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大阪公立大学が進める“スマートキャンパス”の現場――「ビルOS」と「アプリ・ネイティブ思考」がもたらすスマート化の取り組み

 大阪公立大学は、スマートキャンパスの実現に向けた取り組みを進めている。独自にビルOSを開発し、その実装によってスマート化を推進しているところだ。実験の現場となっているのは、2025年2月に竣工した中百舌鳥キャンパスのスマートエネルギー棟と、2025年3月に竣工した森之宮キャンパスである。

 今回の取材ではイノベーションアカデミー棟を訪れ、ビルOSを活用したスマート化の取り組みについて話を聞いた。清掃ロボットがセキュリティゾーンを自動的に通過する仕組みを、後付けで導入する事例も見ることができた。

 大阪公立大学のスマートキャンパス化への取り組みを見ていく。

大阪府堺市にある大阪公立大学の中百舌鳥キャンパス

「アプリ・ネイティブ思考」と「ビルOS」で実現するスマートキャンパスの基盤

 大阪公立大学は、2022年に大阪市立大学と大阪府立大学の統合により設立された。12学部/学域、16研究科を有する国内最大規模の総合大学であり、総学生数は約1万6000人を誇る。

 幅広い領域をカバーする学部で構成している特長を生かし、各学部の教員がプロジェクトを組んで、各種課題に挑戦している点も特徴のひとつ。大阪公立大学 学長補佐(スマートユニバーシティ担当)兼大学院情報学研究科長の阿多信吾教授は、「総合知による社会課題解決に取り組んでいる大学であり、同時に、地域との密接なつながりを持つ大学である。これにより、実際のフィールドを活用した実証や共創活動が多い」とする。

大阪公立大学 学長補佐(スマートユニバーシティ担当)兼大学院情報学研究科長 教授の阿多信吾氏

 そうした中で大阪公立大学が取り組んでいるのが、スマートキャンパスの実現だ。

 阿多教授は、「スマートとは、個人が制限から解放され、個別最適化され、自分らしさを実現できる環境を指す」と前置き。「デジタルによる全体最適に加えて、通信、データ、アプリを活用することで、個別最適も両立できるようになる。特に、アプリを活用することで多くの課題が解決できると考えている。これを『アプリ・ネイティブ思考』と呼ぶ」と語る。

 例えば、自宅のエアコンは温度設定などをリモコンで操作するのが基本であるが、通信によって遠隔操作ができたり、位置情報のデータを活用して自宅の近くまで戻ったら自動的にエアコンのスイッチが入ったり、身に着けているセンサーをもとに不快と感じたら、それにあわせて柔軟に温度設定ができるようになったりする。

 特定の温度に下げるといった形ではなく、個人に最適な温度で動作するという点でも個別最適が可能になり、スマート化が図れるというわけだ。しかも重要なのは、これらのスマート化においては、ハードウェアを変更せずに、通信やデータの活用、アプリの進化だけで実現できるという点だ。

スマートとは

 大阪公立大学で取り組んでいるのは、こうしたスマート化の取り組みを、キャンパス全体を対象にしているという点である。「スマートキャンパスの実現において、基本となるのは建物。スマート化した建物同士が組み合わさることで、キャンパス全体がスマート化し、その先には、地域のスマート化、さらには都市のスマート化が実現することになる。ソフトウェアの更新によってアップデートするソフトウェアデファインド型の建物の実現が、その第一歩となる」とする。

 ビルのスマート化に重要な役割を果たすのが「ビルOS」である。

 WindowsやMac OSでは、PCに搭載されたOSの上で、さまざまなアプリケーションが動作する。このように、ビルOSの上でビルの設備などを制御するアプリケーションが動作し、空調や照明、ロボットなどの統合的な運用を実現。さらには、各種ビル設備とIoTセンサー、個人の活動量計などと連動することで、さまざまなシーンにおいて、最適な環境を実現するという。

 大阪公立大学では、2022年度からスマートビルプロジェクトをスタート。2023年度下期から、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて、鹿島建設などとともにビルOSの開発を進めてきた。

