事例紹介
三鷹市が取り組む「コミュニティ創生」、ICTで高齢者の「共助」は育まれるか?
ICT街づくり推進事業(1)
(2014/11/10 06:00)
要援護者支援には、まず解決すべき課題が
「IP告知システム」は、高齢者や要援護者を支援するためのもので、主に「見守り活動」と「買い物支援」のシステムとして、その効果を検証した。
対象は井の頭地区。ここは市内でも早くに住宅化が進んだため、高齢化率が高く独居高齢者が多い。また道路が狭く公共交通機関が少ないため、買い物も不便なのだという。そこで、地域的に支援すべく、市役所、支援NPO、協力商店、要援護者の自宅にAndroid端末を設置。1日1回安否確認メールを配信したり、Android端末から買い物できるようにした。
「テレビ電話で話をしたり、買い物をしてもらうことで、要援護者の日々の安否確認が可能となります。商品を届ける際にも状況確認ができる。こうして日常的な人のネットワークを作るのが狙いでした。これができると、災害時にも迅速な声がけができるようになり、システム的に警報を発することも可能です。そのあたりを念頭に、コミュニケーションツールとしてシステムを構築しました」(後藤氏)。
実証実験で対象となった要援護者は、この取り組みに賛同した10名強。アンケートでは「支援者からのテレビ電話や訪問は緊急時に役立ちましたか」という質問に、67%が「役に立った」と回答した。
一方でシステム的な限界も見えた。まず直面したのが「この仕組みで買い物支援を行うのは、協力商店やボランティアに負荷がかかりすぎて継続が困難」という課題だ。高齢者にとっては「端末画面からの注文はなじみがなく、ハードルが高い」ことも明らかになった。
「操作画面が分かりにくいという声もありました。分かりやすく設計したつもりだったのですが、やはり人によっては操作が難しいようです。そうした課題から、この仕組みは一旦停止し、現在別の方法を考えています」(大高氏)。
もう1つ、この実証実験で見えたことは、システムで対応しきれない場合に人手でサポートする必要があるのだが、地域にその人員が不足しているということだ。「例えば、操作が難しいという場合は支援NPOから操作説明を行ったり、安否確認メールに気付かないということもあったので、民生委員が訪問して確認したりする必要があります。しかし、市内に6000人ほどの要援護者がいるのに対して、民生委員は120名しかおらず、すべてをカバーするにはとても足りません」(後藤氏)。
そこで、ITを活用する前段として、「民生委員だけでなくボランティアや自治会などにも参加してもらい、現在『地域ケアネットワーク』の構築を進めています。そもそもは昭和40年代から市内を7つのエリアに分けて『コミュニティ住区』という考え方を採用し、住民自治組織『住民協議会』を結成。活動拠点としてコミュニティセンターを作り、ネットワークを再構築するといった取り組みです」(同氏)。
コミュニティセンターは市で建築し、運用資金と共に「協議会」に提供しており、まずは民生委員、ボランティア、介護事業者、医者、警察、市役所の関係を強化し、それぞれのエリアにおけるコミュニティ創生に挑んでいるという。
Android端末への感想として「医者とつながると良い」という利用者もいたとのことで、将来的には「地域ケアネットワーク」と「IP告知システム」の仕組みを再び融合させたい考えだ。「操作面の課題は、ITを使いこなしている団塊の世代が高齢者となる頃には自然と減っていくのではと感じています。ただ、今回のような仕組みを定着させるには、支援者の負担を考えると、有償サービス化する必要がありそうなのですが、今回のモニターからは便利という声が挙がる一方で、料金を支払ってまで使いたいという人は多くありませんでした。その定着方法についても考えていかなければなりません」(大高氏)。