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NTTドコモ、NECやRed Hat・AWS・Dellなどが参加する「OREX Packages」で海外へのvRAN売り込み促進を目指す

 NTTドコモは、MWC 24の会期初日にあたる2月26日に、同社の「OREX」に関するWebサイトにあるトピックスを更新し、新しい「OREX Package」を、同社の5G商用ネットワークに本年中に導入することを明らかにした。

 同社が推進しているOREXは、Open RANと呼ばれるオープンなvRANを推進する企業連合で、同社を中心にvRANを構成するサプライヤーなどが加盟している。OREXの目標は最終的に、構築したvRANのソリューションを海外の通信キャリアなどに販売し、NTTドコモにとっての新しいビジネスにする狙いがあるが、その「カスタマーゼロ」(社内が最初の顧客であるという意味)となるのが自社の5G商用ネットワークになる。

 既にNTTドコモは昨年、富士通、WindRiver、NVIDIA、Intelなどのサプライヤーから提供された汎用サーバーを組み合わせた「OREX Package」を、自社の商用5Gネットワークに採用しているが、今回発表されたのはその第2弾で、NEC、AWS、Red Hat、Qualcomm、HPE/Dellといったサプライヤーから構成された汎用サーバー+ソフトウェアとなる。

MWCでのNTTドコモブース

NTTドコモを中心に作られた企業連合「OREX」、vRANソリューションを海外の通信事業者に販売することを目指す

 OREX(オーレックス)は、昨年NTTドコモが構想を明らかにした、Open RANを推進するNTTドコモとサプライヤー連合のブランドとなる。Open RANとは、携帯電話通信事業者の基地局(端末からの電波を受信するステーション)とコア(ユーザーの契約情報を処理し、各種のサービスなどを提供するサーバー群)の間をつなぐRAN(Radio Access Network)を、汎用サーバーにより仮想化したソフトウェアで実現するvRAN(Virtual RAN)の標準仕様で、現在全世界の通信キャリアで導入が検討されている(以下ややこしいので、vRANで統一する)。

 日本の通信事業者はそうしたvRANの導入で先頭を走っており、NTTドコモ、KDDIなどの通信事業者が既に一部のRANでvRANの導入を開始している(こうしたものは段階的に導入されていくため、導入済みのところと導入済みではないところが混在している状況だ)。

 通信事業者にとってvRANを導入するメリットは二つある。一つは将来的なコストの削減だ。vRAN以前のRANは、専用機と呼ばれる通信機器が導入されており、そのコストは決して安くなかった。そして、一度特定のベンダーの通信機器を導入すると、メンテナンスの観点からも、安定性の観点からもそのベンダーの機器を使わざるを得ず、「ベンダーロックイン」と呼ばれる、特定のベンダーの機器が高くても選択せざるを得ない状況が発生してしまう。

 それに対して、vRANの場合は、x86プロセッサやArmプロセッサなどの汎用のCPUなどにより構成されているサーバー機器、その上にRANの機能(CUとDU)を実現するソフトウェアを乗せてRANの機能をソフトウェア的に実現するため、ベンダーロックインが発生しにくく、初期投資はもちろんかかるが、その後は汎用のハードウエアという安価なハードウエアを選択肢ながらRANが実現できるため、長期的に考えればコストを削減できる。

 また、超低遅延といった5Gならではの特性を実現するためには、vRANの導入は必須と考えられており、従来の4Gの無線部分だけを5Gの帯域に置きかえたような「疑似5G」からすべてが5Gになった「真の5G」への移行を図る意味でも、大きなメリットがあるのだ。

昨年9月に第1弾となるOREX Packageを、NTTドコモの商用5Gネットワークで運用開始

 NTTドコモはこうしたOREXを、パートナーとなるサプライヤーと協力して推進しており、そのパートナー企業を「OREX PARTNERS」と呼び、技術開発やアライアンスを組んで一緒に海外の通信事業者に対して売り込みを図っている。

 そのOREX PARTNERSには、AMD、Dell Technologies、富士通、HPE、Intel、MAVENIR、NEC、NTTデータ、NVIDIA、Qualcomm、Red Hat、VMware、WindRiverの13社が加盟していたが、今回のMWC 23において、新たにArm、AWS(Amazon Web Services)、Marvell Technologyの3社が加わったことが明らかにされた(この16社とは別に基地局の無線部分RUに関係するパートナー企業も加盟している)。いずれも、データセンター向けの半導体ベンダーやサーバー機器ベンダー、システムインテグレーターなどで、これらの企業がNTTドコモのパートナーとして、NTTドコモが構築したvRANソリューションを海外の通信事業者などに販売していく場合に協業していく。

 NTTドコモはこうしたOREXのvRAN(OREX RAN)のカスタマーゼロを、自社の5G商用ネットワークだと位置づけており、既に昨年の9月に行われた「MWC America」において、OREX RANを自社の商用5Gネットワークに導入し、実用を開始したことを明らかにしている。

