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データは洞察をもたらす次の天然資源? IBMロメッティCEO基調講演レポート
2017年3月24日 06:00
米IBMが米国ラスベガスで開催しているIBM InterConnect 2017において、会期2日目となる3月21日。午前9時(現地時間)から行われた基調講演には、米IBMのジニー・ロメッティ(Ginni Rometty)会長兼社長兼CEOが登壇した。
また、ゲストとして、先ごろ提携を発表した米Salesforce.comのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)会長兼CEOや、今回、新たに提携強化を発表した米AT&Tのランドール・スティーブンソン(Randall Stephenson)会長兼CEOが登場するなど、話題を集めた内容になった。
次世代クラウドの要素を持つ唯一のクラウド
IBMのロメッティCEOは、「IBMのクラウドは、次世代のクラウドであり、今までやったことがないことまでを可能にするプラットフォームである。ビジネスと社会を変えることができるものである。エンタープライズに強いクラウドであること(エンタープライズストロング)、データを最優先すること(データファースト)、そして、コグニティブをコアに位置づけていること(コグニティブコア)の3つの要素を持つことが次世代クラウドの要素であり、それを実現している唯一のクラウドがIBM Cloudである。ヘルスケアや自動車、航空・宇宙、家電など、各業界に特化した対応が可能であり、オンプレミスよりも強固なセキュリティを持った強力なパブリッククラウドを提供している」と前置き。
「すでに、IBMのビジネスの17%がクラウドである。新たに中国ワンダグループとの提携によって、中国にデータセンターを設置することを発表した。これにより、全世界20カ国に、51カ所のデータセンターを持つことになる」などと述べた。
特にデータファーストについては、「私は、過去6年間、データが次の天然資源になると言い続けてきた。データから洞察を抽出し、それを活用することで、意思決定のやり方も変わってくる。これは企業にとって強い競争力を持つことにつながる。洞察は、民主化するのではなく、商業化すべきだと考えている。価値のあるデータを持っている人は外には出さない。洞察は共有化するものではなく、自身のものになる」と述べた。
コグニティブコアでは、「コグニティブは、機能ではなく、IBM Cloudの基礎になるものである。コグニティブは、見て、読み、聞き、感じるということをすべて行わなくてはならない。Watsonは人間とほぼ同じだけの聞く力を持っており、インターネットユーザーの90%を満足させる読む力を持っている。Watsonは、専門家によって教育を受け、業界の専門用語も理解できるように進化している」などと語っている。
さらに、ブロックチェーンについても言及。「ブロックチェーンは、信頼できるトランザクションを可能にするものであり、今後、インターネットの普及と同じようなインパクトを持つことになる。これを使えば、幅広い取引が可能になる。IBMは、最も早い成長を遂げているLinux FoundationのHyperledger Fabric Version1.0をベースにしたエンタープライズ対応ブロックチェーンサービスの提供を開始する。IBMでは、Wal-Martをはじめ、400件にのぼるブロックチェーンのプロジェクトに取り組んでいる。金融サービスでの活用や、豚肉の食品安全性などにもブロックチェーンを活用している」と述べた。
また、量子コンピュータについては、「先ごろ発表したIBM Qは、初の商用量子コンピュータであり、これを活用することで、新たな課題を解決するといった活用を加速することができる」などと述べた。
AT&TとIBMの提携強化
最初のゲストとして登壇したのが、米AT&TのスティーブンソンCEOだ。
今回の基調講演にあわせて、IBMは、AT&Tと提携関係の強化を発表。IoTに関するソリューション開発で、両社がお互いにサポートすることになる。
スティーブンソンCEOは、「膨大なデータが、センサーから発信されているが、これにハイレベルのセキュリティをかけることと、Watsonを利用して、知見を引き出し、さまざまな産業に活用できる環境を構築するのが狙い。全世界の船舶に30万のコンテナが積載されているが、このコンテナにセンサーを搭載して、今どこを移動しているのか、コンテナのなかの温度はどうなっているのか、といったことがわかる。また、全世界8都市で取り組んでいるスマートシティでは、センサーを活用して照明をコントロールすることができる。クルマが通っていなければ、照明を消すといったことも可能だ。交通渋滞の制御も可能になり、気象情報を活用して、新たなサービスを生み出すといったこともできる」と話す。
また、「IoTだけでなく、広範な提携を行っていく。連邦政府との案件においては、Watsonを使って、インテリジェントサービスやセキュリティサービスを提供。モバイル管理ソリューションのIBM MaaS360(マース360)と、AT&Tのバーチャルプライベートネットワークを利用して、IBM Cloudにアクセスできる環境を実現することができる」などと語った。
IBMのロメッティCEOは、「昨日、中国から帰ってきたが、中国には大気汚染の問題がある。クラウドとデータ、Watsonを活用して、大気中の粒子の数を予測して、交通規制や工場からの排出規制をかけるといった活用も可能になる。食品流通や土壌の安全性などにも活用でき、まだまださまざまな分野で利用できる。両社の協力は始まったばかりである」と、両社の協業について述べた。
EinsteinとWatsonによる価値を提供
続いて登壇したのが、Salesforce.comのベニオフCEOだ。
IBMのロメッティCEOは、IBMが買収したBluewolfはベニオフCEOが仲介したものであるとのエピソードを披露。一方のベニオフCEOは、「IBMの歴史は信頼によって築かれてきた。その企業と提携することができた」と発言した。