 さらに、2025年2月に竣工した中百舌鳥キャンパスのスマートエネルギー棟と、2025年3月に竣工した森之宮キャンパスを、社会実証フィールドとして活用。実際に、ビルOSを導入して、2つのキャンパスで同じアプリケーションを動作させて、スマートキャンパスの実現に取り組んでいる。

 スマートエネルギー棟は、3階建てで約3000平方メートルの延床面積であり、約200人が活動する場であるのに対して、森之宮キャンパスは13階建てとなり、約7万9300平方メートルの延床面積を持ち、5000人以上の学生、教職員が集う場になっている。

 「概念実証や小規模実証は、スマートエネルギー棟で行い、そこで改善、更新した成果をもとに、大規模実証を森之宮キャンパスで実施し、さらにアプリケーションの更新を行い、現場に実装することができる。また、スマートエネルギー棟を、テスト環境としてとらえることで、アジャイル開発も実現している。多様なアプリケーションを動かし、キャンパスで活動する人たちを豊かにすることを目指している」と語る。

 ここでは学生が開発したアプリも、ビルOSの上で稼働できるようにし、スマートエネルギー棟自体を教材とした「ビルOS実学プログラム」を実施。スマートビル人材の育成を支援しているという。

スマートビルプロジェクト

 スマートキャンパスプロジェクトの舞台となっている森之宮キャンパスでは、設備系ネットワークを束ねた設備統合ネットワークを構築しているのが特徴だ。これにより、設備間の連携をダイレクトにできる環境を構築。さらに、ビル竣工後に後付けで設置するIoTセンサーなどを利用するための環境として、情報系ネットワークを構築している。

 そして、アプリを活用して各種設備を制御したり、データを収集したりするためには、設備系ネットワークと情報系ネットワークを束ねる必要があり、ここで重要な役割を果たすのがビルOSとなる。

 ビルOSは、Web APIドライバによって、さまざまなIoT設備やデータ計量設備、空調設備と連携するとともに、データ収集を行うことが可能だ。「ビルOSの導入により、異なるベンダーの設備や機器を、統合的に制御し、データを取得することが可能になる」とする。

 さらに、標準APIを通じて、アプリケーションを稼働させ、異なるビルOSの間でも、相互運用性を実現することも想定しているという。

ビルOSの概要

 森之宮キャンパスの取り組みで特徴的なのが、学生アプリの活用だ。

 大阪公立大学では、2025年9月に、独自の学生アプリをリリースしており、1回生の場合、2949人の学部生に対して、2943人がアプリを導入しているという実績を誇る。導入率は99.8%に達している。全体では、すでに1万人以上の学生が利用している。

 「導入率の高さの背景には、アプリを使って出席を取っているためという理由が大きいが、学生からは、アプリの利用によって森之宮キャンパス内で迷う学生が減り、学務室に教室の場所を尋ねに来る学生はほぼいなかったという実績も上がっている。休講の通知もアプリによって認識する学生がほとんどであり、キャンパスライフの質的向上に大きく貢献している」という。

 さらに、学生が共用できる個室の予約をアプリで行い、ICカードの学生証によって個室の開錠を行ったり、センサーを活用して、教室の在室人数がゼロになった時点で空調や照明をオフにしたりといった活用も進めている。

 また、同キャンパスでは、学生が利用する教室が70以上あり、学生がどの教室に集中しているのか、さらに時間によって、どう移動するのかを、Wi-Fiのアクセスログをもとに、5分ごとに可視化。人流推定もできるようにしている。これにより、食堂の混雑を予測したり、集中している場所や移動が重なる時間や場所を特定したり、人が多い場所では清掃ロボットの稼働率を増やしたりといったことができるようになるという。

中百舌鳥キャンパス「スマートエネルギー棟」におけるセンサー・データ活用

 一方、今回、取材に訪れた中百舌鳥キャンパスのスマートエネルギー棟では、エネルギーマネジメントシステムを用いた新たな熱・電力融通ネットワークシステムの構築や、スマートビル化によるデジタルソリューションの創出のほか、分析機器の共同利用による共同研究の加速、オープンイノベーション空間を利用した新たな共創活動の創出などに取り組んでいる。