 この昨年9月に、NTTドコモが商用展開している5Gネットワークにおいて実用が始まったvRANは「富士通株式会社の基地局ソフトウェア、Wind Riverのクラウド仮想化基盤、NVIDIAのアクセラレータ、Intelのプロセッサを採用した汎用サーバーを組み合わせたもの」(NTTドコモの発表より引用)という組み合わせだと表現されており、vRANとしては一般的な構成。NTTドコモはこうした組み合わせを「OREX Package」と呼んでいる。

 vRANは一般的に、IntelないしはAMDのx86プロセッサに、何らかのレイヤー1アクセラレータと呼ばれる、レイヤー1における処理(FECとFHの処理)を行うアクセラレータを組み合わせたハードウェアの上に、OS(仮想化ソフトウェア)と仮想化されたCU/DUソフトウェアの組み合わせで実現されている。従って、第1弾のOREX Packageの場合、ハードウェアは、Intel CPUを採用した汎用サーバー(サーバー機器のメーカーは明らかにされていない)、NVIDIAが提供するレイヤー1アクセラレータ、ソフトウェアはWindRiverのOS/仮想化サーバー、富士通のCU/DUのソフトウェアという構成と考えられる。

NTTドコモの商用5GネットワークにX100が採用されたことを説明するスライド(Qualcommブース)

NEC/Qualcomm/Red Hat/AWS/HPE/Dellから構成される第2弾パッケージは本年商用展開

 今回NTTドコモが発表した第2弾のOREX Packageは「日本電気株式会社(NEC)の基地局ソフトウェア、Amazon Web Services(AWS)およびレッドハット株式会社のクラウド仮想化基盤、Qualcomm Technologies, Inc.のQualcomm X100 5G RANアクセラレータカード、Hewlett Packard Enterprise(HPE)およびデル・テクノロジーズ株式会社の汎用サーバーの組み合わせ」(同社の発表より引用)という新しい組み合わせになる。

 この中で最も注目すべきことは、レイヤー1アクセラレータとしてQualcomm X100 5G RANアクセラレータカード(以下X100)が採用されていることだ。実はQualcommのX100は、レイヤー1アクセラレータカードとしては最後発で、既に実績があるNVIDIAやIntel、さらにはエリクソンやノキアといった機器ベンダー・システムインテグレーターが自前で用意しているレイヤー1アクセラレータではないことが注目されているのだ。

Qualcomm X100 5G RANアクセラレータカード

 Qualcomm自身も含めて、なぜNTTドコモがX100を採用したのかは明確には説明していないのだが、取材を進めるとベンダーロックインを避けるために、最後発のQualcommのX100を採用したらしいということがわかってきた。もちろんX100自体も、他社のアクセラレータに比べて最後発だけに、高スペックということはあるのだが、それでもこれまで採用例がないという意味では「一種の賭け」であるのも事実だ(実際X100が商用vRANに採用されたのは今回が世界初の事例になる)。それでもQualcommを採用したことに、「特定のベンダーには依存しない」というNTTドコモの狙いが透けて見える。

 なお、サーバー機器はHPEとDell Technologiesのサーバー機器が採用されているという。そのうちHPEによれば、HPEが提供するのはDL110という、第4世代Xeon(Sapphire Rapids)を採用した1Uの高密度サーバーで、そのPCI ExpressスロットなどにX100を搭載した形でNTTドコモの局舎に格納されることになる。

HPEが提供するDL110、CPUは第4世代Xeon(Sapphire Rapids)

 ソフトウェアのレイヤーでは、OSがRed Hat、OSの上で動かす仮想化ソフトウェアがAWSのEKS(Elastic Kubernetes Service、AWSのマネージドKubernetes)のオンプレミス版、そのEKSの上でNECが提供するKubernetesの仮想CU/DUが動作する形だ。

 また、AWSはEKSを提供する形だけでなく、自社のクラウドリージョン(東京/大阪)でそうしたvRANを管理する管理コンソールを提供し、管理を簡素化する仕組みを実現する。通信事業者にとってはvRANの管理などは手間がかかる作業であり、それをAWSのクラウド上で管理できるようになることで管理コストを削減したい狙いがある。

 NTTドコモとしては、既に商用5Gネットワークで稼働している富士通/WindRiver/NVIDIA/Intelという第1弾のOREX RANに加えて、今回のNEC/Red Hat/Qualcomm/HPE/Dellという第2弾のOREX RANで、売れる商品(パッケージ)が2つになったことになる。

 今後、自社ネットワークで既に稼働している実績をひっさげて海外の通信事業者に売り込みを図っていく意向と考えられており、今回発表した第2弾のOREX RANのパッケージも、本年、NTTドコモの商用5Gネットワークへの導入を行う計画だ。