大河原克行のキーマンウォッチ

Lenovoにとって今後の成長を支える原動力になる――、急成長するサービス/ソリューション事業

 Lenovoが、サービス/ソリューション事業に力を注いでいる。

 2021年9月に開催された「Lenovo Tech World 2021」では、Everything as a Serviceへと拡大した新たな「Lenovo TruScale」を発表。今後のLenovoの成長を支える原動力と位置づけた。

 それを推進する組織が、2021年4月にスタートしたソリューション&サービス・グループ(SSG)である。サーバーやストレージを担当するインフラストラクチャー・ソリューション・グループ(ISG)、PC事業などを担当するインテリジェント・デバイス・グループ(IDG)と並んで3本柱のひとつとなる組織だ。

 そのSSGを率いるのがLenovo シニアバイスプレジデント兼LenovoSSG担当プレジデントのケン・ウォン(Ken WONG)氏である。ウォン氏は、今年3月まで、アジア太平洋地域のPCおよびスマートデバイス事業を率いたほか、2016年からはNECLenovo・ジャパングループの会長、2018年からは富士通クライアントコンピューティングの会長を兼務で務めるなど、日本市場にも精通している。

 SSGがスタートして半年を経過。その成果と今後の取り組みなどについて聞いた。

Lenovo シニアバイスプレジデント兼Lenovo・ソリューション&サービス・グループ担当プレジデントのケン・ウォン氏

ソリューション&サービス・グループの果たす役割は?

――2021年4月に発足したスタートしたソリューション&サービス・グループ(SSG)の役割を教えてください。

 この1~2年で世界は大きく変化し、私たちの生活やビジネス環境は大きく変化しました。その一方で、5Gによる新たなネットワーク環境やクラウド、AIや深層学習、エッジなどの新たなテクノロジーと、既存のITシステムが組み合わさったNew ITの時代が到来しています。

 そして、それらのテクノロジーを活用することで、ニューノーマルの時代においても、さらなる成長を遂げることができる確信を持っている企業が増えているのも確かです。

 しかし、ここで問題なのは、いまのままでは、New ITの世界は複雑すぎるという点です。また、多くの企業にとっては、New ITは、自らの本業そのものではないため、どうやってアプローチしたらいいのかわからないという状況にあり、その解決策を導き出せずにいます。

 SSGは、こうした企業が持つ課題を解決する役割を担います。

 Lenovoは、ポケットに収まるスマートフォンから、PC、サーバー、ストレージ、クラウドを支えるハイパースケールコンピュータまで、世界中で最も幅が広いハードウェアポートフォリオを持っています。まさに、ポケットからクラウドまでのラインアップをそろえています。このポートフォリオの上に、サービスやソリューションを載せて提供することで、New ITの力を解放でき、より高い付加価値を提供し、それによって企業の競争力を高めることを支援します。

 料理に例えれば、Lenovoが提供しているハードウェアは、和牛や新鮮な野菜のような最高級の食材です。この食材をおいしく調理し、最高の食器に盛りつけて、最高のおもてなしとともに提供するのがSSGの役割だといえます。これまでのLenovoは、いわば最高の食材を提供していたに過ぎませんが、これからは高級レストランのように、最高の料理とおもてなしを提供するビジネスにも踏み出すことになります。

 多くの人から、SSGはLenovoにとって新たなビジネスであるとか、新たな組織であると言われますが、その答えは、イエスであり、ノーであるといえます。Lenovoは、ここ数年、サービス事業を手掛けてきた経緯があります。しかし、それは一部であったり、分散した組織体制のなかでの対応だったりしていました。

 SSGの発足にあたり、社内のさまざまな部門に分散していたサービス事業を統合し、それに関わってきた人たちも集めました。これにより、サービス事業におけるフォーカスをクリアにし、戦略もより明確になり、この事業を成長させるための十分な投資も行います。そしてSSGを通して、ビジネスパートナーにもより高い価値を提供できます。

2021年4~6月に38%増の売り上げ成長を記録

――最新四半期の業績を見ても、好調な出足になっていますね。

 Lenovoにとって、サービスおよびソリューション事業は、将来の売上成長と利益確保の源泉になると考えています。2021年4~6月のSSGの売上高は、「サポート・サービス」、「マネージドサービス/as a Service」、「バーティカルソリューション」という主要3セグメントの売り上げが大幅に増加し、前年同期比38%増の11億8000万ドルとなりました。また、利益率は22%に達しています。売上成長も利益率も、グループ全体を大きく上回る結果となっています。

