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コンカーが示す「Vision 2028」とは? ビジネスAIとビッグデータで目指す「経費精算のない世界、その先へ」

 株式会社コンカー(SAP Concur)は28日、「サービス成長」、「事業成長」、「人材成長」の3点から事業戦略について説明。SAPのAI Co-Pilotである「Joule」や独自のAIエージェントを活用した新機能についても触れた。また、「Vision 2028」を打ち出すとともに、「ビジネスAIとビッグデータで、経費精算のない世界、その先へ」とする新ビジョンを掲げ、「経費データでデザインする企業の未来」に向けた取り組みを強化する考えを示した。

 コンカーの橋本祥生社長は、「コンカーは、経費精算のない世界の実現に取り組んできたが、今後は、その先を見据えて、AIとビッグデータを活用し、企業の成長と変革を支える存在に進化する。経費精算を無くすだけでなく、ビッグデータとAIを活用し、企業の成長を支える戦略的データインサイトを提供する」と述べた。

コンカーの橋本祥生社長

 同社が打ち出した「Vision 2028」では、3つのステップを踏むことになるという。

 ひとつ目は「経費精算のない世界の実現」だ。AI AgentやAI Co-Pilotにより、利用者、管理者、運用者のすべての業務を自動化および自律化し、ユーザーは、手入力がないタッチレスで、内容を判断するだけで業務が完結する世界を目指すという。ここでは、高度な業務効率化とともに、ガバナンスの強化も両立する。

 2つ目は「自律運用」である。人手に頼っていたSAP Concurの導入、設定、運用を、AIが支援して、作業負担を極小化する。国や業種、業界に応じたベストプラクティスを自動化、対話型で行い、導入および適用を飛躍的に向上させることができるとする。

 3つ目は「データの民主化」となる。国内外シェアNo.1ならではのSAP Concurが持つビッグデータを活用し、データを起点に業務運用の最適化に加えて、ガバナンスの強化、企業の収益改善を支える戦略的インサイトを提供するという。

 「近い将来、経費精算という業務はなくなる。決済データやパートナー連携によるデータ、設定・運用のベストプラクティスのデータ、年間10億件の経費明細と3000万件の出張データを活用することで、AIエージェントとAIチャットボットが、人手を介さずに究極の業務効率化とガバナンス強化を同時に図ることができる」と述べたほか、「企業におけるAIの活用は当たり前となっている。日本の経営者は、全従業員が関わる間接費業務からAIの活用をはじめ、AIを前提とした業務の再構築を進めてほしい」と呼びかけた。

Vision 2028の3つのステップ

 事業戦略のひとつ目の「サービス成長」では、ビッグデータとAIの活用を挙げる。

 「日本は、生産人口が減少し、収益性は先進7カ国において圧倒的な最下位となっているほか、不正発生時の損害金の14%が経費精算から発生するなど、ガバナンス問題が増加している。今後は、生成AIによる偽造領収書などの問題が増えることが予想されている。非競争領域である間接費業務の抜本的な対策が急務であるといえる。生成AIにより、大幅な生産性向上や収益改善、ガバナンス対策が実現できる」とする。

 コンカーには、強力なAI基盤、信頼性の高い大量のデータ、グローバルシェアナンバーワンに基づいた経験とナレッジが蓄積されていることを強調、「豊富なLLMパートナーとの連携や、SAPによるAIスタートアップへの10億ドルの投資、SAP のJouleやAIエージェントの活用、AIによる不正検知機能の提供のほか、1億ユーザーから、年間10億件の経費明細、3000万件の出張という大量データを保有し、SAPのビジネスデータと連携・統合したデータ活用や分析も行える。また、業務ノウハウやベストプラクティスを集約した成熟度マップに基づく生成AIサービスへの拡張を実現し、オープンプラットフォームを通じた250以上のアプリとの連携も図ることができる。生成AI時代において、SAP Concurを選ぶべき理由はここにある。日本の企業の風土改革、人間のトランスフォーメーションへの貢献を目指す」と抱負を述べた。

