特集

MWC 24のトレンドはネットワーク機器での生成AIの活用、NECや富士通などがデモ・説明を行う

 2月26日~2月29日(現地時間)にスペインのバルセロナ市で開催されたMWC 24では、5Gコア、vRANなどのSDN(Software Defined Network)と呼ばれる、汎用ハードウェアとソフトウェアの組み合わせで実現されるネットワーク機器が話題の中心となっていた。そうした中で、今回のMWC 24での新しいトレンドとして、「生成AI」をネットワーク機器に適用するというデモや発表が相次いだ。

 本稿では、ネットワーク機器における生成AIに関するトレンドに関して、MWCで取材した内容を元にお届けしていきたい。

NECは自社開発のコンパクトLLM「cotomi」を講演や自社ブースでアピール、スマートフォン上でも動作

 日本のIT企業の双璧であるNEC(日本電気)と富士通は、いずれもMWCにブースを出展し、両社の通信事業者向けのソリューションなどを展示していた。

 別記事でも紹介している通り、NECと富士通は日本の通信事業者NTTドコモが主導する「OREX」に参加しており、富士通が主導するvRANは既に昨年の9月からNTTドコモの商用5Gネットワークに導入済み、NECが主導するものは本年に導入される計画になっている。

 NECは同社のブースでそうしたvRANのソリューションに関する説明を行った。同社はMWC開幕の初日にNTTドコモが66%、NECが34%を出資する合弁会社「OREX-SAI」を設立することを明らかにしており、その合弁会社がOREXに参加するサプライヤーをとりまとめて、海外の通信事業者などにvRANソリューションを提供、保守などを行っていく。

 また、日本電気 Corporate EVP(CTO 兼 グローバルイノベーションビジネスユニット長)西原基夫氏は、MWCの公式ステージで行われた講演に登壇し、同社のAI戦略について語った。

NEC Corporate EVP(CTO 兼 グローバルイノベーションビジネスユニット長)の西原基夫氏

 西原氏は、NECが開発しているLLM(大規模言語モデル)の「NEC cotomi」(コトミ)について説明を行った。西原氏は「現在LLMというといかに大規模にするかを競うような状況だが、cotomiではそこはわざと大規模を目指さない設計にしている。それによりお客さまが実行する時のコストを削減できる。また、パラメーターが大きくないためエッジデバイスでも実行できる」と述べ、cotomiではパラメーター数をわざと大きくしないようにして、顧客の環境下で推論を行う時の実行リソースを節約することが可能になると訴えた。

NECのLLM「cotomi」
パラメーターサイズは1/13
cotomiのエッジデバイス上での実行デモ。パラメーターサイズを大きくしないため、スマートフォンのようなデバイスでも動作させることができる

 NECブースの展示員によれば、cotomiは130億(13B)パラメーターのLLMになっており、最近肥大化する一方で1750億(175B)パラメーターなどの巨大LLMに比べてコンパクトになっているという。その代わり、学習時のデータセットのデータ量を増やしており、正確性は巨大なパラメーターの最新LLMと大きな差はないとした。

 しかし、ユーザーのエッジやクラウドで推論を行う時には、LLM自体がコンパクトになっているため、少ないリソース(例えばGPUは必要なくCPUだけ)で実行できるメリットがある。より大きな計算リソース=コストであるため、顧客の環境でのリソースを削減して顧客のコストを押さえることがメリットだという。

cotomiのLLMのイメージ、データ量とパラメーターのかけ算で正確性や性能は決まってくる。多くのLLMが黒の方向で性能を強化しているが、cotomiは赤い方向に性能を強化している

 また、このcotomiを、スマートフォンのような演算リソースが十分ではないエッジデバイスで動かすような取り組みをNECは行っていると西原氏は説明したが、具体的にはQualcommのスマートフォン向けSoC「Snapdragon」でそれを動作させているという。

 Qualcommの最新SoC「Snapdragon 8 Gen 3」において、Qualcommは既に70億パラメーターのLLMをデバイス上のSoCだけで動かす取り組みを行っており、cotomiに関しても同じようにSnapdragon 8 Gen 3のCPU、GPU、NPUを活用して動作させているものと考えられる。

 スマートフォンで動かせるということは、数世代後(通常スマートフォン向けの最新SoCが数年後にIoTに降りてくる)にはIoTで利用することを意味するので、今後はそうしたソリューションにも期待したいところだ。

富士通はvRANやネットワーク機器などでAIを動作させる計画を説明、サブテラヘルツの展示も

富士通のvRANソリューションに使われる「Grace Hopper」のサーバー機器

 富士通は、同社の基地局向けのソリューション(アンテナやRU)、vRANのソリューションなどを展示した。同社のvRANは既に昨年9月に行われたMWC Americaで、NTTドコモから同社の商用5Gネットワークに導入済みだと発表されており、既に日本で稼働中だ。富士通は、そうしたvRANのソリューションに関して、レイヤー1アクセラレーターカードはNVIDIA、Dell、SynaXGなどさまざまな組み合わせを取り合わせており、通信事業者のニーズに応えてどんな組み合わせも提供できると説明した。

GPUを活用したvRANソリューションを富士通は提案している
複数のサプライヤーと協業してさまざまな選択肢を通信事業者に提案

 また、AIも積極的に取り込みを進めており、vRAN上の計算リソース(CPUやGPUなど)の空いているリソースを活用して、トラフィックに応じたリソースの配分を行ったりすることでvRAN全体の性能を引き上げていくことに使うという。