 調査会社によると、サーバーやストレージを担当するISGと、PC事業などを担当するIDGがカバーする領域の市場規模は、あわせて約1兆ドルだと見られています。しかし、SSGによって踏み出したITサービスの市場も、同じく1兆ドルの規模があります。PC市場の今後の成長率はどうなるのか、クラウド市場の成長率はどうなるのかといった議論がよくありますが、私たちの目の前には、そうした議論とは別に、新しい大きな市場が広がったというわけです。

――これは、Lenovoがサービス、ソリューションの会社になる、という宣言だととらえていいですか。

 確かに、ハードウェア事業を縮小したり分離したりして、ソフトウェアやサービスを事業の中心に据えている会社があります。ハードウェアをやっていても、その比重が低い企業もあります。Lenovoが最も重視しているのは、お客さまが目指す目標の達成を支援し、成功という結果につなげることができるかどうかです。私の経験では、それを実現するためには、ハードウェア、ソフトウェア、サービスの3つが必要です。そして、Lenovoには、世界でトップといえるハードウェアとソフトウェアの幅広いポートフォリオがあり、サービスとサポートには最も優秀な人材を配置しています。これはほかにはないユニークなものであり、高い競争力を発揮することにつながると考えています。

――SSGの発足からの半年間で、社内には変化は起きていますか。

 お客さまやビジネスパートナーと話す内容が大きく変わっています。例えば、日本の企業の例を挙げますと、トヨタとの話し合いは、従来であれば、「PCを購入してください」「サーバーを購入してください」という内容が中心になっていたものが、コロナ禍において、どうやったらエンジニアが設計の業務を続けられるのかという内容で議論が進みました。

 つまり、技術的な話ではなく、ビジネスディスカッションへと変化しているのです。私たちの提案にトヨタは満足し、この商談に多くの投資をしてくれました。支払う金額が大きくなると、多くの場合アンハッピーになるのですが(笑)、コロナ禍がもたらした大きな課題を解決することができ、大きな価値を得たと感じてもらうことができました。コロナ禍では、さまざまな業種の企業が、さまざまな課題に直面しました。SSGの発足によって、そうした課題の解決に、Lenovoが貢献する場面が増えています。

――今後、SSGへの投資は加速することになりますか。

 2021年9月にオンラインで開催したLenovo Tech World 2021では、会長兼CEOのヤンチン・ヤンから、Lenovoは、今後3年間で、研究開発投資を2倍にすることを発表しました。そして、これに伴い、利益率を2%から4%に拡大する計画も発表しました。SSGへの投資と利益目標は、それを上回るものになります。投資の領域は3つあります。ひとつは、アーキテクトをはじめとしたサービスやソリューションに必要な人材への投資です。主要な業界の専門知識を持っている人への投資も進めています。2つめは、サービスやソリューションを提供するためのシステムやツールなどの開発投資です。そして、最後が、新たなビジネスモデルの構築に対する投資です。具体的には、Lenovo Tech World 2021で発表した新たなLenovo TruScaleへの投資ということになります。

新たなLenovo TruScaleの特徴は?

――Lenovo Tech World 2021において発表した新たなLenovo TruScaleは、8月までのLenovo TruScaleとはなにが違うのですか。

 8月までのLenovo TruScaleは、主にインフラ環境のas a Serviceの提供でした。新たなLenovo TruScaleは、それだけではなく、デバイスからエッジ、ソリューションまでのすべてをas a Serviceで提供することになります。

新たなLenovo TruScaleがLenovo Tech World 2021で発表された

――Lenovo TruScaleは、Dell TechnologiesのAPEXや、Hewlett Packard EnterpriseのGreenLakeとは、どこが異なるのですか。

 確かに9月以降は、お客さまやパートナーから、「市場にある似たようなオファリングとは、いったいなにが違うのか」という質問が多いですね。

 その違いは3つあります。

 ひとつめは、市場へのアベイラビリティです。Everything as a Serviceプラットフォームとして、幅広いポートフォリオを対象にLenovo TruScaleを利用することができ、それが全世界100カ国以上で提供できる体制が整っています。

