大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

IBMはクラウドでどう変化するのか?(後編)

いよいよ到来する、IBMがクラウドで戦える時代

IBMが提供する3つのクラウドサービス

 IBM Cloudは、「Public」、「Dedicated」、「Local」という3つの観点からクラウドサービスを提供できるという。

 最初の「Public」とは、パブリッククラウド環境での活用であり、マルチテナントで稼働させるものだ。

 「パブリッククラウドでは、クラウドネイティブアプリが得意とするSoEではあるものの、ミッションクリティカルに近い環境で動作させなくてはならないアプリが増えてきた。これからはそうしたアプリがもっと増えてくるだろう。そうした環境においては、ユーザーの意思やタイミングでパッチを当てたいという要望も出てくる。そこに、Dedicatedという提案がある」とする。

 「Dedicated」では、パブリッククラウドサービスのなかにシングルテナント環境により、顧客ごとの占有空間を用意。ここにIBM Cloudならではの特徴があるとする。

 そして、「Local」においては、PaaSなどを活用しながらも、個人情報などの重要なデータは手元に置いていたいという場合に提案するものだとし、ここでもIBM Cloudの特徴が発揮できるとする。

 「この3つのクラウド環境を提供することで、要望にあわせた形で、ワークロードやデータの配置を柔軟にすることができる。3つの環境から、IaaSおよびPaaSを提供できるのは、IBMだけであり、まさにIBMならではのユニークな考え方である」とする。

IBMが提供する3つのクラウドサービス

なぜIBMはベアメタルにこだわるのか?

 もうひとつのIBM Cloudの特徴が、ベアメタルであるという点だ。

 IBMは、InterConnect 2017の開催前日まで、全世界19カ国、50カ所にデータセンターを配置していたが、開催初日には、中国ワンダグループとの提携により、同社初となる中国へのデータセンター開設を発表。全世界20カ国、51カ所のデータセンターを持つことになった。2017年は、さらに10以上のデータセンターを新設する予定であり、グローバルでのインフラ整備を加速させている。

全世界にデータセンターを展開するIBM

 日本IBMの三澤智光 取締役専務執行役員は、「競合他社にないサービスのひとつが、ベアメタル。スピードが速いことから、ハイパフォーマンスコンピューティングでの活用や、トランザクションが増加するようなサービスにおいて威力を発揮する。データセンター間のバックボーンネットワークは無償で利用することも可能であり、IBM Cloudを利用するということは、グローバルネットワークを手に入れることができるのと同義語になる。また、ベアメタルは、オンプレミスでのソフトウェアライセンスをそのまま利用したり、ハイブリッドのデザインが行いやすいという特徴も持つ」とする。

 調査会社によるベンチマークでは、AWSに比べて3倍の速度を実現するといった結果も出ているという。

日本IBMの三澤智光 取締役専務執行役員

 だが、ベアメタルを提供する強みは、これだけにとどまらない。

 三澤氏は、こんなところにも特徴があるとする。

 「オンプレミスのシステムをAWSに移行した場合に、多くのトラブルが発生したり、莫大な費用がかかったりといった話をよく聞く。その理由は簡単だ。ミッションクリティカルシステムなどのSoRにおいては、サーバー管理やバックアップ、高可用性機能など、ミッションクリティカルアプリには欠かせない非機能要件があり、それがインフラ領域に実装されている」。

 「しかし、AWSなどの競合他社のパブリッククラウドは、クラウドネイティブアプリ向けに最適化された環境であり、パブリッククラウドに移行させる際には、非機能要件をアプリケーション側に実装しなくてはならない。いわば、アプリの書き換えが発生する。そのために多くのトラブルや費用が発生する。一方、IBMは、インフラ部分にベアメタルを採用している。そのために、そのままインフラに非機能要件を組み込むことができる。オンプレミスと同じ環境でパブリッククラウドに移行ができる」。

 IBMの論調は、オンプレミスのミッションクリティカルシステムを、パブリッククラウドにスムーズに移行させるには、ベアメタルでないと難しい、というものだ。そして当然のことながら、IBM Cloudが持つベアメタルの優位性は、オンプレミスとパブリッククラウドを結ぶハイブリッドクラウド環境でも生かされることになる。

