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IBM InterConnect 2017開幕、クラウドやWatsonの新サービス・技術を一気に発表
2017年3月21日 13:25
米IBMは、2017年3月19日~23日(現地時間)の5日間、米ネバダ州ラスベガスのマンダレイベイで、IBM InterConnect 2017を開催している。
IBMのクラウドおよびコグニティブを対象にしたカンファレンスで、会期中には、全世界から2万人を超える開発者、ユーザー、パートナーが来場。ビッグデータ、アナリティクス、ブロックチェーンなどのほか、IoTやミドルウェア、デジタルトランスフォーメーションに関する最新技術や動向について、2000以上のセッションを用意。展示会場にも、パートナーのソリューションを含めた最新技術などが展示された。
初日の基調講演にあわせて15本のニュースリリースが発表されるなど、クラウドおよびWatsonに関する新たな技術やサービス、提携が明らかになった。
数多くの新製品・サービスを一気に発表
基調講演の冒頭に登場したのは、Twitterのクリス・ムーディ(Chris Moody) バイスプレジデント。「明日、Twitterは誕生11年目を迎える。最初はサイドプロジェクトのひとつとしてスタートした。これが世界のコミュニケーションの方法を変えるとは思わなかった。トランプ大統領も毎日これを使って一般教書演説をやっているようなものだ。また、Twitterはビジネスツールとして活用されはじめている。世界を変えたいと思う人が、テクノロジーを使うことができる時代にわれわれはいる」などと述べたほか、「Watsonの言語認識機能を活用して、サイバー上でのいじめを防止しようと考えている。早期テストは順調であり、来年、この結果を報告できる」と語った。
続いて、米IBM Research ハイブリッドクラウド担当シニアバイスプレジデントのアーヴィン・クリシュナ(Arvind Krishna)氏が登壇。信頼できるトランザクションを実現することを目的に、「Linux FoundationのHyperledger Fabric Version1.0」をベースにしたエンタープライズ対応ブロックチェーンサービスの最新版、「IBM Blockchain(IBMブロックチェーン)」の提供を開始することを発表。
さらに、Red Hatとの提携により、OpenStackのプライベートクラウドパートフォリオを拡充する「Bluemix Private Cloud with Red Hat」、Watsonの機能を追加したマネジメントの簡素化および可視化を実現する「Cloud Automation Manager」、最大のコスト効果を実現するツールである「IBM Cloud Product Insights」、コードが不要で開発ができ、経営の支援を行う「IBM Digital Business Assistant」、カラータギングを使用し、短時間で色を認識したサービスを提供することができる「Watson Visual Cognition」など、数々の新製品を発表してみせた。
IBMブロックチェーンの最新版は、ジニー・ロメッティCEOから2カ月で成果をあげるように指示されて開発した、エンタープライズ対応ブロックチェーンサービスであると説明。開発者は、セキュアな本番ブロックチェーンネットワークの構築とホスティングを、IBMクラウド上で素早く行うことが可能になり、1秒あたり1000件以上のトランザクションを処理できるという。これは、Linux専用サーバーである「IBM LinuxONE」によって支えるサービスであることも示した。
クリシュナ氏は、「堅牢なクラウドを構築でき、未来に備えることが大切だ。IBMは世界最先端のパブリッククラウドを構築した。世界中のデータと企業が持つデータを組み合わせて、より良い意思決定の支援ができる。クラウドはインフラとストレージにアクセスできればいいというわけではない。無限のデータを管理し、オーガナイズできるかが大切であり、そこから意味のある知見を引き出し、ビジネスや人生を変えるような洞察ができるかが鍵になる。データサイエンティストの8割の時間はデータのクリーンアップに取られている。データの解析や理解に時間が割かれていない状態であり、このために意思決定ができないのでは意味がない。クラウドとAIを用い、これにビジネスアプリケーションを組み合わせなくてはいけない」などとした。
その他の事例としては、本田技研工業が、Watson on IBM Cloudを活用することで、100万件の文書を10分で解析していることなども紹介したほか、大手企業だけでなく、4000社のスタートアップ企業がIBM Cloudを活用していることを示した。
また、アメリカン航空(American Airlines)のダニエル・ヘンリー バイスプレジデントが登場し、「IBMは、パブリッククラウドに投資をしており、世界中にデータセンターを持っている。デリバリーを速めるには、IBMと戦略的パートナーを組むことが最適だと判断した。デリバリーの速度をさらに高め、DevOpsとデザインシンキングをコアのデリバリートランスフォーメーションに位置づけたい」などと語った。