 2つめは、パートナーがLenovo TruScaleを再販できるようにしている点です。Lenovoは創業以来、パートナーを通じた販売が中核であり、それによって成長を遂げてきました。Lenovo TruScaleでもそれは同じです。むしろ、ビジネスパートナーが持つ強みを加えることで、Lenovo TruScaleがさらに差別化できると考えています。特に日本の市場は、パートナービジネスがとても重要です。日本のパートナーとともに、Lenovo TruScaleを積極的に展開していきたいですね。

 そして3つめは、契約形態の柔軟性です。多くのお客さまから聞くのは、いまある契約形態が複雑すぎたり、煩雑すぎたりするという不満です。例えば、PCやサーバー、ソフトウェアなど、さまざまなものをas a Serviceで利用したいと考えた場合、これをひとつひとつ契約していくと、とても分厚い契約書になります。それだけで複雑で、煩雑であることがわかります。こうしたことがあちこちで起こっているのが現状です。

 しかし新たなLenovo TruScaleでは、あらゆるものを利用しても、ひとつの契約書にまとめることができます。また、場合によっては複数の契約書に分散して、税金をしっかりと計算したいといったニーズにも対応できます。こうした点が、他社のオファリングとは異なる部分です。対象となるポートフォリオが広く、全世界100以上の市場で展開でき、契約形態に柔軟性があり、チャネルフレンドリーな仕組みであるという点が、新たなLenovo TruScaleの特徴です。

――手応えはどうですか。

 新たなLenovo TruScaleに対する反響は大きなものがあります。しかも、コロナ禍でas a Serviceモデルが持つ柔軟性や継続性に対する価値を理解する人が増えており、それも追い風になっています。

 世界中で数万台の端末をDevice as a Serviceで導入していたあるグローバル企業では、毎月10~15%の余裕を持たせた運用をしており、プロジェクトがスタートしたときにはPCの台数を増やし、プロジェクトが終了したら不要になった分を返却して、最適なコストコントロールをしていました。

 この仕組みがコロナ禍において、とても重要な役割を果たしました。必要なものをすぐに調達したいと考える一方で、コロナの終息時期が見えず、もしも早く終息してしまった場合には、そのPCをどうするかといったことが読めない状況だったのですが、使用した分だけを支払うという仕組みによって、IT部門が抱える問題を解決することができました。

 もちろんインフラにおいても、コンピューティングパワーの使用量、仮想マシンあたりの使用量、ストレージの使用量だけが請求されますから、オフィスへの出社が減少したり、ECサイトへのアクセスが急増したりといった先が読めない環境のなかで、as a Serviceによるメリットを享受した企業が多かったといえます。

 またスマートシティの事例では、何台止まったかで従量課金するスマート駐車場ソリューションがあります。不動産デベロッパーや自治体では、駐車場を増やしたいのだが、初期費用や設備投資を捻出(ねんしゅつ)するのが難しいという課題に直面していました。しかし、LenovoのSmart Park as a Serviceを使用することで、スマート駐車場のスムーズな導入、運用ができました。このように、あらゆる場面でas a Serviceを提供できます。

 ガートナーの調査によると、今後3年のうちに、20%のPCはas a Serviceとして購入されることになるといいます。また2年後には15~20%のサーバーがas a Serviceとして購入され、ストレージでは、3年後にはなんと50%がas a Serviceで購入されるとの予測が出ています。Lenovo TruScaleによって、こうした変化をリードしていきたいですね。

日本企業にとっても大きなメリットを得られる

――Lenovo TruScaleは、日本の企業にとってはどんなメリットがありますか。

 日本では、伝統的なオンプレミス型のITシステムを活用している企業が多く、柔軟性に欠けたり、それに伴うIT投資が大きくなるという課題が生まれています。その一方で、パブリッククラウドの利用も増え、使った分だけ支払うというモデルが定着していますが、日本の企業からは、システムをテーラーメイドにできない、ニーズにあわせられないといった課題があるという声も聞きます。

 また日本の大手企業などを中心に、重要なデータや基幹業務のオペレーションを、パブリッククラウドに乗せたくないという声もあります。そうしたオンプレミスでの課題やパブリッククラウドでの課題を解決したり、それぞれのメリットを生かしたりするためにも、Lenovo TruScaleは答えを提供できます。

