特集

約40年のノウハウを社外へ、パナソニックがセキュリティ技術のサービス化を本格化

自らの実践知をサービスとして提供

 パナソニック ホールディングス技術部門が、サイバーセキュリティ関連技術の開発とサービス化を積極化している。同社CTS部門傘下のデジタル・AI技術センター(DAIC)と製品セキュリティセンター(PSC)がサイバーセキュリティ技術の開発に取り組むと同時に、サイバーセキュリティ統括室が情報、製品、製造、技術におけるサイバーセキュリティを統括する体制を敷いている。

 先ごろ、千葉市の幕張メッセで開催されたInterop Tokyo 2026では、グループ内の技術部門と事業会社が連携して、ネットワークからデバイス、セキュリティに至るまでの幅広い領域のセキュリティソリューションを展示し、注目を集めた。

 パナソニック ホールディングスにおけるサイバーセキュリティ技術への取り組みを追った。

グループ成長戦略を支えるコア技術としての位置づけと40年の歴史

 パナソニックホールディングス技術部門では、「技術未来ビジョン」を2024年7月に発表。その中で、2040年の未来社会のありたい姿と、その実現に向けたパナソニックグループの研究開発の方向性を示している。

 また、2026年5月には、楠見雄規グループCEOが、2032年に向けた「グループ成長戦略」を発表。「AIインフラ」と「社会オペレーション」を支えることを、パナソニックグループのお役立ちの中心に位置づけ、これを基盤に売上高および利益を拡大する方針を示している。

パナソニックHDの成長戦略(2026年5月発信)

 パナソニック ホールディングス サイバーセキュリティ統括室セキュリティ技術統括部の松島秀樹部長は、「セキュリティは、技術未来ビジョンの中核技術のひとつに位置づけている。また、グループ成長戦略においても、AIインフラ関連事業と、ソリューション事業を成長させる方向性を示しており、セキュリティは両方の事業を支える技術として貢献することになる」と位置づける。その上で、「パナソニックグループは、工場という現場を持ち、エネルギー分野においても設備や製品を持っている。また、暗号技術も自ら活用してきた。それらのノウハウや知見を活用したサービスを、お客さまに提供できる点が強みになる」と述べた。

パナソニック ホールディングス サイバーセキュリティ統括室 セキュリティ技術統括部の松島秀樹部長

 パナソニックグループは、約40年にわたってセキュリティ技術に取り組んできた歴史がある。従来は、テレビをはじめとするAV機器や、DVDなどの記録メディアなどを対象にしたセキュリティ技術の開発が中心であり、RSA暗号のハードウェア化などにも取り組んできた。近年では、この範囲を拡大し、サイバーセキュリティの領域にも積極的に展開している。

パナソニックのセキュリティ技術の40年の歴史

 2026年6月10日から開催されたInterop Tokyo2026のパナソニックグループブースでは、セキュリティ技術に関して18種類のソリューションを展示。Connect(つなぐ)、Protect(まもる)、Trust(信頼)の3つの観点から、事業会社との連携によって、各種セキュリティ技術を紹介した。

 DAICを統括するDX・CPS本部の本部長にヤマハやトヨタを経てパナソニック入りした西城洋志氏が就任して以降、技術部門が積極的に外部発信したり、共創を積極化したりといった姿勢を打ち出しており、Interop Tokyo 2026への出展もその具体的な取り組みのひとつだったといえる。

 松島部長は、「デジタル・AI技術センターや製品セキュリティセンターが開発、提供するセキュリティ技術を、事業会社との連携により、事業化していく。Interop Tokyo2026では、具体的なビジネス提案につなげる展示にこだわった」と振り返った。

工場・自動車から耐量子暗号まで――自らの「実践知」を活かした多彩なソリューション

 では、パナソニックグループが取り組むサイバーセキュリティ技術の取り組みを見てみよう。

 パナソニック エレクトリックワークスが提供する「SGNIS」は、ビル運用の効率化とセキュリティ強化をサポートするスマートビルディングサービスだ。セキュリティの専門的な知識がないビル管理者でも理解しやすい形で分析レポートをまとめているのが特徴だ。

SGNIS・スマートビルディングサービス

 また、パナソニックデジタルが提供する工場セキュリティ監視サービス「WisShield」は、パナソニックグループの国内外200以上の工場で導入している技術であり、その知見を基に社外にもサービスとして提供している。

 既存ネットワークに影響を与えないパッシブ監視を行うとともに、通信の状況を詳細に分析し、通信遮断の要否を適切に判断。不要な遮断を防ぎ、生産停止のリスクを減らすことができるのが特徴となっている。国内外の複数拠点に設置した24時間365日体制の監視センターが、工場のネットワークを監視する。