 IBMには、数多くのミッションクリティカルシステムユーザーが存在する。それだけのユーザーを抱えているIBMだからこそ、同社のクラウド戦略において、インフラ環境にベアメタルを持っていることは重要な意味があり、理に適っているものだといえる。SoftLayerの買収の理由もそこにあったといえよう。

 さらに、インフラの堅牢性を別の観点からも示してみせる。

 「AWS S3はリージョンが落ちるとすべて落ちてしまう構造となっているが、IBM Cloudはマルチリージョン化していることから、ひとつのリージョンが落ちても、ほかのリージョンが稼働していれば、継続的に稼働させることができる。エンタープライズユーザーが求める高可用性を実現している。IBM Cloudの強みのひとつである」とする。

Salesforce.comとの提携の狙いは?

 ところで、気になるのが、2017年3月6日に、突然発表されたSalesforce.comとの提携の狙いだ。

 IBM InterConnect 2017では、IBMのジニー・ロメッティ会長兼社長兼CEOの基調講演に、Salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEOがゲストで登壇し、2人のやりとりに注目が集まった。

Salesforce.comとの提携の狙いはなにか

 Salesforce.comには、Salesforce EinsteinというAIがあり、Watsonとも競合する部分は避けられない。それにも関わらず、Salesforce.comが、IBMと提携する狙いはなんなのか。

 「Salesforce Einsteinは、CRMやSFA向けのAIだが、Salesforce.comのユーザーは、これだけでは足りないと考えている。ほかのデータを活用してコグニティブアプリケーションを開発したいという場合に、Watsonという選択肢を用意できる」と、三澤氏は説明する。

 Salesforce.comも、AIには多くの投資を行い、すでに160人以上のトップデータサイエンティストを採用し、Einsteinの開発に取り組んでいるが、残念ながら、機械学習や深層学習では遅れをとっているのは明らかだ。この点では、Watsonに頼らざるを得なかったともいえるだろう。

Salesforce.comのマーク・ベニオフ会長兼CEO

 ただ、提携の狙いはAIだけではなさそうだ。Salesforce.comとIBMのオンプレミス、あるいはSalesforce.comとIBMのクラウドを活用したインテグレーションツールの充実を図ることで、ハイブリッドクラウド環境での双方におけるビジネスチャンスが生まれるという点も見逃せない。ここでは、システムイングレーションを展開しているIBM グローバル・ビジネス・サービス(GBS)にもメリットが生まれることになりそうだ。日本IBMのGBSにも新たなビジネスチャンスが生まれる可能性がある。

 実は、IBMは、Salesforce.comのインテグレータとしては北米で最大規模となるBluewolfを2016年に買収している。「その結果、Salesforce.comの北米最大のインテグレータはIBMになった。今回の提携により、Salesforce.comを活用したインテグレーションを加速することができる」(三澤氏)という事実も見逃せない。

 Salesforce.comにとってのもうひとつの提携メリットは、IBMが持つThe Weather Companyの気象データの活用が可能になるという点だろう。

 基調講演においても、ベニオフ会長兼CEOは、「全米上位5社の保険会社において、顧客情報の管理に、セールスフォースが使われている。ここに気象情報を組み合わせると新たなサービスが創出できる。例えば、先週、サンフランシスコでは珍しくひょうが降ったが、このときに、保険会社は顧客に対して、『ひょうが降るのでクルマをガレージのなかに入れた方がいい』といった情報を流すことができるようになる」などと、具体的な事例を示してみせた。

 気象情報とCRMとの組み合わせによるメリットが大きいことは容易に想像できる。その成果を想定すれば、Salesforce.comにとっては、Watsonよりも、むしろ、The Weather Companyのデータの方が提携メリットが大きいのではないか、とも捉えることができる。

 ロメッティCEOも、「The Weather Companyが持つデータは驚くべき価値があるもので、これをセールスフォースのユーザーが利用できるようになる」と発言した。

 Salesforce.comにとって、CRMの価値を高めるデータとして活用できる一方で、IBMにとっても、世界最大のCRMベンダーとの提携によって、気象情報を活用した新たなビジネスを創出できるチャンスが生まれるといえそうだ。