中百舌鳥キャンパスのスマートエネルギー棟
スマートエネルギー棟の内部の様子
1階には学生たちがフリーに使えるエリアがある
インキュベーションエリアの様子。学生と企業が共創できる
2階にはさまざまな企業が入居しているエリアもある

 スマートエネルギー棟に入室する学生には、受付で首に掛けるプレートが手渡されるが、そこにはビーコンが埋め込まれており、天井に設置された39個のセンサーによって、フロア内のどこにいるかがマップ上に表示される。新たなバージョンでは、個人ごとのつぶやきを表示でき、離れた場所でも会話ができるようになる。

ビーコンで学生の位置などをフロアマップ表示する
プレートの裏側にビーコンがある

 また、天井のフレーム化やPoEネットワーク、IoTゲートウェイの敷設により、IoT機器などの新たな設備や装置の追加が容易になっているのも特徴だ。

 「スマートエネルギー棟では、ビルOSプラットフォームを通じて、さまざまな設備やセンサーからのデータ取得および制御が可能になる。空調のオン/オフや温度設定、照明の調光や調色、エレベーターのロボット専用運転、環境センサーによる温度や湿度、CO2濃度の測定、カメラによる混雑度の測定などが行えるようになっている」とする。

天井には39個のセンサーが配置され、位置を表示する
温度や湿度、CO2濃度などを計測するセンサー
天井はフレーム化され、IoT機器やセンサーなどを増設しやすくしている

「Akerun」とビルOSの連携で、清掃ロボットのセキュリティエリア自動移動を実現

 そのなかでもユニークな取り組みのひとつが、清掃ロボットと、フォトシンスのスマートロック「akerun Ctl」を連携させたセキュリティエリアへの移動、およびエレベーターへの自動乗降の実現だ。

 フォトシンスは、同社独自の認証技術である「Akerun Access Intelligence」を活用した入退室管理システム「Akerun(アケルン)」などを開発。スマートキーの権限管理や発行/はく奪機能と、スマートロック、管理技術などを組み合わせることで、施設管理の効率化やセキュリティの強化、空間管理の無人化や省人化を実現できるソリューションを提供している。大手企業から中堅中小企業まで、全国で約5700社が導入しているという。

 スマートエネルギー棟では、セキュリティゾーンの入退室管理に、竣工時点でICカードによる電子錠システムを導入しているが、この仕組みでは、清掃ロボットや搬送ロボットがセキュリティゾーンに自動で入れないという課題があった。

 そこでAkerunを導入し、既存の電子錠システムを使用しながらも、後付け可能なコントローラとビルOSへのAPI連携によって、清掃ロボットや搬送ロボットがセキュリティゾーンの自動ドアを開閉して入退室したり、エレベーターに乗り、2階エリアに移動してフロアの清掃を自動的に行えたりするようにした。

 施設の利用者の入退室にとどまらず、ロボットのセキュリティエリアへの入退室をAkerunで厳格に管理することで、安心安全な施設環境を実現できるというわけだ。

 また、「ビルOSを活用することにより、異なるベンダーのロボットと異なるベンダーのエレベーターの連携であっても、ドライバーの作り込みだけで、アプリケーション連携ができる。さらに、タスク実行のシナリオも現場で自由に設定できるというメリットがある。工数をかけずにロボット活用の横展開ができる」という。

Akerunを活用した自動ドア連携
自動ドアをAkerunによる認証で通過する清掃ロボット
2階に向かうためエレベーターを待つ清掃ロボット
セキュリティゾーン内のエレベーターに自動で乗り込む清掃ロボット
セキュリティゾーン内で掃除を行う清掃ロボット
セキュリティゾーンの入り口に後付けでAkerunを設置し、ロボットが自動で入退室できるようにした
既存の電子錠システムにAkerunを増設して入退出を管理している部屋もある

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 スマートキャンパスやスマートビルディングは、設備やアプリケーションの進化が重要な要素となる。そのため、デジタル機器が容易に後付けできる仕組みも必須となる。ビルOSの活用は、こうしたスマート化に求められる当たり前の要件にも対応できる提案だといえる。