 クラウドの特徴である従量課金を生かしながら、手元に置いておきたいものはオンプレミス環境で維持し、カスタマイゼーションを行ったり、データプライバシーも確保したりできるようになるからです。

 最近の日本の環境変化は著しいと思っています。例えば、Lenovoと協業関係にある富士通は、いち早くハイブリッドワーキングモデルを採用し、オフィススペースを5割削減するといったことにも取り組んでいます。

 また日本人は、病気になっても有給休暇を申請せずに会社にやってくると言われていましたが(笑)、2020年4月に政府がテレワークを奨励するなど、一気に在宅勤務が浸透しました。世界中を見回しても、政府がここまで積極的にテレワークを奨励した例はありません。

 GIGAスクール構想では児童生徒1人1台のデバイスを整備しましたが、こうした取り組みも世界では数が少ないものです。しかも、日本は短期間に実施し、政府とIT業界が一緒になって、機器を整備し、ネットワークも準備した。それによって、コロナ禍でも授業ができるような環境が整ったのです。

 このように大きな変化を遂げた日本の社会では、多くの企業にとってas a Serviceがメリットを発揮できる環境にあると言えますし、実際、さまざまな業種でas a Serviceの導入検討がスタートしています。この勢いはますます加速すると考えています。

お客さまが満足すれば業績がついてくる

――LenovoのSSGが掲げるゴールはなんですか。

 ひとつは従業員体験の向上です。そしてこれが高まれば、顧客体験の向上につながります。会社が成功するにはお客さまが満足しなくてはなりません。お客さまが満足すれば業績がついてきます。中期的に見ても、SSGの売上成長率はLenovo全体の売上成長率を上回ることになり、利益率も20%以上を維持することになります。

 Lenovoの新たな戦略は、ハードウェアはこれ、ソフトウェアはこれという形で提供するのではなく、お客さまが市場で勝つために新たなITを使いこなし、そこから価値を得るためのお手伝いをしていくことです。そして、この戦略の実行はLenovo単独ではできませんから、日本では日本のビジネスパートナーと協力し、お客さまにサービス、ソリューションを提供することになります。

――ところで、ウォン氏は、日本におけるPC事業のジョイントベンチャーに深く関与してきました。振り返ってみて、どう自己評価しますか。

 2011年にスタートしたNECとのPC事業のジョイントベンチャーは、10年を経過しました。その成果にはとても満足しています。教科書に載せられるようなケーススタディーではないでしょうか(笑)。また、富士通とのPC事業のジョイントベンチャーも、約3年を経過し、成功につながっています。

 NECも、富士通も、両社との信頼感をもとにした協業が進められたこと、また、お互いの事業をよく理解することで、どの部分で協業すればいいのかというスイートスポットを明確にでき、そこに目のつけたビジネスをしっかりと行ったことが成功につながったと思っています。例えば、ハードウェアの製品化においては、日本市場に最適化したモノづくりを日本で行い、そこに大きなスケールで生産するLenovoの力を活用するといった具合です。

 NECの森田隆之社長、富士通の時田隆仁社長とも、緊密に連絡を取り合っていて、Lenovoは、どんなパートナーシップを組むべきかといった話をよくしています。日本には頻繁に訪れていたのですが、コロナ禍で日本に行けないことが残念です。日本には、ラーメンやすき焼き、焼き鳥など、おいしいものが多いですからね(笑)。みなさんに東京で会えるのを楽しみにしています。

――2021年4月には、富士通クライアントコンピューティングの社長に、Lenovo出身の大隈健史氏が就任しました。大隈社長は、ウォン氏とともにアジアにおけるLenovoのPCビジネスの拡大を担ってきた人材であり、ウォン氏に「もっと大きな仕事をやりたい」と2年間言い続けて、今回の社長就任になったと聞きました。大隈社長にはどんなことを期待していますか。

 大隈さんは、ビジョナリーでありながらも、実践にも長けたリーダーです。国際的な感覚もありながら、日本市場固有の要求もよく理解しています。大隈さんが社長兼CEOに就任したことで、FCCLのビジネスは間違いなく新しい次元に入ることになるでしょう。お客さまやパートナー、そして株主にとっても最高のものを送り出してくれると期待しています。