クラウドビジネスは17%にまで拡大

 IBMは、クラウド事業を中核とする新たな事業体制への変革を目指しているが、クラウドが同社の事業の柱になりうるには、まだ時間がかかりそうだ。

 IBMは、クラウドソリューション領域などに対して、年間7000億円の新規の研究開発投資を行い、さらに積極的な買収も行っている。パブリッククラウド事業への参入が遅れたIBMにとって、この領域への投資は最優先課題であることはいまも変わらない。

 ロメッティCEOは、「IBMの売上高に占めるクラウドビジネスの比率は17%」と語り、その構成比が着実に高まっていることを示すが、まだまだ構成比が低いのは明らかだ。19四半期連続での減収も、既存ビジネスの減少を、成長するクラウドビジネスで補えないという変革の苦しみを示すものだ。

 日本IBMでは、クラウドビジネスの構成比を明らかにはしていないが、米国よりも進展は遅れており、1桁台の構成比にとどまっている模様だ。

 だが、三澤氏は、「日本においても、数多くの顧客においてIBM Cloudが採用されている。単なるIaaSやSaaSという活用ではなく、顧客のワークロードやソリューションを支えていることが特徴」だとする。

 三井住友銀行では、リスク対策に活用するハイパフォーマンスコンピューティングで活用しており、IaaSの活用規模では国内最大だという。また、三菱東京UFJ銀行では、外部委託業者などのビジネスパートナーとの契約の管理などにIBM Cloudを活用。ここにブロックチェーン技術を活用しているという。

 三菱東京UFJ銀行の村林聡専務取締役は、「1965年にシステム360を導入して以来、IBMとの長年の付き合いがある。現在、2600億ドルの資産を持ち、4000万口座を持つ三菱東京UFJ銀行では、今後、クラウドを活用した新たなバンキングシステムを立ち上げたいと考えている」とし、「外部委託業者などのビジネスパートナーとの契約の管理などにブロックチェーン技術を活用したことで、時間やコストを削減、サプライヤーとのやり取りの合理化が図れるという結果が出ている。実証実験はあと2カ月で終了するが、これとは別にブロックチェーン技術を活用した実証実験を並行して進めており、これらの実績を生かし、幅広い領域に活用したい」と述べた。

 村林専務取締役は、「7年後には、当行で行っている本部業務のうち、5割がAIに置き換わるという調査結果が出た。それぞれのAIが持つ特性などをとらえながら、適用に向けた研究を進めていきたい」とした。

三菱東京UFJ銀行の村林聡専務取締役

IBMユーザーがクラウドに本腰を入れて乗り出す

 IBMのユーザーは、メインフレームを中心としたレガシー分野で圧倒的な強みを誇るのは周知の通りだ。金融分野での圧倒的なシェアはその象徴だともいえる。

 だが、これらの大規模ユーザーのクラウドへの移行は遅かった。とくに日本ではその傾向が強い。そのため、IBM自らのクラウドビジネスへの移行が遅れたのは明らかだ。

 「既存ビジネスが成功しているのに、あえてクラウドの提案をする必要がない」(同社関係者)というのも、当然の判断だったといえる。業界が横並びで訴求した「クラウドファースト」という言葉に対して、最もその対応が遅かったのはIBMだった。

 だが、いまではその様相は変わってきた。

 もともとクラウドの活用を率先してきたのは、少し前までは、Amazon.comやGoogle、Facebookといった企業、最近では、Uberやネットフリックス、AirB&Bといった「ディスラクター(破壊)」型企業であった。クラウドネイティブ環境で、クラウドを利用する企業が中心だった。

 しかし、この数年は、オンプレミスを中核に据えたITシステムを活用してきた企業が、新たなビジネス環境に対応するために、積極的にクラウドを活用ししはじめ、結果として、ハイブリッドクラウドが重視されるようになってきたという変化がみられる。こうした環境になってくると、クラウドビジネスが、IBMの得意領域へと入ってくるという言い方もできる。ここにビジネスチャンスがあると、IBMは考えているのだ。

