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米EMC、ViPR 2.0や新アプライアンスなどSoftware Defined Storage関連製品を拡充へ
「EMC World 2014」基調講演レポート
(2014/5/7 10:05)
米国ラスベガスにおいて5月4日~7日(米国時間)の4日間にわたり開催されている、米EMCの年次カンファレンス「EMC World 2014」。世界中から1万4000名を超える顧客やパートナーが参加した本カンファレンスのテーマは「Redefine(再定義)」、昨年のテーマ「Transform IT(ITの変革)」とは違い、あえて“IT”を含めなかったところに、ITにかぎらずビジネス全体に変化をもたらしたいとする一歩踏み込んだメッセージが見えてくる。
ではEMCは何をもってエンタープライズビジネスの世界を再定義しようとしているのか。本稿では5月5日に行われたジョー・トゥッチ(Joe Tucci)会長およびデイビッド・ゴールデン(David Goulden)CEOのジェネラルセッションで発表された内容を中心に、EMCの新たな方向性を探ってみたい。
EMCは今回のカンファレンスにおいて新製品を含むいくつかの大きな発表を行っている。以下は5日に発表された大きなニュースだ。
・フラッシュアレイ「XtremIO」購入ユーザーに“100万ドル保証($1Million Guarantee)”を提供
・シリコンバレーのフラッシュストレージベンダDSSDの買収
・Software-Defined Storage製品「ViPR 2.0」のローンチ
・ViPRベースのストレージアプライアンス「EMC Elastic Cloud Storage(EMC ECS)」の発表
ではそれぞれの概要を紹介していこう。
XtremIOキャンペーン~気に入らなかったら100万ドルお返しします
まずはフラッシュストレージの販売促進キャンペーンである100万ドル保証について。これは同社のオールフラッシュアレイ製品であるXtremIOを購入したユーザーに対し、XtremIOの性能に不満があれば100万ドルを返金するという期間限定プログラムだ(5月5日~9月30日)。
「XtremIOは業界最速のパフォーマンスと低レイテンシを誇るフラッシュアレイであり、特に重複排除における機能の高さは他社の追随を許さない。性能に絶対の自信をもっているからこそ、われわれはこのプログラムを提供する」とゴールデンCEOはXtremIOの性能を強調する。
オールフラッシュアレイでは、システムレベルのガベージコレクション時におけるレイテンシ発生により一貫したパフォーマンスが提供できなくなる場合が少なくないが、「XtremIOは常にサービスをインラインで提供できる。他社製品のレイテンシが最大で133ミリ秒にもなるのに対し、XtremIOは0.1ミリ秒、パフォーマンスも12万IOPSと超高速で一貫している」(ゴールデンCEO)という。
DSSD買収~あのアンディ・ベクトルシャイムの会社がEMCに
そして同じくフラッシュ戦略の一環であるDSSD買収も大きなニュースだといえる。もともと、EMCはフラッシュストレージに関しては後発の地位に甘んじていたが、2012年に買収したXtremIOのポートフォリオをフラッシュ戦略の軸に置いてからは、急激に市場における影響力を増している。DSSD買収は、その勢いにさらにはずみをつけるための施策と見て間違いないだろう。
DSSDという会社の名前を聞いたことがある人は少ないかもしれないが、今はなきSun Microsystemsの創業者のひとり、アンディ・ベクトルシャイム氏が旧Sunのエンジニア数名とともに設立した、フラッシュメモリを専業とするベンチャーだ。
Hadoopとインメモリにフォーカスしたラックスケールアーキテクチャなど、ビッグデータ処理に関するすぐれた技術力をもつ企業として、シリコンバレーの投資家からも高い評価を受けており、フラッシュ事業、特にオールフラッシュを強化したいEMCにとっては最適なパートナーだといえる。
トゥッチ会長は「IT業界のレジェンドであるアンディとそのメンバーをEMCグループに迎えられることを本当に光栄に思う」と語り、また登壇したベクトルシャイム氏も「われわれは高いIOを要求するビッグデータアプリケーションのためのストレージ開発に注力してきた。今後はEMCとともに働くことで、フラッシュストレージの世界にゲームチェンジャーをもたらすことができるだろう」とコメントしている。
オールフラッシュストレージ市場はViolin MemoryやFusion-ioといったベンチャー企業が市場をリードしてきたが、巨大企業のEMCは彼らに対抗すべく、新たなベンチャーのパワーを借りて挑むことになる。
DSSDは買収後も当面はEMCとは別採算の独立した企業として存続、ベクトルシャイム氏はEMCのアドバイザーとして今後も開発に関与していくとしている。
ViPR 2.0~日立ストレージもOpenStackも
1年前のEMC World 2013で発表されたSoftware-Defined Storage「ViPR」は、コモディティハードウェアや競合他社製品を含むあらゆるストレージを仮想化/統合し、シームレスに扱うことをめざすソフトウェアソリューションである。昨年11月にバージョン1.0がリリース、そして今年1月にはアップデートバージョンである1.1が登場したが、今回はさらなる機能強化を行ったメジャーバージョンアップとなる。
