に評価し、サイクルを再調整すること」(小出氏)。リデザイン、リスキリング、リディプロイメントの各段階をぐるぐる回すだけでなく、継続的にその結果を評価し、その回し方(サイクル)に再調整を加えながら実行することだという。

顧客に併走する「FDE」の展開と「AIforce」がもたらす現場の変化

 小出氏によれば、そうした話を顧客にすると理解は得られるものの、「具体的にどうやるのか」という相談が寄せられることが多いそうだ。

 そこでセールスフォース・ジャパンとしては、FDE(Forward Deploy Engineering)と呼ばれる取り組みを進めているという。セールスフォースのようなサービスを提供する事業者からエンジニアが顧客企業のもとに出向いて組織側の課題を見いだし、エージェント型AIに適した組織に変えるにはどうしたらいいかなどを一緒に考えているとのことだ。

 小出氏は「FDEにより、我々がお客さまと併走して結果にコミットするといったサポートを行うことで、一緒に最初の一歩を踏み出しましょうと提案しており、そうしたものが大事になると考えている。そして、そのようなサポートを行うためには、我々自身も変わっていかなければならない」と話す。

 セールスフォース・ジャパンとしても、社内の人的リソースをFDEに配置転換したり、新しくエンジニアを雇ったりという体制変更をしながら、顧客に対してFDEのサービスを提供できるように陣容を変えているという。

 同時に、これまでパートナーとして一緒に顧客のサポートをしてきたSIerなどとの連携も強化し、例えばセールスフォース・ジャパンの拠点がない地方などでは、SIerを通じてFDEを提供するといった体制を現在整えている段階だと説明した。

 また、今回のDreamforceで発表されたAIforceのデモを行うと、日本の顧客も皆、一様に興味を示してくれていると小出氏。「多くのお客さまに、私のスマートフォンでSlackBotからSalesforceにアクセスするデモをお見せしている。例えば、金融業のお客さまであれば、これからお会いする頭取が一番気にされていることは何か?みたいなことをSlackBotに聞くと、Salesforceの中にある情報、一般に出ている情報のすべてから情報を引っ張って、かなり精度の高い回答をしてくる。これまでであれば、その顧客企業の営業担当者に紙の資料などを用意してもらってブリーフィングをしていたが、これからはSlackBotに聞けばいいのだと」(小出氏)と説明した。

 そうした顧客と一緒にセールスフォース・ジャパンがFDEで開発を行い、エージェント型AIの導入を実現していく――、それがセールスフォース・ジャパンの成長戦略だということになる。

今回のDreamforceで発表されたAIforce
基調講演でのAIforceのデモ。AIと対話しながらCRMをより効率よく活用できるようになる

利用量は前年比3桁%増へ、レガシー脱却を支える「Data 360」

 そうしたセールスフォース・ジャパンの現状だが、日本市場がAI導入で再び成長軌道に乗っているという。具体的な数値は公開されなかったものの「Agentforce化と、それにあわせて導入されるコンサンプション(筆者注:トークンのコストなどを、消費しただけ支払う形の課金モデルのこと)の使われ方の履歴をみていると、グローバルに引けを取らないレベルで成長している。対前年でいうと3桁%の成長を見せている」(小出氏)とのことで、コンサンプション型課金のような料金体系では対前年比で3桁%の成長を見せており、セールスフォース・ジャパンの顧客の間でも、AIの活用が急速に進んでいると説明した。

 ただ、やはり日本独自の課題もあって、例えば、今でもメインフレームが多く残っており、データの細分化は依然として大きな課題だという。

 小出氏は「この10年でグローバルにはクラウド化などが進んできたが、日本ではメインフレームを中心に、縦割りのシステムになっていることが多い。そのためにデータの構造が分断されており、フォーマットも統一されていないという悩みをお持ちのお客さまは多い。グローバルに比べて若干の出遅れ感があるので、データの整備をきちんとやることが、日本のお客さまが取り組むべきステップになっている。そこで、Salesforceとしては、ゼロコピーを実装しているData 360の導入をお薦めしており、それをきちんと実装していくことで、日本のお客さまが本格的にエージェンティック・エンタープライズ化を果たしていくことをお手伝いしていきたい」と、日本市場独自の課題を説明。

 メインフレームや旧来型のデータベースなどのサイロ化(細分化)されたデータ構造が未だに残る日本市場の特徴に対処するため、データがどこにあってもゼロコピーでデータをAIが活用できるようにするData 360の採用を積極的に推進することで、エージェント型AI導入に向けたハードルを下げていきたいと強調した。

Data 360