 「日本の企業の99%は、オンプレミスのITアーキテクチャを活用しながら、クラウドを活用したビジネス創出に乗り出そうとしている」と、三澤氏は前置きしながら、「だが、今までのビジネスを支えてきたSoRは無くすことはできない。24時間365日の安定運用を求めるシステムは維持されることになる。その一方で、デジタル化の進展に伴い、ビジネスの変化に対応したSoEが求められるようになる。これは、日本のあらゆる会社に突きつけられた課題でもあり、異なる要件を持ったITを統合しなくてはならないということにもつながる。どう管理していくのかも課題になる。いまの仕組みを生かしながら、いかにハイブリッドに統合していくのかが課題になる。だからこそ、IBM Cloudは、ハイブリッドクラウドに最適化したアーキテクチャであり、そこが競合他社のクラウドとは異なる点である」と位置づける。

 クラウドサービス単体のビジネスだけでなく、プロフェッショナルサービスを提供できるという強みも、IBM Cloudのビジネス成長を支えることになりそうだ。これも他社にはないIBM独自の部分だろう。

SoftLayerとBlueBoxをBluemixに統合

 IBMは、2016年10月に、IaaSであるSoftLayerと、プライベートクラウドであるBlueBoxを、IBMが独自に開発したPaaSであるBluemixに統合。クラウドビジネスを、IBM Bluemixブランドに統一して展開している。

 「買収を続けてきた結果、ブランドが多く、わかりにくいという声も聞かれた。そこで、IBM Bluemixブランドに統一した。SoftLayerが無くなったのではないかと勘違いしている人もいるが、ブランド名を統合したものであり、実質的に無くなったものではない」(三澤氏)とする。

 また、米IBMのロメロ バイスプレジデントも、「技術の統合という観点では、エンドユーザーの視点を重視した。シングルインタフェースで、シームレスに統合することを目指したものであり、ひとつのプラットフォームを実現できる。これは顧客にとってもメリットがある統合だ」とする。

SoftLayerとBlueBoxをBluemixに統合

「データ」を中心に考えるクラウド

 IBMは、同社のクラウドアーキテクチャを示すために、4階層の図を用いている。

 最下層にあるのがクラウドであり、クラウドの上にデータを蓄積し、クレンジングしたデータを活用して、AIを活用して洞察などを得るという仕組みだ。そして最上位にはアプリケーションを置く。ここでは、エキスパートによって構築された業界ごとのアプリケーションを提供していくことになるという。

 この4階層の図を説明する際に、とくにこだわっているのが、「IBM Cloudは、データが活用できるクラウドである」ということだった。これは、今回のIBM InterConnect 2017において、何度も発信された言葉でもあった。

 「データを活用するために、AIがあったり、洞察を行ったりといった機能を提供するこことになる。それを助けるためのクラウドを提供するのがIBMの基本姿勢である」と三澤氏は説明する。そして、ジニー・ロメッティCEOも、「データは民主化するのではなく、商業化するものである。多くの顧客は、価値のあるデータは外には出さない。共有して利用するのではなく、個別の企業に対して、価値のあるデータを提供することがIBMの役割。IBMは、そこでビジネスをしていかなくてはならない」とする。

IBMのクラウドプラットフォーム
IBMのクラウドアーキテクチャを示す4つの階層

 すでに発表しているWatson Data Platformでは、さまざまなデータソースと様々なアナリティクスツールを仮想的に統合。データを活用するためのクラウドとしてのコンポーネントを提供する。さらに、今回のIBM InterConnect 2017では、IBM Cloud Object Storage Flexを提供することを発表。競合他社のサービスに比べて、75%も低いコストで提供できることを示した。このベースになっているのは、IBMが、2015年に買収したCleversafeであり、今回、オブジェクトストレージの品揃えを強化し、戦略的な価格戦略を打ち出した格好だ。

 これらの新たな製品の投入をみても、データ領域において、積極的な投資をしていることがわかる。

ハードウェアからの投資も進める

 一方、IBM Cloud Object Storage Flex 以外にも、ハードウェアの観点からの投資にも余念がない。

 IBM InterConnect 2017では、量子コンピュータのIBM Qに関しても、開発投資を行っていることを示したが、これもWatsonが、これまで以上に多くの領域で利用されることを睨んだ投資であることが見逃せない。

 ロメッティCEOは、基調講演で、IBM Qについては、サラっと触れてみせたが、IBMのクラウド戦略およびコグニティブ戦略を推進する上では、重要なポイントのひとつだといえる。