さらに、世界金融機関上位25行が、IBMビジネスプロセスマネジメントを採用していることなども示してみせた。
続いて登場したのが、クラウドファンディングのIndiegogoの創業者であるサルバ・ルービン(Slava Rubin)氏だ。IBM CloudとWatson IoTを活用して、事業を推進しているという。
ルービン氏は、「2006年に設立したIngiegogoは、これまでに11億ドル以上の資金を、800万人以上から集めてきた。1週間に72万ものキャンペーンを実施できるようになっている。さらに、ファンディングだけではなく、Arrowと組んでサプライチェーンにおける支援を行い、さらに、IBMとの提携により、Watsonを活用し、AI、クラウド、セキュリティ、IoTでの支援を得ることにした」と発言。IBMとの新たな協力関係を発表した。
Ingiegogoで資金を調達したアントレプレナーの例を紹介。重量を量れる皿である「SmartPlate」では、画像認識と組み合わせることで、なにをどれぐらい食べているのかといった情報に加えて、脂肪、たんぱく質、炭水化物の量を推定できるという。そのほかにも水質を測ることができる「WaterBot」、500ドル以下で購入できるロボットである「Q.bo」も紹介した。
IBMのパブリッククラウドの特徴
一方、ハリウッドの映画スターのような映像によって、InterConnnectの会場に駆けつけたような演出で登場した米IBM Watson & Cloudプラットフォーム担当シニアバイスプレジデントのデビッド・ケニー(David Kenny)氏が最初に紹介したのが、「IBM Cloud Object Storage Flex」だ。
「IBM Cloud Storage Flexは、予期していないデータパターンにも対応できるなど、400の特許による先進的な技術を持つ、柔軟性を持ったストレージサービスであり、競合の75%の価格で提供できる」などとした。
また、中国のBeijing Energy-Blockchain Labs Limitedと、Hyperledger Fabricにより公開管理されているLinux Foundationのオープンソース上に構築された、世界初のブロックチェーンベースの環境資産取引基盤を発表。ブロックチェーン上の炭素取引基盤のベータ版を5月にリリースし、中国の統一炭素市場の開設に合わせ、今年後半の実用化を目指しているという。
ケニー氏は、IBMに買収されたWeather Companyの社長を務めていた人物。現在、クラウド事業とWatson事業を統括している。
ケニー氏は、「IBMが提供するパブリッククラウドにはユニークな点が4つのある」とし、「適切なクラウドに適切なワークロードを持たせられること、Watsonを活用することでデータに価値が出ること、AIの活用により、パーソナル化した環境を実現できること、アプリの開発、提供、保守に優れていること」をあげた。
また、昨年発生したハリケーン「マシュー」では、1億人以上が一度にアクセスし、1.6TBのデータが使われ、1410億円のAPIコールがあったという。「IBMのパブリッククラウドは、これにも柔軟な対応ができた」と協調した。
さらに、IBM Watson Data Platformについても説明。「さまざまなデータを組み合わせて、それらのデータをデータサイエンティストが共有でき、複数の企業が活用できるプラットフォームになる。また、高機能な機械学習を使い、自動化し、推奨するといった機能を提供している唯一のパブリッククラウドがIBMである。ここにIBM Cloudの価値がある」と述べた。
ここでは、ゲーム業界における事例として、2億2000万人のユーザーに対して、毎年数1000種類のゲームを提供しているPlayFabを紹介。
同社のジェームス・グウォートマン(James Gwertzman)CEOは、「今は、産業全体がGame as a Serviceのような状況になっている。かつてのゲームパブリッシャーは、芸術とコードだけを考えればよかったが、それに加えて、データを重視しなくてはならない時代に入った。今回、WatsonのデータプラットフォームとPLAYFABのデータプラットフォームを一緒にすることで、機械学習や人工知能をゲーム開発に応用できる。ビジネスを加速することが可能になる」と発言した。
このほか、PlayFabを通じてゲームを提供しているNvizzio Creationsのサリバン・コンスタンティン氏は、「テーマパークを設計し、運営するゲームにおいて、データを解析したところ、プレーヤーの学習にもっと時間をかければ、継続的にプレイしてくれることがわかった。改善を加えたところ、プレーヤーあたりの収益が10倍になり、ダウンロード数でもナンバーワンになった」などと述べた。
今後は、Watsonの言語解析機能を活用し、プレーヤーのレビュー、コメントを解析し、問題になる前にパターンを検知して対応できるようになるほか、Bluemixにより演算リソースとストレージリソースを活用し、テラバイトレベルのデータを集めることができるという。
