特集
商用採用が進むIntelの5Gコア/vRAN、Sierra Forestの性能やGranite Rapids-D投入計画を発表
Armは実証事例が登場
2024年3月6日 06:00
2月26日からスペイン王国バルセロナ市で開催されたMWC 23は、もとの名称がMobile World Congressと言っていたことからもわかるように、もともとは通信事業者のイベントとして発展してきた歴史があり、主役はモバイル通信事業者やそれに付随するモバイル通信関連の半導体などを提供するベンダーなどになっている。
しかし、近年はSDN(Software Defined Network)と呼ばれるような、汎用ハードウェアとソフトウェアを組み合わせてネットワーク機器を実現することが当たり前になってきており、基地局(RU)、RAN(CU/DU)、コアという5Gネットワークを構築するネットワーク機器が汎用ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたソリューションに置き換わりつつある。
もっと進んでいるのは5Gコアで、既に多くの通信事業者でSDN化が実現し、現在はRANがvRANと呼ばれる汎用機器ベースのRANに置き換わりが始まっている状況だ。そうしたMWCでのCPUメーカー関連の話題をお伝えしていきたい。
Intel、Sierra Forestの電力効率は第2世代Xeon SPと比較して2.7倍に、業界をリードする電力効率を実現と自信を見せる
そうした5Gコア、vRAN向けの汎用サーバー市場で最も大きなシェアを持つのがIntelだ。今回Intelは同社ブースで、5GコアやvRANの展示を、パートナーとなるメーカーなどと一緒に行っている。
その中でも目玉となったのは、Intelが本年前半中に投入を計画している開発コードネーム「Sierra Forest」(シエラ・フォレスト)のデモだ。従来Intelのデータセンター向けCPUは、開発コードネームに「Rapids」が後ろにつく製品が1系統用意されている形になっていた。現代はSapphire Rapidsこと第4世代Xeon、Emerald Rapidsこと第5世代Xeonという2つの製品が主力製品となっている。これらのRapidsが開発コードネームにつく製品は、ハイブリッド・アーキテクチャ(2つの種類のCPUコアを採用しているという意味)を採用しているクライアントPC向けCPUではPコア(Performance Core、高性能コア)と呼ばれる性能重視のCPUコアが採用されている。
それに対してSierra Forestは、Eコア(Efficiency Core、高効率コア)と呼ばれる、より高い電力効率を実現し、密度を上げることを重視したCPUコアが採用した製品になる。今後Intelは、Sierra Forestの後継として「Clearwater Forest」を2025年に投入する予定など、性能重視のRapidsシリーズ、電力効率/高密度なForestシリーズ、という2つのシリーズに分岐して展開される。
Intelがこうした「Forest」シリーズを展開するのは、データセンター向けでArmアーキテクチャを採用した製品が増えつつあるからだと考えられている。というのも、通信事業者にとっては、5GコアやvRANを汎用サーバーで実現する上で、汎用サーバーの消費電力が克服すべき課題として認識されているからだ。例えば、vRANのサーバー機器などを収納している通信事業者の局舎は、日本で言えば万を超えるような数で設置される。それだけの数になると、消費電力とそれに伴う電力コストも掛け算で増えていくので、1つ1つの局舎の電力効率を高めたいのであれば、電力効率が高いサーバーを採用したいと考えたくなるものだ。
そこでIntelは、昨年のMWCで「Intel Infrastructure Power Manager」というXeonサーバー向けに電力効率を高める電力管理ツールの計画を明らかにし、それを利用することで30%の電力を削減できると説明してきた。本年はそうしたIntel Infrastructure Power Managerの商用提供開始を明らかにし、HPEとNokiaの強力で行われたデモでは、昨年の説明よりも多い40%の電力削減を実現していると説明した。
もちろんそうした努力も引き続き行われるが、最終的にはCPUそのものの電力効率を引き上げることが必要だとされており、それを実現するのが「Sierra Forest」になるのだ。Sierra ForestでIntelは1のパッケージに144コアのダイを二つチップレットとして搭載することで、1ソケットあたり288コアというこれまでのCPUにはないCPUコア数を実現する。
今回Intelが公開したデモでは、Sierra Forestは、従来世代のCPU(第2世代Xeon SP)と比較して、ラックあたりのピーク性能が2.7倍になると説明された。ラック1つの電力はいくつかの規格があるが、もっとも少ない8kWを前提に設計すると、第2世代Xeonでは11のブレードサーバーを実装することが可能になり、それぞれに2ソケットでCPUコア数が最大24コア(HT有効で48コア)になるので、合計で1056コアのvCPUコアを実現できる。
それに対してSierra Forestでは7つのサーバーで288コア(EコアはHTには未対応なのでそのまま288コア)の1ソケットのサーバーとなり、2016コアのvCPUコアを実現できる。vCPUコア数で言えば1.9倍になり、ピーク時の性能2.7倍になるとIntelは説明した。前述の通り、ラックあたりの電力は8kWと違いはないので、言い換えれば電力あたりの性能も2.7倍になるということだ。
Intel 副社長 兼 ワイヤーライン・コアネットワーク事業部門 事業部長 アレックス・クワ氏は「Sierra Forestは業界をリードする電力効率を実現している」と述べ、既に市場にあるArmベースのデータセンター向けCPUと比較しても電力効率と性能で優位にあると明確に言い切った。
本年導入されるGranite Rapidsのレイヤー1アクセラレーター統合版「Granite Rapids-D」は来年登場
