トピック

アット東京のデータセンターから主要クラウドへの接続が最短数分で実現~「ATBeXオーケストレータシステム」導入の狙いを開発者に聞く

 日本のビジネスの現場で、デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれるようになって久しい。それまでの業務体制を見直し、インターネットをはじめとしたIT技術をフル活用することで、生産性や就労スタイルを効率化させることは、人手不足、そして新型コロナウイルス問題に苦慮する日本企業が成長を目指す上で重要なピースだと言えよう。

 DXの中核的な存在がクラウドだ。特に、基幹系のシステムを厳重に組んでいる企業の場合は、データセンターなどで管理しているデータをどうクラウドへ移行させるかなど、運用には課題もあるようだ。

 このような課題の解消に向けて、積極的に取り組んでいるのが、データセンター大手の株式会社アット東京だ。8月25日、相互接続プラットフォームサービス「ATBeX(AT TOKYO Business eXchange、アット東京のデータセンター間および提携データセンター間で、複数のお客さまネットワーク間におけるレイヤ2接続を提供するサービス)」の機能強化を実施。AWSなど主要クラウドに短時間で接続可能になったという。この取り組みの背景について、福田和人氏(企画室 課長)、小椋祐也氏(ソリューション本部 ネットワークサービス部 ネットワークサービスグループ 課長)に話を聞いた。

データセンターのコネクティビティに「俊敏性」を

 アット東京のデータセンターは、多くのIX、クラウド、外部データセンターとの接続拠点となっている。顧客は、自社ネットワークとアット東京データセンターへの物理回線を1本敷設しておくだけで、目まぐるしく変わるインターネット回線事情に、より柔軟に対処することができる。

 2017年12月にはATBeXサービスを開始。このATBeXを介してデータセンター内外に構築済みのシステムとパブリッククラウドの接続拠点とを、高セキュリティなまま連携できるようになった。2018年3月にはAWS、同年10月にはGoogle Cloud™、そして2020年2月にはAzureに対応するなど、接続先は年々増え、強化されている。

 サービス企画の担当である福田氏はATBeX提供開始の背景について「データセンターのコネクティビティを強化していく中で、1本の物理回線をより効率的に、多用途に使って頂きたいという考えから生まれました」と振り返る。

福田和人氏(企画室 課長)

 ATBeXによってこうした「柔軟性」が提供された一方で、「サービス提供までのスピード」もまた必要ではないか、という見地から生まれたのが、今回新たにサービス開始した「ATBeXオーケストレータシステム」だと、開発担当の小椋氏は明かす。

「ネットワーク業界ではクラウドが台頭してきています。そしてソフトウェア開発の有り様も、Dockerに代表されるにように変わってきています。開発のスピードがますます上がっていく中で、データセンターでの接続にもスピードが求められるようになってきています。データセンターが足枷になってしまってはいけません」(小椋氏)

 アット東京の「ATBeXオーケストレータシステム」導入効果は明快だ。これまではユーザーが専用ポータルサイトを通じてクラウドへの論理接続を申し込んだ場合、2営業日の時間がかかっていた。しかし「ATBeXオーケストレータシステム」導入後は最短数分にまで短縮。アプリやITシステムの開発を手がける企業にとっては、これだけの時間削減は極めて大きなメリットと言えよう。

小椋祐也氏(ソリューション本部 ネットワークサービス部 ネットワークサービスグループ 課長)

開発に約1年、作業標準化で気付いた「人間の柔軟性」

 「ATBeXオーケストレータシステム」の導入以前は、人間が変更作業に介在するため入念な確認は欠かせず、2営業日の時間がかかる一因にもなっていた。しかし「ATBeXオーケストレータシステム」導入によってこれらの一連の作業が完全に自動化されたため、結果的に運用信頼性も向上した。

 アット東京の相互接続プラットフォームサービスATBeXを利用するユーザーであれば、「ATBeXオーケストレータシステム」は既に使用できる。申込時使用する「ポータルサイト」もあり、オンラインでパソコン上から申込、設定ができるという。

「ATBeXオーケストレータシステムの構築にあたっては、構成管理ツールを使用し、その周辺システムを新たに作っています。ただ、やはり開発には苦労もありました」(小椋氏)

ATBeX利用者向けの管理画面。ここからクラウドへの接続を申し込むと、最短数分で開通する体制がすでに整っている

「普段はあまり意識しませんが、人間の作業の柔軟性は機械のそれと比べて明らかに高い。人間がやってきた作業を、システムが理解できるレベルの『標準化』にまでまとめるのにはだいぶ時間がかかりました」(小椋氏)

日本のデータセンターだからこそ、顧客の声にも敏感に

 ネットワーク構成の変更を効率化・省力化しようというアプローチは、まさにSDN(Software-Defined Networking)に基づくもの。アット東京では今回の機能強化をSDN技術導入の第1弾としており、更なる展開を計画している。

 現在「ATBeXオーケストレータシステム」が適用されているのは東京都内にある中央センター、中央第2センターだが、これを大阪のセンターに拡張する。また、当初は対応クラウドのラインナップはAWS、GCP、IBM Cloudとなるが、今後Azure、Oracle Cloudも加わる予定だ。

 またATBeXは、IXをはじめ、さまざまな外部ネットワークと接続するための、基本プラットフォームとしても注目してほしいと福田氏は話す。

「アット東京では『日本一つながるデータセンター』を合言葉に、さまざまな施策を展開しています。クラウド、IXはもちろんですが、提携するデータセンターについても現在拡大中です。北海道から沖縄まで、接続できる拠点をドンドン増やしていきたいと考えています」(福田氏)

 この観点では、アット東京の「キャリアニュートラル」「ベンダーニュートラル」な立場が強みを発揮する。アット東京の株主は、セコム株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社、株式会社インテックの3社。特定の通信会社・クラウド会社との資本関係もなく、中立な立場を貫いている。接続先の多様化が予測される中、中立性の高さはデータセンター選びの基準の1つになりそうだ。

 開発担当の小椋氏は今後の機能強化にあたり「お客さまの声」を大切にしていきたいという。

「俊敏性への取り組みは、始まったばかりです。例えば、ものを運ぶ目的で作られた台車に対して、どのような機能拡張を行っていくのかですが、ハンドルを付けて操作性が必要、屋根を付けて雨風をしのぐ機能が必要など、使ってみて気づく改善点が必ずあります。そして、それは雨の日に使ったことがない開発側は気がつかなかったりします。そのため、今後もお客様の声を聞く貴重な機会を大切に進めていきたいです。」(小椋氏)