ViPRはさまざまなタイプのストレージやファイルシステムを扱えることが大きな特徴だが、今回の機能強化ではネイティブで扱える製品が拡充し、これまでのVMAX、VNX、Isilon、NetApp FASに加え、ScaleIO、Vblock、さらに日立の「Hitachi HUS VM」「Hitachi VSP(Block)」がサポートされることになる。
また、OpenStackとの連携も強化され、ブロックストレージコネクタのOpenStack Cinderを経由してIBM XIVやDell Equal-Logic、HP 3PARといった他社ストレージを扱うことも可能だ。
ViPRで扱える初めてのコモディティハードウェアとしてHP SL4540が加わり、今後のx86系コモディティサポート強化の糸口としたい構えだ。
Elastic Cloud Storage~パブリッククラウドの手軽さとプライベートクラウドの信頼性
ViPRはすでにSAP(インメモリソリューションのSAP HANA)やSwissComといった大手企業で採用されており、日本においても注目度は高い。そして今回のバージョンアップにより扱えるストレージ製品が大幅に増え、導入企業の増加が期待される。
ViPRの普及を加速させるために、EMCは今回、ViPR 2.0を搭載したストレージアプライアンス「EMC Elastic Cloud Storage(ECS)」を発表している。“ViPRアプライアンス”と言い換えてもいいかもしれない。詳細なスペックは明らかになっていないが、ViPRなどのプロダクトを統括するアドバンスドソフトウェア部門のプレジデント アミタブ・スリバスタバ(Amitabh Srivastava)氏によれば、x86系のハードウェアにViPRとScaleIOを搭載した「コモディティなバーチャルストレージアレイ」とのこと。パブリッククラウドの手軽さとコストで、プライベートクラウドの信頼性とセキュリティを提供するアプライアンスだとしている。
マーケティング部門のエグゼクティブバイスプレジデントであるジェレミー・バートン氏はECSを「AWSのEC2とS3をひとつのボックスに詰め込んだような製品」と表現する。“Cloud”という言葉どおり、マルチテナントをサポートし、セルフサービスポータルも提供される。
現在、エンタープライズ企業が使っているインフラやアプリケーションのほとんどは、モバイルやソーシャル、ビッグデータ分析といったトレンドが生まれる前に誕生したものである。新しいデバイスにより新しいデータが新しいアクセス方法で絶え間なく生成される時代において、それらの古いレガシーではビジネス機会の損失を招きかねない。「新しい時代には新しいワークロードが生まれる。新しいワークロードに必要なのは新しいプラットフォームであり、それがECSだ」とゴールデンCEOはECSが時代のニーズにあったアプライアンスであると強調する。
ECSはViPRとScaleIOを搭載しているため、シングルプラットフォームでありながらオブジェクト/ブロック/HDFSといった複数のプロトコルをサポートする。ScaleIOの管理ツールも実装されており、ダッシュボードのインターフェイスも使いやすさを重視したデザインになっている。ちなみにScaleIOは昨年EMCが買収したプロダクトで、Amazon EBSのようなスケーラブルなブロックストレージをソフトウェアサービスとして提供することを可能にする。
スリバスタバ氏が言うとおり、ストレージでありながらハードウェアはあくまでコモディティで、ストレージとしての機能はすべてソフトウェアが定義することをめざすアプライアンスといえる。高機能ストレージをビジネスの柱としてきたEMCだが、ECSは同社が新しい方向にかじを切ったことを象徴する製品として興味深い。
EMC ECSの正式リリースは6月中旬、出荷開始は8月が予定されている。
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AWSやGoogle、Facebookといったトップクラスのインターネット企業は、自社開発のコモディティハードウェアをベースにした巨大なクラウドインフラストラクチャを構築し、膨大なデータとトラフィックを日々さばいていると言われるが、この流れは徐々に一般のエンタープライズにも波及しつつある。
高機能で高価格なハードウェアに頼るのではなく、ハードウェアは入手しやすいコモディティでいつでも代替可能にしておき、その上で動くソフトウェアがすべてのインフラの機能を定義するという“Software-Defined”な考え方は、ビジネスを取り巻く環境の変化に合わせた、柔軟で迅速なインフラの構築をもたらす。
ITにビジネスが縛られるのはなく、ビジネスの変化にITがキャッチアップしていく~EMCが提唱するSoftware-Defined Storageは単にストレージの仮想化や統合を図るだけでなく、柔軟なITによりビジネスが“Redefine”されるスピードを促進する手段だといえる。
ジェネラルセッション後の報道陣向けセッションで、「ViPRやScaleIOなどのソフトウェア製品に力を入れているが、EMCのビジネスに影響はないのか」という質問に対し、ゴールデンCEOは「(ソフトウェアビジネスにシフトすることで)レベニューはある程度下がることは予想している。だがそれはあくまで過渡期の現象にすぎないだろう」と答えている。ハードウェアビジネスだけにこだわっていては、EMC自身が生き残ることができなくなる。Redefineとはユーザー企業だけではなく、EMCを含むすべてのITベンダに課せられた終わりなきゴールだと言えるのかもしれない。