 「外部のメンテナンス業者が、工場のネットワークにPCを接続して作業を行う際に、マルウェアに感染するというケースがある。サイバー攻撃をいち早く検出し、設備が不正制御される前に対処することを目指している」という。

 2026年6月には、セキュリティコンサルティングのTrellixと業務提携し、課題解決力をさらに強化したという。「工場におけるサイバーセキュリティ対策には多くの関心が集まっている。製造現場を持つパナソニックグループの強みとノウハウを生かせる分野になる」と語る。

 また、「業務提携したTrellixは、パナソニックグループのSOCの立ち上げにも協力してもらった経緯がある。長年の信頼関係をベースにしたパートナーシップを、社外の提案にも活用することになる。工場セキュリティに関する幅広い課題に対応できるようになる」としている。

工場セキュリティ監視サービス WisShield
工場セキュリティ監視サービス「WisShield」の監視センターの様子
サイバー攻撃によって、設備が不正制御されるとロボットが製品を落としたりする

 パナソニックコネクトグループを通じて新たにサービス提供を開始するのが、「サプライチェーン向けセキュリティ管理業務支援サービス」である。リスクアセスメントやセキュリティコンサルティング、社員教育などで構成しており、経済産業省が2026年度中に開始予定の「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」に対応したサービスとなる。

サプライチェーン向けセキュリティ管理業務の支援サービス

 一方、IoT Threat Intelligenceとして位置づけている「ASTIRA」は、IoT製品における製品ライフサイクルのすべてのフェーズで、セキュリティ強化を図ることができるもの。大阪府門真市にASTIRAルームを設置し、2017年からネットワーク接続が可能な家電製品やIoT製品に対する攻撃を観測し、リアルタイムでの分析・可視化を行っている。今後、インテリジェンスサービスとして、パナソニックグループ社外への販売を計画しているという。

IoT Threat Intelligence「ASTIRA」

 また、再生エネルギー施設向けセキュリティ監視サービスも、社内施設での実証実験での成果をもとに、今後、社外へのサービス提供を予定している。パナソニックグループでは、滋賀県草津市、英カーディフ、独ミュンヘンのそれぞれの再エネ設備でIT通信プロトコルを可視化するとともに、電力制御通信の分析により不審な振る舞いを可視化する実証実験を行っているほか、伊藤忠商事の系統蓄電所でも、2026年8月まで実証実験を実施中だ。さらに、独Fraunhoferとサイバーセキュリティ研究用データセットの構築および公開を含めた共同研究も進めている。

 「再エネ型電力は、ITインフラに依存した配電網となっており、被害の影響範囲が地域全体に広がるため、適切なセキュリティ対策が必要になる。だが、多数の再エネ施設でセキュリティが放置状態にあるのが実態だ。日本でも太陽光発電施設への不正侵入が発生し、約800台の機器が乗っ取られたという事例がある。パナソニックグループでは、電力制御通信に特化した独自のサイバー攻撃検知エンジンおよび分析エンジンを保有しており、そこに再エネに特化した検知ルールを追加。他社では検知できない深いレベルの攻撃検知や影響の分析が可能になっている。さらに、リスクアセスメント、検知、分析、対応の各フェーズにAI技術を導入し、再エネ施設の安定運用を強化している」と述べた。

 また、「再生エネルギー施設向けセキュリティ監視サービスは、パナソニックグループが取り組む長期環境ビジョン『Panasonic GREEN IMPACT』と連動したサービスともいえ、今後、力を入れていくことになる」と位置づけた。

再生エネルギー施設向けセキュリティ監視サービス
再生エネルギー施設向けセキュリティ監視サービスは、再エネ施設だけでなく、地域全体の守ることにつながるという

 一方、データの真正性やトレーサビリティを支えるブロックチェーンソリューション「Tracephere」では、ブロックチェーンをベースに履歴を可視化。サーキュラーエコノミーやコンテンツ管理への応用を想定しているという。新たにアクティアとの戦略的パートナーシップを締結し、同社のコンサルティング力やソフトウェア開発力を生かした展開を進めることになる。

ブロックチェーンソリューション「Tracephere」

 Tracephereの開発においては、2017年からプロジェクトを発足し、宅配ボックスや電動バイクのシェアリングサービスでの実証実験を行ってきた経緯がある。さらに、2023年には、NFTを活用した映像素材トレースにも応用。2025年には照明器具のトレーサビリティに適用している。