また、「Salesforce.comは、Salesforce EinsteinというAIを持ち、それをアプリケーションなどに活用しているが、そこにWatsonを加えることになる。最大の価値を引き出すことができ、新たなドアを開くことができる」とコメントしている。
一方、IBMのロメッティCEOは、「EinsteinとWatsonが一緒になって、今までにできなかったことができるようになる。Salesforceのユーザーは、宝の山であるデータを持っている。IBMのユーザーもCRM以外のデータを大量に持っている。それらを合わせることができる。IBMが買収したWeather Companyが持つデータは驚くべき価値があるもので、これもSalesforceのユーザーが利用できるようになる」などと発言。
これに対して、Salesforce.comのベニオフCEOは、「全米上位5社の保険会社において、顧客情報の管理にSalesforceが使われている。先週、サンフランシスコでひょうが降ったが、この時に、『ひょうが降るのでクルマをガレージのなかにしまった方がいい』といった情報を流すことができるメリットがある。営業やマーケティング担当者が、よりよい事業環境を作るためには、AIは不可欠だという時代がやってくる。テクノロジーが未来につながる」などと、両社の連携による将来の活用事例を示してみせた。
両CEOはさまざまな社会貢献活動を行っていることでも知られるが、お互いの活動成果をたたえ合うシーンも見られた。
税理士の仕事をWatsonで補助、プラスの効果が出ている
3番目に登壇したのが、H&R Blockのビル・コブ社長兼CEOである。同社は、全米で7万人の税理士が利用している確定申告支援企業であり、そのサービスにWatsonを活用している。2017年2月に開催されたスーパーボウルではテレビCMを放映。そこで、Watsonを採用していることを初めて明らかにして話題を集めた。
同社のサービスでは、これまでは税理士が質問していた内容を,、Watsonを使って効率化。利用者がWatsonの質問に回答する仕組みとしており、税理士の仕事を補助することができる。
「利用者が自然言語で入力すれば、それをWatsonが理解し、該当する分野を画面上にハイライトし、税金から控除される金額などを示すことができる。Watsonは、米国の税制度についてのトレーニングを受けている。6億5000万件のデータを入れており、米国の税法に関する情報はすべて読み込んでいる。さらに、確定申告の支援作業を進めるなかで、学習を繰り返している。税理士の仕事がなくなり、脅威を感じるのではないかとの懸念もあったが、満足度や費用対効果が高まっているというプラスの効果が出ている」などとした。
4番目に登壇したのが、カナダロイヤル銀行(Royal Bank of Canada)のテクノロジー&オペレーションズ担当グループ長のブルース・ロス氏だ。
かつてはIBMで、ロメッティCEOの部下だったというロス氏は、「金融サービスは大きな変革を迎えている。単に資金を管理するだけではない新たなビジネスが生まれている。例えば、家を買うという場合には、家のローンを組むというだけでなく、子供が学校に通うには適している立地なのかという情報を提供する必要があり、そのためにはデジタルを活用したエコシステムを構築しなくてはならない。カナダロイヤル銀行は、全世界30カ国に1200万人のユーザーを持っているが、それぞれの顧客が、どんなことを改善したいと思っているのかを知らなくては仕事ができない環境になっており、ここにWatsonが利用できる。以前から築き上げた仕組みの上で、新たなサービスを提供していくことができる」などと述べた。
IT分野における男女間のギャップ解消を支援
最後に登壇したのが、Girls Who Codeのラシュマ・サウジャーニCEOである。Girls Who Codeは、IT分野における男女間のギャップを解消することを目指し、若い女性に対して、コンピュータプログラムを教える機会を創出する活動を行っている。
サウジャーニCEOは、もともとは弁護士であり、プログラマーではない。「2010年に下院選挙に出馬し、落選をしてしまった。だが、この時の選挙運動で、学校を訪れ、コンピュータ教室を見学すると、男の子ばかりだったことに驚いた。大学では45%が女性であるのに、コンピュータサイエンスで卒業した女性は7000人しかいない。この分野には女性が少ない。50万人の雇用があるのに女性にはチャンスがないということになる。まずは、サマーキャンプを利用して、女の子に対して、コンピュータプログラムを教える機会を作りたいと考えた。これまでの5年間で、全米50州において、4万人以上の若い女性にプログラムを教えることができた」と述べた。
IBMは、2015年からGirls Who Codeのパートナーとしてサポートを開始。ロサンゼルス、サンノゼ、ニューヨーク、オースティンの4都市でホストを行い、ここに参加した女性全員が、コンピュータサイエンスを専攻するか、副専攻にするという結果が出ているという。
ここでは、Watson APIやBluemixを学んでおり、なかには、学んだ技術を活用して、自閉症の人と友人と結びつけるといったサービスを構築し、そこにWatson APIを活用したという。また、がんを探したり、自閉症を治したり、サイバー空間でのいじめに対応するといったことに取り組んでいる女性もおり、「若い女性もプログラムを学べば、さまざまなことができる。女性が経済的に自立できている」などと語った。
ステージには、Girls Who Codeは、プログラムを学習した女子高生などが登壇。自らの体験を語ってみせた。ロメッティ会長兼社長兼CEOは、「今日は、サプライズなプレゼントがある」とし、登壇した4人に対して、IBMでのインターンシップの機会を与えるとした。
IBMのロメッティCEOは、中国から帰国した翌日の基調講演となったが、当初の予定を約20分上回る、熱の入った講演になった。