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EUが世界初の包括的AI規制案発表 その評価は

規制がビジネスの足を引っ張る

 AIは各国にとって戦略的技術でもある。その中でも米中両国が先行しており、「EUはAIの覇権競争に参加しているとはいえない状況」(ZDNet)という。

 EUが世界初と胸を張る枠組みは、2018年に施行された「EU一般データ保護規則」(GDPR)を思い出させる。Wall Street Journalは、GDPRが個人情報保護ルールのひな形として役立ったと指摘しながら、EUはAIの規制で米中のハイテク大手をけん制しながら、「新しい法規制の草案と施行で世界に先んじようとしている」と皮肉る。

 しかし、新しい技術分野に規制を設けることは、技術革新を鈍化させることになりかねない。世界銀行の貿易と競争担当リードエコノミスト、Wolfgang Fengler氏はZDNetに対して、EUの体質の問題を指摘する。「EUは技術のエコシステムで幅広い問題を抱えている。官僚的で、投資を受けるのが難しく、トップダウンのメンタリティが蔓延している」というものだ。

 一方でAIのビジネス面の可能性は大きい。Harvard Business Reviewは、AIを適用することで営業とマーケティングは1兆4000億ドルから2兆6000億ドル、サプライチェーンは1兆2000億ドルから2兆ドルの価値を創出できると報告している。この大きなビジネスチャンスを規制が阻害するとの懸念も出ている。規制案では罰金のほかに、コンプライアンスにも大きなコストがかかる。

 ニューカッスル大学コンピューティング校のNick Holliman教授は「(規制の動きで)英国、米国、中国と比べると、EUのAIシステム開発がリスク回避の方に追いやられる」とZDNetに語っている。また、ワシントンDCのハイテクシンクタンクCenter for Data InnovationのシニアポリシーアナリストBenjamin Mueller氏は「欧州でAIを構築することは、とてつもなく高価、または技術的に不可能になる」とWall Street Journalにコメントしている。IT関連企業には、警戒感が高まっている。

 POLITICOは規制の成立に向けた課題として、禁止の対象を明示すること、「高リスク」の定義などが不可避と見る。また「高リスク」に分類されるAIシステムのみが適合性評価を受けねばならないが、自己評価で済むこともあるという。これらも今後議論になると予想している。