再び登壇したケニー氏は、「次世代のアプリケーションを開発するには、新たなスキルが必要になる。IBM Cloudの設計のために、IBM Cognitive Builderに注目をしてきた。これにより、適切なスキルを身につけることができる。今日は、新たにGalvanizeとの提携を発表する。デベロッパー向けの教育のなかに、データサイエンスを追加する。IBMが1000万ドル以上を投資して、データサイエンティストを育成していくことになる。100万人以上の開発者がWatsonおよびIBM Cloudにアクセスできるようになる」などと述べた。
さらに、IBM Cloud for Financial Serviceも発表。金融業界向けのアプリケーションを開発するために必要なビルディングブロックを提供することができるという。
また、IBM Cloudの活用を促進するためにIBM Bluemix Garageを提供していることに言及。Delosのポール・スキアラ(Paul Scialla)CEOは、「室内空間を健康的な環境とすることで、社員の生産性や、生徒の学習効果を高めることを目指している。現在、ラボを設置し、そこにIBMが創設メンバーの1社として参加。センサーを活用して、空気、照明、水、エルゴノミクス、音響などを測り、それらのデータから知見を引き出すのがIBM Cloudの役割である。そこにIBM Bluemix Garageの仕組みを活用している」と述べた。
Watsonには3つの鍵がある
ケニー氏は、「Watsonには3つの重要な鍵がある」とし、「Watsonには最初からAIが入っており、それが進化していること、データのコントロールし、洞察を行える環境を提供していること、Watsonはさまざまな用途に活用できるという点である」と語った。
Watson Discovery Serviceを通じて、より効率的にWatsonが利用できる環境を用意していることも示した。
続いて、IBM Securityのマーク・ヴァン・ザデルホフ(Marc van Zadelhoff) ゼネラルマネージャーが登壇し、「マネージドクライアントサービスのユーザーでは、昨年の実績で1社あたり5400万件のセキュリティイベントがあった。世界中では40億件ものデータが盗まれており、これは2年間で4倍に増加している。盗まれたデータは、パスワード、医療記録、ソーシャルセキュリティナンバー、年金番号、クレジットカード番号などである」と語る。
その上で、「IBM Securityには、8000人のセキュリティの専門家が在籍しており、その技術とノウハウを活用した最先端のサービスとして提供するのが、IBM Security Immune Systemである。サイバー攻撃に対して、備えて、守り、対応するシステムだ。人間の体は風邪をひいたら複数の機能を用いてウイルスと戦う。これと同じような仕組みでサイバー攻撃と戦うもので、中心にあるのはアナリティクス機能。それを補強するために、コグニティブ・ブレイン技術を活用している。8大学の協力を得て、Watsonに何百万ものセキュリティ文書を読み込ませたことで、理解し、推論し、さらなる学習することができる。これを、Watson for Cyber Securityと呼んでおり、IBM Cloud上で構築。Watson Discovery Serviceによって提供される」などと述べた。
ブロックチェーンの活用を紹介
今回のIBM InterConnect 2017では、ブロックチェーンも注目される内容となった。
クリシュナ シニアバイスプレジデントは、「ブロックチェーンは、さまざま業界におけるトランザクションやサプライチェーンを変えていくものになる。Hyperledger Fabric Version 1.0は、ブロックチェーンのリーダーシップを次の次元に高めることができる。開発者は仕事を自動化でき、数週かかっていた仕事を数分でできるようになった」とし、
ダイヤモンドの流通を行っている英Everledgerのレニー・ケンプ(Leanne Kemp)CEOを紹介。「紛争地域で武器を購入するため販売されるような『血のダイヤモンド』ではないことや、合成ダイヤではないことなどを照会するために、ブロックチェーンの技術を活用している。確認でき、しかも、絶対的な権力を持つ人がいないという環境が整い、セキュリティと普遍性、スピード、スケールが可能になっている。時間とコストを削減し、信頼を高めることができた」とした。
IBM フェローのドナ・ディレンバーガー(Donna Dillenberger)氏が、ダイヤモンド業界における、ブロックチェーン技術を活用したデモンストレーションを行った。
最後に登場したのが、ハリウッド俳優であるウィル・スミス(Will Smith)氏だ。
ラッパーからテレビ俳優に、そしてハリウッド俳優になったスミス氏は、上位10位までの人気映画を分析したところ、特撮モノで、生物が登場し、恋愛が絡むものという分析結果を出して、そこからMIBが映画化されたなどと説明。データをもとに分析結果を導き出したことから、「私はアフリカ系黒人版Watsonだ」などとし、スクリーン上のスミス氏同様、ジョークを交えながら、ユニークな会話で基調講演会場を盛り上げて見せた。