JouleとAIエージェント

 ここでは、AIを活用した新機能についても触れた。

 Concur Travelに搭載しているFlight Recommendationは、生成AIが個人の嗜好や会社の規定に合わせて、最適なフライトを提案する。提案した根拠も確認でき、出張のためのフライト予約は選択するだけで済む。すでに提供済みの機能だ。

Flight Recommendation

 Booking Agentは、2025年末以降にリリース予定の新機能で、Jouleとの対話により、出張手配が完了する。ここでも、個人の嗜好や会社の規定に合わせた最適なフライトを提案する。遅延やキャンセル、予定変更が発生すると、動的に再予約をサポートし、旅程の修正を数秒で自動化できるという。

Booking Agent

 Meeting Location Planner Agentでは、全世界各地にいるチームメンバーのグループ出張の調整を自動化する。AI Agentが出張費用の計画と見積もり、メンバーが会合する際に最適な場所の提案、宿泊施設やフライトの提案を行い、それらの内容をメールで配信する。2025年末以降にリリースする。

 コンカー カスタマー&ソリューション統括本部 プロダクトマーケティング部の舟本憲政部長は、「AIが複数の開催候補地を提案し、設定した会場からの距離内で宿泊するホテルを提案する。また、出張内容のサマリーをまとめ、メールの文章も作成してくれる。グループ出張の際に発生する複雑な手配作業が短時間に完了できる」と説明した。

Meeting Location Planner Agent

 Request Assistantは、出張の見積もりをAIが行うもので、簡単な操作で、精度の高い出張の事前申請が行える。作業の時間短縮とガバナンス強化が行えるメリットがある。Policy Trip Tipsは、AIが出張規程を読み込んでおり、ホテルや食事の費用などの内容をユーザーの画面に表示し、ポリシー違反を事前に防止した申請が可能になる。

Policy Trip Tips

 またConcur Expenseでは、Conversational Help Search with Jouleの機能を、2025年末以降にリリースする予定だ。自然言語による会話で業務を支援。Jouleを通じた対話によって、生成AIが回答を即時に作成し、回答の根拠となるソース情報も表示する。

 Expense Report Validation Agentは、経費申請前に、Jouleが記入の抜けや漏れを自動検出して、チャットによる対話でサポートする。正確で、コンプライアンスに準拠した経費精算レポートを提出することが可能になり、差し戻しを削減できることから、経理部門の負荷を軽減できる。2025年末以降リリースにする。

Expense Report Validation Agent

 Administrator Consultation with Jouleは、管理者のためのダッシュボード画面で、SAP Concurの設定をJouleが支援。対話だけで、監査ルールなどの設定の分析や改善が完結する。「例えば、あまり使われていない監査ルールを抽出し、対話によってルールの問題点などを検証することができる」という。

Administrator Consultation with Joule

 事業戦略の2つ目である「事業成長」では、カスタマーサクセス、公共向けビジネス、政策提言活動の3点から取り組む。

 カスタマーサクセスの取り組みにおいては、「最先端のサービスに加えて、導入後の継続的な業務改革をサポートする体制を提供していることが、SAP Concurの高いシェアにつながっている。本番稼働後も、定点観測や現状分析を通じて、従業員の行動変容や企業風土改革を促している。また、業務の成熟度に応じた改善提案を行い、業務改革の実現までをサポートする。成長と改革に伴走するのがコンカーの特徴である」(橋本社長)とした。

 コンカー独自の「成熟度マップ」を活用し、現状と課題解決をサポートしており、「日本が特に高い継続利用率を維持できている」という。

 なお、日本において、経費精算市場の売上金額シェアは11年連続でトップシェアを獲得。時価総額トップ100企業における導入率は68%、トップ300社でも54%が導入しているという。「最近では、金融機関や学校、製造、流通、小売、公共など、幅広い業種での採用が進んでいる」と説明。富士通やりそなホールディングス、福井県などが新たに導入したことも示した。

世界と日本で支持されるSAP Concur

 新たな取り組みとなるのが公共向けビジネスと政策提言活動である。

 公共向けビジネスでは、職員数の減少、デジタル化の遅れ、法制度や規制への対応といった公共団体が抱える課題の解決に、SAP Concurが有効であることを提案。日本国内にデータセンターを設置していること、ISMAPの認定を取得していることも強みになると述べた。