昨年Intelは、MWC 23において、Sapphire Rapids EEの開発コード名で知られる「第4世代インテルXeon スケーラブル・プロセッサー Intel vRAN Boost対応」(以下、第4世代Xeon SP vRAN Boost対応)を発表した。第4世代Xeon SP vRAN Boost対応は、CPUにIntelがvRAN Boostと呼んでいるレイヤー1アクセラレーターを統合した第4世代Xeon SPで、別途レイヤー1アクセラレーターを搭載しなくてもvRANを構築できることが特徴になっている。
今回のMWCでは、Intelは第4世代Xeon vRAN Boost対応の後継として、「Granite Rapids-D」を2025年に投入する計画を明らかにした。このGranite Rapids-Dは、Sapphire Rapidsにレイヤー1アクセラレーターを追加したSapphire Rapids EEと同じ位置づけの製品で、前述のGranite Rapidsのレイヤー1アクセラレーター追加版という扱いになる。既に述べた通りレイヤー1アクセラレーターなしの通常版Granite Rapids自体は本年投入される計画であることは変わらいが、Granite Rapids-Dは2025年に入ってからの提供になるとIntelは説明している。
別記事でも紹介した通り、IntelのXeon SPは、NTTドコモのvRANソリューションOREX Packageに採用され、NTTドコモの商用5Gネットワークに導入されたことが昨年の9月に明らかにされており、今回のMWCではその第2弾となるOREX Packageでも、HPEのXeonサーバーが採用されたことが明らかになっている。
MWCで取材してみると、昨年Intelが発表したように、商用稼働中のvRANは、ほぼIntelベースという状況に大きな変化はないと感じた。ただ、AMDやArmを採用した検証事例が増えてきている印象で、これからvRANの商用利用が始まることになる、日本以外の通信事業者での採用事例がどうなっていくかが要注目だ。
NEC/Red Hat/Qualcomm/HPEなどがArmベースのvRANや5GコアのPoCをデモ
現状では、5GコアもvRANも、IntelやAMDのx86プロセッサーが市場の大部分を占めているが、Armもそれを覆すべく、新しいソリューションの提供を行っている。Armは今回のMWCの前週に、新しいデータセンター向けCPUのIPパッケージとなる「Neoverse CSS V3」、「Neoverse CSS N3」を発表した。いずれも、現行のIPデザインとなるNeoverse V2、Neoverse N2の後継となり、CPUだけでなくファウンダリのプロセスノードへの最適化、周辺部分のIPライセンスとの動作検証などをパッケージにしたものとなり、そのため「CSS」という名称が追加されている。
Armは昨年サーバー市場向けでいくつかのデザインウインを獲得している。以前からGravitonシリーズをリリースしてきたAWS(Amazon Web Services)は、昨年11月に開催したre:Inventにおいて、Neoverse V2を採用したGraviton4を発表した。NVIDIAは5月末に開催されたCOMPUTEX 23において、やはりNeoverse V2を採用したGraceを発表しており、CPU単体のGraceと、GraceとNVIDIA GPU(Hopper)を1つのモジュールに搭載したGH200(Grace Hopper)を発表しており、いずれもArmにとってはデータセンター/AI分野でのデザインウインになっている。
さらに、11月に行われたMicrosoft Igniteでは、MicrosoftがNeoverse N2を採用したMicrosoftの自社ブランドArm CPUとなるCobalt 100が発表されている。これにより、ArmはCSP(クラウドサービスプロバイダー)のうち、トップ3社のうち2社の自社デザインに採用されたことになる。
Armは今回、NTTドコモがvRANをパートナー各社と構築してパッケージ化する取り組み「OREX」のパートナー企業となる「OREX PARTNERS」になったことを明らかにしている(詳細は別記事をご参照いただきたい)。
NTTドコモのOREXにもとづいたvRANは、富士通を中心とした組み合わせが既にNTTドコモの5Gネットワークで商用展開されており、今回のMWCで発表されたNECを中心とした組み合わせは本年に商用展開される予定になっている。このどちらも現時点ではx86プロセッサーベースとなっているが、ArmがOREX PARTNERSになったことで、将来的にArmプロセッサーが採用される可能性が出てきたと言える。
また、このMWCの直前となる2月21日には、NECがArm、Qualcomm、Red Hat、Hewlett Packard Enterprise(HPE)と協力して、Armベースの汎用サーバー上でvRAN、5Gコアを実現する実証実験に成功し、MWCでデモを行うと発表している。
このNEC、Qualcomm、Red Hat、HPEの4社の組み合わせは、NTTドコモが自社の5Gネットワークで本年第2弾の商用展開を行うOREX Packageを提供する組み合わせで、OREXの第2弾パッケージでは、サーバーはHPEのDL110でIntelの第4世代Xeon SP(Sapphire Rapids)を採用しているのに、Armが入ったこちらは、サーバーがHPEのHPE ProLiant RL300 Gen11で、CPUはAmpereの「Altera MAX」が採用されていること、そしてAWSのEKSが採用されていないことが大きな違いになる。Red HatのOS上で仮想化環境が動いており、NECのvCU、vDUなどが動作している環境はNTTドコモのOREX Packageと共通になる。
Armとしてはこうした実証事例を徐々に増やしていき、実際に商用採用の事例を増やしていくことが次のステップになるだろう。