特別企画
Windows 10 Mobileはビジネスを変える可能性を持つ?
VAIO Phone BizでのContinuum for Phoneを試す
2016年6月15日 06:00
スマートフォンの市場シェアでは、ほとんど影響力がないWindows 10 Mobileだが、注目されているのはビジネス向けのスマートフォンとしての機能だ。
iPhoneやAndroidに比べると提供されているアプリの数がかなり少なく、個人ユーザーが利用するスマートフォンとして普及するのは難しいだろう。しかしビジネスでの使用を考えると、余計なアプリがないことが逆にメリットになる。
また機種によっては、Continuum for Phone機能により、Windows 10 Mobile端末にディスプレイ、キーボード、マウスを接続し、PCと同じように利用することもできる。
今回はVAIOからVAIO Phone Bizをお借りしたので、Windows 10 Mobileの企業利用を考えつつ、Continuum for Phone機能を試してみた。
Windows 10 Mobileを企業で利用する意味
企業がWindows 10 Mobileに興味を引かれるもっとも大きなポイントは、PCのWindows 10とのシームレスな環境が実現していることだろう。
Windows 10で採用されたUWP(Universal Windows Platform)ベースのアプリなら、PCのWindows 10でも、スマートフォンのWindows 10 Mobileでも同じように動かすことができる。自社でビジネス向けアプリを開発する場合、UWPベースのアプリを1つ開発すれば、PC、タブレット、スマートフォンなどの端末でアプリの変更なしで、そのまま動かせるわけだ。また、異なる画面サイズにOS自体が対応しているため、画面サイズに合わせて自動的にアプリのレイアウトを変更してくれる。
一方、iPhoneやiPadで使われているiOSと、Macで使われるMac OS X(最新版からはmacOS)で同じアプリを動かすことはできない。またiOS搭載製品の中でも、画面サイズがiPhoneとiPadでは違うため、例えばiPadでiPhoneのアプリを動かすときに表示の問題が出ることがある。
Androidの場合はさらにややこしい。機種によって環境がさまざま異なるので、1つのアプリがどの機種でも利用できるとは限らず、サポートする端末を決めてアプリのテストを行う必要があることから、アプリ開発に手間がかかる。各端末をエミュレーションするなどの開発・テスト環境も複数の事業者からサービス提供されているが、機種やOSのバージョン別に開発・テストを行うことを考えると、自社内だけで使用する企業アプリをすべてのAndroid端末に対応させるというのは難しい。このため、Android端末を利用している多くの企業では従業員が持つスマートフォンの機種を限定している。
また別の面では、OSのアップデートをMicrosoft自体が行っていることもメリットといえる。PCで提供されている毎月のWindows Updateと同じように、Microsoftがオンラインでアップデートを提供してくれるのだ。
iPhoneやiPadなどで利用されているiOSは、Windows 10 Mobileと同じように、提供元のAppleがOSのアップデートを一括して管理している。
しかしAndroidでは、各携帯キャリアがアップデートを管理しているため、数年前の機種ではOSのアップデートが行われなくなり、セキュリティ的に問題のあるまま使い続けることになる。また機種によっては、最新OSのアップデートなども提供されない。このようにAndroid端末では、OSのフラグメンテーションが大きな問題となっている。
こうしたことから、スマートフォンであってもきちんとしたセキュリティを保ちたいIT管理者にとっては、Android端末のサポートは不安だろう。その点、iOSやWindows 10 Mobileは、OSベンダーが直接アップデートを配布してくれるので安心できるし、Windows 10 Mobileでは、MicrosoftのLumiaだけでなく、各社のWindows 10 Mobile端末向けにアップデートをオンラインで配布してくれるため、各社の端末が混在してもOSのフラグメンテーションは起こらないのだ。
コストの面では、iPhoneよりも低価格といったメリットもある。現状でもっとも高額なVAIO Phone Bizでも約6万円ほどだ。マウスコンピュータのMADOSMAなら、Office 365の1年間サブスクリプションがついて約3万円と、低コストで導入できる。大量導入による割引があったとしても、9万円近いiPhone 6sと比べると価格面では有利といえる。
また、ほとんどのWindows 10 Mobile端末がSIMフリー端末となっているため、コストメリットのあるMVNOのSIMを使うことで、データ通信や通話のコストを会社全体で抑えることができるだろう。
このようなことを考えてみると、Windows 10 Mobileはワールドワイドでの市場シェアは低いが、企業が自社のIT端末として社員に配布する場合、メリットが大きいといえる。(社員にとっては、プライベート用と会社用のスマートフォンの2台持ちになるため、端末の管理が面倒というデメリットもあるが…)
Continuum for Phone対応のVAIO Phone Biz
さて次に、VAIO Phone Bizを見てみよう。詳細は僚誌PC Watchの記事などを参照いただきたいが、VAIO Phone Bizは、5.5インチ(1980×1080ドット)の液晶画面を持つスマートフォンで、NTTドコモの相互接続性試験が行われているため、企業でも安心して導入することが可能だ。また前述したように、多くのNVMO企業がNTTドコモの回線を利用しているので、コストの安いMVNO回線を導入することもできる。
VAIO Phone Bizには、Microsoft Officeが標準でバンドルされており、企業がOffice 365を使用していれば、Officeのフル機能をVAIO Phone Bizで利用することができる。
しかし、スマートフォンとしては大型の5.5インチ液晶画面を採用しているといっても、Excel、Word、PowerPointなどのアプリをスマートフォンの画面で使用するのは難しい。文書を確認するぐらいはできるが、新規に文書を作成したり、編集したりするのは難しいだろう。