 「10自治体での実証実験の結果、50%以上の業務効率化の効果を確認できている。また、2025年4月の改正旅費法に伴い、旅費の運用を見直す自治体にも適している。民間企業で培った間接費DXのノウハウを活用することで、職員のトランスフォーメーションを実現し、日本の公共団体の競争力強化に寄与できる」とした。

 パートナーとの連携を推進し、まずは人口20万人以上の自治体を主要ターゲットとして、2028年までに十数%のシェア獲得を目指すという。

公共向けサービスの拡充 安全性・信頼性・パートナー協業

 政策提言活動では、2024年3月からインボイス制度の政策提言活動を実施してきた経緯があるが、2025年6月には、コンカーが幹事会社となり、ビズリーチ、マネーフォワード、ラクスとともに「経費MIRAI協議会」を設立したことを報告。政府関係者に対して、日本のビジネスパーソンが抱える経費管理におけるインボイス制度の課題を伝え、世論喚起も進めるという。8月には、「経費精算業務の更なるデジタル化・効率化に向けた税制改正要望」を発表し、日本CFO協会、経済同友会が賛同を表明しているという。

「経費MIRAI協議会」について

 事業戦略の3点目である「人材成長」については、Great Place To Work Instituteが発表している「働きがいのある会社」で7年連続、中規模部門1位を維持。日本での創設後、最長の連続1位受賞記録を更新していることを示しながら、「コンカーは、『働きがい第二章』に踏み出している」とした。

 コンカー サービス・サポート本部 クライアントサポート第1グループマネージャーの遠藤智範氏は、「高め合う文化的資産を土台に、社会にいかに価値を提供するかといった点に注力する。また、技術の変化に対応し、文化の洗練と、AI時代の人の業務的価値を高めることを目指している。現在、AIを通じて自身の業務を変え、お客さまに付加価値を提供する『xAI(カケアイ)』活動を推進している」と説明した。

 xAIでは、全社と各業務領域の取り組みを連動させ、AI活用を加速するタスクフォースであり、2025年には、業務効率を30%向上させ、17万時間の削減を図り、従業員はより高付加価値の作業に時間を割り当てることができるようになるという。

 具体的には、各部門での全員参加型ディスカッションを通じて、生成AIの理解を深めながら、課題発見から打ち手の具体化までを短時間で創出できる「共創型フレームワーク」、現場の自発的な学びと、経営層のコミットメントをベースに、資格取得支援を進め、2026年末までに全社員の資格取得を支援する「AI Enablement」、全社横断のデータ統合を行い、AIを活用した価値創造を推進する「AIテクノロジー」、オウンドメディアや社外イベントなどでの情報発信にとどまらず、社内ニュースレターの配信などを含めた情報の循環により、AI活用文化を進める「外部連携」に取り組むとしている。

xAIの取組み

 また、同社では、AIを活用し業界特化のベストプラクティスを導出し、業務ごとの特徴を基にしたシステムテンプレートによって、導入期間を短縮できるようにする計画であり、2026年4月には、金融機関向けのテンプレートを構築する予定だという。また、出張旅費の分析およびシミュレーションを実現し、顧客のビジネスシナリオを考慮したインパクトシミュレーションも実現できるようにする考えだ。さらに、データを基にした次世代の購買体験や、生成AI搭載によるセルフサービス革新の提案も行っていくという。

 コンカーの遠藤氏は、「社員一人ひとりがリーダーシップを発揮し、人にしかできない価値を再認識する一方で、xAIで培ったAI変革の知見や独自の共創型フレームワークを、お客さまやパートナーにも提供し、エコシステム全体で共創と成長を実現する」と述べた。

(左から)コンカー カスタマー&ソリューション統括本部 プロダクトマーケティング部の舟本憲政部長、コンカー 代表取締役社長の橋本祥生氏、コンカー サービス・サポート本部 クライアントサポート第1グループマネージャーの遠藤智範氏