データの真正性やトレーサビリティを支えるブロックチェーンソリューション「Tracephere」

 「パナソニック エレクトリックワークスが、LED照明のリユースやリファービッシュ、リサイクルに関して、資源循環ループを形成する技術開発および実証にTracephereを活用している。調達から廃棄までの各工程におけるCO2排出データを登録して、CO2排出量を算出。登録したデータをNFT化して証明する。また、個別施策ごとにCO2排出削減効果や根拠データを可視化することもできる。これにより、これにより、正確かつ迅速な追跡、報告ができるようにした」という。

 また、パナソニックコネクトグループでは、ブロックチェーン技術を用いた新たな映像エコシステムのプラットフォームを、Tracephereを活用して提案。ブロックチェーンによる明確な報酬分配ルールを設定して、映像の投稿を活性化したり、NFTを活用した利用権や著作権の管理、利用履歴の管理などによって、コンテンツ管理業務の効率化や二次利用による収益化の促進などが図れたりするという。

Tracephere for DX
Tracephere for GX
NFTを活用したコンテンツの利用権や著作権の管理ができる

 「VERZEUSE」は、自動車の開発から出荷までのライフサイクル全体でのセキュリティ対策を実施するソリューションで、パナソニック オートモーティブシステムズが提供している。

 2026年5月には、脅威分析ソリューション「VERZEUSE for TARA」の試用版の提供を開始することも発表した。同ソリューションは、セキュリティの専門家でなくても、脅威の分析を進めることができ、SDVや仮想化環境を前提とした脆弱性分析、自動化による大幅な工数削減効果を検証できるという。

自動車セキュリティ「VERZEUSE」

 さらに、パナソニックグループでは、将来の脅威を見据えた「耐量子計算機暗号(PQC)への移行支援サービス」も提供を開始する。これまでにもRSAやAESなどの現代暗号に関するソフトウェアライセンスを提供してきたが、新たにPQCを含めた暗号ソフトウェアライセンスの提供とともに、移行支援サービスを行う。

 先ごろ、米国政府が2031年末までに耐量子計算機暗号への移行を前倒しで進めることを発表するなど、セキュリティの強化だけでなく、法令順守のためにも、耐量子計算機暗号への移行は避けられないものになろうとしている。

 パナソニックホールディングスでは、PQC導入支援コンサルティングサービス、PQC導入コストダウン技術開発、PQC対応SSL/TLSライブラリ独自ソフトウェアの提供という3点で移行支援を行う。

 「耐量子計算機暗号に対して、なにから手をつけていいかわからないという企業が多い。また、実際に導入するとなると、PQCによって負荷が大きくなるなどの課題があり、同時に資産の棚卸しや可視化、影響調査やリスク分析、PQC方式の選定や設計の見直し、既存システムの改修、安定性テスト、教育など、移行に向けた取り組みは多岐にわたる。提供するサービスでは、耐量子計算機暗号の動向を把握するとともに、プランニングから移行作業までを支援することができる。また、パナソニックの30年以上にわたる暗号技術開発の実績を持っており、暗号ソフトウェアは世界的に見ても高い性能を実現している。これをもとに、顧客環境に最適化したPQCライブラリを提供できる」としている。

耐量子計算機暗号への移行支援サービス
耐量子計算機暗号(PQC)への移行は政府や企業にとって避けられない課題になる

 一方、ネットワーク接続検証サービスは、同社が2000年代から社内向けのサービスとして提供してきたもので、ここで培ったノウハウを体系化し、パッケージ化したサービスとして外部企業にも提供する。IoT機器を対象に、設計初期段階のSDK検証から市場問題解析までを幅広くサポート。IP通信の各レイヤーに対して、規格観点だけでなく、過去の不具合事例を考慮した接続性課題の検証なども実施する。国内外を含めて、2000機種以上のルーターを保有するなど、業界トップクラスの評価環境を活用しているのも特徴だ。

ネットワーク接続検証サービス

 また、セキュリティ診断サービスも社外向けに提供しており、社内で20年以上の実績を持つIoT機器における脆弱性の診断や、システムにおける脆弱性診断、実際に攻撃を仕掛けるペネトレーションテストを実施し、セキュリティの脅威を経営の観点から分析することができるという。パナソニックデジタルやパナソニックコネクトグループを通じて提供することになる。

セキュリティ診断サービス

 このようにパナソニックグループでは、幅広いセキュリティソリューションを提供しており、その多くがグループ内で活用されてきたものだ。大手製造業である同社が、自らの実践知をサービスとして提供している点が、パナソニックグループのセキュリティソリューションの特徴だといえる。

サイバーセキュリティ製品に関して説明をしてくれたパナソニック ホールディングス技術部門のメンバー