事例紹介

三鷹市が取り組む「コミュニティ創生」、ICTで高齢者の「共助」は育まれるか?

ICT街づくり推進事業(1)

マイナンバー制度を見据えた仕組みも検証

要援護者支援を支える共通ID

 最後の「共通ID」も要援護者支援の取り組みだが、こちらはより「災害時」を意識したものである。災害時には要援護者の避難を支援者が手伝う必要がある。三鷹市では地域の町会・自治会と連携し、緊急時の支援者を募る「災害時要援護者支援事業」として取り組んでいるが、ここで問題となるのが「要援護者の親族と連絡が取れない事態」だという。

 「例えば、要援護者を避難施設に運んだ場合、その旨を親族にお伝えしなければなりません。ところが、要援護者の親族は市外に住んでいることが多く、また引っ越しもあって、三鷹市だけでは連絡先を最新のものに保てないのです。支援者からも親族の連絡先が簡単に確認できない状況では支援しにくいという声があるのですが、直接把握できる仕組みがないのが現状です」(後藤氏)。

 そこで、住民台帳をシステム化する際に「共通ID」を活用し、市内の総合住民情報システムとひも付けるとともに、他市町村などの複数の機関とも連携させ、各所に散らばる最新情報を同一人物として確認できるようにしようというのが、この取り組みの狙いとなる。「共通ID」で市外の住民情報を把握できれば、緊急連絡先も確実に確認できる。これは2016年1月からスタートするマイナンバー制度と同じ考え方だ。実際、マイナンバー制度を見据えた取り組みとして実施している。

 実証実験では、他自治体との連携までは試せなかったが、「各データの情報リンクが可能となり、効率的に要支援者台帳を作成できることが確認できた」という。一定の効果が見られたことから、まずは市内の要援護者台帳の作成・管理から実運用も現在行っている。

 一方で課題となるのは、IP告知システムの時と同様に「支援者の手が足りない」ことだ。「この取り組みでは、まず町会・自治会単位で手を挙げてもらう必要があるのですが、その数がまだまだ多くない。市内で(数字としては低い方の)数百名が手を挙げてくれましたが、要援護者一人あたり数名の人手が要ると考えると十分ではありません」(後藤氏)。

 そもそも、町会・自治会で市内全域をカバーできていない現状もある。「地域コミュニティについてはどこもそれぞれに課題があるのだと思いますが、三鷹市の場合、町会・自治会が消滅してしまった地域があります。先ほど『地域ケアネットワーク』のお話をしましたが、それも含めて、町会・自治会の立て直しを図っているところです」(同氏)。

 また「要援護者にも手を挙げてもらう必要があります。では、手を挙げなかった人は助けなくていいのか。市としては要援護者がどこにいるかという情報は持っていますが、その情報をこうした取り組みに活用していいのか、地域の情報として共有してもいいのか――。住民や当事者も含めて、議論が必要です」(同氏)という課題もあるという。

 では、マイナンバー制度の先行導入として見た場合はどうか。運用が始まったらどんな点に注意が必要か。

 その前に、マイナンバー制度を簡単に説明すると、正式には「社会保障・税番号制度」と呼ばれ、住民票を有する全ての人に固有の番号を付与して、社会保障、税、災害対策の分野で情報を一元管理し、複数の機関に存在する情報を同一人物として認識できるようにするものだ。

 平成27年10月に全国民に12桁のマイナンバーが通知され、平成28年1月より対象行政手続きでマイナンバーが必要となり、「行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平・公正な社会を実現する社会基盤」とされる。

 例えば「児童手当」の申請手続きを見ると、現在、申請には「申請書」「口座振り込み依頼書」「住民票」「所得証明書」「年金加入証明書または健康保険証の写し」といった添付書類を窓口に提出する必要がある。特に転入者は、前住所地での所得証明書が必要になるなど複雑だ。マイナンバー制度では行政側で情報が共有されるため、これら書類の多くが添付不要となるほか、PC・スマホからの「電子申請」も可能となり、利便性が大幅に向上するとされる。

 その先行的な取り組みとして、後藤氏は「現状は三鷹市に限らず、各自治体が対応に追われているところです」と前置きした上で、「正式に制度が始まった際に、今回の要援護者支援という取り組みから考えると、マイナンバーは法律で定められた事務で活用が進みますが、災害支援という面では用途がきっちり定められていません。つまり、災害時にどう活用するかはそれぞれの自治体に任されているところがあるので、検討が必要になるでしょう」(同氏)と指摘する。

 実証実験における住民に対するアンケートでは「共通IDを利用して緊急連絡を行うサービスがあれば便利か」という質問に60%が「非常に便利」と回答した。一方で「個人情報の流出に注意する必要がある」という回答も60%に上っている。

 ただ、職員へのアンケートでは、市民の利便性向上に「非常につながる」が20%、「少しつながる」が80%という結果に。市民の負担軽減や職員の業務効率化には効果がありそうだ。

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 今回、三鷹市に話を聞いてみて感じたことは、駅前Wi-Fiや情報伝達制御システムについてははっきりとした効果が出ている一方で、要援護者支援には課題も多いという印象だ。「コミュニティ創生」のためには、非ITの取り組みも重要で、ITだけでは成し得ない。

 三鷹市では、平成23年に「コミュニティ創生検討プロジェクト・チーム」や「コミュニティ創生研究会」などを立ち上げ、この課題に堅実に取り組んでいる。また、人的つながりを作り出す「地域ケアネットワーク」や、いざというときに支え合う「災害時要援護者支援事業」においては、要援護者と支援者が近しい関係の町会・自治会単位を基本に、一時避難場所となる小学校区・中学校区単位の連携も積み重ねている。こうした取り組みに加え、今回の実証実験のようなITを使った仕組みも引き続き検討していく方針だ。

 また、実証実験の結果は、長野県富士見町の「センサーを使った医療・生活見守り」、鳥取県の「地上デジタル放送を使った平時・災害時の最適な情報配信」といったICT街づくり推進事業の他の実証実験にも引き継がれている。そこで新たな展開も出てくるだろう。

 超高齢化を迎える日本において、最適な街づくりとはどんなものなのか、今後もこうした取り組みを追っていきたい。

川島 弘之