量子コンピュータのIBM Q

 実は、IBM InterConnect 2017では、インテルとの次世代データセンターの共同開発を発表するとともに、基調講演とは別に行われたセミナーで、IBMが目指す新たなサーバーアーキテクチャーおよびネットワークアーキテクチャーを発表してみせた。

 公開されたサーバーでは、電源ユニットや冷却ファンユニットを取り除き、その部分にGPUやSSDを搭載。より高密度な環境を実現できるものとしていた。また、ネットワークプロセッサと呼ぶチップを搭載し、スイッチとルーターを経由せずCPU同士が接続する環境を実現するとし、「IBMはクラウドサーバー、ネットワーク機器においても革命を起こそうとしている。まだまだ技術革新が起こる。新たなクラウドデータセンターの形になる」(三澤氏)という。IBM InterConnect 2017では、クラウド時代に向けて、ハードウェアの観点からの新たな挑戦に投資をしていることも示してみせた。

IBMはSaaSに本格的に乗り出すのか

 一方で、IBMでは、今後、SaaSの領域に積極的に乗り出そうとする姿勢が感じられる。

 IBM Cloudでは、IaaS、PaaSでクラウドビジネスを展開し、その上に、「価値」を乗せるというのが基本戦略だ。だが、IBMが価値とする部分は、一部はPaaSの部分が含まれるが、これらの多くは競合クラウドベンダーでは、SaaSと呼んでいる領域ともいえる。

 そして、「今後は、クラウド、データ、AIという複雑な技術を見せずに、様々なアプリケーションだけを見せるという仕組みに変えていくことになる」(三澤氏)とも語る。

 実際、IBMでは、SaaSという表現は積極的には用いていないが、徐々にその領域に踏み出し始め、そこでビジネスを拡大しようとしている。例えば、タレントマネジメントのIBM Kenexaは、SaaSといえる領域のものであり、さらに、IBMには、すでに6つのカテゴリーで、158のアプリケーションを持っている。だが、これらのアプリケーションの多くは、機能ともいえる領域に留まっているものも多いという。

 IBMは、かつてのオンプレミスの時代においては、主要なミドルウェアを買収などによって品揃えし、その上で、ユーザーやシステムインテグレータなどにアプリケーションを開発してもらう環境を整えた。クラウドビジネスの基盤においても、それと同じ状況を整えつつあるところだ。

 IBMには、SI集団であるGBSの存在があり、GBSでは、IBMに留まらず、IBM以外のあらゆるSaaSも扱う体制を整えている。こうした有力なSI組織の存在が、クラウド時代においても、独自のアプリ(SaaS)の品揃えに踏み出しにくい要因になっているともいえよう。

 だが、これまでと同じ仕組みが、クラウド時代でもプラスに働くかどうかはわからない。むしろ、今後、IBMがクラウドビジネスを拡大するには、SaaSの領域に踏み出さない限り、成長は限定的といわざるを得ないのは確かだ。

 IBMは、つい最近まで、Watsonに関して、「AIではない」とし、「コグニティブコンピューティング」という表現にこだわり続けてきたが、2016年10月に、米ラスベガスで開催されたWorld of Watsonにおいて、ロメッティCEOが、Watsonに対してAIという言葉を使いはじめた経緯がある。いまは、SaaSという言葉をあまり使わず、「コグニティブアプリケーション」といった表現を積極的に使っている。これは、Watsonを活用したアプリという点で、単なるSaaSとは異なるということを示したいとの思惑が感じられるが、これも、コグニティブコンピューティング同様に、次のステップでは、より一般的なSaaSという言葉を用いるかもしれない。

 AIを活用するクラウドアプリが浸透すれば、IBMがSaaSという言葉を使ったとしても、IBMの思惑は伝わることになるだろう。そして、その時点で、現在のラインアップと異なり、より汎用性を持ったSaaSがどれだけ用意されるのかも注目されるだろう。これまで、積極的な買収によって、クラウドビジネスのポートフォリオを揃えてきたIBMだけに、もしかしたら、今後は、買収戦略によって、SaaSの品揃えを加速させるといったことが起こるかもしれない。それが、今後のIBMのクラウドビジネスの成長を左右することに直結する可能性が高い。

 IBMがいよいよSaaSに向けて本腰を入れて取り組む環境が整いつつある――。ラスベガスの会場を訪れて、そんなことを感じたのが、今回のIBM InterConnect 2017であった。