そこで注目されているのが、Continuum for Phone機能だ。PCのWindows 10に搭載されているContinuumは、デスクトップモードとタブレットモードを簡単に行き来できる機能だが、Continuum for Phoneは、Windows 10 Mobileにディスプレイ、キーボード、マウスを接続し、PCと同じように利用できる機能だ。この機能を使えば、マウスやキーボードでの操作も行えるので、PCがなくてもExcelの編集などをこなせるだろう。
なお、日本国内で発売されているWindows 10 Mobile端末でContinuum for PhoneをサポートしているのはVAIO Phone BizとトリニティのNuAns NEOだけとなっている。
Windows 10 MobileのContinuum for Phoneを試す
いよいよ、実際にテストをしてみる。
VAIO Phone BizでContinuum for Phoneを使うためには、ディスプレイ側にWiDi対応のアダプタが必要になる。VAIO Phone Biz本体にはHDMIやHML端子が用意されていないため、ワイヤレスでディスプレイと接続する必要があるからだ。これは、VAIO Phone Bizが使用しているプロセッサSnapdragon 617の仕様といえる。
VAIOでは、Actiontecの「ScreenBeam Mini2 Continuum」を推奨しているので、今回はこれを利用している。
VAIO Phone BizはBluetoothをサポートしているため、Bluetooth対応のワイヤレスキーボードやマウスをVAIO Phone Bizにコネクトして利用することもできるが、ScreenBeam Mini2 ContinuumにはUSB端子(USBで電源を供給するための2分岐USBケーブルが用意されている)が搭載されているため、USB接続のワイヤレスキーボードやマウスを接続できる。
ScreenBeam Mini2 Continuumを利用するには、ディスプレイのHDMI端子に接続し、電源ケーブルとキーボードやマウスを接続するUSBドングルをUSBポートに接続すればいい。起動すればすぐに接続モードになるため、後はVAIO Phone Biz側でContinuumアプリを起動して指示に従うだけで、非常に簡単に利用できる。
ディスプレイ上に画面が表示されると、VAIO Phone Biz側は本体のタッチセンサーを利用したマウスモードになる。このためマウスを接続していなくても、VAIO Phone Biz側でカーソルを操作することが可能だ。
ディスプレイに表示されたWindows 10 Mobileの画面は、Windows 10のデスクトップ画面にほぼ同じだ。WordやExcelなどを起動すれば、PCのOfficeソフトと同じように利用できる。
ただし、アプリは全画面で表示される。Windows 10のUWPアプリのように、ウィンドウで表示されるわけではない。Windows 10のタブレットモードで動かしているのと同じような状況だ。
若干とまどったのは、アプリを切り替えるのに、画面下に表示されているタスクバーを使うこと。またアプリには、閉じるボタン、最大化/最小化ボタンがないため、PCのWindows 10に慣れているユーザーにとっては違和感を感じるかもしれない。
実際にExcelを使ってみると、スマートフォンとは思えないほどの使い勝手だ。バンドルされているOfficeではいくつかの機能が使えないため、それで不自由な場合は、Office 365のサブスクリプションを入手し、フル機能のOfficeをWindows 10 Mobileで使えるようにするといいだろう。
もちろん、Continuum for Phoneですべてが解決するわけではない。
当たり前だが、Windows 10 Mobileは、PCのデスクトップアプリケーションを動かすことはできない。つまり、一太郎などのWindows PC向けのアプリケーションは動作しない。
またWindows 10 Mobile向けのアプリでも、Continuum for Phoneに対応した開発がされていないと、ディスプレイ上では利用できない。この場合、使用できないアプリはグレーアウトで表示されている。
実際にいくつかアプリを試してみたが、すべてのアプリがContinuum for Phoneに対応しているわけではなかった。Microsoftのアプリ、もしくは最新のUWPベースのアプリだけなのだろう。最新のUWPベースのアプリが増えてくれば、Continuum for Phoneの利用価値もどんどん高くなってくるはずだ。
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現状のWindows 10 MobileのContinuum for Phone機能では、PCをスマートフォンで置き換えるとまではいえない。しかし、WiDi対応のディスプレイもしくはアダプタを持っていれば、PCに近い作業をスマートフォンで行える。
さすがにディスプレイを持ち歩くわけにはいかないが、出張先のホテルにある液晶テレビに接続して、簡単な作業を済ますことはできるだろう。
とはいえ、キーボードやマウスなどを別に持ち歩くことのなら、ノートPCや2in1 PCなどを持っていた方が便利かもしれない…と考えると、Continuum for PhoneはPCを置き換えるモノではない。
Azure Active Directory(Azure AD)へのサインイン、Intuneを使ったハードウェア管理など、Windows 10とMicrosoftのクラウドサービスを十分に生かせるということを考慮すれば、使い方をよく考えて企業で導入すると、便利なIT機器になる可能性は秘めている。
個人のノートPCなどのセキュリティを考えれば、シンクライアントと同じような感覚でContinuum for Phoneを利用するのが最適化もしれない。Windows 10 Mobileには業務に必要なメールやブラウザ、Officeアプリ、業務専用アプリなどをインストールしておき、データはローカルに保存せず、クラウドや自社のサーバーに保存するようにすれば、企業において高いセキュリティを保つことができるだろう。