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EUが世界初の包括的AI規制案発表 その評価は

 EU(欧州連合)が世界でも初となるAIの包括的な規制案を発表した。人権保護や安全性を確保しながら、高リスクの使用については規制を設け、違反には最大で3000万ユーロ(3兆9000億円)の罰金を科すことができる。当局者が「画期的」と胸を張るものだが、内容が「曖昧すぎる」との批判、またAIビジネス阻害への懸念などが出ている。

AI規制に向けた初の枠組み

 EUの執行機関である欧州委員会(EC)が4月21日、「欧州でのAI規制への提案」を公表した。EU加盟国は、この枠組みを基に議論を進め、法制化していく予定だ。規制案はリスクベースのアプローチをとっており、リスクを「容認不可」「高」「限定的」「最小」の4段階に分類。各レベルに応じた規制を設け、「容認不可」は原則禁止とする。

 容認不可となるのは基本的人権を侵害する恐れのあるもので、例えば、潜在意識に働きかけるサブリミナル技術、政府が個人の信用力を格付けする「ソーシャルスコアリング」、そして法執行を目的とする公共空間での生体認証などだ。ソーシャルスコアリングは、中国では既に広く利用されているが、EUは明確に「ノー」の姿勢を打ち出した。

 EUでは2017年にEU首脳会議がAIの台頭に対応すべきという見解を打ち出し、考え方の方向を示す「European Strategy on AI」をまとめている。その後、「信頼できるAI」に向けたガイドラインを公開するなどの取り組みを続けてきた。目標は、域内で使用されるAIシステムの安全性、透明性、倫理性、公平性、そして人間が管理できることとした。ルールを統括する委員会を設け、加盟国レベルでの実装を進めることも提案している。

 ECの執行バイスプレジデント(競争担当)であるMargrethe Vestager氏は「AIに信頼は必須で、あればいいというレベルではだめだ。(今回の)画期的なルールにより、EUは信頼できるAIを確実なものにして、新しいグローバルな規範の開発で先陣を切る」と位置付けを強調した。

 法案は欧州議会と欧州理事会の両方の承認が必要で、成立まで数年かかる見込みだ。違反には最大3000万ユーロ、あるいは全世界での前年度総売上高の6%の罰金を科すことができ、域内にある企業だけでなく、域内でAI製品やサービスを提供する海外企業も対象となる。