 通信機器全体という形では、AIを利用して機器故障を予想し、障害が発生した時にその障害をLLMが原因を検知して、対処方を管理者にサジェストしてくれる機能などを実装していく計画だ。それによりネットワークのダウンタイムを最小化する、そうしたことにLLMを使っていくと説明した。

富士通のネットワーク機器での生成AI活用アプローチ
LLMを活用したネットワーク管理

 さらに、富士通は6Gを実現していく基礎技術として「サブテラヘルツ」と呼ばれる、UWB(Ultra Wide Band、超広帯域、28GHz~100GHz)を超える100GHz~300GHzの帯域での通信を実現する技術の参考展示を行った。具体的には300GHzで通信ができるアンテナアレイ、InPベースのPAなどを展示した。

300GHzで通信ができるアンテナアレイ、InPベースのPAのプロトタイプ

 このほか、NTTイノベーティブデバイスと共同で、ミリ波で複数のビームフォーミングICを実現するRFモジュールを展示し、現在はやや大型のアンテナが必要なミリ波の基地局を、それこそWi-Fi APのようなサイズまで小型化できるようなデモを行った。

将来的にミリ波の基地局を小型化できるRFモジュールのプロトタイプ

Intelはソフトウェアをセットにした新しい「Intel Edge Platform」を発表、Lenovoが提供へ

 IntelはMWC 24の初日に報道発表を行い「Intel Edge Platform」と呼ばれる、新しいエッジ向けの製品群を発表した。Intelは、同社のx86プロセッサー製品群を、従来は「Embedded」と英語で呼ばれていた「組み込み」向けの製品に提供してきた。例えば、ATM、小売店のレジ、駅や街などで見かけるサイネージがそうした製品で、このような製品は意外と身近にありふれている。こうした組み込み向けのソリューションが進化したものが、今回の「Intel Edge Platform」となる。

 Intel 執行役員 兼 ネットワーク・エッジ事業部 ソフトウェア事業部長 パラビ・マハジャン氏は「従来のソリューションとの大きな違いはソフトウェアも一緒に提供することだ。エッジ環境では、どのようにAIを含めたインテリジェントな機能を提供できるかが必要とされており、Intelがソフトウェアもハードウェアもセットで提供する」と述べ、エッジ環境におけるAIアプリケーションの開発環境を含めたソフトウェアをIntelが提供することが、従来の組み込み向けソリューションとの大きな違いだと説明した。

Intel 執行役員 兼 ネットワーク・エッジ事業部 ソフトウェア事業部長 パラビ・マハジャン氏

 マハジャン氏によれば、Intel Edge Platformには、IntelがエッジでのAIアプリケーション開発向けに提供しているOpenVINOツールキットを含む開発キットがパッケージで提供され、AIアプリケーションをより容易にエッジデバイスに実装することが可能だという。また、セキュリティーパッチなどの提供もプラットフォームレベルで提供されるため、IT管理者は容易にエッジ環境にIntel Edge Platformの製品を導入することが可能だと強調した。

Lenovoのエッジデバイスの展示

 Intel Edge Platformは、最初のOEMメーカーとしてLenovoが製品を提供していくことが明らかにされており、今回Lenovoブースではそうした製品のデモが行われていた。従来の組み込み向けでは、エンドユーザーがソフトウェアを自分で開発してと言うことになっていたが、このIntel Edge Platformでは既にソフトウェアのベースがあり、それを元により容易にソフトウェアの開発をしていくことが可能で、エッジでのAIの導入を検討しているユーザーにとっては注目すべき発表だと言えるだろう。

NVIDIAやソフトバンク傘下の企業が中心になっているAI-RANアライアンスが発表される

 今回MWC 24には出展していなかったが、意外な存在感を示していたのがNVIDIAだ。というのも、MWC 24の開幕初日に、「AI-RANアライアンス」という、vRANにAIを実装していく業界標準団体の結成が明らかにされ、その設立メンバーの1社がNVIDIAだったからだ。その設立メンバーはAWS、Arm、DeepSig、Ericsson、Microsoft、Nokia、 Northeastern University、NVIDIA、Samsung Electronics、ソフトバンク、T-Mobile USAというメンバーで、半導体メーカーで入っていたのはIPライセンシーであるArmを除けば、NVIDIAだけだったからだ。

 こうした業界団体は、創設メンバーが運営委員会のメンバーになって運営されていくのが一般的で、その意味ではAI=NVIDIAという図式が一般的な認識になっているため、MWC 24の会場ではちょっとした話題になっており、それに参加していない競合メーカーの会見で「どう見る?」のような質問が出るほどだった(答えはみなノーコメントだったが…)。

 ただ、メンバーをよく見るとわかるのだが、通信事業者はソフトバンク・グループ傘下のソフトバンク、そしてソフトバンク・グループが筆頭株主のT-Mobile USAだけが参加し、半導体関連ではソフトバンク・グループ子会社のArmとなっており、そのArmを買う寸前までいったNVIDIA…と、どう見てもソフトバンク・グループ色が強いことは否定できない。MWCの会場でもそうした受け止められ方がされていたことを付け加えておきたい。